望んでいた言葉
これからのラリー様との関係について、どうしたいかと聞かれた私は普通と答え、それをラリー様は普通の夫婦のようにと受け止められた。私としては…咄嗟に出た言葉だったけれど、それは私の希望そのままだったから、言い直す事は諦めた。それよりも、私はラリー様のお気持ちが気になって仕方なかった。だって…私がそう望んでも、ラリー様のお望みはそうじゃないかもしれない…それじゃ…
「私?」
「…え、ええ…」
何と仰るだろう…と、私はその先を聞くのを怖く思いながらも、誤魔化し続ける息苦しさを思うとどうしても聞きたかった。それに、ラリー様の希望も知りたかった。ラリー様は私の希望が何であれ、ご自身の希望を諦めないと仰ったけれど…
「…嫌だなんてとんでもない。私は…」
そう仰ったラリー様は、私の拘束を解いて少しだけ身体を話すと、今度は私の顔を覗き込んで、片手を私の頬に添えられた。その手が少しひんやりしている事に今更ながらに気付いたのは、私の頬が熱を持っていたせいだろうか…
「私は、とても嬉しいよ。私の望みが…シアの望みと重なったからね」
「え?」
その言葉は…意外でもあり、でも、どこかでそんな気がしていたようにも感じた。今日のラリー様は、今までと違って距離が凄く近くて…そして、何といえばいいのだろう…今まで感じていた一線を画していた壁のような何かが感じられなかったからだ。
「…あの…それって…」
「シアの思っている通りだよ。いや…こんな言い方じゃ、また言葉が足りないと言われるな…シア、私はあなたの事を愛おしく思っているよ。ずっと、私の側にいて欲しい」
それは…ずっと私が望んでいた言葉で、絶対にありえないと思いながらも何度も夢見ていたものだった。もしかしたらこれは夢の続きなのかと思うほど、私には都合が良すぎて…
「…ほん、と…に…」
「本当だよ」
「…実は…夢、とか…」
「夢で終わらせられるのは…私も困るな」
「…妹、とか…」
「シアを妹だなんて思った事は一度もないよ」
「……」
「むしろ…離れたいと言われても…離してあげられないな」
「…え?」
自嘲気味にそう呟かれたラリー様の言葉の意味が、私には直ぐにはわからなかった。私から離れたいなんて思う事なんてあり得ないのに…ラリー様は、空いている方の手も私の頬に沿えて、両手で私の顔を包み込まれた。ラリー様の澄んだ空色の瞳が少し困ったような色を浮かべているような気がした。
「私は…欲深い人間だからね。気に入って手に入れたものは絶対に手放せないだろう。しかもこうして、シアが望んで私の手の中に飛び込んできたからにはね」
「そ、そんな…」
そんな風に言われると…恥ずかし過ぎて気まずい事この上なかった。そんな訳じゃないと咄嗟に言いそうになったけれど、ラリー様の仰る通りこれは私が望んでいた事で…それにきっと、離れられないのは私の方だろう。だって…やっと自分の居場所が出来たのだ。
「ここで暮らす以上、苦労をかけると思う。命を狙われるのはもちろんだが、それ以外でも辛い思いをさせるかもしれない。それでも…私の持てる全てでシアを守るよ。だから、私とずっと…ここで一緒に生きて欲しい」
「…私、なんかで…」
「そんな言い方はよくないよ。シアは私なんかと言っていい存在じゃない」
「でも…」
「シアは…私にとって唯一の存在だ。だから…君自身であっても、自分を卑下して欲しくない」
「でも…」
「シアが自分を蔑ろにする事は、君を愛している私を貶める事だよ」
「そ、そんな…!ラリー様は…」
そんな風に言われるとは思わなくて、私は思わず声を上げてしまったけれど…ラリー様の表情からは断固として譲らないという強い意志が見えて、私はそれ以上強く言う事が出来なかった。
「私達は夫婦で、対等な存在だよ。ずっと家族から酷い扱いを受けていたから実感が持てないのだろうけど、そんな風に自分を粗末に扱って欲しくない。シアは私にとっては最愛の妻で、誰にも代えられない存在だからね」
褒め過ぎじゃないだろうかと思うけれど、ラリー様は本気でそう思っていらっしゃるみたいで、私がそんな事はないと言っても譲る気は微塵もないように見えた。先ほどからのラリー様の言葉の一つ一つがずっと願いながらも諦めていたもので…私は、ふわふわとした雲の上にいるように現実味がなかった。本当に、今のこの瞬間こそが夢なのだろうかと思うほどに…空いている手で、もう片方の手に爪を立ててみたら…痛かった…じゃ、やっぱりこれは…
「…夢じゃ…」
「夢じゃないよ」
「…じゃ…いいんですか?」
「何が?」
「…あ、あの…ラリー様を…好きに…なっても…」
「大歓迎だよ。むしろ、そう思っていたのが私だけじゃなくて嬉しいよ」
そう仰ったラリー様に、今度はふわりと柔らかく抱きしめられた。服越しにラリー様の高い体温がゆっくりじわじわと伝わってきて、それに合わせるように私の中で実感が湧いてくるような気がした。ここでずっと一緒にと言われた私は、これまでに感じた事がない程の安心感が体の隅々まで伝わっていくのを感じた。実家にすら居場所がないと感じていた私にとって、生まれて初めて与えられたものだったかもしれない。
そして何よりも…好きな人に気持ちを受け入れて貰えるのがこんなに嬉しいなんて…知らなかった。恥ずかし過ぎてドキドキしていた心臓が落ち着いてきた私は、またしても涙腺が緩むのを止める事が出来なかった。




