483 ラグナロク ~贈り物~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
魔王の剣で襲い掛かってくる敵を蹴散らしながら、雪のエリアを突き進んでいた。
今のところパーティーに大きな負傷はない。
魔獣が数十体程度、メタルドラゴンほど強く者はいなかった。
数分おきに吹雪になるから、敵の位置が見にくいのが難点だ。
崖を下りたところで休息を取っていた。
薪を運んできて、地面に置く。
「003、泣くな。きっと、001と002は新しい場所で生きるために生まれ変わろうとしたんだ」
『うぅっ・・・独りぼっちに・・・』
「俺がいるだろ? こうして話せているんだから一人じゃないよ」
『でも・・・リーム大陸の・・・エリアスのダンジョンには誰もいなくなっちゃった。逃げた後に思ったの、私も一緒に消去されたほうがよかったんじゃないかって』
「003・・・」
ゼロが怒りを抑えるように言う。
焚火に折った木々を入れていた。
周囲は溶けた氷が地面にしみ込んで、柔らかくなっている。
003と同じ時期に創られた、アンドロイド001と002はエリアスが消去したらしい。
003だけ異常に勘づいて、逃げきったのだという。
『エリアスを信じてきたのに、必要だから創られたって思ってきて・・・必要なかったのに消えたくない。こうゆうふうに考えること自体バグってるのかな』
「003は必要だよ。バグじゃない!」
ゼロが真っすぐ前を見ながら言う。
「誰もが自分の存在意義を考える。別に人工知能だろうが人間だろうが、魔族だろうが関係ない。俺だって、そうだからな」
『・・・うん・・・』
「ねぇ、お腹すいたんだけど何か食べ物ない?」
トムディロスがゼロと俺の間に座り込んだ。
「トム、空気読めって・・・」
「だって長いし、腹が減るし。今日は一体倒せたし」
ぐぉおおおお、とトムディロスの腹の音が鳴っていた。
003が目を丸くして噴き出す。
『あはは、すごい音。そんな音出るんだ』
003に笑顔が戻った。
「そこまで笑わなくても・・・」
『少し元気になったかも。私にもできることがあるね。ゼロ、食べ物なら『クォーツ・マギア』に転送できそうだから転送するよ』
「おーさんきゅ」
003が画面内でふわふわ飛びながら、食べ物を集めていた。
トムディロスが食い入るように見つめている。
サリーは一人、雪の積もった木の上にいた。
ふわっと飛び上がって、サリーの傍に座る。
ドサッ
雪が一気に落ちていった。
「魔王ヴィル様!」
「サリー、何してるんだ?」
「灰色の軍隊が出てこないか見張ってます。魔王ヴィル様は休んでいてください」
「サリーも休むならな」
吐く息が白い。
空は曇っていたが、雪は止んでいた。
ゼロはエリアスの死角となった場所ではないかと話していた。
念のために結界は2重で張っている。
「灰色の軍隊はおそらく出てこない。アリエル城のあった中央辺りにいるんだろうな。この地はもう別世界で、アリエル城がどこにあるかもわからないが・・・」
「・・・・魔王ヴィル様と行動するのが私でよかったのでしょうか」
サリーが俯く。
「魔王ヴィル様の最強の武器はシエルです。カマエルもザガンは遠距離型ですが、私はシエルの予備の武器です。魔王ヴィル様の力を最大限に発揮することはできません」
「んなことで落ち込んでたのか。らしくないな」
「だって・・・・」
「俺はお前らをモノだと思ったことはない。昔も今も、な」
属性無効化の魔法の影響で、俺らの周りの雪だけ急速に溶けていた。
「サリーは覚えてるか? 俺と契約したときのことを」
「もちろん。今まで忘れていたことが不思議なくらいです」
サリーが赤い髪を後ろにやる。
「サリーは他国の軍から逃げ出して、グランフィリア帝国に辿り着いた」
「はい。私はプレイヤーを鍛える主要キャラでもありましたので、逃げてきたところを見つかったら、欠陥品として修正されるところでした」
「そうだったな。その後は何度も戦闘で俺を救ってくれた。今でも感謝している」
「いえ、何度も救っていただいたのは私のほうです。ベリアル様は私を武器にすることで、魂を留めてくださいました。こうして転生しても、救ってくださっている。私にとっては英雄です」
