おじ様からお義父さまへ
熱が下がって私がベッドから離れられるようになったのは、熱を出してから7日目だった。ラリー様にはまだ顔色が悪いし体力が落ちているからと起きるのを止められ、そこにユーニスまでもがアレクシア様は無理し過ぎなのです!なんて言い出したのだ。
二人とも以前はあまり仲がいいように見えなかったのに、最近は妙に連携をしているような気がしてならない…気のせいかもしれないけれど…
「ラリー様、ユーニスも…もう大丈夫だから」
「そうは言っても、シアは直ぐに無理をするじゃないか」
「そうですわ。アレクシア様の大丈夫はちっとも大丈夫じゃありませんもの」
「そんな事は…」
「いいえ!熱を出した日の朝も、大丈夫と仰っていたのに大丈夫ではなかったではありませんか」
「う…そ、それは…」
あの時は本当に何ともなかったから大丈夫だったのだけど…私の声は二人には話半分も受け取って貰えなかった。過保護すぎて逆に体がなまりそうなのですが…
「熱が出ている間にまた痩せてしまっただろう。結婚式までもう十日ほどしかないからね。しっかり栄養のあるものを摂って、少し体を戻さないと」
「そうですわ。でないと、婚礼衣装のサイズが合わなくなってしまいます。これ以上のサイズ直しは時間的に無理ですわよ」
そう言われてしまうと、またしても何も言い返せない私だった。確かに今から衣装のサイズ直しなんて難しいだろう。分かってはいるのだけれど…さすがに過保護過ぎて落ち着かない…でも、私の訴えなど何処へやら、熱が下がったら下がったで、またしてもラリー様に構い倒される私だった。嬉しいけれど…心臓が持ちません…
それからの私は、殆どを夫婦の寝室の暖炉の前かベッドの上で過ごした。昼間は当然のように暖炉の前で、重ねたラグの上でラリー様に抱き込まれていたし、夜もこっちの部屋の方が暖かいからと私室には戻してもらえなかった。まぁ、ラリー様は自室でお休みになられたからまだマシだったけれど、それでもいずれはここで…と思うとドキドキしてしまって、かえって眠れなくて困ってしまった。
「おお、シア。元気になった様じゃな」
起き上がる許可が出た翌日、寝室の暖炉の前でラリー様からお茶と言う名の栄養補給をされていた私を尋ねてきたのは、おじ様だった。何だかお会いするのが久しぶりな気がする。
「すみません、おじ様にまでご心配をおかけして…」
「ああ、そんな事は気にせんでいい。季節の変わり目にはよくある事じゃ。それに、最近は色々バタついていたから疲れが出たんじゃろう」
そう言って怖いと言われる厳ついお顔に優しい笑顔を浮かべるおじ様に、私は心の奥がまた暖かくなるのを感じた。ここは王都とは何て違うのだろう…としみじみ思ってしまった。ユーニスがここは居心地がいいと言っていたけれど、本当にそうだなと私も思う。でも…ラリー様、人が来たら離れて貰えませんか…
「ラリーとの仲も良好の様じゃな」
「こ、これは…その…」
「義父上、ご心配なく。二度とシアを悲しませるような事は致しません。これからは私の最愛の妻として何をおいても大切にします。ね、シア?」
そう言って私に同意を求めるラリー様だったけれど、私はそれに同意する余裕はなかった。何ですかラリー様、その恥ずかしい台詞は…!そして、それをさらっと言ってしまえる心臓の強さが羨ましいです…じゃなくて!
「…ラ、ラリー様、人前でそんな事…」
「人前でなきゃいいの?じゃ、二人きりの時に言って欲しいんだね?」
「え?いえ…あの…」
いやぁ~!ラリー様がもはや別人になってる…!…は、恥ずかし過ぎて私の精神が持ちません…!そしてユーニス、なんでここで生暖かい笑みを浮かべて見ているの?助けてくれるんじゃないの?
「うむ、仲がいいのはいい傾向じゃ。その調子で仲良くな」
「勿論です、義父上」
「ははっ、頼もしいな。これだと直ぐに孫の顔が見れるかもしれんな」
「善処いたします」
「…!」
な、何を言っているんですか、二人とも…!ま、孫って…そして善処ってどういう意味ですか、ラリー様…?何だかもう色々と詰め込まれ過ぎて、私の許容量を超えているのですけれど…
「…そう言えば、シア」
「…何でしょうか、おじ様?」
「いつになったら父と呼んでくれるんじゃ?」
「…は?」
とつぜん振られた言葉に、私は一瞬固まってしまった。ち、父って…父って…?
「ラリーと正式に夫婦になったんじゃろう。わしはラリーの父親じゃから、シアにとっても父じゃろう?」
「そ、それは…」
確かにその通りなのだけれど…子供の頃からずっとおじ様と呼んできただけに、急にお義父様と呼べと言われても…と私は戸惑ってしまった。でも…
「確かにそうだね」
「ええ、アレクシア様、ようやく本当の家族になれましたわね」
ラリー様とユーニスに笑顔でそう言われて、私は益々恥ずかしくなってしまった。いや、確かに家族が欲しかったけれど…おじ様をお義父様と呼ぶと…何だか急に関係性が変わった気がして恥ずかしく感じた…でも…三人が三様に笑顔で圧をかけてくるような気がするのだけど…もしかしてこれは…言うまで許して貰えないパターン…?
「お、お義父…様?」
私がおずおずとそう呼びかけると、おじ様は笑顔を顔いっぱいに広げ、ラリー様やユーニスも笑みを一層深くして、私一人だけが無駄に恥ずかしかっているように感じられて余計に恥ずかしくなった。これって…私が意識し過ぎなのかしら…でも、夫婦の寝室で、しかも孫の話まで出てきたせいか、私は夫婦になった事をこれまでになく強く意識してしまった。




