74 魔族の妖精シエル
ダンジョンの精霊にはすぐに会えた。
事前にカマタから話を聞いていたらしい。
アイリスはどことなく、地に足がついていないような雰囲気だ。
まぁ、いつものことか。
アイリスの手に一瞬だけ見えた、あの魔力は気になるが・・・な。
一人で空を飛びながら、サンフォルン王国に向かっていた。
「ん?」
サンフォルン王国の敷地内から少し離れた、見張り台のようなところで、人間と魔族の気配がした。
すっと、気配を消して近づいてみる。
「ハハハ、これでレベルアップとは楽勝だな」
人間の声が響く。
杖を持った男が笑っていた。人間5人が斧やチェーンを構えている。
見張り台の下、木のようなものに手足を括りつけられているのは男2人女1人の魔族だな。
男たちには角が生えて、長い尻尾があった。
1人は少女か。
長い髪のツインテールで、俯いていて顔は見えなかったが、耳が尖っていた。
全員、服がズタボロに破けたまま、傷つけられている。
「ドンボブ、そろそろ回復してあげてもいい?」
「あぁ、そうだな。回復魔法頼むわ」
『ヒール』
魔法使いが唱えると、真ん中の少女だけ体の傷が治っていった。
「あっ・・・ジジ? ブルッド?」
男の魔族2人はぐったり項垂れたまま動かない。
少女が隣の2人を見て、戸惑っていた。
「あれ? 失敗しちゃったかな?」
「やりすぎなんだよ。2人が死んじまったじゃねぇか」
「残ってるのはこの女だけか。力が入りすぎたな」
「もうっ、これだから男どもは信頼できないわ」
剣を持った女が文句を言っていた。
長い帽子をかぶった人間が、眼鏡のレンズを光らせる。
「でもほら、この子・・・よく見ると、めちゃくちゃ可愛いんだよな。おっぱいもでかいし、魔族じゃなければなぁ。おら、ここはどうだ? 好きなんだろう? こうゆうの」
「やっ・・・・・」
「うわ、すげー美少女」
「止めなさい、ドンボブ。胸が大きいくらいで、すぐ男にすり寄ろうとするんだから・・・魔族の女は油断ならないわ」
剣の先で服を切ろうとすると、人間の女が嫉妬混じりに止めていた。
「はいはい。じゃあ、もう一回いきますかね。あまりにも可愛すぎて気が引けるんだけど」
「うるさいわね、やるわよ」
女が少女に杖を向けた。
「いや・・・・・いや・・・・」
弱い魔族を拘束して、攻撃と回復を繰り返しているのか。
経験値を上げるためだろうな。
薄汚い人間どもが。
スッ
「!?」
首を振る魔族の少女と、人間どもの間に降りていく。
すぐに両手を広げた。
「な・・・なんだ? お前は」
「魔族か?」
― 毒薔薇の蔦 ―
人間どもを縛り上げて宙に浮かせる。
うわあああああああ
少しきつくしただけで、悲鳴を上げていた。
弱すぎるな。どんな奴よりも弱い。
こちらを見ることなく、もがきながら失神する者もいた。
「苦し・・・なんだ? この力は・・・」
「誰だ? お前は・・・魔族か? 何なんだ?」
「・・・・・・」
こいつらは・・・情報を聞く価値もなさそうだな。
というより、声を聞くだけで、耳が腐りそうだ。
魔族の少女を抱えて、背を向ける。
「あっ・・・」
― 冥界の業火―
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ
人間たちの断末魔が響く。
黒い炎で、見張り台一帯を燃やし尽くした。
骨すらも焼き尽くす、地獄の業火だ。
「いや、いや、ジジ、ブルッドが・・・・」
少女が炎を見つめながら、手を伸ばしていた。
「無駄だ。もう死んでいた」
「うぅっ・・・・」
「悪いな。もう少し早く来れればよかった」
「みんな・・・・ひっく・・・・うぅっ・・・・私だけ助かっちゃった」
小さい体を震わせて、腕の中でずっと泣いていた。
彼女の住んでいるという洞穴に連れていき、休息をとっていた。
この辺りはダンジョンがなく、みんな人間から隠れてひっそりと暮らしているのだという。
「先ほどはありがとうございました。こんなところまで運んでいただき・・・・・・」
「いや、通りがかりだった。魔族の王として当然のことをしたまでだ。気にするな」
彼女の名前はシエル。
力は他の魔族に比べて、断然弱かった。
彼女だけが生き残ったのは、人間が美しさのあまり躊躇したのもあったのだろう。
白銀の長い髪を持つ、魔族というより妖精のようのほうが近いかもしれない。
瞳の大きい、儚げな美少女だった。
「・・・私たちは、この洞穴に3人で住んでいました。幼い頃から一緒だった幼馴染です。本当はもっといたのですが、結局私たちだけに」
洞穴の中には、食事に使う鍋や食器、食べ物、服がそろっていた。
「突然、人間どもが襲ってきたのです。今まで10年ここに住んでいて、何もなかったのに突然・・・」
「あぁ」
シエルの涙を拭いてやる。
「ごめんなさい・・・せっかく魔王ヴィル様が救ってくださったのに、弱くて・・・こんなんじゃ、2人に顔向けできません」
「そんなことないって、生きてるだけでいいんだから」
「・・・・・うぅっ、すみません」
