482 ラグナロク ~メンバー分け~
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ドォンッ
グアアアァァァァ
ミーナエリスが最後のメタルドラゴンに止めを刺す。
メタルドラゴンがその場に倒れた。
「これで全て終わったな」
息をついて、ザガンの弓矢を解いた。
「ごほっ、はぁ・・・・はぁ・・・」
ザガンがその場に膝をつく。
「大丈夫か?」
「はい、申し訳ございません。力の加減がよくわからず、魔力を使い切ってしまい」
「当然だ。手荒く扱って悪かった。お前のおかげだ。助かったよ。レナ」
「はいはい。魔力を補充する薬になります。飲み干してくださいね。1時間は魔法禁止ですから気をつけてください」
「あ・・・あぁ・・・」
レナがポケットから小瓶を取り出して、ザガンに渡した。
「レナっていつから回復役になったの?」
エヴァンが体を伸ばしながら近づいていく。
「パーティーの魔法使いは、何でもできる存在なのですよ」
「へぇ、魔法使いねぇ」
「レナはマーリンも尊敬する緋色の魔女なのです。あ、エヴァンも魔力補充しますか?」
「いいって。これくらい、俺にとっては準備運動。体が温まってよかったよ」
エヴァンがひらひらと手を振る。
「くっ・・・ベリアルより3体も少なかった」
「数えてたの? あの状況で」
「当然よ。ゼアルに華を持たせたくないけど、ベリアルに負けるのも屈辱だから」
「・・・嫉妬のミーナエリス・・・嫉妬深くて面倒だよ」
オベロンがミーナエリスの言葉に呆れていた。
「化け物・・・・たった数人で、この数を倒すなんて・・・」
トムディロスが目を丸くしていた。
メイリアが悔しそうにしている。
「どうした? まだ、息があるのか?」
ふわっと飛んで、ゼロの隣に立った。
「違う、会話してたんだよ。こいつと」
「?」
メタルドラゴンの目が赤から暗くなっていく。
同時に身体が光の粒になって消えていった。
「自分らは元々先に入っていたメタルドラゴンの複製だから忠実に動いただけだってさ。特に消えることに対して恐怖も無いらしい」
ゼロが近くにあった雪を巻いた。
「俺とこいつらって何が違うんだろうな」
「らしくないな。せめて落ち込むならサタニアがいないところでやってくれ」
周囲に聞こえないよう、小声で言う。
「あいつは勘がいい。知ってるだろ?」
サタニアはちらちらゼロを気にしていた。
「りょーかい。そういえば、俺が落としたいろんな色の魔法石の入った小瓶って、ヴィルが持ってるよね?」
「あー、これのことか?」
ポケットからガラスの小瓶を取り出す。
光りにあたると、キラキラしていた。
「それ、”オーバーザワールド”のブレイブアカデミアってところで倒したモンスター・・・形を成せず、欠陥品と呼ばれた奴らなんだ」
「ん?」
「ヴィルなら錬金して武器や防具に変えられるだろ? よろしく」
「よろしくって・・・また面倒なこと押し付けるなよ。返す」
「そいつらも、ヴィルの役に立ちたいって。可愛がってやってね」
「っ・・・だから・・・」
ゼロが逃げるようにサタニアたちのほうへ走っていった。
”ユグドラシル”で、小さなアイリスが話していたことを思い出していた。
― ベリアル。約束だよ。もし私のほかに欠陥品と呼ばれる者に会ったら、助けてあげてね ―
ゲームの世界には、必ずバグが存在するのか。
小瓶をポケットにしまって、サタニアたちのいるほうへ飛んでいた。
「とりあえず、落ち着いたなね」
「早くこの地から出れないのか? このままじゃ、さぶくて・・・何もできない」
「ベリアルに何か錬金してもらったら?」
「ベリアルにそんなこと頼めるか。ぶえっくしょん、あぁ、ドレークありがとう」
ジオニアスが鼻水を垂らしながらぶるぶる震えていた。
「いいよ。僕、動くのに邪魔だから」
ドレークがジオニアスに毛皮のマントを渡していた。
バチンッ
「おっ」
ゼロの前に急にモニターが現れて、画面に長い髪が見えた。
「映ってるかな? 映ってるっと・・・ゼロだ」
離れると、003が映っていた。
「003」
「ゼロ。久しぶりだね」
「久しぶりでもないだろ。驚かせるなって、今『クォーツ・マギア』で戦闘してたんだ。特に何もないんだろ?」
ゼロが頭を搔いていた。
ナナココが少し離れたところから物珍しそうに、モニターを覗き込んでいる。
「報告。あのね、001と002が・・・・」
「・・・・・」
ゼロが言葉を失った。
003が顔を両手で覆って、泣いていた。
サアァァァァァ
「!?」
突然、魔法陣のようなものが雪の上に浮きあがった。
魔法陣から5体の全く同じ顔をした中性的な顔立ちの少女が現れる。
「ごめん。あとでまた連絡するよ。今は危ないから切る」
「あ・・・・」
ゼロがモニターを切った。
「お前らは・・・・」
『我々はエリアを守るアンドロイド』
『このエリアの行動人数は最大5人と決められています』
『18人は定員オーバー』
『ルール違反です。早急に4つのグループに分かれていただきます』
ザッ
「!?」
地面に線が引かれ、近くにいた者たちで分かれた。