「英雄・・・か」
木の枝を揺らして、水滴を落とす。
「結局あの世界でお前らを残してやることはできなかった」
「そんな・・・あれはプレイヤーが来なくなった時点で滅びる世界だったので」
「だから、この世界では絶対に死なせない」
「・・・・・」
「絶対に、な」
自分に言い聞かせるに言った。
今は『クォーツ・マギア』にいるが、俺たちは誰かに創られた存在じゃない。
上位魔族は必ず守り切る。忠誠を尽くしてくれた、彼らのためにも・・・。
「魔王ヴィル様、なんだか変わられましたね」
「そうか? まぁ、この世界で色々あったからな・・・」
「私はベリアル様も、今の魔王ヴィル様も好きです」
サリーが小さく呟いた。
「ん?」
「あ、いえ。そうですね。魔王ヴィル様の言う通り、私も休息を取ります! では・・・・」
サリーが滑り降りるように地上へ足をつけた。
焚火の近くへ駆け寄っていくのが見えた。
他のメンバーもうまくやってくれていればいいが・・・。
属性に弱点のある、ププウルを連れてこなくてよかったな。
ヒュゥゥウゥゥゥオオオオオ
片目を閉じる。
魔王の目で見ると、遠くのほうで何かうごめく気配を感じた。
思ったより灰色の軍隊は近いかもな。
「おーい、ヴィル。早く来ないと、トムが食べきっちゃうよ」
ゼロが地上から叫んだ。
「あとで行くから。残しておいて」
「保証できない!」
「はぁ・・・・」
手で合図すると、ゼロが戻っていった。
ふと、テラとの会話を思い出していた。
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『ドラゴン化する能力・・・・。あぁ・・・大切な者に触れると発動する能力ね』
『忘れてたのか』
『異世界との接続が成功した興奮で、吹っ飛んでたよ。そうそう、あったね』
テラがアイリスの前で、ソファーにもたれながら、コードを読んでいた。
ハーブティーに口をつける。
『あれは異世界の何なんだ?』
『元はドラゴンが、人の形を持つために創ったゲームの魔法だ。それを反対に作用するよう、改良したんだ。今は君の魔力の根源になってるんだろ? さすが、イベリラの子供だ』
『胸糞悪い名前出すなよ』
『仕方ない。アレを与えたのは君の母親だ』
『フン・・・』
足を組みなおすと、アイリスが少し笑った気がした。
『アイリス!』
『起きてない。眠ったままだ』
『・・・わかってるって・・・・』
窓の外を見つめる。
魔王城を囲う木々が大きく揺れていた。
『元は異世界の魔法だったが、イベリラがこっちに持ってきて調整したんだ。ヴィルに、愛する者ができないようにってね』
『だろうな。クソが・・・』
『・・・・まぁ、そうとも限らないよ』
テラがモニターを消して、顔を上げた。
『イベリラは愛に苦しんだんだ。ゼロを蘇らせるために最強の魔法使いとなり、多くの罪を負い、身を滅ぼしてしまった。全ては愛から始まった呪縛だ』
『どうしてそこに俺が関係あるんだよ』
『ヴィルは・・・いや、自分で考えてくれ。とりあえずは、『クォーツ・マギア』でもその魔力は活躍する。母親からの贈り物だと思って、上手く使うといい』
『恩着せがましい言い方するな・・・奴は母親らしいことなんて、一度もしたことがない』
『ククク、ヴィルは子供だね』
『・・・・・・・・』
テラは時折達観した老人ような物言いをする。
イベリラと関わっている分、妙に腹が立つんだよな。
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「あ、これは魔王ヴィル様の!」
「えー、そっちの皿のほうが多い・・・気がする」
「まぁまぁ、お腹すいたらまた003に転送してもらうから。003食料補給、よろしく」
『はっ、探してこなきゃ。もうすぐ食糧倉庫が空っぽ』
「えーっ」
4人の声が木の上まで響いている。
危機感があるようで無い奴らだ。
「おーい、ヴィル! なくなるって。トムが食べ過ぎるんだよ」
「失礼な。これでも抑えてるほうだ」
「今行く」
木から降りると、雪解けの水がザァッと落ちていった。
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