過去の恋の真相
ラリー様に直接、メアリー様を望まれていたのではないかと聞いた私は、とうとう聞いてしまった…と、様な達成感と安堵、そして何と答えられるかという不安などでぐちゃぐちゃで、頭の中は真っ白に近い状態だった。そこには、これでユーニスに余計な事を言われないと言う安堵もあった。
「…メアリー、か…」
私の決死の問いかけに、ラリー様は私をまじまじとご覧になっていたが、小さく息を吐くとそう呟かれた。言葉に陰りを感じたのは気のせいだろうか…
「やっぱり…気になる?」
「…はい」
以前の私だったら気にしないと答えたかもしれないけれど…今の私にはその選択肢はなかった。それに…後で改まって聞くなんて、私には出来そうもない。だったら今、ここで聞いてしまいたかった。そう思いながらも、もしラリー様がまだメアリー様を思われていたら…そう思うとざらりとした何かが湧き上がってきて、私は覚悟もなく聞いてしまった事に慄いた。
「…メアリーは…確かに昔は恋仲ではあったけれど…今は何とも思っていないよ」
「うそ!」
思わず自分から出た言葉に、ラリー様が驚きの表情を浮かべられたけれど、一番驚いたのは私で、思わず自分の口を両手で覆ってしまった。こんな言い方、今までした事なんかなかったのに…
「…うそと言われても…本当に彼女の事は何とも思っていないよ。好ましいと思った時もあったけど…さすがに病人相手に詐欺行為を繰り返していたと聞いては、百年の恋も冷めるというものだよ」
「……」
「それでも、最初は信じられなかった。でも、ここでも同じ事を繰り返しているのを見ては、さすがにね…それに、薬を盛っておいて癒してやると言った時、残っていた情もきれいさっぱり消えたよ」
そう仰るラリー様は、苦々しくも弱い笑みを浮かべられていた。本当なのだろうか…その言葉をそのまま受け取っていいのか、私は直ぐには判断出来なかった。
でも、ラリー様の言い分が的外れではない事は、私にもわかった。私も同じようにされたら…気持ちが冷めるどころか好きになった事すら後悔しそうな気がしたからだ。
「…それに、彼女との付き合いは十年くらい前で、半年程度だったんだよ」
「え…?は、んとし?」
「そう。ちょうどその頃、彼女は大聖女候補になって地方巡業に行く事が増えたんだ。そうしている間に私も異動になって、それからは会う機会もなくなってね」
「でも、ここに来る時に…」
そう、おじ様はここに来る時にラリー様はメアリー様を誘ったと仰っていた。それは想いがあったからではないのだろうか…
「あれは…罪悪感からだったよ」
「…罪、悪感?」
「そう。その頃彼女の実家には横領と脱税の容疑がかかっていてね。元々彼女の父は浪費家だったんだけど、借金が膨れ上がったのは、私にも一因があったんだ」
「ラリー様に?」
「そう、私と彼女の仲をよく思わない者達がいてね」
二人の距離が近づくにつれ、神殿と高位貴族が焦り出したのだと、ラリー様は仰った。高位貴族の出でありながら平民にも快く治療を行うメアリー様は神殿が求める聖女のイメージにぴったりで、神殿はメアリー様の力と美貌を利用し、広告塔として最大限に利用していた。
一方の高位貴族たちは、没落寸前の伯爵家の娘が王子妃になるのを良しとしなかった。皆、自分の娘をラリー様の妻に…と狙っていたからだ。
ここで、神殿と高位貴族の利害が一致した。彼らはメアリー様の実家に多額の援助と称して借金を負わせ、神殿がその借金を肩代わりする事でメアリー様が神殿から離れられないようにしたのだ。借金まみれの実家では王子妃に相応しくないとの口実を作る事も出来て、高位貴族たちの懸念は払拭された。大聖女候補だったという話も、メアリー様を神殿に縛り付けるための工作だったらしい。
「彼女の実家が取り潰しになりそうだと聞いて、一緒に来ないかと誘ったんだ。王都には居づらいだろうし、ここは彼女の力を必要としている人も多いから。でも、あっさり断られたよ。大聖女になれるチャンスがあるからと言ってね」
「…そんな事が…」
「彼女とはそれっきりだ。だから、ここに来たと聞いて驚いたよ。今更何のために…ってね」
「そう、だったんですか…」
なんだか、思っていたのとは全然違っていて、私は直ぐには受け止め切れなかった。ここに誘ったと聞いていたから、てっきり深い関係だったのだと思い込んでいたからだ。おじ様はラリー様がメアリー様を想っている事はないと仰っていたけど…だったら…私は…
「…じゃ…ここ、に…いても…」
不意に何かがぷつんと切れた様な感覚を覚えて、私は体中から力が抜けていくのを感じた。隣国に行くものだと思い込んでいたうえにメアリー様との事もあって、ここにはもういられないと思っていた。ラリー様と結婚する可能性も完全になくなったと思っていたから、この展開は…あまりにも嬉し過ぎた。嫌だ…目の奥が熱い…こんな時に泣くなんて、子どもみたいで嫌なのに…
「…不安にさせてすまなかった。でも、もう大丈夫だから」
「…よ…かっ…」
泣いた顔を見られたくなくて、私はハンカチで目元を抑えた。隣国に嫁げと言われたら取り乱して泣いてしまうかもしれない…とハンカチを持ってきたけれど…用意しておいたよかった。泣いてぐちゃぐちゃになった顔なんか、ラリー様には絶対見せられないもの…
「…ごめ…な…い…」
泣きたくなかったのに、私は涙を止める事が出来なかった。話の途中で泣いてしまうなんて…ただでさえ年が離れていて子どもに見られているのにと、今度は自分の弱さに泣けてきた。でも、この時は後から後から出てくる涙をハンカチで留めて、声を抑えるので精いっぱいだった。
ふっ…とラリー様が動く気配がして、直ぐにふわりと抱きしめられるのを感じたけれど…それでも涙が止まらなかったのは…きっとラリー様が宥めるように背中を撫でてくれたせいだ。こんな風に優しくされた事なんて今までなかったから…この日私は、頭が痛くなるほどに泣いてしまった。




