467 The Seven Deadly Sins④
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「時間軸から外れた魔王ヴィル?」
「あぁ、アイリスが使っていた禁忌魔法の時空退行のループから外れた俺らしい。あと、サリエル王国の中心いるのはおそらくサタニアだ」
「サタニアですか・・・信じられませんね。彼女に星を降らせるような力があるようには見えませんでしたが・・・」
ミハイルが口に手を当てた。
「前世の記憶だって」
エヴァンが言葉を挟む。
「サタニアは星の女神アスリアになってるらしい。俺も、ぶっちゃけかなり混乱してるけどね。ヴィルはサタニアがアスリアだっていつからわかったの?」
「『日蝕の王』との接触で思い出してきただけだ。魔王城にいた頃は、全く記憶になかった」
「・・・・・」
サリーがちらっとこちらを見て、視線を逸らした。
「ねぇ、アイリス、話ぶった切って申し訳ないけど、『クォーツ・マギア』のことで、わかったことがあるんだ。共有していいかな? ヒントになるかもしれない」
リュウジがアイリスに近づく。
「え?」
「こんな時に、他のゲームの話とかどうでもいいだろ?」
「まぁまぁ、ヴィル、いいじゃん」
エヴァンがぽんと背中を叩いてくる。
「『クォーツ・マギア』の接続が何かの役に立つかもしれないし」
「お前も調子いい奴だな」
「ほら、俺たちでサタニアを救い出そう。早く早く」
空からきらきらと輝く天使の羽根が落ちてくる。
「僕も行かなければいけない。僕は天使の中でも戦士であり、軍を率いる立場にあります。こう見えて、位が高いんですよ」
「サタニアを殺そうとしてるのか?」
ミハイルを睨みつける。
「堕天使サエルを殺して契約解除したのでしょう? なら、我々天使の役目として、彼女は審判にかけられるべき存在と判断します」
キィンッ
白銀に磨かれた剣を出して、翼を広げた。
「ハナが助けた子を殺したくはない。でも、この世界は公平で僕の意見なんか通りません。審判にゆだねるしかないのです」
ぶわっ
ミハイルが一瞬で上空まで飛んで、サリエル王国の中心に向かっていた。
「俺たちも行くか」
「はい! あの、アイリスは?」
振り返るとアイリスとリュウジがモニターを出しながら会話していた。
こちらに気づいて顔を上げる。
「私もすぐ行くから。今かなり接続ポイントに近づいてるのを発見して、あとコードを組めば・・・」
「いいよ。アイリスとリュウジは『クォーツ・マギア』の調査を頼む」
「うん! ありがとう」
アイリスがぱっと表情を明るくした。
「私とリュウジは通信可能なので、何かあれば連絡してください」
ユイナがピアスを触りながら言う。
「居場所もすぐに特定できる。安心してくれ」
リュウジが指を動かしたまま話していた。
「ヴィル、いいの?」
「星の女神アスリアも七つの大罪もゲームの中にいた者だ。アイリスにどんな影響を与えるかわからないだろ? 後から来たほうがいい」
「なるほど。相変わらず過保護だねぇ」
エヴァンが後ろで手を組んで、息をついた。
マントを後ろにやって、サリエル王国のほうへ歩いていく。
ジジジジジ ジジジジジジ・・・
サリエル王国に張られたシールドのせいで、中の光景が見にくかった。
小さく電子音のような音が鳴っていた。
「このシールド自体に、アバターにウイルスを埋め込むなどの危険性はなさそうです。属性も無い・・・」
「なるほどな」
バチッ
魔王の剣を突き刺すと、波のような波紋を立てて歪んだ。
すぐに元に戻ってしまう。
「剣がゴムみたいに跳ね返ってくるな」
「なんか、今まで見てきたシールドと違うね。この世界のものじゃないって感じだ。ヴィル、解く方法わかるの?」
「これは七つの大罪の奴らの魔法じゃないんだよな。アスリアか? 俺もアスリアの魔法は全て把握してるわけじゃなかったからな」
頭を搔く。
「異世界のものであることは確かだ」
「なんか・・・もしかして、このシールド解けなくてあの天使たちは上空をうろうろしてる?」
エヴァンが天を仰ぎ見ながら言う。
「サリー、何か覚えてるか?」
「どこかで見た覚えはあるのですが・・・解く方法は思いつきませんね」
ユイナが緑色の小さな杖を出した。
― 私は勇敢な冒険者だ、
冒険者の前に扉を開け ―
パリンッ
「!?」
ユイナが杖をシールドに向けて唱えると、シールドが粉々に割れて消えていった。
「え? 何? 今の・・・」
「あ、なんかゲームのセーブポイントの創りに似てたんです。ログインして、セーブポイントから出る時、今みたいな声紋認証を通さなきゃ入れないときがあって?」
「声紋? 認証?」
サリーが首をかしげる。
「えーっと、声が鍵になっているイメージです。これで入れますね」
ユイナがサリエル王国に一歩足を踏み入れた。
王国の建物や通路が鮮明になっていく。
「どうしてわかった?」
「ゲームのログイン時っていつもこんな感じなので、似てるな、と思ったんです」
「・・・・・・・・・」
「本当に、ぱっと思いついただけで、偶然なんですけどね。でも、シールドが破れてよかったです!」
ユイナが照れながら笑った。
気になることはいくつかあるが、今はいいか。
サリエル王国には『日蝕の王』の気配を確実に感じる。
おそらく向こうも同じだろうけどな。
