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「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった 〜最強の四天王に育てられた俺は、冒険者となり無双する〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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20・歓喜の輪。そして……

「やりましたわ!」


 動かなくなったゴブリンマスターを見て、アリエルが飛び跳ねる。

 その喜び方は無邪気な子どもそのもののようで、なんとも可愛らしい。


 そして喜んでいるのはもちろん、彼女だけではない。



「や、やったぞ! オレ達がゴブリンマスターを倒したんだ……!」

()()()じゃないだろ? ほとんどブリスがやっちまったじゃねえか!」

「ほんと、ブリス様様だよな! まさか本当にゴブリンマスターに勝てるなんて……」

「オレ達、もしかしてとんでもないことをやっちゃったのか?」



 歓喜の輪が調査隊の間に広がっていく。


「エドラ。大丈夫か?」

「平気。魔力はまだ残っているから」


 その中で一人、喜ばずに立ちすくんでいる……ように見えるエドラに俺は話しかける。


「さっきの雷魔法、すごかったな。やっぱりエドラはやれば出来るんだ」

「そ、そんなこと……それに……」

「ゴブリンマスターの手を貫き、魔石が一時的に使用不可になった。今回のヒーローは間違いなくエドラだよ」


 頭をポンポンと叩く。


「〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 すると彼女の顔が耳たぶまで真っ赤になっていた。熱いんだろうか?


「ブリス」


 アリエルが俺の名前を呼ぶ。


「本当にありがとうございました……あなたがいなければ、ゴブリンマスターには到底勝てなかったでしょう」

「そんなことない。みんなが俺をフォローしてくれたから、これだけスムーズに倒すことが出来た」


 本気でそう思っていたが、


「ふふふ、やはりブリスは謙虚なお方ですね。そういうあなたも素敵ですわ」


 とアリエルはなにを勘違いしたかは分からないが、微笑んだ。


 まあいい。今はそれよりも。


「この額に埋め込まれている魔石……なんでこんなものが?」


 俺は地面に倒れ動かなくなっているゴブリンマスターに近付いて、額から魔石を取り出す。


 紅色の光を放つ魔石だ。

 手の平サイズくらいで、魔石の中でも大きい方の部類だと思う。

 これだけダメージを与えても、未だに魔石は機能を失っていない。どれだけ上質な魔力なんだ……。


「アリエル。魔物に魔石が埋め込まれていることは、よくあることなのか?」

「いえ、少なくてもわたくしは聞いたことがありませんね」


 アリエルが首を横に振る。

 他のみんなにも聞いてみたが、似たような反応だった。


「それならどうして……」

「分かりません。ですが一つ言えることは、ゴブリンキングが突然変異してゴブリンマスターになったのは、その魔石が原因だと考えられる……ということです。その証拠に」


 アリエルがゴブリンマスターの死体に指をさす。

 俺が魔石をこいつから取り出すと、魔力の供給が絶たれ、見る見るうちにゴブリンマスターの体が縮んでいったのだ。


「……でしょ?」

「みたいだな」


 こいつのせいで俺達は苦戦した。魔石を眺めながら思う。


「どうして埋め込まれていたのかな? 誰かが埋め込んだのか……?」

「それについても分かりません。ですが、どうしてゴブリンキングに魔石を埋め込む必要があるのでしょう? そう考えると、たまたまゴブリンキングが魔石を拾ってきて、好奇心で額に埋め込んでみた……という可能性もありますが……」

「こんな上質な魔石を?」

「可能性としてはあるでしょう?」


 どちらにせよ断定は出来なさそうだ。


 この魔石は持ち帰ることにしよう。

 売却することも出来るし……もし売った場合の報酬はみんなで山分けだな。


「まあとにかく……これで一件落着だな」


 巣の中にいるゴブリンキングは、ここに来るまでの道中で全て始末した。

 まだ他の魔物は少し残っているが……巣の主であると考えられるゴブリンマスターを倒したのだ。

 強烈な実力を持ったリーダーがいなくなったことにより、近いうちに巣は崩壊するだろう。


「ですわね。ほっと一安心です」


 安堵の息を吐くアリエル。


 彼女は今回の隊長だ。ただ戦えばよかっただけの俺より、何倍も人より大きな重荷を背負っていたはずであった。


「じゃあそろそろ帰ろうか。ギルドのシエラさんには、このゴブリンマスターを手土産に報告すれば十分だろう」


 俺が言うと、彼女は頷いた。


 その後、俺が収納魔法を使ってゴブリンマスターをおさめると、他のメンバーは一様に驚いた表情を作っていた。





 ◆ ◆


 こことは違う、少し離れた場所にて。



「ゴブリンマスターがやられたか……」



 男が水晶を前にして、一人呟く。

 水晶にはブリス達が喜んでいる光景が映し出されている。


「あの少年はノーマークだった。まさかあれ程の男がノワールにいたとはな……要注意だ」


 しかし実験は上手くいった。

 もう少し魔力の供給を安定化させて、狂戦士バーサク化しないように調整してやれば……実用化にまた一歩近付くだろう。


「計画は順調に進んでいる」


 部屋の外では雷が鳴り響いている。

 暗雲は立ちこめているが、まだ雨は降っていない。これから大雨になりそうだ。


 男は窓の外を眺めてこう言う。


「世界を我が手に」


 その声は、再び鳴り響いた雷の音でかき消された。       

本日はあと一回更新予定です。


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