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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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67 嘘の笑顔

 ダンジョンの中は整備された岩の壁に囲まれていた。

 しばらく進むと、どこからか日光が差し込んで明るくなった。


 指に灯した光を消す。

 通路の端には水が流れていて、所々、草や花が植えられていた。


 経験上、ここのダンジョンの精霊もかなり暇そうだな。

 アリエル王国からもサンフォルン王国からも遠い、人里離れた森の中と言ったら、人間たちにとって最も興味のない場所にあるダンジョンだろう。


「魔王ヴィル様・・・」

「なんだ?」

「どうして、魔王ヴィル様はそんなに人間が嫌いなの?」


「・・・そうだな・・・・」

 歩きながら腕を組む。


「俺は、物心ついた時から人間が嫌いだった。自分かわいさに、誰かに石を投げなきゃ生きていけないような奴らだからな。同じ種族だということだけでも嫌悪しかなかった」

「・・・・そっか」


「アイリスは人間が好きなのか?」

「私は・・・んっと・・・」

 アイリスが一段飛ばしで、くっついてくる。


「嫌いでは・・・ないのかもしれない。感情の定義があいまいだけど・・・そ、それに、私、王女だし!」

「お人よしだな。あんな目にあったら、お前が一番嫌うべきだろうが」


「誰かを好きになるのも、嫌いになるのも難しいから」

 階段を一段飛ばしで飛び降りる。


「彼らも、きっとそうならざるを得なかった何かがあるって思ったら、嫌いになれない・・・・ってのが王女としての模範解答なのかな・・・」

「根っからの悪い奴もいるって」

「そっか」


 俺を捨てた産みの親は、ただ自分にとって邪魔だから捨てたんだろう。

 いい奴ばかりではない。


「私、本当、何者なんだろうね? 人間って難しいね」

「アイリス・・・」

 アイリスがへらっと笑っていた。


「・・・・・・」

 嘘をついているようにしか見えない笑顔だった。

 こうゆう顔もするんだな。


 ガシャン


「!!」

 岩がいきなり出てきて、通路を塞いだ。


「・・・アイリス・・・今、なんか踏んだか?」

「んと、ちょっと、手がレバーみたいなのに当たっちゃって。はっ、これは・・・いつものフラグ」

「だろうな」 

 嫌な予感がする・・・。



 バン


「うわっ・・・・」

「きゃっ」

 突然、底が抜けた。


「わわ・・・魔王ヴィル様、何これ?」

「とりあえず暴れるな。最下層に通じてるのか?」

 手で押さえて、かろうじて体重を支えていた。

 滑り台のようになっているのか。


「でも、なんだかぬるぬるして・・・」

「うわっ」


 シューッ


 手が滑って、傾斜のある場所を岩を滑っていく。

 草木の液体なのか、全体にぬめりがあった。


「うわっ、何やって・・」

「あわわ・・・あっ・・・」

 アイリスに押されるようにして、勢いよく降りていく。



 すぽっ


 急に広い部屋に出ていった。

 壁際に当たる前に、ゆっくりと止まった。


「はぁ・・・ったく、最近のダンジョンは癖が強いな・・・」

 全身をヌルヌルの液体が纏わりついていた。植物の液体か?

