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「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった 〜最強の四天王に育てられた俺は、冒険者となり無双する〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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12・なくなってから分かる大切なもの

四天王視点です。

※ブラッド = ブリス


「おい、ブラッド! 私の下着はどこにある!」



 広い魔王城で、カミラは声を張り上げていた。

 しかし『ブリス』こと『ブラッド』は城にいないので、返事は返ってこない。


「……ちぃっ!」


 舌打ちをするカミラ。


 今までブラッドには稽古を付けるだけではなく、魔王城の雑用も担当させていた。

 彼がいなくなったということは、その雑用を当然誰かがやる必要があるのだが……。



「ブラッドは今まで一人でこれだけの雑用をこなしていたのか?」



 だが、ブラッドがいなくなったことにより、問題がだんだんと浮き彫りになってきた。


 彼には洗濯。さらには広大な敷地内の掃除、さらには炊事……。

 それに加え、簡単な書類仕事も任せていた。


 どうせ雑用だから大したことないだろう。

 今までカミラはそう思っていた。しかし違った。


 洗濯する衣服の量は膨大なものになる。この広い城の掃除を一人でやるなど狂気の沙汰だ。全員の健康や好みを考え、毎日の献立を考えなければならないのは骨が折れる。


 それらを今までブラッドが一人でこなしていた。


 彼一人いなくなっただけで、魔王城は大慌てだ。

 膨大な雑用をみんなに分担させてはいるが、それでも終わらない。


 極めつけはカミラ。


「まさかブラッドがいなくなっただけで、下着の置き場所も分からなくなるとは……」


 我ながら情けない。

 ポンコツで生活力が皆無な四天王は、ブラッドがいなくなったことの影響を一番もろに受ける——ということは、まだ彼女達にはそこまで自覚がなかった。


「くっ……! ブラッドはどこに行ったんだ!?」


 もちろん、部下達にはブラッドを探させている。

 しかしそれだけやってなお、彼の足取りを一向につかむことが出来ていなかった。


 一体どこでなにをしているのだ!?


 さっさと見つけ出して、連れ戻さなければならない。

 そうしなければ、魔王城は膨大な雑用によって押し潰され、いつかは破綻する。



『カミラ様』



 カミラの顔の隣にぼわっと青白い炎が灯る。

 部下の『火の玉』である。


「うおっ! 急に現れるな! いつもビックリするんだ!」

『とはいっても、私はこういう現れ方しか出来ませんし……』


 カミラに怒られて、火の玉がしょんぼりと灯りを小さくした。


「まあいい。それで……ブラッドが見つかったか?」

『いえ……残念ながらブラッドの行方はまだつかめていません』

「ちっ……! どうしてこれだけ時間がかかっているのだ!?」

『念入りに足取りが消されています。最後に近くの村で馬車を借りたところまでは、情報をつかめたのですが……どうやらその御者にも記憶偽装の魔法がかけられており、解除出来ません。他にも……』


 ブラッドには剣術だけではなく、『魔法』の最強格クレアが魔法の教育を施していた。

 その教育があだとなってしまったか。


「そうか……」

『なあに、人っ子一人くらいすぐに見つかりますよ。もっとどーんと気長に待ちましょう』


 火の玉の物言いにカミラは腹が立ってくる。


 だったら早く見つけてこい!

 ブラッドがいなくなってから、大分経つんだぞ!?


(この役立たず部下が……)


 そう頭の内で思うが、ここで言っても仕方がない。

 ぐっと怒りを噛み殺した。


「だったら一体なんだ?」

『魔王様からお手紙が届いています』


 魔王様。

 その名前を聞いて、カミラは縮み上がるような思いになった。


「……そうか」

『これがお手紙になります。では私はこれで……』


 カミラの手元に手紙を出すと、火の玉はそのまま消え去ってしまった。


「魔王様からの手紙か……嫌な予感しかしないのだがな」


 そもそも、魔王は遠くの者とも会話を出来る魔法を使うことが出来る。

 だからわざわざ手紙を書く必要はないはずだが……魔王様は古風なやり方が好きなお方。

 今までもたびたび『手紙』という手段で、カミラ達と交信を取ってきた。


「まあ今に限っては、魔王様と直接話すより、こうやって手紙を貰う方が何倍も気が楽なのだが……」


 魔王様と話せと言われたら、今は上手く話せる気がしない。

 だから魔王様の手紙好きは、ある意味では助かったとも言える。


「さて……なにが書かれているやら」


 カミラは恐る恐る手紙の封を開けた。


 そこにはこんな手紙が入っていた。




『四天王達へ


 あと十日ほどでそちらに戻れるとは思う。

 私の愛しい愛しいブラッドちゃんは元気にしてるかな? ちゃんとご飯、食べてるかな?

 ブラッドちゃんは()に比べて、食が細いからなあ。心配になってくるのだ。

 私が帰ってくる時は、ブラッドちゃんも加えて盛大にパーティーをやろう。

そしてほっぺにちゅーちゅーしてやるのだ。

 あっ、これはブラッドちゃんには内緒だぞ! 恥ずかしいからな!

 ではそれまで魔王城を任せたぞ。


 魔王より』




「……っ!」


 言葉を失ってしまう。


 魔王様はブラッドのことが大大大好きだ。

 そのことはこの手紙からも痛いほど分かる。


 ブラッドがいなくなったことは魔王様は知らないはずだ。

 じゃないとこんな恥ずかしい手紙、送ってくるはずがない。


 それに。


「何度も何度もブラッドと書いて……相当ブラッドに会われるのが楽しみのようだ」


 それなのに「ブラッドは家出しました」と伝えれば、どうなるだろうか。


 ……考えただけでも鳥肌が立つ。なんとしてでもそれだけは阻止しなければならない。


「ブラッド……! どこにいるんだ。早く戻ってきてくれ!」


 カミラの声は空しく城内に響き渡るのであった。

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