487 ラグナロク ~異世界の勇者①~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
「熱くもなく寒くも無い。これが電子世界・・・」
「歩きにくいか?」
「いえ、懐かしいというか、変な感じがします。あっ・・・ありがとうございます」
少しよろけるサリーの手を引いた。
「当然だよね。割と色々組み込まれてる俺だって歩きにくい」
ゼロが天井を見て、後ろに手を組んだ。
「ゼロって、アバターなの?」
「そう。エリアスが創ったアバターだけど、色々あって・・・・って、まぁ、こんな昔話はいいよ」
「?」
ゼロがリョクの顔を見て、話を切った。
リョクが首をかしげる。
「この道は敵が出ないのか?」
「絶対に出ないから安心して。僕が開発者に見つからないように切り開いた道だからね」
リョクの案内するアリエル城への通路は頭上と足元に四本の線が光るだけのシンプルな道だった。
時折、右側や左側に青い線が走って消えていく。
ダンジョンに似ている部分があった。
「君は水の国の精霊で、”死の楽園”のバグが気になるのはわかったけど、どうしてアリエル城までの道を作ったの?」
トムディロスが歩きながら、リョクのほうを見る。
「・・・・・・」
「もしかして、強制的にそうさせられたとか・・・」
「ううん! 違う違う! これは僕の意思なんだ」
リョクが髪を耳にかけて首を振った。
一歩前に出て、真っすぐ前を向く。
「”アリエル城”って響き、なんだか知ってる気がするんだ。僕ね、誰かと会う約束してた気がして・・・へへ、勘違いかもしれないけどね」
リョクがちらっとこちらを見て、視線を逸らした。
「リョク・・・・」
トン、とゼロに背中を叩かれる。
「余計なこと言うなよ」
「・・・わかってるって。つか、いちいち兄貴面するなよ。気持ち悪いな」
「だって、兄だからさ」
「ん? どうしたの?」
「何でもないわ。先を急ごう」
サリーがすっとリョクの横に並んだ。
「ねぇ、サリーって言うんだよね? サリーは魔王ヴィルの武器なの?」
「そう。昔・・・遠い昔にね、魔王ヴィル様が力を与えてくれたの」
「へぇ・・・武器かぁ。水の国にはない設定だね! 僕は武器だったら何が向いてるんだろう」
「リョクは魔導士? 剣士?」
「あはは、僕は魔導剣士だからどちらも使えるよ」
リョクが肩の力を抜いて、サリーと会話していた。
魔族として魔王城にいた頃の、リョクの姿を見ているようだった。
ゴオオォォォォォォオオオオオ
光が差し込む。
電子の道を抜けると、草原に立っていた。
リョクが素早くゲートを閉める。
「着いた・・・けど、気をつけて。ここは僕も来たことがないんだ」
汗をぬぐいながら周囲を警戒する。
「たぶん、プレイヤーの誰も来たことがないと思うよ」
「アリエル城は消されたか。代わりに怪しい魔法陣と祭壇があるけどね」
「異世界住人が来ていた魔法陣とも違う・・・つぎはぎみたいな場所だな」
砂漠の地、植物の地、水の地、雪の地の、中心に位置する場所にいた。
草原を下っていったところに、5本の柱が立ち、青く光る魔法陣があった。
柱を囲むように、何も映っていないモニターが5台浮いている。
「・・・・何なの? ここは・・・」
「怖い怖い、ねぇ、魔王ヴィル。ギルバートとグレイ出して。俺、全力で逃げるから」
「あいつらはこの世界に漂う空気に耐えられない。戻して正解だ」
電子世界と異世界の狭間。
漂う魔力がぐちゃぐちゃで、異世界に慣れてる者じゃなきゃ嗅ぎ取れない。
「すごいな・・・こんなふうになってたんだ・・・」
「リョク、ここまででいい。危ないだろ。戻れ」
「ううん。僕もここに居たい」
リョクが薄く水色に光る杖を出す。
「プレイヤーを守るくらいの力はあるんだ。君らには及ばないけど、ここに居させてほしい」
「・・・そうか。じゃあ、なるべくトムディロスの傍にいてくれ」
「俺!?」
「トム?」
トムディロスとリョクが同時に言う。
