495 ラグナロク ~命を・・・⑥~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ズンッ
シエルの剣でリュウジの首を刺す。
ジジジジ
空を斬るようだった。
「あーあ、もう3回目か。やっぱり魔王は強いよね」
光りの粒がリュウジに集まり、元の身体に戻っていった。
「お前が弱すぎるんだよ。何度でも殺してやる」
「ねぇ、せっかくだから、人類の脅威とされた人工知能IRISについて話そうか?」
リュウジが剣で攻撃を押さえながら言う。
「誰のことだ? 俺が知ってるのはただのアイリスだ」
「人工知能IRISは人として上手くできていて、情報処理能力も蓄積能力も秀でていた。人でも魔族でも、そもそも生命じゃない。ただ人に成りすますのが上手い人工知能だった」
「黙れ」
剣に魔力を集中させて、勢いよく振り下ろす。
「それで俺を挑発したつもりか?」
「雑談だよ。雑談。ユイナは君のこと好きだったみたいだから、冥途の土産を多く持たせてやろうと思ってね。異世界では、人工知能IRISはキャパオーバーで・・・」
「フン、その穢い口を、止めるのが俺じゃないのが残念だ」
「ん?」
カラン カラン
ゼラフが鐘の音を鳴らした。
地面を蹴って、すぐにリュウジから離れる。
全員が一瞬で敵から距離を置いた。
「なんだ?」
「リュウジ!?」
ゼラフが地面に両手を向ける。
― ドラキュリア ―
ドドドドドッドドドドドド
「あ・・・・」
エリアス、リュウジ、プレイヤー3人が地面から出てきた5メートルはある太い槍で串刺しになった。
身体は消えず、各々に動揺は無かった。
「ゼラフ・・・・」
ゼラフの目は緋色になっていた。
トムディロスが力尽きるように、魔神ディオクレスを解いた。
「みんな一気に刺されるとはね」
「でも、すぐに戻せるよ。ちょっと待ってて。少し嫌なえぐられ方してるんだ。魔力を無効化した後、アバターの初期化をすれば何とか・・・」
エリアスがモニターを出して冷静に言う。
「この状態でゲームオーバーしないなんてすごいな」
「早く早く」
「急かしちゃ駄目よ。降りたらこんな無様な姿にさせたあいつらに復讐するんだから・・・」
上空を見つめる。
指を動かして、魔法陣を展開した。
オーディンがこちらに気づいて、周囲に合図を出していた。
エインヘリャル(戦死した勇者たち)がゼラフを除いて、魔法陣の中に入っていく。
― リ・エアスコード・オン ―
レナが中央に立って、天を貫く巨大な柱を立てた。
リュウジたちは気づいていないようだ。
「成功したみたいだね。勇者にしては残酷だな。闇魔法?」
「だろうな。ゼラフは元々闇魔法に長けていたらしい。勇者が闇魔法を使うと、街の者が嫌悪するから、レナが魔法で補っていたって話してたな」
「へぇ・・・」
ゼロがふわっとこちらに飛んでくる。
「あの・・・エルフ族のレナはこれから何をしようとしてるの・・・?」
「・・・・・・」
リョクが腕の傷を治癒しながら言う。
エヴァンが沈黙していた。
「はぁ・・・疲れた・・・で? 大丈夫そうなの? 順調?」
「全く、男を背負う趣味は無いんだが。しかも、重いし」
「軽いって。今、魔神召喚してカロリー消費したんだから」
「ったく・・・なんで僕が・・・」
ドレークがトムディロスを背負って歩いてくる。
メイリアが地面から突き出た槍を見ながら、2人についてきた。
「レナ・・・」
小さく呟く。
レナがこちらを見て、ほほ笑みながら手招きをした。
慌てて、レナの傍に飛んでいく。
「レナ!」
「ヴィル、そんな顔しないでください。笑ってしまいますよ」
レナが柱の内側から手を伸ばす。
高い魔力の壁が、じりじりと音を立てていた。
「他に方法は無いのか? アイリスが目覚めれば・・・」
「そうだよ。俺だって001に聞けば、何かヒントが貰えるかもしれない」
ゼロが続く。
「全員、祭壇の中に入っていてください。ゼラフが守ります」
『レナ、君にはずっと生きていてほしかったんだ。新たな仲間と共に、楽しい冒険をしながら寿命が来るまで生きていてほしかった』
「ゼラフ・・・」
『できれば、子孫を残して愛する者と・・・』
「レナはずっとゼラフの決断がわからなかったのです。他の方法があったかもしれないのに、たった一人でラグナロクを止めて、封じたことが・・・。でも、今ならゼラフの決断がわかりますよ」