こちらを見て、もう一度しくしく泣きだした。
泣かれるのだけは、どうも慣れない・・・。
シエルの話を聞く限り、ここ最近、サンフォルン王国の人間の中で魔族狩りのような行為が広がっているらしい。
リカの言っていた話と繋がるな。
自分たちよりも、明らかに戦闘能力の低い魔族を一度倒して、もう一度回復魔法で復活させることを、何度も何度も繰り返し、自分たちの経験値を上げるのだという。
ここ周辺の人間で、強い魔族に戦いを挑む者はほとんどいないと。
経験値が上がれば、今、王国内で募集し始めたギルドに入ることができるらしい。
人間どもは、魔族を拷問しながら、ギルドに入って、金が入ったらという話ばかりしていたと、シエルが話す。
奴らもおそらく困窮者だと言っていた。
「悔しいですが、ジジもブルッドもあまり強いわけではなかったので・・・あ、これ、お口に合うかわからないのですが・・・」
「ありがとう。ちょうど、お腹が空いていた」
シエルが、軽食を作って持ってきた。
パンに浸して食べる。潮の香りは・・・海産物か。
「今までは、特にこのあたりはダンジョンも無いため、人間も魔族を襲うことはなく、ずっと平和でいたのですが・・・ブルッドたちが魚をくれたりして、力はなくても衣食住には困りませんでした」
「そうか・・・」
「・・・・・・」
シエルが俯く。
「いい話を聞けた。ありがとう。じゃあ、俺はそろそろ、サンフォルン王国に行ってくる。人間は片付けたし、しばらくここも落ち着くだろう」
「あ、待ってください」
しばらくして、立ち上がろうとすると、シエルが引き留めてきた。
「い・・・今は昼間なので、夜中に行かれたほうがいいのです。ジジが、昼間はサンフォルン王国の兵がいるからじっとしていなさいと言っていました」
「でも・・・」
「さ、酒場、情報収集するなら夜の酒場がいいのです。も、もう少し、ここで休んでいってください」
「・・・・・・」
確かに、十戒軍の話を聞くなら、夜の酒場に潜り込んだほうがいいな。
酒に酔った人間の方が、口を滑らせやすい。
「そうだな。提案通り、ここで休ませてくれ」
「はい是非」
ぱぁっと表情を明るくさせた。
「あ、そのジジかブルッドの服とやらを借りてもいいか?」
「ジジの服を? ですか?」
「この格好で行けば、魔王だと気づく奴もいるかもしれないからな。今回は情報収集なんだ。変に警戒されても困る」
「わかりました。用意しておきます。ジジも、魔王ヴィル様が着てくだされば、喜びます」
シエルが髪を触りながらほほ笑んだ。
「魔王ヴィル様・・・あちらに、狭いですが入浴する場所もあるのです。私たちは弱いので、よく回復に使っているので、綺麗にしてありますが、使いますか?」
「夜まで時間があるしな・・・せっかくだから、使わせてもらうよ」
立ち上がって、案内された風呂のほうへ歩いていく。
「ふぅ・・・・・」
本当に小さな、木でできた一人分の湯船だった。
ゆっくりと入ると、ぶわっと溢れていく。
ここのお湯はちょっとトロミがあるのか。地域によって違うんだな。
人間の汚い血を浴びてしまったから、ちょういい。
カタン
「あの・・・ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「えっ?」
髪を解いたシエルが裸のまま近づいてくる。
小柄だったが、肌が白く、瞳が透き通っていて・・・幼い妖精のようだった。
腕で胸を隠していたが、豊満な胸がはみ出ている。
「あ・・・・」
ザップ―ン
「!」
「魔王ヴィル様」
何も言わないのに入ってきてしまった。
「私、魔王ヴィル様が好きです。一目会った時から、好きになってしまい、こうしたくて・・・来てしまいました」
「!?」
正面からぎゅうっと抱きついてきた。大きな胸が柔らかい。
「はっ・・・・・」
「助けてもらったからだけではないのです。本当に大好きです。一目ぼれなのです。大好きです。初めて会った気がしなく不思議ですが」
腕に力を入れて、密着してくる。
魔族って、表現がストレートだよな。この子は特に。
「んっ・・・・」
「好きです。魔王ヴィル様・・・愛してます。魔王ヴィル様のためなら死んでもいいです」
真っすぐ、こちらを見つめて、強引に唇を重ねてきた。
肌が触れ合うと、嬉しそうな表情を浮かべていた。
ちょっと動かしてくる。
「シエル・・・」
「好きです。魔王ヴィル様、好き・・・好き・・・自分でもどうしていいかわからなくて、好きすぎて。おかしいですか?」
「いや・・・・」
「よかった」
肩に手を回して密着してきた。お湯がざーっと一気に溢れていく。
「好きです。好き・・・好き。大好き。好きです、魔王ヴィル様」
「・・・・・・・・・」
「大好き・・・」
耳にキスしながら呟いていた。
湯が流れていく。
「犯すぞ、いいのか?」
「嬉しいです。好きなようにしてください。魔王ヴィル様となら、私・・・どうなってしまってもいいのです・・・・」
シエルが体を仰け反らせてから、しがみついてきた。




