そして彼女は、今日もまた炎上している。
……そして。
あたしは今日もまた、炎上する。
例えば、こないだ行われたえっちゃんの3周年ライブ。
それはもう、盛り上がりに盛り上がった。
がっつり追い込み、きっちり仕上げたえっちゃんの歌とダンスは、圧巻の一言。
その場に居たファンはもちろん、ネットでの配信を見ていた人達もがっつり掴んでしまうだけのパワー溢れる最高のステージだった。
それは、凄く良かったんだけど。
アンコールもめっちゃ盛り上がって、会場のボルテージも最高潮だったタイミングで、それは投下された。
ファンの方々、リスナーさん達への感謝から始まり、バンドメンバーに社長やスタッフなど関係者へと言葉を向けていって。
最後の最後。
「それから、色々あった時に支えてくれた百合華、ありがとう! 愛してる~~~!!!」
と、この日一番のシャウトで、爆弾を投下してくれたのだ。
もちろん、燃えた。それはもう、絨毯爆撃かってくらいに。
一般の皆様から見れば、あたしは一時避難の宿を貸しただけのはず。
なのにこんな感謝をするってことは、裏では……? みたいな憶測が流れてしまった。
一応てぇてぇ認定してくれる人もいたんだけど、あたしの普段が普段だから、ねぇ……。
また、えっちゃんも明確に否定せず匂わせたりするもんだから、鎮火するどころか延々と燃え続けている。
これが、えっちゃん一人ならまだいい。
よくないけど、まだいい。
「この前の屋外ロケの時、百合華ちゃんってば夜もとっても優しくしてくれて……」
とか、サヤさんも雑談枠であたしとの一泊二日ロケ旅行の話をしっとり濃厚にしたりしたもんだから、さらに燃えた。
嘘ではない。
でも、そこまで濃厚でしっとりした空気のそれではなかったはずだ。
多分、そのはずだ。
だというのに、サヤさんが情感たっぷりに語れば、それが真実であるかのように、あたしですら錯覚しそうになってしまった。
であれば、一般リスナーの皆さんなんて言うまでもない。
「いやだからね、サヤさんのあれは……」
『うるさい、黙って腹を斬れ』
『逃げるな、ちゃんと責任取れ!』
『言い訳はいい、サヤさんをどうするつもりなんだ』
配信で釈明しようとするも、ずらずらと圧の強いコメントばかりで話が通じた気配はない。
ていうか、なんかあたしが思ってたんと違うコメントな気がするのは気のせいか……?
なんなの、あんたら一体あたしに何を期待してんの。
そしてこの現象は、さかなんにも起こっていた。
二人とはまた違った色で。
「いいの。結局最後には、私のところに帰ってくるんだから百合華さんは」
しみじみとした口調でさかなんが言ってるのを聞いた時には、背筋が震えた。
何かね、一見しみじみほのぼの語ってるだけなのに、全然そう聞こえないの。
あれか、これがヤンデレって奴か? って思わず思ってしまった程の。
「何のために私が百合華さんの胃袋を掴んだと思ってるの?
人間は生きている以上、絶対にお腹が空く瞬間があるんだよ。
そんな時に思い出すのは何だと思う?
そう、美味しいご飯。
そうしたら、誰を思い出すと思う?
そう、私。
私を思い出すに決まってるの」
ヤバいやばい、圧がヤバい!!
とかアーカイブを見ながら思ってたんだけど。
ギュンって勢いで、いきなりさかなんがこっちを見た。
いや、そんなはずはないのに、何故かそう思ってしまった。
「ね、百合華さんもそう思いますよね?」
あたしが見てることを確信してる口調でそんなことを言われたもんだから。
ここまでくると、流石にあたしもわかってしまった。
越えてはいけないラインを越えてしまったんだなって。
「なんで!? 口説いたりだとか、なんもしてないのに!?」
そんなあたしの叫びは、聞く人など誰もいない地下室に響いて、虚しく消えていく。
そして、今日もあたしは炎上する。
……ま、まあ、いいんだけどさ……あたしにばっかり燃料が投下されて、他の子達は全く燃えてないんだから。
てなことを言ったら、社長からは盛大にため息を吐かれたけども。
ここがあたしの居場所。
そのことを、実感出来るっちゃ出来るから。良いか悪いかは別にして。
だからあたしは、今日も炎上する。
あたしが愛しいと思う子達のために。
※ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
これにて第一部完、とさせていただければと思います!!
ここまでお読みいただき、本当に本当にありがとうございます!!!
面白いと思っていただけたなら、いいねや☆評価、ブックマークで評価していただけると、嬉しいです!
またネタのストックが出来ましたら再開しようと思いますので、それまでお待ちいただければ幸いでございます!!




