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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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52 リュウグウノハナ

 雲を抜けて、アリエル王国城下町の近くのダンジョンを目指していた。


「ギルバート、グレイ、少しずつ降下しろ」


 クォーン


 双竜が翼を平らにして、ゆっくりと降りていく。

 ププウルの話していたダンジョンはアリエル王国と魔王城を一直線に結んだところにあった。


「本当によかったのか? 付いてきて」

「うん、ダンジョンのクエストは私じゃなきゃダメなんだから」

 マントに掴まりながら話した。


「今回も、どんなダンジョンなんだろうって楽しみ」

「へぇ、呑気でいいな」

「ふふ、呑気は私の初期設定」

「初期設定って・・・またわからないことを・・・」


「魔王ヴィル様!」

 アイリスがぐっと、身を乗り出してきた。


「あ、城下町が・・・・」

「この辺を通るのも、アイリスをさらって以来だな」

「うん・・・・」

 山を抜けて降りていくと、家や田畑が見えてきた。


「懐かしい記憶。私の中にある記憶・・・もう、ずっと前のことみたい」

「そうか」

 遠くのほうにうっすらとギルドの建物が見えた。

 ここは、俺にとっても懐かしい景色だ。


 思い出したくもないけどな。




 ププウルの言っていた花のたくさん咲いてる場所が見えてきた。

 アリエル王国の近くのダンジョン・・・大勢の人間がいてもおかしくはない。


「ギルバート、グレイ、何かあったらアイリスを連れて魔王城に戻れ」

「魔王ヴィル様」

「ここはアイリスにとってそうゆう場所だ」


 クォーン オォーン


 ギルバートとグレイの声が響く。


「ここのお花畑は来た記憶がある。幼少型・・・じゃなくて、小さい頃・・・森を一つ抜けなきゃいけないから大変だったけど、連れて行ってもらった。一面真っ白で綺麗でしょ? リュウグウノハナって、知ってる?」

「あぁ」

 アイリスの言葉に適当に相槌を打つ。

 周囲を警戒していた。


「あれが、言っていた木か」

「そうそう、あの木・・・近づかないように言われてたけど。ダンジョンの入り口だったのね」

 花に囲まれた一部分だけが、丸く草原のようになっていた。

 堂々と根の張る大きな木がそびえたっている。


 特に人間の気配は・・・・・。




「!?」

 

