甘やかしすぎです…
領地で挙げる結婚式の衣装がおじ様達がお使いになったものに決まり、サイズ合わせも終わった私は、そのままラリー様の部屋へと連れて行かれた。既にテーブルにはお菓子やお茶の準備が出来ていて、ユーニスが慣れた手つきでお茶を淹れてくれた。
肌寒くなってきた季節に、熱いお茶は冷えた身体を中から温めてくれて、私はほっと人心地ついた気がした。まだまだラリー様には慣れないけれど、二人で過ごす事には慣れてきた…と思う。そんな事を思っているとふと視線を感じたのでそちらを向くと、ラリー様がじっと私を見ていた。な、何でしょうか…
「シアは…本当によかったのか?」
「…えっと…?」
ソファに掛けて、当然のように私の腰に手をまわしてそう尋ねられたけど…私は何の事を指しているのかわからなくて首をかしげた。よかったも何も、ここ最近は不満を感じる事もないし、私の希望が通りすぎて怖いくらいなのだけれど…
「婚礼衣装の事だよ。本当は…新調したかったんじゃないのか?」
そう言われて私はやっと質問の意味を理解した。確かに花嫁にとって婚礼衣装は一大事で、女性によっては婚約が決まった時からデザインを考えるとも聞く。でも…私はあまりお洒落や流行に詳しくなくて、どう選んでいいのかわからないのだ。
それに…先ほどのお義母様の衣装は、これまで見たどんなドレスよりも綺麗で素晴らしかった。あんな素敵なドレスをお借りできるなんて、汚さないかと心配で恐れ多いくらいなのだけど…
「いいえ、あの衣装をお借りできる方が嬉しいです。私は…母からは何一つ受け継げなかったので…むしろ夢の一つが叶ったみたいで嬉しいです」
「そう?でも、無理に納得しなくていいんだよ。シアは周りを気にし過ぎて息をするように自分を抑えるからね」
「そんな事は…」
「ないとは言わせないよ。シアは我慢する事に慣れすぎているから心配なんだよ」
そんな風に言われるなんて…心配して下さるのは嬉しいけれど…この件に関しては紛れもない本心なのだ。
「本当に大丈夫です。それに…領民の中には王都出の私をよく思わない人もいるでしょう?おじ様達がお使いになった衣装で少しでも好感度が上がってくれたらいいなぁ…って気持ちもあるんですよ」
「シアをよく思わない者などそうそういないよ」
「そんな事はありませんよ。それに、ここで生きていくのなら、もっとここの習慣を知りたいし、それに倣いたいですから」
「…シアは…真面目だね」
「そんなんじゃありませんわ。何ていうか…ここは王都とは違う事が多くて、外国みたいで楽しいんです。私、一生王都から出られないと思っていたから、こうして王都の外に出られたのも嬉しくて…」
「…そうか。シアがいいならそれでいいよ」
そう言って微笑まれたラリー様に私はまたドキドキしたけれど…でも、婚礼衣装の事は本当に嬉しかったのだ。友人の中には家に代々受け継がれていた花嫁衣装で結婚式を挙げた人もいるし、母娘どころか祖母達も交えて歓談している姿を、私は憧れを込めて見ているしかなかった。自分には縁がないと思っていただけに尚更だ。おば様にお会いする機会があったらよかったのだけれど…衣装だけでも受け継げたのは本当に嬉しかった。
「じゃ、せめて私からはあの衣装に合う宝飾品を贈ろう」
「…え?ええっ!そ、そんな…」
「それくらいはいいだろう?」
「いえ…でも、既に十分すぎる程に…」
「シアは欲がないのが長所だけど、こんな時は素直に受け取るものだよ」
「で、でもっ…!」
「アレクシア様、こういう時は受け取るのが礼儀と言うものですわ」
「そうそう、ユーニスもこう言っているじゃないか。ユー二スの言う通りだよ」
「そ、そんな…」
二人から言われてしまえば、私は否やとは言えなかった。絶対ラリー様、ユーニスをダシにしましたね?そしてユーニス、ラリー様の援護に回るなんてどういう風の吹き回し?これまではラリー様に批判的だったのに…何だか二人にいいように踊らされている気がしたけれど…ラリー様はにこにこと笑顔だし、ユーニスも感情が読めない笑顔を浮かべていて、私はこれ以上何も言えなかった。
「その…ラリー様、申し訳ありません…」
「こういう時はありがとうだよ、シア」
「そうですよ、アレクシア様」
「…あ、ありがとう…ございます…」
ユーニス…何でこんな時だけラリー様の味方なのよ…釈然としないものを感じながらも、私がラリー様にお礼を言うと、ラリー様は蕩けるような笑みを浮かべられた。そ、その笑顔、心臓に悪すぎます…
でも、正直に言えばこうして何かを贈られるなんて、エリオット様の時は一度もなかったから嬉しかった。ただ…今は生活の全てをラリー様のお世話になっていて、既にドレスだ宝石だと色々贈られているだけに、何だか申し訳ない気持ちになってしまうのだ。
それに…よくして貰っているのに、私は何もラリー様に返せないのも心苦しかった。何かお返しを…と思うのだけど、ラリー様は今はまだこれまでのお詫びだからお礼などいらないと仰るばかりなのだ。
これまでの事と言っても、全ては私を守るためにして下さった事なのだから、お詫びして貰う類の事じゃないと思うのだけど…ラリー様はそれじゃ私の気が済まないと仰るばかりだった。ラリー様、甘やかしすぎです…




