表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/594

88 遠い過去

「ちょっとチクッとするぞ」

「んっ」

 リョクがアイリスの腕に注射をしていた。

 目をぎゅっと瞑って息を止めていた。


「はい、終わりだ。これで、しばらく安静にしててくれ」

「アイリス、何か変なところはないか?」


「うん、ちょっとくらくらするだけで。魔力は正常より・・・あっ・・・」

「大丈夫か?」

 ふらっとした、肩を支える。


「今日一日は寝ていろ。副作用はあるが、重くはない、ものすごく眠いくらいだ。24時間過ぎればよくなってくる。これで、同じ薬品で苦しむことはないよ」

「す、すごいね・・・」

「僕は回復魔法が得意な魔族だから当然だ」

 リョクがてきぱきと説明していた。


 リョクは『主の聖なる日』の部屋から資料を持ち帰って、奴らがアイリスにかけた猛毒へのワクチンをたった一週間で開発した。


 自分で言うだけのことはあって、回復魔法や人間、魔族の体の仕組みについては飛び抜けている。

 回復要員として、アイリスを連れてきたんだが、最初から魔族を探せばよかったのかもな。


 でも、リョクは出自不明の魔族で、上位魔族でさえ回復魔法が得意な者がいるとは知らなかったらしい。

 エヴァンに相談しても、さらに惚れこんでしまって、会話がかみ合わなかった。



「ありがとう、リョク。助かったよ」

「いえ、薬の調合自体は難しいものではなく、僕がいたところの魔族に打ったものと似ていました。人間用に調合するのは初めてでしたが、エヴァンのアシストもあって無事できました。な、エヴァン」