「魔王ヴィル様どうしたの?」

「・・・・ここで、降りる。ギルバート、グレイ、頼む」

 白い花を避けながら、ギルバートとグレイが急降下した。 


「魔王ヴィル様!」

地面に足が付く前に、飛び降りた。

 マントを後ろにやると、花びらが散っていった。


「お前は、ギルバートとグレイと待ってろ。俺がいいって言うまで近づくな」

「え・・・・・?」

 空中に線を引いた。


 ― 魔王のデスソード― 


 剣の柄を持って、刃に紫色の炎を纏わせながら歩いていく。

 大きな木の根、ダンジョンの近くまで来たところで、剣を構えた。




 バサッ


 ダァン


 2本の剣を持った男が、高いところから降りてきた。

 木の前でゆっくりと体を起こす。


「まさか、お前がいるとはな」

「やっと来たか・・・・・」

 男が顔を上げた。


 肩幅が広く、色黒で、王国から承った称号を服の襟に付けている。

 別名、勇者の証と呼ばれるものだ。


 俺の父親、勇者オーディン。


「魔王になったのは本当だったんだな。ヴィル」

 大きな口を開けて笑う。


「お前ひとりか?」

「まぁな、おっと・・・・」


 バチンッ


 剣を突き刺そうとすると、弾かれた。


「親父を、いきなり殺そうとするとは。久しぶりの再会だろうが」

「・・・・オーディン、なぜここにいる?」

 刃の魔力を調整する。


「勇者と言われないのは何年ぶりだろうか?」

「・・・・余裕だな・・・・」

「・・・お前が魔王になったって聞いてな。俺が、国から直々に命を受けたんだよ。この目で見るまで半信半疑だったが・・・待った甲斐があった」


「俺がここに来るって聞いてたような口ぶりじゃないか」

「そりゃぁな」

 ひげ面をくしゃっとさせた。


「お前は、待っていれば必ずこのダンジョンに来ると思っていた。マリアが・・・」

「マリアの話をするな!」

「おっと・・・」

 斬りかかろうとすると、オーディンがすっと避けた。


「安心しろ、俺一人だ。別に息子の討伐くらい、一人で十分だからな」

「フン・・・」

 剣の魔力を高めていく。


「・・・人間は、やはり合わなかったか」

「俺は元々魔族として生まれるべきだった」


「いや、お前は人間だよ。間違いなく俺とベラの・・・」

「お前を親父だと思っていない! オーディン!」

「ハハハ、勇者の息子として育ててきたつもりだったんだけどな」


 力なく笑う。


「どこかだよ・・・」

 どのギルドに在籍しても成績を残す男が、俺の親父だった。


 オーディンの名は、アークエル地方なら知らない人はいないだろう。

 王国騎士への推薦を断り、ギルドに在籍して、アリエル王国のために最前線で戦い続けてきた勇者だ。


 俺は二度捨てられた。

 一度目は生まれたとき、二度目は孤児院に入れられたときだ。


 オーディンは幼い俺を孤児院に入れて、たびたびクエストに行っていた。

 年に数回、顔を合わせた程度だ。

 ギルドですれ違っても、無視されていた。


 普通に話していたのは、マリアのいたときだけだ。


 オーディンは息子がいるということを隠そうとしていたようだけどな。

 どこから情報が漏れたのかはわからない。

 俺がオーディンの息子だという噂はあっという間に広まっていき、親父はできの悪い息子の存在を認めざるを得なかった。


 今となっては、記憶があいまいな話だ。



 オーディンが砂埃を上げて、地面を蹴り、こちらに飛び込んでくる。


 バチン 


 剣で受け止めて、軽く押すと、オーディンがぐぐっと下がっていった。

 魔王の力がある今、SS級だろうが、勇者だろうが、弱く感じるな。


「やるじゃねぇか・・・」

「お前の知っているヴィルは死んだ。俺は別人だ」

「クク・・・出来が悪くても、息子の顔は間違えねぇよ。本気を出してやろう」

 オーディンが剣を持ち替える。


 ― グランドクロス ―


 剣を十字にして、光属性の魔法を唱えていた。

 雲が開いていき、太陽光がオーディンの剣の間に差し込む。


 カッ


 まばゆい光が走った。

 

