477 上位魔族の忠誠
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。リュウジによって、アバターを失い、異世界へと帰っていった。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
エリアス・・・リーム大陸のダンジョンの精霊であり、ゼロのアバターを創った。人工知能に恨みを持っている。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「魔王ヴィル様! 大変です!」
「見たことも無い銀色のドラゴンが次から次へと上空に!」
下位魔族がパニック状態で魔王の間入ってくると、サリーの部下がすぐに魔王の間から離れるように指示していた。
魔王の間は静まり返っている。
「では・・・私たちが魔王ヴィル様の武器だった過去があると・・・」
「そうだ」
上位魔族に、今回『日蝕の王』の戦いでわかったことを説明していた。
ラグナロクが始まった今、上位魔族の力が必要になる。
強制するつもりは無いけどな。
「私とサリーは武器になっていたことを思い出し、実際に魔王ヴィル様が命令すれば大剣となることができます」
シエルが強い口調で言う。
「サリーも・・・?」
「はい。私は全てを思い出しました。魔王ヴィル様はグランフィリア帝国の王、ベリアル様でした」
サリーが胸に手を当てる。
「ププと」
「ウルも武器?」
ププウルが顔を見合わせて、首を傾げた。
「見てみたほうが早いかもな。シエルこっちに来い」
「はい!」
魔王の椅子から、立ち上がった。
詠唱を省略して、指を動かす。
シュッ
「!?」
シエルが真っ白に輝く剣になって、俺の手に納まった。
懐かしい感覚だ。
「なっ・・・それがシエルなのですか?」
「あぁ、シエルは攻撃力、魔力のバランスのいい武器だ。俺の戦い方に合わせて、属性を変更できる無属性の素質を持つ」
「お・・・・思い出しました・・・」
カマエルが眼鏡をくいっと持ち上げた。
「魔王ヴィル様は『日蝕の王』ベリアル様でした。私は双剣になり、ベリアル様に忠誠を誓っていた」
「そう・・・夜はベリアル様が出歩けなかった。『日蝕の王』には制約があった」
「私たち・・・確か、星の女神アスリアが降らせる星々から民を守っていたんですよね」
ジャヒーが前のめりになって、胸に手を当てる。
「そうだな」
「あー、俺も、俺もグランフィリア帝国にいた。どうして今まで忘れてたんだ。俺は物覚えがいいのに」
「ババドフは忘れっぽいだろ」
ザガンが聞こえないような声で呟く。
シエルの言う通り、上位魔族が思い出すまでに時間はかからなかったか。
武器になる感覚が、魂にこびりついているのだろう。
「でも、記憶が途中で途切れてるな」
「私もです。ウルも?」
「うん。みんなでグランフィリア帝国を守ってたのは覚えてて・・・」
「先の記憶に霧がかかったような感覚です」
ププがぼうっとしながら呟く。
「一気に思い出さなくてもいい。ただ、話しておきたかっただけだ。お前らには、あの時から世話になっているからな」
「・・・・・・・・」
上位魔族の視線は、シエルの剣に向けられていた。
「『日蝕の王』ベリアルの最大の武器はシエルだった。この剣で、プレイヤーの奴らが倒せなかった星の女神アスリアを倒した」
「・・・・・・」
サタニアが俯く。
シエルの剣を見つめながら、遠い昔を思い出していた。
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「げ、シエルはベリアルの武器なの?」
「本当だ。ステータスにそう書いてある」
5人のプレイヤーがグランフィリア帝国の城に入って来ていた。
昼間は城門は開き、プレイヤーが出入りできるようになっていた。
プレイヤーが俺と接触し、情報を得るためだ。
俺はプレイヤーのレベルに応じて情報を渡さなければいけない。
あまり城にいたくない理由でもあった。
「そう。だから、私はギルドの仲間になれないよ。ごめんね」
シエルは白銀の髪を持つ、妖精のような美少女だったため、入ったばかりのプレイヤーにはギルドに入らないかとよく誘われていた。
「でも、武器って道具だろ? モノじゃん。やりたい放題だよな」
「タクト!」
「ベリアル様はそんなふうに思ってない!」
シエルがツンとして、目を吊り上げた。
「君らは気づいてないんだよ。ベリアルは残虐なキャラだ。そうゲーム攻略データにも書いてあった」
「失礼なことを言わないで。それ以上言ったら私が相手するわ」
サリーが獣のような形相で、背後からプレイヤーに近づいていた。
「ここでゲームオーバーさせてもいいんだけど?」
「ごめんごめん! 冗談だよ、冗談、タクト!」
「変なこと言わないでよ。ここまで来るのに苦労したじゃない」
「ふん、どうせゲームなんだからいいじゃん。ベリアルが仲間を武器に変えて戦うって事実は本当なんだから」
タクトと呼ばれた剣士が後方に追いやられていた。
聞きなれている。
シエルたちを武器にしてるというと、プレイヤーは決まって同じことを言う。