「人間はいませんね」
サリーが周囲を警戒しながら、立ち止まる。
「消されたのでしょうか?」
「違うと思うよ。ほら、店も閉まってるし、建物も一部崩れてるけど道の端に寄せられている。きっと逃げる時間があったんだ」
エヴァンが長い瞬きをする。
「それより、ヴィル、サタニアがどこにいるかわかる?」
「全然わからないな。この国自体、魔力を感じにくい」
「だよね。集中してると酔いそうだよ」
「地図も出ないですね。サリエル王国は”オーバーザワールド”の一部となっているわけではなさそうです」
ユイナがモニターを見つめながら言う。
「あとは天使と堕天使が頭上にいると、歩きにくいな」
「監視されてるみたいだよね」
空を覆うように天使と堕天使がいて、サリエル王国を見下ろしていた。
シールドが解けたことで、見えるようになったからか、集まって何か会話している。
シュウゥッ
風が吹いた。
「お前らは・・・」
「サエル様に安寧の祈りを捧げにきたのですか?」
「・・・・・・・・」
サエルといた双子の天使、ライとエルが花を持って立っていた。
白い花びらがふわっと舞う。
「いや、そうじゃないが・・・・」
「僕たちはサエル様のことを兄のように慕っていたので・・・」
「この地で花を供えに参りました。上空では招集がかかっていますが、私たちは特別にここにいることを許可されているのです」
エルが純白の羽根をたたむ。
「変なシールドを張られたせいで入れなかった・・・」
「やっと入れましたね。お礼を・・・」
ライとエルが頭を下げると、ユイナが戸惑って首を振った。
「いえいえ、私、何もしていませんので。ただ、試しにやってみただけで・・・」
両手をぶんぶん振った。
「それでもよかった。僕らは偲ぶことすら許されなかった。サエル様の魂も、未練があるでしょう。僕らはサエル様の敵を討ちたい・・・できませんが・・・」
「ん?」
「ついてきてください。サエル様の亡くなられた場所に、きっと貴方たちが会いたい者もいます」
エルが寂しそうな顔でこちらを見る。
ライの片腕には包帯が巻かれていた。
2人とも戦闘に加わっていたのか?
「サエル様は私たちを逃がしてくださった」
「僕たちは国を持たない天使だから、早く逃げろって・・・」
「サエル様の願いを聞き届けるため、サエル様を見捨てたのです」
エルが悔しそうに言う。
「お前らが人間を逃がしたのか?」
「そうです。人間に私たちの姿は見えないので、神官にペンを走らせ、逃げるように指示しました」
「・・・少し離れたラファエル王国に受け入れてもらっています」
漆黒の羽根を落としながら、ライが歩き出す。
「サエル様は人間が嫌いでしたが、この国のことは愛していました」
「・・・・・・・・・」
隕石のような岩の塊が、国のところどころに見える。
サリエル王国を中心に、星が降り注いだのが分かった。
「七つの大罪さえいなければ、サエル様はこんなことにならなかったのに・・・」
「どうゆう経緯で奴らがここに乗り込んできたんだ?」
「サエル様とサタニアの間で交わされた契約を解除するよう言ってきたんです。私たちは七つの大罪に、第三者の介入は許されていないことを伝えましたが、圧倒的な力で抑えられ捕らわれてしまいました」
「僕たちを逃がして・・・すぐにサエル様が殺されてしまいました・・・」
ライが奥歯を噛みながら苦しそうに言う。
キィン キィンッ
バァンッ
坂を上ったところに、巨大な岩に囲まれた場所があった。
剣と剣、魔法と魔法がぶつかり合う音が聞こえる。
「ここは・・・」
「この岩も隕石だな。星の匂いがする」
七つの大罪の気配を濃く感じた。
この中で間違いないようだ。
ヴァリ族の気配も感じるな。
「私たちはやり返すことはできないので見ているだけです」
「この巨大な岩に囲まれた場所が、サエル様の亡くなった場所」
ライとエルが同時に花を置いた。
「・・・・・・・・」
2人は無表情だったが、怒りと悲しみが伝わってきた。
「ここに七つの大罪が居るみたいですね」
「あぁ」
「ヴィル、とりあえず敵は? 『日蝕の王』とヴァリ族? 七つの大罪?」
「サタニアの奪還を阻止しようとするほうだな」
「了解!」
エヴァンが剣を出した。
「装備を攻撃力重視で切り替えます。属性は無属性で、相手の属性を見ながら変えていきます」
ユイナが指を動かして、自分の装備を切り替えていた。
「魔王ヴィル様・・・七つの大罪と戦うのですよね?」
「相手の出方次第だな」
「・・・・・・」
サリーが俯く。
嫉妬のミーナエリスと、サリーは親友のような存在だった。
ミーナエリスは元々、亡国の姫だったらしく、七つの大罪の中でも一番、戦闘能力が低かった。
他のメンバーに追いつくため、サリーに弟子入りしていた時期もあった。
当時を思い出したのなら、躊躇いも生まれるだろう。
「サリーが戦いにくいなら、ここで待ってても構わない」
「いえ、問題ありません。魔王ヴィル様の敵は、私の敵ですから」
サリーが赤い髪を後ろにやった。
天を見上げると、天使たちの視線は巨大な岩のサークルの中に向けられているのがわかった。
読んでくださりありがとうございます。
低気圧頭痛ですっかりダウンしていました。
皆様もどうか気をつけてください。
次回は週末アップします!是非見に来てください!