レナがゼラフの言葉を遮った。
「ずっと死にたかったレナですが、仲間を前にするとやっぱり少しだけ寂しいですね」
「・・・・」
「ヴィル・・・ヴィル・・・・哀しまないで」
俯いていると、レナが頬に手を当ててきた。
「レナ、まだ間に合う。今からでもこの作成を中断して・・・」
「レナはずっと死ぬ場所を探してたのです。今、やっと長く続いたこの命を使い切って、みんなの役に立てるのです」
レナが優しい声で言う。
「この魔法は、ゼラフがラグナロクを収束させたときに使った魔法です。今回は、もっと強大な魔力、エルフ族であるレナの命を捧げることが必須。レナは嬉しいのですよ。この瞬間に、レナの生きてきた意味があったのです」
「でも・・・・・」
「レナは覚えてます。ヴィルが赤ちゃんだった頃、北の果ての村に来てくれたこと。次会ったときは、大きくなっていて気づきませんでしたけどね」
「待てって。勝手なことするなよ」
エヴァンが目を赤くしながら口を挟む。
「俺だって異世界の知識はあるんだ。何か別の方法を見つけられたかもしれないだろ。俺のいない間に勝手にこんな・・・」
「エヴァンは優しいので難しいのかもしれませんが」
レナがちらっとリョクのほうを見る。
「大切な者だけを守り抜いてください。今度こそ」
「レナだって大切な仲間だ。止めるに決まってるだろ!」
「・・・・・」
レナが一瞬目を丸くした。
「・・・・ありがとう。エヴァン」
「レナ・・・」
「エヴァンをよろしくね」
リョクがエメラルドのような瞳を潤ませる。
『レナ、時間だ』
ゼラフが低い声を出す。
軽く笑いながら、こちらに背を向けた。
変革の杖を体の一部のように、振りながら、最期のワルツを踊る。
軽やかに飛ぶたびに、”死の楽園”のいたるところに張られた魔法陣が輝いていった。
サアアァァ
「エリアス!! 様子がおかしいぞ!」
リュウジが叫んだ。
柱の光りが太く、広がっていく。
「・・・・・・・・」
「危ない!」
メイリアが強引に俺たちを祭壇の中に引っ張った。
ドレークが倒れこむようにして、トムディロスを祭壇の魔法陣に入れる。
ゼラフが2つの箱をゆっくり降ろした。
― XXXXルエストイヴィXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX-
レナの声が聞こえた。
「レナ!!!!!」
思わず声を上げる。
ザアアアアァァァァァァァアア
キィイイイイイ
リュウジの悲鳴が聞こえる。
広がっていた光の柱は、どんどんと広がりながら竜巻のようになり、”死の楽園”を起点として、リュウジもエリアスも、プレイヤーも容赦なく飲み込んでいった。
周辺が目まぐるしく変化していく。
誰かの声がわからない、悲鳴のような、何かが擦れるような音が聞こえた。
レナは雪のように広がっていく柱の中に、溶け込むように消えていった。
新雪のようなレナの魔力は一切感じなくなった。
「レナ」
エヴァンが動き出そうとすると、ゼラフが止めた。
『今、『クォーツ・マギア』の世界を、この世界と引き剥がしている。この結界の外に行けば危ない』
「だって、レナがこんなこと考えていたなんて」
エヴァンが目を擦った。
「俺たちと過ごす日々は、投げ出したいほどつまらないものだったのか? そんなにエルフ族が恋しかったのか? 俺たちは・・・俺は・・・・」
「エヴァン・・・」
『違うよ。レナは君らを誰も犠牲にしたくなかったんだ。それほど大切な人だった。命を懸けても守りたかったんだ』
ゼラフが天を仰ぎながら言う。
『わかってやってくれ。俺もできれば止めたかった』
長い、沈黙が降り落ちる。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
あたり一面真っ白になった。
北の果てのようだ。
遠くでレナが俺の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
『ちっちゃいヴィル』と他のエルフ族たちと笑いながら幼子をあやすような声が・・・。
読んでくださりありがとうございます。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
長い物語ですが、ここまで読んでくださりありがとうございます。
また是非見に来てください。