シエルもサリーもいちいち反応することないんだが・・・。
「ちなみに私たちも」
「ベリアル様の武器だよ」
「っと・・・」
ププウルが少し自慢げにプレイヤーの間を通り過ぎる。
尻尾をくるんと巻いていた。
「へぇ、双子の魔族か。可愛い。いいなぁ、ベリアルが羨ましいよ」
「リオンはロリ系好きなの?」
「そうゆうわけじゃないけど・・・ここは美少女揃いだからさ。ぶっちゃけ、プレイヤーのアバターよりビジュがいい」
「確かに。俺もこうゆうハーレム築きたいな」
「もう、男はそればっか」
プレイヤー同士で盛り上がっている。
「それを言うなら、シエルやププウル以外に、私もベリアル様の忠実な武器。殺傷能力も高く、ベリアル様でなければ使いこなせない」
「カマエルは自己主張が強いだけでしょ」
「ジャヒー、お前はベリアル様に使ってもらえないからって拗ねるな」
「拗ねてない!」
ジャヒーがカマエルを睨みつける。
こいつらはプレイヤーが来ても警戒心がないんだよな。
「ちなみに、こいつらを武器にしたのには理由がある。プレイヤーに話すつもりは無いけどな。で? お前らは何しに来たんだ?」
「グランフィリア帝国の王、ベリアルに錬金術を学びに来ました!」
「俺ら星の女神討伐のため、錬金術を身につけたいんです」
「そうか・・・・・・・・」
片目を手で隠す。
タクト、レベル30、魔導士(本職:学生)
アヤナ、レベル15、魔導士(本職:不明)
リオン、レベル30、剣士(本職:学生)
5人平均して大体レベル25ってところだな。
錬金できるのは、せいぜい毒性植物の解毒薬ってところだろう。
「じゃあ・・・」
「ベリアル様、お待ちください!」
シエルがプレイヤーと俺の間に立つ。
「・・・?」
「この者たちに情報を与える必要なんてありません。私は反対です」
「そうか」
息をつく。
「そうかって・・・いやいや、俺たち課金してここまで来たんです!」
「星の女神アスリアを倒すのが使命なんじゃないですか!?」
プレイヤーがぐだぐだと騒いだ。
「あぁ、言ってなかったな。その攻略データとやらにも載ってなかったのか?」
「っ・・・・・」
椅子に座り直して、笑う。
「俺の仲間が一人でも止めれば、何も与えない。帰れ」
「バイバイ」
ププウルが手を振る。
ドンッ
「きゃっ」
「うわっ」
指を回すと、プレイヤーの足元に黒い穴が空いた。
すっと消えていく。
「ゲームオーバーか」
「最近のプレイヤーは馬鹿ばかり。品性の欠片も無い」
カマエルが頭を抱えて首を振る。
「ベリアル様を悪く言う奴は許さないから」
シエルが穴を見下ろして、吐き捨てるように言った。
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「星の女神アスリアはサタニアだ。お前らは覚えていないかもしれないが、別に敵対していたわけじゃない。ただ、戦わなければ終わらない運命だっただけだ」
「覚えてます!」
ジャヒーが両手を握り締めながら言った。
「!」
サタニアが目を丸くする。
「え・・・・・」
「アスリアはよく七つの大罪と、ベリアル様に会いに来ていましたよね? 私にも優しくしてくれて・・・」
「あぁ、そうだ。覚えてますよ。よく星の降る世界でした」
ザガンが口に手を当てながら呟く。
「・・・・・」
サタニアと顔を合わせる。
ザアァー
上位魔族たちが、一斉にその場に膝をついた。
「お前らどうし・・・」
「魔王ヴィル様、サタニア様、またこのようにお会いできて光栄です」
ジャヒーが目を潤ませて、頭を下げた
「ラグナロクが始まったのですよね?」
「どうか我々を武器に変えて、ご使用ください!」
ププウルが同時に言う。
「あのときとは違う。無理に武器になる必要はない。武器にならなくたってお前らは俺にとって大事な存在だ」
「今まで魔王ヴィル様は私たちを守ってくださいました」
「また、魔王ヴィル様を守る武器になりたいんです」
「これは・・・・」
カマエルが眼鏡を外して、目頭を押さえた。
「そうです、覚えていますよ。あの時も魔王ヴィル様に救われました。もう一度こうして魔王ヴィル様の元に集まり、武器になれるなんて、感激しかありません」
「ザガンも同意見です」
「どうぞ我々を武器に変えて、お使いください!」
「・・・・・・・・」
詠唱を省略して、シエルを剣から元の姿に戻す。
タン
嬉しそうに白銀のツインテールを触る。
軽く飛んで、上位魔族の列に並んだ。
「必要なときはいつでも呼んでください。私たちは魔王ヴィル様の強力な武器になります。あの時よりも、もっともっと強い武器に」
シエルが強い口調で言う。
「ありがとな」
魔王城の外を見ると、灰色の雲で覆われていた。
もうすぐ嵐が来るだろう。
サタニアがほっとしたような、不安なような、複雑な表情を浮かべていた。
読んでくださりありがとうございます。
GWに入りました。筆が進むといいな。
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また是非見に来てください。次回は来週アップします。