俺とゼロ、トムディロス、サリーの4人。
サタニア、ジオニアス、アベリナ、ミーナエリス、デンデの5人。
エヴァン、レナ、メイリア、ドレーク、ナナココの5人。
シエル、カマエル、ザガン、オベロンの4人。
『1グループはここに残り、3グループはそれぞれのエリアにワープしていただきます』
「は!?」
「ちょっ・・・・」
『ルールなので』
アベリナが杖を持ち直すと、サタニアが止めた。
「『クォーツ・マギア』がどんなゲームかわからない以上、抵抗しないほうがいいわ」
「・・・・・御意」
アベリナが杖を降ろす。
5人が両手を上げて、一斉に詠唱し始めた。
不気味なくらい、声のトーンも全てが同じだ。
『では、各々のエリアに飛ばします』
『合流できるといいですね』
『1パーセント程度の確率ですが』
シュンッ
「魔王ヴィル様!」
「うわぁぁ、メイリアたん!!!」
トムディロスが手を伸ばす。
魔法陣が輝くと同時に、俺とゼロ、トムディロス、サリー以外のメンバーが消えていった。
『では、これで失礼しま・・・』
「待て」
一体のアンドロイドに近づいていく。
『魔王ヴィル、なんでしょうか? 他のメンバーがどこに飛ばされたか等についてのご質問には答えられません』
「お前らはエリアスに創られたんだろ?」
『はい』
「エリアスはお前らに思考する能力は与えなかったのか?」
『質問の意図がわかりません』
2体が同時に言う。
「は?」
『他にも来ているようですね。ここでの役目は終わりました。失礼します』
シュンッ
5体のアンドロイドが一斉に姿を消した。
「俺とヴィルが一緒って、戦力的に大丈夫なの? サタニアのところはともかく、シエルたちのところは・・・」
「上位魔族は強い。俺の武器でなくてもな。異世界慣れしていない分、ステータス異常は心配だが、オベロンがいるんだ。臨機応変にやってくれるだろ」
うっすら晴れた空に、細やかな雪の結晶が落ちてくる。
「綺麗な雪だ・・・ラグナロクが始まってるのにな」
手のひらに触れるとすぐに解けていった。
北の果てのエルフ族か・・・。
「ヴィル、なんか北の果てのこととか思い出してないよな?」
ゼロが眉間にしわを寄せる。
「覚えてるわけないだろ。早くいくぞ」
「兄に対して冷たいな。たった一人のお兄ちゃんだろ? そうだ、お兄ちゃんって聞いてなかったなぁ」
「うるせーな」
「え!? ゼロは魔王ヴィル様のお兄様なのですか!?」
サリーが身だしなみを整えながら聞いていた。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「わ、わ、私は初耳です! でも、そういわれてみれば似ているような・・・」
「どこも似てないって。つか、トム、離れろ」
「だって・・・」
トムディロスが足にしがみついてきていた。
足を振り払おうとするがついてくる。
「足が震えて立てないんだよ。メイリアたんと一緒のチームじゃないなんて、メイリアたんにかっこいいところも見せられないじゃないか」
「・・・・・・・」
エヴァンがいたらつっこむとことなんだろうが・・・。
「これから俺、どうなるんだろう。メイリアたん・・・・」
「はぁ・・・・」
頭を抱える。
ゼロが他人事みたいに後ろを向いて肩を震わせている。
「トム」
「な、なんだよ。俺は怖いんだ。怖いものは怖い」
サリーが赤い髪を後ろにやって、トムディロスに近づいていく。
しゃがんで、耳元でこそっと何かを放した。
トムディロスがすっと立ち上がる。
「さぁ、行こう。早く行って、メイリアたんを待つんだ。俺はメイリアたんに相応しい男として、メイリアたんに会う」
「・・・・・」
サリーが得意げな顔で髪を耳にかけた。
「サリー何言ったんだ?」
「変な魔法でもかけたの? 魔力は感じないような・・・」
「メイリアは自分よりも強い男が好きだって言ったんです」
「なるほど・・・単純・・・」
ゼロが引きつった顔でトムディロスの後姿を見る。
剣に手をかけて、いつでも抜けるようにしていた。
「メイリアがそんなこと言ってたのか?」
「言っておりませんよ。メイリアとあまり話したことないので、聞いたこともありません。魔王ヴィル様の道の邪魔にならないようにしました」
サリーが小声で言う。
「・・・・・・」
「すっげー、魔族って感じだね」
ゼロが雪をはらって、サリーのほうに視線を向ける。
サリーが人間の心を汲んで、付け込むとは・・・。
「ずっと昔から魔王ヴィル様に仕える魔族ですから、人間くらいコントロールできて当然です。さぁ、魔王ヴィル様、行きましょう」
「あ・・・あぁ」
サリーが張り切って、トムディロスの横を歩いていった。
「ヴィルって魔王なのに懐かれやすいよね」
「そりゃどうも」
ゼロと目が合うと、他人事のように笑っていた。
靴の雪を落として、2人の跡を追う。
新雪に4つの足跡が並んだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
また是非是非見に来てください。
週末アップは難しそうなので、来週アップします!




