75 愛してる、と
「魔王ヴィル様にはどうゆうのがいいですか?」
「どれでもいいよ」
「駄目です。魔王ヴィル様は何着ても似合ってしまいますけど、ちゃんと選びたいのです。弱い私が、魔王ヴィル様のために精いっぱいできることですから」
シエルが鼻歌を歌いながら、俺が着るジジとブルッドの服を探していた。
つい、数時間前まであんなことしてたとは見えない素振りだが・・・。
欲望に忠実な、魔族からすると普通のことなのか。
「これなんていかがでしょうか」
深い紫色の上着を見せてきた。少し人間っぽいから、潜入にはちょうどいい。
「はっ・・・・その・・・いかがでしょうか?」
「あぁ、それにするよ」
目が合うと、急に恥ずかしそうにして、髪で顔を隠していた。
さらけ出したいのか、隠したいのかわからないな。
シエルが選んだ服に袖を通す。
洞窟の中も外も静かだった。
でも、時折、人間の気配がした。シエルは気づいていないみたいだけどな。
シエルは元々、弱い。
次、人間に会えば確実に殺されるだろう。
ステータスを確認してみるか。魔族なら何か特異なものがあるかもしれない。
近くの魔族の集落に連れてい・・・。
職業:エルフと悪魔のクォーター
武力:105,000
魔力:220,000
無属性:101,900
防御力:102,000
特殊効果発動条件:魔王との交わりによりステータス上昇維持
弱点:交わりが無くなると、徐々に低下
「えっ!?」
「どうしましたか? 魔王ヴィル様」
「あ、いや・・・・」
口を押える。思わず声を上げてしまった。
魔王の目で見るまで気づかなかったが、上位魔族にも匹敵するステータスになっていた。
「ん?」
シエルが、髪をツインテールに結び直して、首を傾げていた。
この特殊効果発動条件って・・・俺とのことだよな。
交わりってさっきの行為のことか。
そんな特殊効果を持つ魔族がいるって想定外だった。
本人は気づいていないようだけど・・・。
とりあえず、確かめてみるか。
「魔王ヴィル様? 何か」
後ろから手を回して、胸を鷲掴みにする。
「んっ・・・え・・・」
「悪いが、このまま確認したいことがある」
シエルがお尻を突き出して、服を落としていた。
胸に弾力がありすぎて、手から溢れている。
「あっ・・・魔王ヴィル様、急にどうしたのですか?」
「さっきのやつをこのままやっていいか? いや、やらせてもらう」
強引に太ももに手を当てた。
「調べたいことって何のこと・・あぁっ・・・」
前かがみになっていた。
すぐに熱い吐息に代わっていく。
「っはぁ・・・はぁ・・・・」
シエルが床に座り込んでいた。着衣乱れを直しながら息を切らしている。
「悪かった、急に・・・大丈夫か?」
「いえ、びっくりしました・・・で、でも、嫌じゃなくて・・・むしろ嬉しくて、強引な魔王ヴィル様も・・・好きです。ますます好きに・・・」
職業:妖精と悪魔のクォーター
武力:125,000
魔力:320,000
無属性:101,900
防御力:102,000
特殊効果発動条件:魔王との交わりによりステータス上昇維持
弱点:交わりが無くなると、徐々に低下
やっぱりだ。
ステータスが上昇している。
いきなり、上位魔族と同等になるとは・・・かなり貴重な存在だな。
魔王の目を閉じて、シエルの傍に座った。
「それで、確認したいこととは・・・?」
「お前は俺との交わりによってステータスが上昇する特殊効果があるようだ。今は上位魔族に匹敵する強さを持っている」
「え!? そんなこと・・・あるんですか?」
シエルが目を丸くしていた。
当然だな。こんな特殊効果、普通に生活していて気付くわけがない。
「自分では、何か感じないか?」
「私、こうゆうのに鈍くて・・・体が軽くなった感じはしますけど、使ってみればわかるのでしょうか。でも、何か・・・そうですね。今までと違う感じはします」
両手を見て魔力の流れを確認していた。
「今、魔王城は上位魔族が足りなくてな。お前が良ければ魔王城に来て上位魔族として・・・」
「本当ですか!? 嬉しいですっ。魔王ヴィル様、だーい好きです」
「っ・・・・いや、話を最後まで・・・」
シエルが抱きついてきて、頬ずりをしてきた。
テーブルの上のランプがふっと揺れる。
「好きです。大好きです。魔王ヴィル様がいるところで、お役に立てるのなら光栄です。精いっぱい、頑張ります」
「・・・悪いが、俺は・・・」
「魔王ヴィル様が誰を好きでいても、私が好きだからいいのです。好きだからお役に立ちたいのです」
「待て・・・とりあえず、落ち着けって」
少し体を離すと、表情を輝かせていた。
目が合うと、首をかしげて笑いかけてきた。
「では、私に何か質問がありましたら、何でも聞いてください」
「いや・・・さっき聞いたから、特に質問はない。いい時間帯だ、サンフォルン王国に向か・・・」
「魔王ヴィル様」
「!?」
立ち上がろうとすると、シエルが押し倒してきた。
「待ってください」
「えっ・・・」
「では、上位魔族でいるために、まだ少し魔王ヴィル様といたいのです」
「シエル!」
「魔王ヴィル様・・・大好きです・・・」
こんなに求めてくるのは、特殊効果を持っているから、本能的なものもあるのかもな。
「どうしてお前はそんなに俺が好きなんだよ」
「え・・・・」
「会ったばかりだろうが。俺の何を知っている?」
「好きになるのに理由はありません。好きだから好きなのです」
透き通るような瞳で言う。
「・・・・好きっていうのは、どうゆう意味だ?」
「魔王ヴィル様を愛してるのです。心から・・・愛しています」
「・・・・・・」
愛を知らない俺に、その言葉を言うか?
「あ・・・・」
シエルを抱き寄せた。
壁に二人の影が映っていた。
― 自体変化―
シエルの服が変わり、尖っていた耳が、人間のような耳に変わっていった。
「・・・本当・・・私、強くなっているようです。いつも、この魔法はすぐに解けて失敗してしまうのですが」
自分の魔力に驚いていた。
あれだけやればな・・・ここ数日間は余裕で上位魔族だろう。
かなり、特異な特殊効果だが、魔族にとって主戦力になることは間違いないな。
「安心しろ。簡単には解けないだろうからな」
「はい」
シエルが洞窟の前で立ち止まる。
「ここの家はしばしお別れです。明かりを」
「あぁ・・・」
ランプの灯をふぅっと消して、手を合わせていた。
亡くなった者たちへ、いってきますと呟いているのが聞こえた。
「では、行きましょう」
荷物や着替えの入ったリュックを軽々と持ち上げる。
「シエルが思っている以上に全体的なステータスがかなり高くなってるから、人間にバレないようにな。最初は急激に強くなったから、魔法も使いにくいかもしれないが、徐々に慣れる」
「はい!」
肩をあげて頷く。
「あまり緊張するな。特にお前の持つ無属性の能力は貴重だ。期待してる」
「はいっ。頑張りますね」
髪をきゅっと結び直して、微笑んでいた。
森を抜けて、煌々と光るサンフォルン王国を目指した。




