四天王は次期魔王と戦う(上)
本作品の白土悠介先生によるコミカライズ10巻が、本日発売となりました!
こちらはコミカライズ発売を記念しての短編となっています。
※※※本編完結後の話となっていますので、その後にお読みいただくことを推奨しています※※※
「ブリス! そちらに行きましたわ!」
「おう!」
アリエルの声が飛び、俺はすかさず追撃をかける。
相手は魔物のルートスネークだ。
植物の根のような見た目で、蛇のように動き回る俊敏な魔物だ。
ルートスネークは俺から逃れようと、地面に潜ろうとする。
だが、その瞬間──間一髪のところで剣撃を繰り出し、一刀両断に伏したのであった。
「ふう……」
「さすがですわね、ブリス。元からそうでしたが、最近はさらに強くなったように感じますわ」
周囲の魔物もあらかた片付け終わり一息吐いていると、アリエルがそう労いの言葉をかけてくれた。
「そんなことない。アリエルの指示が的確だったおかげだ。俺一人じゃ、こう上手くいかなかった」
「いえいえ、わたくしはほとんど見ていただけでしたので……やはり、ブリスの功績ですわ」
「それを言うなら、アリエルだって──」
お互いに健闘を讃えていると……。
「シャアアアアアアアアッッッッッ!」
後ろから、魔物の唸り声が上がった。
「ブリス!」
「ちっ……!」
すぐさま後ろを振り返るが、別のルートスネークが既に俺の目の前に迫っていた。
回避は……間に合わない!?
こうなったら、迎え撃つ!
剣を構え、俺の喉元に食らいつこうとするルートスネークに斬りかかろうとするが。
「油断するな、ブラッド」
ズシャアアアアアアアン!
さらにルートスネーク後方から、大剣の一閃が放たれ、爽快な音を立てて撃破してしまった。
「悪い、カミラ姉。助かった」
「ふんっ」
ルートスネークを難なく倒したカミラ姉は、大剣を地面に突き立て、鼻で息をする。
「貴様なら、なんとかなっていたと思うが……万が一がある。この森にいる以上、戦いは終わっていない。それなのに気を抜き、恋人といちゃいちゃするとは何事か?」
「くっ……」
カミラ姉の厳しい物言いに反論出来ない。
「その通りだ。俺もまだまだだな」
「分かればいい。全く……ちょっとは自覚を持ってほしいものだな。擦り傷でも負えば、貴様の名誉に傷がつく。そうだろう? 次期魔王様」
そう言って、カミラ姉はニヤリと笑った。
女神との戦いを経て、俺は次期魔王に任命された。
とはいえ、やることはほとんど変わらない。
相変わらず現魔王のいない時には、魔王城でコキ使われるし、冒険者稼業も続けている。
そんな俺ではあったが、今回は冒険者ギルドからの要請で、街近くの森に足を運んでいた。
なんでも、今この森にいる魔物が異常に活性化しており、既存の冒険者だけで対応出来ないらしい。
エドラは他の任務で遠征に出かけており、ギルド内でこの依頼を受けられそうなのは俺とアリエルだけ。
ゆえに彼女と二人だけで任務を終わらせようとしたが、そこで魔王軍四天王《剣》の最強格であるカミラ姉の横槍が入った。
『私も行く。貴様らを二人っきりにさせては、どのような不埒なことをするか分からないからな』
……と。
アリエルとは恋人同士になったが、魔物の討伐中にカミラ姉の想像するようなことをやるほど、俺はバカじゃない。
ゆえにカミラ姉の同行を断ったが、彼女は他にも気になることがあるようだ。
なし崩し的に、俺とアリエル、そしてカミラ姉の三人のちょっとヘンテコなパーティーで今回の依頼をこなすことになってしまったのだ。
「最近の貴様は調子に乗っている。恋人が出来て浮かれているのか? 半人前のくせに女に溺れたと? 次期魔王だという自覚が、貴様には欠けている。そもそも昔から貴様は周りが見えていない時があって……」