「魔王になったお前であれば、この光魔法は・・・」

 言いかけたところで、高く飛び上がる。

 光を遮り、二本の剣を弾いた。


「ぐっ・・・・・・・」

「俺を舐めるなよ」


 キィン


 太い首に剣を突き付ける。

 力の差は歴然だった。オーディンがここまで弱く感じるとは・・・。


「お前がここにいたのは、エヴァンの計画か?」

「・・・王国騎士団長エヴァン・・・知り合いか?」

「まぁな」

 こめかみから汗が伝っていた。


「まさか、こんなに強くなってるとはな・・・これじゃ、SS級が太刀打ちできないのも納得だ」

「そうだ。SS級だろうが何だろうが、俺には関係ない。俺は、王だ」


「ヴィル・・・俺だって戦いに身を置いた人間だ。お前、俺を殺すことに躊躇しているだろう?」

「・・・・・・・」

「それじゃあ、魔王は務まらないぞ」

「知ったふりをするな」

 肩に刃先を押し付ける。血が滲んでいった。


「お前はここで死ぬ。息子ではなく、魔族の王に殺されるんだ」


「魔王ヴィル様!!!」

 アイリスが駆け寄ってきた。


「アイリス様・・・・・」

 オーディンの視線がアイリスのほうを向く。


 ― 毒薔薇のフリーズ― 


 ドンッ


 アイリスに向かって、魔法を放つ。


「きゃっ・・・・魔王ヴィル・・・様・・・・どうして・・・・」

 闇から這い出す蔦で、体を縛りあげた。


「ぐ・・・・・・」


「邪魔をすれば殺す。悪いが加減はできない」

「・・・・・・・」

 オーディンに剣を突き付けたまま、アイリスの動きを止めていた。

 力は抜けなかった。


「アリエル王国の王女様か。よく連れてこれたな」

「俺は、魔族の王だからな。不可能はない」

 ギルバートとグレイが鳴いている声が聞こえる。


「お前に殺されるのは悪くない。死ぬならお前か・・・だろうと思っていた」


「!?」


 ガッ


 オーディンが自分から魔王のデスソードを押し付けた。

 血が垂れていく。


「フン、あの世で死んだ息子とやらに、会えるといいな」

「ハハ・・・そうだな・・・コホッ・・」

 乾いた咳をする。


「・・・魔王ヴィルか。あぁ・・・悪くないな」

 うつろな目で言う。


「わざわざ殺されに来ただけか。何をしたかったんだ? お前・・・」

「・・・息子の勇姿を拝みに来ただけだ。勇者としての俺の役目は終わったからな。もう、あの女に利用されたくはない」

「どうゆう意味だ・・・・?」


「死に場所は、ここがよかった」

 魔王のデスソードの刃からは毒が流れていた。

 オーディンの唇が青く変色している。


 あくまでも解毒はしないつもりか。


 最初から死ぬつもりだったな?


「いいことを・・・・教えてやる。俺が残せる精一杯の遺産だと思え」

「世迷言などいらない」

「そう言うな。わざわざ・・・・持ってきてやったんだ。信じるか信じないかは・・・お前次第だ」

 ちらっとアイリスのほうを見てから声を小さくする。


「アリエル王国王女、アイリス様は・・・」


「!?」


「・・・・・・・・・」


 にっと、口角を上げていた。

 アイリスのことを話そうとした人間が、呪い殺されたのは、このことか。


 信じがたいが・・・。


「聞こえたか・・・? ヴィ・・・」

「もういい。眠れ」

「うがっ・・・・・」

 胸に剣を突き刺す。一瞬で魂を抜き取った。


 血が噴き出て、白い花を赤く染めていく。

 目を見開いたまま、天を向いていた。

 

「魔王・・・ヴィル様・・・・・」

 血の付いた剣をアイリスに向ける。


「いいか? 戦場での命令は絶対だ。何かしようとするなら、俺は容赦なくお前を殺す。情は無い」

「ぐっ・・・・・」

 首に巻きついた蔦を触りながら、小さく頷いていた。


 本気だった。

 自分で抑えが効かなくなるほど、冷酷になっていた。

 あと数秒狂えば、アイリスも殺していただろう。


 この場所は、俺にとってそうゆう場所だ。


 生と死を分かつ地。


 オーディンもわかっていて、待ち伏せしていたのだろう。

 仲間を連れず、たった一人で、な。



 目を閉じれば頭をよぎる。


『マリア、体調はどうだ?』

『ヴィル、またリュウグウノハナを摘んできてくれたの?』

『たまたま通ったから積んできただけだ』


『遠かったでしょ? ありがとう。この花の名前の由来、知ってる? 深い深い海の中でも咲くことのできた花だから・・・・』

『また、本の話かよ。興味ない』


『ふふ、私はもう行けないけれど、この花の匂いを嗅ぐと、元気だったころを思い出すの。ごほっ・・・・ありがとう、ヴィル』

『早く良くなれ。元気になったら、連れて行ってやる』


『・・・うん』

 病気がちのマリアが好きだった、リュウグウノハナの咲く美しい場所。



「はぁ・・・・はぁ・・・・・」

 

 毒薔薇のフリーズを解くと、アイリスが地面に座り込んだ。

 今際の際にオーディンが放った言葉・・・。


 今は気にすることではないが、な。

 どこまでも、ずるい奴だ。


「魔王ヴィル様、本当に私を殺そうとしたの?」

 震えるような声で聞いてくる。


「そうだ」

「・・・・・・」

「自分でもわかっただろう? 本気だ」

 手を広げて、魔力の流れを確認する。


「逃げるのか? 王国に戻るか?」

「ううん・・・・戻らない」

 アイリスがふらつきながら近づいてくる。


「待って。魔王ヴィル様と一緒に行く」 

「・・・・・・・」

「私にはここしかないから」

 アイリスが白い花の横にしゃがんだ。

 オーディンの死体に向かって、十字を切って目を閉じている。


 アリエル王国の勇者か。

 お前の最期は本当にこんなにあっけなくていいのか?


 オーディン・・・。

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