 リョクが薬品の入った瓶を、手で突いていた。

 エヴァン(ドラゴン)がリョクの横で、鬱陶しいくらい尻尾を振ってくる。


 こいつ、まだいんのかよ・・・。


「無いと思いますけど、万が一、痛みなどが出てきたら呼んでください。僕、いったん、これを片づけてきます」

「ありがとう」

 アイリスがゆっくりと医務室のベッドに横になった。

 少しだけ熱っぽいな。



 リョクが出ていくと、エヴァン(ドラゴン)がすぐに人間に戻った。


「リョクちゃん、すごいだろう。この薬作るのに徹夜したんだぞ。夜通しでリョクちゃんを見られるのは幸せだったな」

「気持ち悪い奴だな・・・」

「はぁ・・・可愛いし、頭もいいなんて、最高だな。いつも優しいし一生懸命で・・・」

 うっとりしながら話していた。

 俺の言葉を綺麗に流した。


「・・エヴァン・・・あの、お城には・・・」

 アイリスが瞼を重くしながら口を開いた。


「アイリス様がここにいること、何をしているのかも伝えていないよ」

「よかった・・・・」

 エヴァンの声を聞くと、すうっと目を閉じて、寝息を立てていた。


「寝たか。最近、寝てばかりだな」

「・・・・・・・」

 毛皮を掛けてやる。

 アリエル王国のこと、やっぱりどこかで引っかかってるのか。


「魔王ヴィル・・・ずっと考えていたんだが・・・」

「なんだ?」

 深刻そうな表情で口を開く。


「俺、リョクちゃんを好きでいていいよな?」

「どうでもいいことを深刻に話すなよ」

 力を抜いて、壁に寄り掛かる。


「重大だって。法に触れるような気がするんだよな。でも、俺も転生したから、外見は子供なんだけどさ・・・なんか、こう、推しに恋してる感じで・・・いいのかなって」

「・・・・・・・」

 わけわからないことで悩むんだよな。


「好きにしろよ。そもそも、アリエル王国にそんな法ないだろう?」

「へぇ、詳しいじゃないか。やっぱり、魔王になったのは落ちこぼれのヴィルって噂、本当だったの?」

 エヴァンが窓枠に座って、こちらを見る。


「・・・まぁな。もう、遠い昔の話だ」

「正直、ギルドの連中の妄言だと思ってたよ。ヴィルが言わないからさ」

「わざわざ言う必要ないだろ」

「それもそうか」


 腕を組んで、息を付いた。

 今となっては、消去したい過去だ。


 マリアのこと以外・・・な。


「ま、人間はそうゆうあら捜しが好きなんだ。ヴィルに限らず、誰かを見下して自分が優位に立っているように思いたいんだ。そうしないと、生きていけない奴らなんだろ」

「・・・お前、異世界で何歳で死んだんだよ」

「さぁ、覚えてないね」


 キィッ・・・


「・・・失礼します・・・」

 ドアがそっと開く。

 リョクのふわっとした髪が見えると、一瞬でエヴァンがドラゴンになった。


「やっぱり寝たか。エヴァン、おいで」

 嬉しそうに駆けていく。調子いい奴だ。


「いい子だな」

「そうだ、リョク。エヴァンが人間に変化するようなコツを見つけてくれないか?」

「人間に?」

「あぁ、人間への変化の仕方を忘れたみたいなんだよ」

 エヴァン(ドラゴン)が耳をピンとさせて、こちらを見てきた。


 人間のときのことを思い出させた、ささやかな仕返しだ。


「そうだったのか。僕、まだエヴァンについては知らないことばかりだな。任せてください、僕が見つけてみせますね。いろいろやってみるぞ。よいしょっと」

「・・・・・・・」

 ぽんぽんと抱きしめた後、引きずるようにエヴァン(ドラゴン)を連れて行った。

 エヴァン(ドラゴン)は、ドアが閉まる直前まで、こちらを見て呆然としていた。





 アイリスはずっと医務室で眠っていた。

 微熱はあるものの、呼吸、魔力は正常になっていた。

 一応、リョクを呼んだが異常はなく、ワクチンの影響で寝ているだけらしい。


 ほっとしていた。

 十戒軍が使ってきたアイリスを殺す毒だけが厄介だったが、これであの残酷な光景だけは免れた。


 心置きなく、十戒軍を壊滅できる。

 見つけ次第、しらみつぶしに・・・な。



 トントン


「魔王ヴィル様、よろしいでしょうか?」

「あぁ」

 本を置いて、体を起こす。


「お食事を持ってまいりました。ここに置きますね」

「ありがとう」

 マキアがパンとスープを持って入ってきた。

 ハーブと、肉をこんがり焼いた香りがする。


「あれ? 今日はアイリスはいないのですか?」

「医務室で寝ている。2人分持ってきたのか?」


「はい・・・どうしましょう? 医務室に持っていって、目を覚ましたら・・・食べれるでしょうか?」

「いや、しばらく目覚めない。薬の副作用で寝てるからな」

「そうですか・・・」

 机にトレーを置いて、少し戸惑っていた。


「下げるのはもったいない。お前がここで食べていけ」

「は・・・はい、ありがとうございます」



 マキアの作った料理は、格段に美味しくなっていた。

 炒めた野菜の甘みも出ていて、来たばかりの頃よりも、かなり上達している。


 このスープはおそらく、女魔族の泉で食べたものがベースになってるな。

 アイリスが伝えたレシピか。


 起きてたら食べれたのにな。

 

「魔王ヴィル様・・・あの、味のほうはいかがでしょうか?」

「あぁ、かなり美味しかったぞ。ごちそうさま」


「よかった。アイリスが持ってきたレシピ、細かく書かれていてわかりやすかったんです。きっと、お城の魔族の方々のお口にも合うと思います」

「そうか、伝えておくよ」

「はい」

 マキアが青い髪を耳にかけてほほ笑んだ。


 カタン


 ソファーに座って本を開くと、マキアが片付けていた皿を止めた。

 思い出したように、こちらに駆け寄ってくる。


「どうした?」

「えっと・・・あの・・・魔王ヴィル様、よろしければ、この後、一緒にお風呂に入りませんか?」

 エプロンを握りしめながら聞いてくる。


「風呂に?」

「その、何か用事がありましたらいいのですが。か、回復の湯にご一緒できれば、と」

 どんどん顔が赤くなっていく。


「今の時間なら、誰もいませんし、変な意味じゃなくて、魔王ヴィル様とゆっくりお話しできるかと思いまして。な、何かあるわけじゃなく、他愛もない話をしたいだけで・・・セラのこととかも・・・」

「・・・・あぁ、後でな」


「はいっ! ありがとうございます。では、片づけをしてきますね」

 マキアがぱっと明るくなる。

 エプロンを直して、食器を持って出ていった。




 サアァ


 窓の外の木が大きく揺れる。

 夜風が生ぬるかった。


「・・・・・」

 落ちこぼれのヴィルか。

 人間だった頃、俺は魔族をどう見ていたのだろう。


 マリアが死んでからは、人間も魔族も似たようなものにしか思えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