表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/594

78 奇妙な同盟

 魔王のデスソードに紫の炎を纏わせる。


 カキンッ


 一気にエヴァン目がけて突っ込むと、片手で止められた。


「気合入ってるね」

「そっちこそ、パフォーマンスが必要なんだろ?」

 エヴァンが左手で、魔法陣のようなものを書いて、炎を出してくる。


 ボウッ ボウッ ボウッ


 飛び上がりながら、全てかわした。


「魔王ヴィル様っ」

「シエルは手を出すな。絶対だ」

 逆さになって、体勢を直しながら、シエルに言う。

 すぐにエヴァンが迫ってきた。


 カキン カキンッ


 剣がぶつかる音が響く。

 風圧が建物の窓を揺らすほどだったが、エヴァンは余裕の表情だ。


「うわっ!」

「あれは!? 魔族とアリエル王国のエヴァンか!?」

 人間たちが俺たちを見て、慌てる声が聞こえた。


 魔王のデスソードを持ち替えて、振り下ろす。

 エヴァンが剣で軽々と弾いていた。


「すごい!」

「俺たちも加勢しよう」


 タン

 

「邪魔だからどいててって」

 エヴァンが壁を蹴った。

 両手を広げて、魔法陣を展開する。


 ― 深淵の風 ―


 ぶわっ

 

 切り裂く風を起こした。


「うわっ!!!」

「だから邪魔だって言ったのに」

 エヴァンがため息をついて、簡易シールドを出していた。


 ガシャン ガシャンガシャンガシャン


 近くの窓ガラスが粉々に砕け散る。

 人間たちが腰を抜かしながら隠れていた。


「いい風だね」

 エヴァンが人差し指を立てながら言う。

 まぁ、俺も、本気でやってるわけじゃないけどな。


 こいつに、何か考えがあるんだろう。 



「そろそろいっか」

「?」

 エヴァンが周囲の様子を確認してから飛び上がる。


 パチン


 指を鳴らした。

 俺とエヴァン以外の時間が止まった。剣を下ろしている。


「また、それか」

「で、魔王直々にこんなところに来るなんてどうしたの?」

 ふわっと、近づいてくる。

 宙に浮いたガラスの破片を指先で突いていた。


「この地に、悪趣味な拷問場所作ったのはお前か?」

「まさか、そこまで趣味は悪くない。人間って、金が流れると、突飛な考えをするんだよね。そもそも、ゆるく正統派で生きていきたい俺が、こんなことするわけないじゃん」

 冷めた目で崩れた瓦礫を眺めていた。


「目的は、それじゃないよね。魔王自らこんなところまで来るなんて、他に用事があるんでしょ?」


「まぁな」

「俺の管轄外のことだったら答えるよ。こうやって魔王と会えるってなかなかないことだし」

 エヴァンが宙に浮いた岩に手を置く。 


「雑談でもいいよ。俺、友達いないからさ」

「十戒軍とかいう奴らがアイリスのことを狙っている。お前が関係しているのか?」


「は・・・?」

 顔色が変わった。


「あの不気味な集団だ。お前が集めた組織じゃないのか?」

「んなわけないだろ。俺は正統派の王国軍騎士団長だ」

 こいつの考えていることはよくわからないが・・・。

 今の反応は嘘ではなさそうだな。


「まさか・・・奴らが魔王城に行ったのか?」

「あぁ、わざわざサンフォルン王国から、アイリスを直接狙って来たよ。殺したけどな」

「アイリス様を狙いに来たか・・・・よく、魔王城まで辿り着いたな」

 エヴァンが腕を組む。

 アイリスがオーバーライド(上書き)を発動させて殺したことは、こいつには言えない。


 発動条件は単純。

 利用されたら、終わりだ。  


「十戒軍はしばらく静かだったんだけど、最近名前を聞くようになったんだ。ぶっちゃけ、俺の安心安全、チートな異世界ライフを邪魔しようとしてる厄介な奴らなんだよね。俺の見えないところで勢力を高めようとしている」

