499 強欲のバラモス
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
「屋根で読書でもしてるかと思ったら、ここに居たのか」
「ゼロか」
ゼロが倉庫に入ってくる。
「右側には魔導書、左側には異世界の本、中央にはテラが置いていったモニターには”オーバーザワールド”のコードか・・・自分でコードを読めるようになったんだろ?」
「基礎的なものだけどな」
「さすがだよ」
「リリスに色々聞いて覚えただけだ」
セキュリティ、権限、アンドロイドのざっくりとした仕組み、”オーバーザワールド”のデバッグ方法は大体頭に入っていた。
でも、肝心なアイリスに繋がる情報は無い。
せめて、”名無し”が出てくれば楽なんだけどな。
「いつ戻ったんだ?」
「ついさっきだよ。トムがポセイドン王国に行きたいっていうから、次はガブリエル王国方面になるかな。ちなみに今、トムはメイリアを引き連れて、調理室で待機してるから」
「マキアの邪魔にならなきゃいいが」
ゼロが腕を組んでモニターを見つめる。
「『ウルリア』にいる雛菊アオイたちとは連絡取れるの?」
「あぁ、たまに異世界に帰ったりしているらしい。Vtuberの活動は完全に辞めて、自分と同じような感情を持つVtuberと仲良くしてる、とか話してたな」
アイリスが聞いたら、興味を持つだろうと思っていた。
「ん? これ、変わった魔法道具だね」
「薬の効力の時間を記録する砂時計だ。といっても使ってないし、ただのガラクタだ。そのうち錬金して何かに変えるつもりだよ」
「ふうん」
棚に置いてある砂時計を突いていた。
「人間たちの様子はどうだ?」
本に栞を挟んで、積みあがった本の一番上に載せる。
異世界の本を一冊取り出して、ソファーに座り直した。
「相変わらずヴァリ族と一進一退を繰り返してるよ。”オーバーザワールド”と違って、こっちの人間たちは平和ボケしてるから、すぐ攻め込まれるんだ」
「だろうな。各地の勇者たちは?」
「軍の指揮をとったり、戦闘のアドバイスしていたり、ギルドに所属して名を広めたり、上手くやってるらしい。月の女神から得た力は今まで通り使えるしね。俺もスレイプニールには大分助けられてるよ」
ゼロが笑いながら窓の外を見つめる。
「ねぇ、アイリスのこと・・・何かわかった?」
「いや、どの本を見てもそれらしい情報は無い。アイリスにセキュリティ検知ツールを何度も試したが、テラの言う通り見つからないな。でも、アイリスは異世界から来た。異世界から調べていくのが正しいんだろう」
ため息交じりに言う。
「何日も睡眠時間削ってるんだろ? いくらヴィルでも集中力の限界だ」
「俺は元々睡眠時間が短くてもいいんだよ」
手をひらひらさせた。
「アイリスが目覚める方法を探し出す。絶対にな」
「ヴィル・・・・・」
トントン
「失礼しま・・・うわぁ、ベリアルとゼアル!」
強欲のバラモスが小柄な体を飛び上がらせた。
ゴン
ドドドドッドドドド
「うわぁぁあ」
棚にあたって本が落ちてくる。
ゼロが指を回して、空中で倒れてきそうな本を止めた。
「大丈夫? の前に、大分久しぶりだよね?」
「こっちの世界でゼアルと話すのは初めてだよ・・・遠くから見つけたことはあったけど・・・」
「遠くからって・・・なんか怖いな。ちなみに、今の俺の名前はゼロ、こっちはヴィル。ややこしくなるから、ゼロとヴィルで呼んで」
「何回も聞いたけど、なんかその名前慣れなくて・・・アスリア様はアスリア様だし、サタニア様、サタニア様・・・サタニア様だけでも覚えないとなぁ」
ゼロが本を戻しながら息をついた。
「どうしたんだ? また、ジオニアスと喧嘩でもしたのか?」
「違う違う。僕が日々ぼうっとしてるから、怒られたりはしてるけど・・・僕がワンテンポ遅いのは今始まったことじゃないから・・・」
少し肩をすくめた。
強欲のバラモスは自分に自信がなく、いつも遅い。
道に迷っていたところをジオニアスに発見されたのも、ラグナロクが終わってから3か月経った頃だったしな。
「・・・・本で調べようと思ったんだ」
「何の本だ? ここにある本は多いから、読みたい本があれば俺が探してやる」
「恋愛小説だよ。僕、セイレーン号のセイレーンが好きなのかもしれない」
「は?」
ゼロと同時に声が出た。
「・・・・何言ってるんだ?」