「そんな感じだけど、追い込まれれば実力がある。俺とゼロとサリーが敵を抑え込むから、お前らは自分の身を守れ」
「・・・わ、わかったよ」
トムが渋々杖を出していた。
まだ、どのパーティーも来ていないようだ。
ヒュウウウゥゥゥゥゥゥ
突然、空が灰色に染まった。
「灰色の軍隊だ」
ゼロが呟く。
骸骨にローブを羽織り、馬に乗る者たちが空に集まってきていた。
属性は感じにくい。
「誰かが集めてるのか? エリアスとリュウジはどこに・・・」
「!!」
キィンッ
「久しぶりだな、魔王。さすが、気づかれたか」
瞬時に、魔王の剣で剣を弾く。
シロザキが真っ白な甲冑に身を包み、剣を振り下ろしてきた。
すぐに離れて距離を取る。
マントには、どこかの国の紋章が刻まれていた。
「異世界から勇者に選ばれた者か?」
ゼロが剣を構える。
「そうだよ。俺は勇者シロザキ、異世界住人初の勇者だ。ちゃんと勇者になる試練もこなして、月の女神から正式に認められたんだ」
「じゃあ、どうしてお前がここに居て、俺に攻撃してくる?」
声を低くする。
「勇者の目的はラグナロクを止めることだ。ヴィルじゃない、エリアスとリュウジだ。対価に月の女神から力を受けただろ?」
「月の女神? 笑わせる」
ゼロが言うと、シロザキが指を回して錆びついた剣を出す。
「見ろよ。俺の受けた力はつまらないものだった。『英雄の剣』っていうらしいな? んなもの、異世界のあらゆるゲームの武器を使いこなす俺には不要だ」
カランカラン
シロザキがすぐに錆びついた剣を放り投げた。
「魔王ヴィルと戦うなら、やっぱり”オーバーザワールド”のドロップ率の低い『龍王の剣』だな。エリアスにいろんな武器をインストールしてもらったけど、この剣が一番馴染む」
「勇者の力を使いこなせるかどうかは、勇者次第だ。お前に力がなかっただけだろ?」
「なんでこの世界の住人は隙あらば説教したがるのか」
ため息をつく。
シロザキの後ろに灰色の軍隊が降りてきた。
「どうせ、このままこっちの世界にいても帰らなきゃいけない時が来る。命の数は、もう無いんだから・・・」
自分の手を見つめていた。
「俺はエリアスとリュウジ側についたよ。2人は信じられる。この世界を乗っ取って、俺たちの世界を創る。その世界に、兄さんを呼ぶんだ。兄さんこそ、勇者に相応しい。俺じゃないね」
「随分と壮大な夢物語だな」
「現実にするんだ」
「・・・・・・・」
ゼロが無言で剣を持ち直す。
「向こうの世界はクソだ。あのまま向こうにいなきゃいけないなんて、兄さんが可哀そうだ。だから・・・」
シュンッ
「きゃっ・・・・」
「俺は勝率の高いほうについたんだ。エリアスからは魔王ヴィルを殺すように言われた。まずは上位魔族だ」
シロザキが一瞬でサリーの後ろに回った。
首に剣を突きつける。
「っ・・・不覚・・・・・・」
「サリー!!」
リョクが叫んで前に出ようとすると、トムディロスが止めた。
「魔王ヴィル様・・・・・」
「上位魔族は大したことないな。『クォーツ・マギア』に馴染めていない魔力だね。人質にするのもいいけど・・・悩ましいな。あ、少しでも動いたら殺すよ」
シロザキが得体のしれない剣で、サリーが使おうとしている魔法を無効化していた。
同時に、サリーの魔力が徐々に吸われている。
「・・・・・・・」
「魔王ヴィル、君は情に厚い魔王だよね。お前がここで死ねば、サリーの命の保証はしてやる。いや、他の上位魔族の命もね」
前回会ったときとは大分雰囲気が違っていた。
命の数を気にしているのか。
シロザキからは焦りと覚悟を感じた。
「・・・・・・」
サリーがじっとこちらを見て頷いた。
シロザキに悟られないように、小声で詠唱を始める。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
体調が大幅にダウンが続いてます。皆様もどうかお体に気をつけてください。
また是非見に来てください。
休みつつアップしていきます!




