470 The Seven Deadly Sins⑦
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
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「日蝕の王ベリアル、来てくれると思ってた」
アスリアがほっとしたようにほほ笑む。
荒廃した神殿の階段に杖を持って立っていた。
「プレイヤーがいないんだから仕方ないだろ。このゲームはサービス停止された。プレイヤーがログインしてくることも無い世界だ」
「そうみたいね」
カチッ
黄金の羅針盤は、アスリアの頭上から離れない。
ゲームは放置され、星の女神アスリアの暴走は止まらなくなっていた。
おそらく、この世界を破壊しつくすまで、終わらないはずだ。
「アスリア・・・無傷なのね・・・」
「そう。誰も私に傷一つ付けられない。倒し方がわからないんだもの。仕方ないわ」
シエルから離れて、アスリアに近づいていく。
羅針盤の槍が、こちらを警戒していた。
「七つの大罪はどうした?」
「転移魔法で、異世界に飛ばした。きっとこの世界よりも、いい世界に行けたと思う。七つの大罪はみんな同じ世界に行くから大丈夫。どんな苦難も7人なら乗り越えられる」
アスリアが両手で白い杖を握り締める。
黄金の羅針盤の下には、槍が光っていた。
羅針盤は世界が滅亡すると、自動的にアスリアを殺すことになっている。
どこのどいつが作ったのか知らないが、バッドエンドしか用意されていなかった。
「仲間全員連れてこなかったの?」
「この世界のところどころに空いたバグに吸い寄せられた。もう、シエルと俺しか残っていない」
「・・・そう」
ガタンッ
サアァァァァァァアア
羅針盤の針が3つ揃い、示す方向に星が流れていくのが見えた。
「あの・・・」
シエルがツインテールを触りながら前に出る。
「もしアスリアにその気があるなら、この世界の片隅で、3人でひっそりと暮らしませんか?」
「え?」
アスリアが目を丸くする。
「アスリアはベリアル様の友人なので、私も仲良くしたいと思ってて。夢だったんです。ベリアル様、開発者が意図していない世界だって、3人でいれば最強ですよね。力を合わせれば、壊れかけたこの世界でも・・・」
「・・・シエル、それは無理だ」
「なぜですか?」
シエルが首を傾げた。
「アスリアはゼラフのところに行きたいんだ。ずっとこの世界から離れたかったんだろ?」
「・・・・・」
アスリアが小さく頷く。
ガシャンッ
羅針盤の針が動いた。
数分後に、また星が降るだろう。
「私の心臓はアレよ。壊して、ベリアル」
アスリアが頭上を指さした。
「気が進まないけどな」
「たった一人で、いつ死ぬかわからない恐怖におびえるよりは、ベリアルに壊してほしいの」
羅針盤がアスリアに合わせて動き出した。
離れることはない。
アスリアを殺さなければ何も進まなかった。
いつまでも終わらない。
永久に星々から逃げなければいけない世界になっていた。
バグがあっても、住民が発狂しても、消えかかっても放置されている。
このゲームを創った開発者もプレイヤーのいないこの世界なんか忘れているのだろう。
これがオンラインゲームの世界に生まれた者の運命だ。
「ベリアルなら壊し方を知ってるよね? 太陽を喰らうほどの力を持つ王だもの」
「シエル」
「でも! アスリア、お願いします。考え直してください! ベリアル様も本当は殺したくなんかない」
「早くしろ。このままだと、アスリアと戦闘することになる。俺たちに勝ち目はない」
「・・・・・」
シエルが俯いたまま、隣に並ぶ。
「ベリアルの言う通りよ。戦闘になれば私が勝つ。そうすれば、たった一人でこの世界が無くなっていくのを見ていなきゃいけない。最期に自分が死ぬってわかっているのに」
アスリアの杖はオートモードで侵入者を殲滅しようとする
誰一人、アスリアを倒すことはできなかった要因だった。
「アスリア」
「ん?」
「ゼアルを愛してくれて、ありがとな」
「え・・・?」
「俺には仕様に無い感情だからか、さっぱりわからないが・・・本で読んだことはある。相手のことを慈しみ、想い続けることを”愛”というんだろ?」
アスリアが拍子抜けしたような表情で、頬を赤らめた。
「何をいきなり・・・・あ、愛してるわけじゃないわ。ただ、長く傍にいてくれただけ。私はベリアルのほうが好きなんだから」
「嘘が下手な奴だ」
「そ・・・・そうゆう話はいいから、早く壊してよね・・・」
アスリアが口をもごもごさせる。
ふぅっと息をついた。
「ゼアルに会ったらよろしくな」
「・・・うん・・・会えたらね」
アスリアのシールドは神話を知る、俺しか使えない魔法で解除できる。
プレイヤーがグランフィリア帝国にいる俺に聞くことを想定して創られたようだが、誰一人来なかった。
