89 ププウルの特訓
「食器おさげしますね」
「あぁ」
マキアが食べ終わった食器を下げていく。
「お口に合いましたか?」
「今日も美味しかったよ。ありがとう」
「そういっていただけて嬉しいです。また、何かの機会にダンジョンのお話、聞かせてください」
「ダンジョンの仕掛けなんて、セラのほうが詳しいかもしれないけどな」
「魔王ヴィル様から聞くから楽しいんです」
マキアが嬉しそうに微笑む。
ダンジョンに行ったことが無いから、魔族の住んでいたダンジョンの話が楽しいのだという。
「では、失礼します」
マキアが部屋から出ようとすると、ミゲルが顔を出した。
「あ・・・」
「すみません。魔王ヴィル様、少々、お話したいことがあるのですがお時間よろしいですか?」
珍しいな。本を閉じて起き上がる。
「入れ」
「失礼します」
マキアに頭を下げて、中に入ってきた。
「なんだ? 話は」
「十戒軍について、気になることを思い出しまして」
ミゲルがあくまで聞いた話で証拠を持っているわけではないと言って、話を続けた。
「僕がサンフォルン王国の城下町に行ったとき、『隣人の財産』という言葉を聞きました。十戒軍だと思います。職業まではわかりませんでしたが、奴らは何かを大量に積んでいて、ダンジョンの中に運ぶと言っていました」
「・・・どこのダンジョンだ?」
「サンフォルン王国の海沿いをアリエル王国側に北上したところだと。すみません、それ以上は怪しまれてしまいそうだったので、離れてしまいましたが」
「奴らの装備品はどんなものだったか覚えているか?」
「テーブルに隠れていたので、装備品までは・・・。あ、でも、一人、靴は皮のブーツを・・・側面に鉱物の欠片が埋め込まれていたので、魔力を流せるものです。かなり上質なものを履いていました」
「そうか」
ミゲルはサリーと行動して成長したな。
ステータスは低くても、魔族として十分やっていけるだろう。
「上出来だ。よくやったな。ミゲル」
「あ、ありがとうございます」
ちょっと、たじろぎながら嬉しそうにしていた。
攻略したダンジョンを使っている人間がいるとはな。
ダンジョンの精霊からも、人間が住むことはほとんどないと聞いていたが・・・。
ダンジョンを活用しているということ自体、珍しいケースだ。
人間にとって、攻略されたダンジョンは価値が無いからな。
十戒軍にとってダンジョンは価値のあるもの・・・なのか?
わからないな。
ダンジョンには行くつもりだったし、無駄足にはならないだろう。
場所の詳細は、ププウルに聞いてみるか。
あたりがつくだろう。
トントン
上位魔族の階層、ププウルの部屋のドアをノックした。
「俺だ。入ってもいいか?」
「はい。魔王ヴィル様」
「ちょっと、ダンジョンを・・・は?」
ドアを開けると、すごい光景が飛び込んできた。
「な・・・何やってるんだ?」
ププが緑の蔦に縛られて、壁に押し付けられていた。
ウルが分厚い魔導書のようなものを読んでいる。
「新しい魔法の取得です。私たちが使う武器は主に弓矢、接近戦には弱いので対象を固定する魔法を試しています」
「ウル、この蔦コントロールできてる?」
「むむ、失敗なわけないんだけどなんかうまくいってないかも。あ、魔王ヴィル様、申し訳ございません。あの欠片についてはまだわかっていなく・・・」
「いや、今、それはいいんだけど・・・」
「なんか、ウルー、くすぐったいよ」
ププが小さな足をバタバタさせていた。
蔦は蛇のようにププの体を張っていた。
この姉妹は目を離せば、よくわからない方向に行くんだよな。
「シエルがかなり強いので、私たちも負けていられないと思い、このように練習しているのです」
「あっ・・きゃははははは・・どいてってば・・・」
遊んでいるようにしか見えない。
「・・・・お前らいつもこんなふうに、魔法覚えてるのか?」
「はいっ。魔王ヴィル様を召喚した儀式のときも、こんなふうに自分たちに色々魔法をかけながら試行錯誤で」
「あっ・・・こっちこないで・・・!」
後ろでププが蔦を足で蹴っていた。
「あきらめたこともあったのですが、魔族の復興を諦められなくて。私の部下も、人間のギルドに殺されたことがありまして、これからもこの負の連鎖が続くのかと思うと悔しくて悔しくて・・・」
「・・・いや・・・体が動かなくて・・・ダメだってば」
「そうか、つか、後ろ・・・」
「私たちは双子です。2人でこのように切磋琢磨することで互いを補い合い、ここまでの強さを維持してきました・・・でも、もっと強くなってみせます。魔族のために」
「・・・あ、あぁ・・・」
真面目な話をしていたが、後ろのププの様子が気になって仕方ない。
「わわ、ウル! 止めて止めて」
― 物付与効果強制排除―
すぐに魔法を放つ。
蔦の先ががププの服に潜り込もうとした瞬間、蔦の動きを止めた。
「あ」
なんて魔法使ってるんだよ。この姉妹。
しゅうぅぅぅぅぅ
魔法が解けていく。
しおれた蔦が、地面に落ちて消えていった。
「っと・・・・」
ププがその場に着地した。
「魔王ヴィル様、ありがとうございます」
「いや」
魔導書を見つめる。
黒魔術、まだ未開発の魔法ばかり載っているのか。
普通の魔法は問題ないんだろうけど、この魔法は禁止だ。
「ごめん、ププ、大丈夫? 目を離しちゃった」
「大丈夫なんだけど・・・疲れちゃって・・・」
その場に座り込んでしまった。
蔦には、毒も流し込んであったようだ。
ププは自己回復しながら、解こうと動いていたのか。
理屈はわかるんだが、何かが違う。
「でも、全然元気だよ。あ・・・」
「魔王ヴィル様の前だからって無理してるんでしょ。私、ハーブティー持ってくるね」
「大丈夫なのに・・・・・」
ウルが飛び出ていった。
「無理するな。無理は戦闘まで取っておけ」
「すみません」
ププを抱えて、ベッドに座らせる。
「それで、魔王ヴィル様。ご用件はなんでしょうか?」
「あぁ、ダンジョンの地図について聞きに来たんだけど・・・とりあえず、ウルを待つか」
「はい」
ププが深呼吸して魔力の流れを戻していた。
「ハーブティーの調合に時間かかっちゃった。大丈夫?」
「もう平気だよ。自分で回復できた」
ププがハーブティーを受け取っていた。
ぐぐっと飲んでから、ふはぁっと息を付く。
「よかった。ちょっと成長だね」
「うん。あ、ウル、魔王ヴィル様が地図でダンジョンを探したいって」
ププがベッドの上に地図を広げていた。
「あー、ププ、魔王ヴィル様にくっつきすぎ」
「ウルだって、すごくくっついてる癖に。ふわぁ・・・魔王ヴィル様、とっても、いい匂いがします」
「・・・・・・・・・」
ププが首のあたりの匂いを嗅いでくる。
柔らかい肌が冷たかった。
「・・・そろそろ、ダンジョンのこと聞いていいか?」
「はっ、失礼しました。つい、本能のままに」
ププが軽く咳払いをした。
「どのようなダンジョンをお探しでしょう?」
ププウルがすっと体勢を直して、魔王城付近の地図を出す。
「ミゲルから聞いた話なんだが・・・」
サンフォルン王国から海沿いに北上したダンジョンについて聞く。
ププウルはすぐにピンときたようだ。
棚から持ってきた地図を広げて、人間の持つダンジョンの詳細を説明してきた。