「彼女を見てると心が安らぐんだ。可愛いのに芯があって、強い、まさに理想の女の子だ。きっと、僕とセイレーンは出会う運命だったんだ」
急に熱弁し始めた。
「僕に必要なのは恋愛の本、恋を学ぶこと。こんな気持ち初めてだ」
「・・・・・・・」
背筋がざわっとした。
ゼロと目が合う。俺と同じような表情をしていた。
バラモスはたまに欲望のままぶっ飛んだことを言う。
職業を変更して、踊り子になりたい、とかな。
でも、熱量が続いたことはない。3か月程度で忘れると思うが・・・。
「だから、セイレーン号に住んでいい?」
「ごほごほっ・・・・」
ゼロが急にむせていた。
「住む!? ・・・ちゃんと、魔王城に部屋が与えられてるだろ?」
「片時も離れたくないんだよ。いいでしょ? ゼロからもヴィルに頼んで」
バラモスがゼロに詰め寄る。
「いやいや、ちょっと待て。冷静になれって。セイレーンも迷惑かもしれないし・・・ストーカー認定されてもおかしくないだろ」
「そこをゼロのトーク力で何とか!」
「できないって。ヴィル、得意だろ? こうゆうの、ほら」
「俺に回すなよ」
バサッ
「あはははは、相変わらず君らって面白いよね」
「!!」
天井から、悪魔のロドスがふわっと降りてきた。
「いつからそこにいたんだ?」
「ついさっきだよ。もうしばらく見てたかったんだけど、笑いをこらえきれなかった。憎き七つの大罪ロドスが現れたと思えば、恋を語りだすとは・・・」
ロドスが笑いながら窓枠に座る。
「失礼だな。人が真剣に話してるのに」
バラモスが不服そうな顔をする。
「愛ほど人を狂わせる、愚かなものは無いよ。ほんの少しの亀裂で、関係が壊れてしまう脆いものだ。全く人間は、どうして感情に振り回されて、愛だの恋だの騒ぎ立てるのか」
ロドスが目を細めながら言う。
「理解に苦しむ」
「ふんっ・・・僕の気持ちは僕だけのものだ。悪魔には関係ない」
「悪魔の意見を言ってやっただけだよ」
バラモスが顔をしかめる。
「ロドスも随分元気になったな」
「新人悪魔が1人入ったから、少し楽になったんだ。ラグナロクも終わったし、月の女神様の魔力も戻った。今は3人目の悪魔探しをしてるんだ」
「へえ・・・・よかったな」
本のページをめくって、流し聞いていた。
「ヴィル、月の女神様のところへ行くかい?」
ロドスが異世界の本に手を置いて、こちらを見る。
「行けるのか?」
「ラグナロクが終わって、月の女神様の力も満ちている。アイリスが目を覚まさないんだろ? 月の女神様に聞くといい」
「・・・・・・・」
「君らにはラグナロクの恩もあるからね。あの難しい状況で、よく収めたよ。月の女神も感心していた」
本に栞を挟んで、ソファーに置く。
ラグナロクを止めたのは、俺ではない・・・。
犠牲になった者たちの功績だ。
ゼロがぽんと肩に手を置いた。
「ちょうどよかった。俺もしばらく魔王城にいる。ヴィルの不在中は任せろ」
「ガブリエル王国に行くんじゃないのか?」
「当然、こっちが優先だ」
ゼロが晴れやかに笑う。
「行ってこい。アイリスはきっと目が覚めるよ」
「・・・・あぁ、そうだな」
「了解。魔法陣を展開するのは外だから。屋根の上で待ってる」
ロドスが窓を開けて、翼を伸ばした。
「準備できたら行くよ」
ガタン
窓をすり抜けるようにして、空高く飛んでいった。
「バラモス・・・一応聞いておきたいんだけど、セイレーンと初めて会ったのはいつだ?」
「昨日」
「昨日!? 早すぎない!?」
「恋愛はスピード勝負ってミーナエリスが言ってた」
バラモスが指をいじりながらぼそぼそ言っていた。
「ミーナエリスも面倒な奴に面倒なこと吹き込むな・・・。とりあえず、セイレーンに会ってみようか。話はそこからだ」
「うん! ありがと」
ゼロが頭を搔いていた。
バラモスを連れて廊下に出ていく。
「・・・・・・」
静かになった部屋で、目の前のモニターに手をかざして消した。
手にビリビリした感覚を残して、ロドスの後をついていった。
読んでくださりありがとうございます。
一気に夏が来てしまいましたね。皆様もどうかご自愛ください。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
完結に向けて、過去分を見直しながら進めています。
完結は見えていますので、また是非見に来てください!