 珍しく、深刻な表情を浮かべていた。


「サンフォルン王国に探りを入れに来たんだけど、今のところ尻尾を出さない。俺にまで警戒してる雰囲気だ」

「子供だからじゃないのか?」


「子供だったらむしろ警戒しないでしょ。俺、異世界から来たこと、魔王にしか言っていないしさ」

「・・・・・・・・・」

 確かにな。

 俺みたいに、エヴァンが異世界から来たということを知っていれば別だが。


 十戒軍はこいつのことを、子ども扱いしていないんだろう。


「お前は不気味なガキだよ。お前が思っている以上にな」

「みんなの前では、ちゃんと優秀な子供を演じてるって」

 軽く笑い飛ばした。


「・・・まぁ、俺には俺の役割があるんだ。これ以上、得体のしれない集団が広まっていくのは都合が悪い。いいことを聞けたよ」 

「・・・・・・・・」

 魔王のデスソードを下ろす。


「それに、なんとなく、奴らからは俺と同じ世界にいたような匂いがする。後ろにいるやつなのか、わからないけどな」

「なんだ? その匂いって」

「あくまでも可能性だよ。ゼロではない、と思ってるだけだ」

 小石を握り締めていた。


 何か知ってるような素振りだな。


「そんな感じで、せっかく異世界転生して、充実した日々を送ろうとしていたのに、神だとかあやふやなものを信仰されたら、俺の立場も揺らぐんだよね」

 エヴァンが壁際で停止した人間たちを見つめながら言う。


「信仰する神ほど、狂ったものはないからさ」

「・・・・・・・・・」


 神か・・・。


「そもそも、俺がアイリス様を殺すわけない。いろいろあって管理下に置いておきたいのはあるけどね」

 こいつが危険なことは変わりない。


 でも、今回ばかりは、敵が同じようだな。


「十戒軍を消滅させるまで、同盟を組むか?」


「え?」

「今回は敵が同じだからな。もちろん、表向きは敵のまま、俺とお前だけの同盟だ。どうだ? お前のメリットとしては・・・そうだな。パフォーマンスに付き合ってやるよ」

「・・・・・・」

 エヴァンが一瞬間が空いた後、剣を出した。


「あはははは、いいねぇ。魔王を倒そうとする王国騎士団長と、人間を滅ぼそうとする魔族の王が、裏では手を組むってことね」

「そうだ。お前は役に立ちそうだしな」

「りょーかい、うまく利用してよ。俺もそうするから」


 シュンッ


 エヴァンが自分の手を切って月に掲げた。

 赤い血がぽたぽたと流れる。


「誓おう、俺は異世界ライフを満喫させるために、魔族の王ヴィルと協力し、十戒軍を倒す」

「俺は邪魔ものを排除するために。アリエル王国騎士団長エヴァン、お前と組む」

 うっすら血を滲ませた握りこぶしをエヴァンのほうに向ける。 


 止まった時間の中、俺たちの奇妙な同盟が成立した。



「じゃあ、同盟したんだから情報は開示しないとね」

 エヴァンはサンフォルン王国に入って気づいたこと、今後の予定を説明してきた。

 賢い奴だ。無駄がなかった。


 国王によるセレモニーがあるらしい。

 サンフォルン王国の息子が出席するとのことだ。


「俺の予想では、十戒軍が尻尾を出すんじゃないかと思ってる。あとで飛ばしてやるよ。そこの女の子、上位魔族?」

「まぁな。ここ数日で上位魔族になったんだ」


「どおりで見かけない顔だと思った・・・」

 エヴァンが止まった時間の中で、固まっているシエルに近づいていく。


「へぇ、改めて見ると、めちゃくちゃ美少女だな。アイリス様も可愛いけど、この子もアイドル級だね」

「アイドル級ってなんだよ」


「異世界の言葉でこっちに変換すると・・・そういや、こっちにはそうゆう仕組み無いか。つか、君も、次から次へと女を変えるね。まさか、他にもいるの?」


「勘違いだ。魔族の王が上位魔族と行動するのは普通のことだろうが」

「ふうん。ま、いいけど」

 疑いの目を向けてくる。

 こいつ、どこまで見えてるんだろうな。


「とりあえず、俺は貧乳派だからどちらかといえば、アイリス様を推すよ」

「推すとか・・・また異世界の言葉かよ。お前はここにいたいのか、異世界に戻りたいのかわからないな」


「いや、戻りたくなんかないって。大切な者がいるなら、大事にしなって言いたくてさ。俺はもう、会えないからね」


「わかったような口を・・・」


「・・・・・・」


 陶器のように停止したシエルを見て、目を細めていた。

 ガキのする顔ではないな。


 こいつが死んだのは、何歳の時だったんだろう。

 




 エヴァンは時間を停止させたまま、俺たちをとある部屋に案内した。

 しばらくして、時間が流れ始める。


「あれ? 魔王ヴィル様、どうして私たちここへ? あ、人間たちが外に・・・」

 シエルがきょろきょろしていた。


「カーテンを閉めておけ」

「は、はいっ・・・」

 ここは、城下町にある空き家の一室。

 エヴァンが探りを入れるために飛ばした場所だ。


 人目は少なく、国王軍からは死角となる建物だと聞いていた。

 シエルが心を読めるのなら、サンフォルン王国のセレモニーの際に、十戒軍に関して、何らかの情報を得られるだろうと話していた。


「えっと・・・あれから、エヴァンと戦っていたんだが、人間が来たから一旦退避したんだ。ここは、城下町の中だ。気を抜くな」

「はい、承知しました」

 古びたテーブルや椅子がぐちゃぐちゃに並んだ、倉庫のような場所だった。

 窓の近くのソファーの皮ははがれている。


「でも・・・魔王ヴィル様が人間と戦ってたのは覚えてるのですが・・・不思議です。私、記憶が・・・はっ、あのランサーの人間を忘れてきてしまいました」

「あいつは必要は無くなった。これから王国のセレモニーが・・・って、シエルっ」

「はふっ・・・」

 シエルが正面から抱きついてきた。

 勢いに押されて、ソファーに座り込む。


「こうしたくて、我慢できなかったのです」

「シエル!」


 ガタン


 近くの椅子が倒れた。


「はぁ、大好きな魔王ヴィル様と二人きり。嬉しいです」

「話を最後まで聞いてくれ。シエル」

「あっ、失礼しました。つい・・・欲望が・・・」

 シエルがはっと我に返って、離れた。


「魔王ヴィル様と二人きりになるとどうしても、くっつきたくなってしまうのです。気を付けます」

 ツインテールを口に寄せながら、視線を逸らしていた。


「いい、お前がそうなるのは特殊効果発動条件が関係してるんだろうからな」

「そ、それだけではないのですが・・・でも、どうしよう。そうって言ったほうが、魔王ヴィル様と今後交われる回数が多くなるのかもしれない。でも、大好きなのは確かで・・・」

 おろおろしながら、言葉を選んでいた。


「私のきゅんとか、どきっとかそうゆう気持ち・・・初めての気持ちなので、表現が難しいのです。どうしたら、魔王ヴィル様に伝わるのでしょうか。うーん・・・」

 シエルは考えてることを隠せないタイプなのか。

 唸りながら、俺にどう伝えようか悩んでいた。


 エヴァンがシエルの特殊効果発動条件を見抜いていたら、文句を言ってきそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