 滑りながら体を起こす。


「何これ・・・気持ち悪い。立ち上がりにくいし」

「樹液だろうな。害はないが、この状態で先に進むのは面倒だな」

「木の匂い。嫌いじゃないけど、このぬめりは嫌」

 ぬめりを確認してから、階段のほうを見る。


 どれくらい降りて来たのかもわからないな。

 アイリスがゆっくりと近づいてくる。


「魔王ヴィル様、どうする?」

「厄介だが、このまま進むしかないな。浮遊魔法は使えるみたいだが、俺が飛んで移動するには、天井が低すぎる」

「んー、私にいい魔法とかあったらいいんだけど。水と風を起こして、竜巻を起こして飛んで移動みたいな」

「攻撃魔法をかけてどうするんだよ」

「あはは、そうだね」

 改めて、魔王ってダンジョン攻略には向いてない魔法ばかりだと思った。

 普通、魔族の王がダンジョンに行くことなんてないからな。




「ま・・・魔族? と、人間・・・?」

 布を巻いた魔族の少女が階段からそろりそりと出てきた。


 小さな尻尾が生えていて、ププウルより少しだけ年上くらいだ。

 数センチ宙を浮きながら近づいてくる。


「誰だお前は?」

「あ・・・貴方様は、もしかして魔王様ですか?」

 こちらを見て驚いていた。


「あぁ、そうだ」

「魔王様っ」

 八重歯を見せて、にぱぁっと笑った。


「私はこのダンジョンに封印された悪魔のリルでございます。魔族と会うのは久しぶりでございます。それに、まさか魔王様とお会いできるなんて、嬉しくてうれしくて・・・」

 体が触れそうなくらい近づいてきた。


「・・・魔王ヴィル様、すぐラッキースケベフラグを」

「違うって」

「魔王ヴィル様、この者は人間ですよね?」

 リルが足の上にちょこんと載ってきた。

 大きく吊り上がった目で覗き込む。


「あぁ、ダンジョン制圧に必要な奴隷として連れている」

「ダンジョン制圧・・・こ、ここのダンジョンを魔族のものに?」

「まぁな」

「わぁ、嬉しいです。魔王ヴィル様!!!」

 思いっきり顔を近づけて、顔をくしゃっとさせた。

 アイリスが頬を膨らませている。


「なんで、リルは封印されたのにダンジョン内を動けるんだ?」

「このダンジョンが人間に攻略されたのはかなり前なので、封印の効力が切れてるのです。動けるようにはなりましたが、ダンジョンから出ることはできないので、ここでダンジョンの精霊の手伝いをしています」

 ふさふさした尻尾を大きく振っていた。


 リルはセラと違ってステータスは低そうだな。

 ここを攻略した人間は、ギルドに帰って、魔族を封印したと、さぞかし自慢したんだろう。


「最下層に行く前に、この体のぬめりを取りたいんだが・・・」

「水場ですね! もちろんありますよ。その道を通ったすぐ先なので、お連れしますね」

「えっ」

 リルが後ろから腕をつかんで、俺を持ち上げてきた。


「あっ、魔王ヴィル様、待って」

「アイリス!」

「わっ・・・・」

 アイリスの服を掴む。滑りそうだな。


「お・・・重いです・・・」

「悪いが・・・我慢してくれ・・・」

 ピカピカに磨かれた、真っすぐな通路を滑っていく。


「ぬぬぬ、これくらい大丈夫です。すぐなので・・・力持ちなところを、魔王ヴィル様に・・・」

 リルがぎゅうっと力を入れて、俺とアイリスを引っ張った。




「ふぅ、ここになります」

 リルがゆっくりと下ろした。


 ザアアァァァァァァ


 川のように勢いよく水が流れている。


「ここで洗い流せば落ちますので」

「ありがとう。随分、手の込んだダンジョンだな」


「ダンジョンの精霊も暇だったようです。ダンジョンが攻略されて、私が封印されてから、ここに来た人間はいませんし・・・・」

 リルが小さな翼をぱたぱたさせながら話した。


 人間がここを攻略する目的なんて、ギルドの経験値獲得くらいしかないんだろう。


「でも、いいダンジョンなんですよ。この床には木々が張り巡らされていて樹液が出てくるそうです。通るところは堰き止めているので、普段住むには問題ないかと思います」

「そうか。あとはここで落としてから最下層に行くから」


「あ! 私が洗い流しますよ。魔王様、服、脱いでください」

「いいって」

「魔王ヴィル様・・・男女は気軽にそうゆうのしないはず。ダンジョンに着いてすぐ、フラグ回収・・・・」

「事前情報というか、常識だ」

 リルの言葉に、アイリスがじとーっと見てくる。


「それより・・・ダンジョンの精霊の手伝いの途中だったんだろう?」

「あ、そうでした。頑張ってきます!」

 リルがぴょんと飛び跳ねるようにして、入口のほうへ戻っていった。


「魔王ヴィル様、あの子魔王ヴィル様の前で心拍数が上がってるよ」

「なんで、んなことわかるんだよ」


「そうゆう行動パターンだった。魔王ヴィル様のラッキースケベ属性は危険すぎる。なんかもやもや。なんだろう、もやもや感情・・・」

 アイリスが呟きながら、水が流れるほうに歩いていった。

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