パクリ。
サンドイッチを食べながら、カミラ姉がくどくどと説教を続ける。
ちなみに……今は戦いは落ち着いてきたこともあって、地面にレジャーシートを広げて、休憩中だ。
アリエルがこの日のために作ってくれたサンドイッチを、みんなで食べている。
最初は料理が苦手なアリエルだったのに、上手くなったものだ。どのサンドイッチも美味しかった。
そんな大事な恋人手作りのサンドイッチを、カミラ姉も食べているので、思うところがあったが……「カミラさんにも食べてほしい」とアリエルが言い出したので仕方がない。
「え、えーっと、次期魔王になってから、なにか変わりましたか?」
アリエルが俺とカミラ姉の板挟みになって困り、強引に話を変えにかかる。
「特に変わらない。だが……最近は魔王や四天王連中も、やる気に満ちていてな。魔王城にいないことがさらに多くなった」
カミラ姉の説教を受け流しながら、アリエルの質問にそう答える。
実際、魔王軍のみんなは「次期魔王を支えなければならない!」という思いがあるらしく、各々が自分のすべきことにさらに集中していた。
俺の心境も変化した。
今までは四天王の顔なんて見たくもなかったのに、今ではそうでもない。
ヤツらが忙しくし、しばらく顔を見れなくなったら寂しくなるから不思議なものだ。
比較的顔を合わせている、暇なカミラ姉が特別なのだ。
「……私も断じて暇なんかじゃないぞ。ただ私は自分の鍛錬に時間を使っているだけだ。それなら、魔王城にいても可能だからな」
俺の気持ちを読み取ったのか、カミラ姉がジト目でそう口にする。
「そもそも、ブラッドが次期魔王になろうとも、やることを変える必要はないはずだ。だったら今までなにをしていたんだ? という話になるがな」
「まあカミラ姉の言うことにも一理あるかもな」
「それを……特にクレア! 最近のあいつは変な研究に手を染めている。ひじょ〜に嘆かわしい」
「変な研究ですか?」
アリエルからも質問が飛ぶ。
「うむ。なんでも魔物の研究をしているらしい。魔物を自由に操れれば、自分の仕事も減ると考えているそうだ。バカの考え休むに似たり──と言ってやったら、喧嘩になったがな」
その時のことを思い出しているのか、カミラ姉の声に怒気が滲む。
しかし一転。
「……そんなことよりブラッド、気付いたか?」
表情に真剣味を帯びて、カミラ姉が低い声で問う。
「ここまでに遭遇した魔物は、ルートスネークやツイッグルだったか。そもそもこいつらは雑魚で、掃討にここまで時間は費やさないはずだ」
「ああ、俺も気付いている。ルートスネークやツイッグルにしては、強すぎる気がしていた。しかも個々で戦うんじゃなく、一端にチームを組んで向かってきやがる」
「だろう? 本来、魔物は群れる生き物ではない。なのに、統率されているのは不自然だ。この場合、圧倒的に強い魔物がいてそれに従っているか、もしくはなんらかの術で統率されているか……」
とカミラ姉が言葉を続けようとした時。
ドドド……ッ!
そんな重低音の音と共に、大地が震え出した。
「な、なんですか!?」
先ほどまでの平和な時間が崩れ、アリエルも焦りの声を発し、すぐに剣を手に取る。
「ふんっ……答えは両方だったということか」
「みたいだな。群れを統率するリーダーがいて──かつ、何者かに操られていたってところか」
木々の間から、本命が姿を現す──。
見た目はただの大木。
しかしその大木は一人でに動き、俺たちに殺気を向けていた。
ルートスネークやツイッグルといった魔物を操っていた本命──魔物のエルダーウッドだ。
コミカライズ10巻が好評発売中です!
よろしくお願いいたします。