プレイヤー同士のトーナメントのほうが盛り上がっていたようだ。
「来い。シエル」
「・・・わかりました」
― XXXX ディアブロ XXXX
ロマXXXX ウィロス ―
シュンッ
シエルの剣を手にする。
深く深呼吸をすると、星の匂いがした。
「アスリア、羅針盤の制御、解除するぞ。その隙に壊す」
「うん。ありがとう、ベリアル」
アスリアが目に涙を浮かべてほほ笑んでいた。
「私がこんなこと言うのは変だけど、死ぬのはやっぱり少しだけ、怖いのね。転移魔法成功できて、よかった・・・」
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― XXXX
XXXX ルアール XXXX ―
「止めろ!!」
魔王の剣を持って、『日蝕の王』に飛び掛かる。
『日蝕の王』の詠唱を止めた。
ガガガガガガッ・・・
「!?」
右腕がドラゴン化していく。
力で『日蝕の王』を地面に押し付けていた。
「サタニアを殺すつもりは無い。殺すなら、お前を殺す!」
「ぐっ・・・」
右腕で『日蝕の王』を締め上げる。
爪を食い込ませた。
「異世界の力か・・・?」
「そうだ。お前に無くて俺が手に入れた力、目的のためなら手段を択ばない。いかにも俺らしいだろ?」
カランカラン
シエルの剣が落ちていった。
真っ白に輝き、シエルが元の姿に戻った。
「『日蝕の王』!!」
ヴィヴィアンが慌てていたが、エヴァンが隙を作らせなかった。
攻撃を繰り出して、足止めしている。
「そんな・・・今助けに・・・」
「行かせないわ!」
サリーがシェリアに攻撃を繰り出す。
他の五古星も押さえつけられていた。
エリアスだけが、少し離れた場所で様子を伺っている。
「お前に俺は殺せない・・・俺は・・・お前だからだ」
『日蝕の王』が首を掴んでいた手を握り締める。
ドラゴン化が少しずつ解けていった。
「この世界にヴィルは俺一人で十分だ」
「生き残るのは・・・俺だ・・・」
タッ
『日蝕の王』が締め上げていた手を強引に外して、地面に降りる。
すぐにアスリアと俺に手をかざして、詠唱しようとしていた。
あの神話に沿った詠唱だ。
羅針盤のオートモードを解除し、破壊する・・・。
「止めろ!!!」
「黙れ。俺こそ、この世界に相応しい」
「違う!」
「!?」
ザッ
「っ・・・・」
シエルが剣を出して、『日蝕の王』の背中から心臓を貫いた。
すっと剣を抜く。
ドサッ
「・・・なっ・・・」
『日蝕の王』があおむけに倒れる。
シエルが出した剣には、柔らかな毒が含まれていた。
「自己回復は無理よ。毒が入ってるから」
「・・・シエル・・・どうしてお前が、俺を・・・裏切った?」
「最初から機会を狙ってた。私の大好きなヴィル様は、こっちの魔王ヴィル様なの。世界でたった一人しかいない」
シエルが自分の膝の上に『日蝕の王』を寝かせた。
「ごめんね」
「そいつは・・・シエルより・・・人工知能アイリスを・・・」
「わかってる。全部わかってるよ」
シエルの白銀の髪が地面についた。
「でも、魔王ヴィル様が誰を愛していても関係ない。私が愛しているから、それでいい」
「俺は・・・・・・」
「ベリアル様だから好きになったわけじゃないよ。私を助けてくれた、力を与えてくれた、上位魔族として認めてくれた、今の魔王ヴィル様が大好きなの」
『日蝕の王』の額に手を置く。
「魔王ヴィル様の敵は私が必ず排除する。命を懸けて倒すと決めていた」
「じゃあ・・・どうして泣く?」
「え?」
シエルが瞬きをすると大粒の涙がこぼれた。
「これは・・・・」
「・・・わからない・・・奴だ・・・俺にとってお前は・・・」
『日蝕の王』がシエルの頬に手を伸ばそうとする。
「っ・・・」
「じゃあな・・・・・・」
すぐに手を降ろした。
ゆっくりと目を閉じて、鼓動が小さくなっていった。
「『日蝕の王』ヴィル! 目を覚ませ! お前にはまだやることがあるはずだ!」
ヴィヴィアンがエヴァンに手足を固定されたまま叫んだ。
「シエル、大丈夫か?」
「彼を主人と思ったことはないんです。ずっと、チャンスを待っていました。弱点を見抜き、やっと倒すことができました。でも・・・・うぐっ・・・」
シエルが『日蝕の王』の亡骸を抱きしめていた。
だらんとしていた手から、魔力が消えていく。
「なぜ悲しいのか自分でもわかりません。魔王ヴィル様と同じヴィル様だからでしょうか・・・」
「ここでしばらく休んでろ」
「・・・はい」
「・・・・・」
五古星は呆然として、しばらく動かなかった。
つかの間の静寂に包まれていた。
読んでくださりありがとうございます。
『日蝕の王』ヴィル、死んじゃったらそれはそれで寂しいですね。
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また是非見に来てください。週末には次話アップします!




