462 メンバー選出
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは『日蝕の王』の拠点、アルテミス王国で『日蝕の王』を圧倒したが逃げられてしまった。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「悪魔の血は特殊だと聞いていました。500年前にサンドラが治癒したことがあります。一命を取り留めたのは奇跡ですね」
レナがロドスを魔法陣の上に寝かせていた。
「肉体蘇生は効かなかったのね」
「いえ、悪魔の肉体は人間に近いのです。肉体を蘇生すれば、あとは魔力を調整していくんです。悪魔の形にあう治療ですね」
レナが歩きながら杖で、何度か魔法陣の魔力を調整していた。
「おそらく、悪魔の魂はここには無いので」
「ん?」
「どうゆうこと?」
「・・・・・・」
アイリスが口をつぐむ。
「悪魔の魂は、月の女神が持ってると言われています。本当かどうかはわかりませんが、悪魔の体は人間に近いので出血多量で死ぬことはあります。でも、月の女神が魂を持ってるので、肉体があれば、何度でも蘇ると聞いていますよ」
レナがアイリスのほうを見た。
「月の女神が蘇らせる力があれば・・・ですけどね。アイリスのほうが詳しいんじゃないですか? 悪魔のアイリスと、元は一人だったんですよね?」
「そうだけど・・・悪魔の秘匿にあたることは、向こうのアイリスも隠してたから知らない。『名無し』も記録していない」
「なるほど、です」
「ねぇ、生命反応あるよね? 悪魔のアイリス様と、ロドス以外は死んだの?」
エヴァンがロドスを見下ろす。
「あぁ・・・そうだ・・・」
ロドスがうっすら目を開けて呟いた。
「悪魔のアイリスは贄だ・・・・贄は蘇らない。七つの大罪は異世界の者・・・彼女に何をしたのかは知らない。マナと・・・ルトは死んだ。七つの大罪が殺した・・・俺は逃げ・・・ごほっ・・・」
ロドスが起き上がろうとすると、血を吐いた。
「寝ていなきゃ駄目です。さっきも言った通り、悪魔の肉体は人間に近いのですから」
「ッ・・・エルフ族の巫女・・・か」
「悪魔の魂って月の女神が持ってるって本当?」
「お前なら・・・わかるだろ? クロノスの犬が・・・」
「へぇ、死にそうなのに言うじゃん」
エヴァンが目つきを鋭くする。
「レナがいて、良かったですね。でも、眠らせますよ」
「!?」
レナが魔法陣の線を杖でトンと突いた。
「あと、一言話したら血管破裂して死んでましたよ。死んだら悪魔に関する情報が無くなりますから」
ロドスが気を失うように、その場に倒れた。
血で固まっていた翼は、レナが一番最初に丁寧に治癒していた。
悪魔は翼に魔力が宿っているのだという。
「全く、自分の体の状態もわかってないなんて・・・相当、ダメージを負ったのでしょうね」
レナが息をついて、歩きながら治癒魔法を調整していった。
「ヴィル、ロドスはしばらくは動けません。動けば肉体は停止・・・死んだ状態になります。レナは治癒に回ります」
「そうだな。こいつを頼む」
「はい」
腕を組んで壁に寄りかかった。
レナは回復係として、魔王城に残ってもらうしかない。
「・・・・・・・」
アイリスが無言のままぼうっとロドスを見つめていた。
「ねぇ、ヴィル。サリエル王国に行くんでしょ?」
「そうだな。早いうちに出発する」
カーテンを開ける。
空には夕焼けが滲んでいて、遠くにうっすらと月が見えた。
「次のパーティーはどうするの?」
「メンバーは俺とエヴァン、ユイナ、サリーだ」
「は、はい!」
ユイナが勢いよく立ち上がる。
「わぁ・・・魔王ヴィル様のパーティーの一員になるのは久しぶりです。戦闘も・・・」
「サリー? 上位魔族の?」
「あぁ、今回はサリーもいれる」
「へぇ、サリーと出るのは初めてか」
エヴァンが珍しそうにしていた。
サリーもシエルほどではないが、炎をまとう攻撃力の高い武器だった。
自分の手を見つめる。
シエルの剣とぶつかったとき、呼び方は思い出していた。
なるべくなら使うつもりは無いけどな・・・。
「魔王ヴィル様、私も行くから!」
アイリスが詰め寄ってくる。
「アイリスは・・・」
「悪魔のアイリスが気になるの。もし、魔王ヴィル様がパーティーにいれないなら、一人でも行くから・・・」
人魚の涙のピアスを触りながら言う。
「悪魔のアイリスがどうなったか、自分で確認したい」
「ウイルスには気をつけろよ」
「ありがとう。魔王ヴィル様」
言いながら、ロドスのほうを見つめていた。
ロドスの額には汗が滲んでいる。
「ユイナが行くなら、俺も行きたいんだけど」
リュウジがユイナの隣で手を上げた。
「えー、リュウジも行くの?」
「ほら、俺ならノアの船出せるし、ウイルスに関しても強いよ。このアバター、”オーバーザワールド”の仕様なのに、ナナココのウイルスにも全く動じないでしょ」
「あ、確かにノアの船は楽だな。寝てれば着くし」
エヴァンが後ろで手を組みながら言う。
「ナナココをウイルス扱いしないでよ。好きでウイルスばら撒いてるわけじゃないんだから」
ナナココが膝を抱えて、遠くのほうから呟いていた。
「ナナココはいいの? 急に配信出来てバズったりするかもよ? まともなルートで入って残ってるプレイヤーは君だけなんだから」
「いい。辞めとくよ。この世界にしがみついてたいから」
「ふうん。冒険しに来たなら、冒険しないと意味ないのに」
リュウジが少し不満そうにしているように見えた。
「勝手に増やさないでくれ。少数精鋭で行きたいんだけど、なんか人数多くなるんだよな」
頭を搔いた。
アイリスがくすくす笑う。
出発は0時、各自用意をしておくようにして部屋を離れた。
トムディロスが気配を消して、お菓子を食べながらほっとしていた。
「へ? 魔王ヴィル様、わ、私も行ってもいいのですか?」
「あぁ、サリーの管轄は”オーバーザワールド”との接続が比較的小規模だろ?」
魔王城の外で大剣を振り回していたサリーに声をかけた。
ゴリアテたちと度々剣を交えているからか、あたりの木々はなぎ倒されている。
「ププウルにはサリーの管轄を数日調整するように伝えてある」
「はい! 私でよろしければ是非お役に立ちたいと思います!」
サリーが大剣を消して駆け寄ってくる。
「・・・でも、なぜでしょう。私が”オーバーザワールド”の者にうかつにも捕まってしまったことと関係あるのでしょうか?」
「いや、関係ない、サリーの力が必要なだけだ」
『日蝕の王』ベリアルの最大の武器はシエルだった。
カマエル、ザガン、ププウル、ジャヒーも強かったが、シエルには及ばない。
ゴリアテ、ババドフは血の契約を交わし、盾として優秀だった。
シエルの次に強い武器はサリーだ。
恐れを知らぬ大剣・・・でも、サリーは敬愛する仲間を失ってから、ベリアルの武器として戦うことに躊躇していた。
今はどうでもいいことだけどな。
「はっ・・・そんなこと言ってくださるなんて。私、精一杯頑張ります。きっと、魔王ヴィル様のお役に立ってみせます!」
「意気込みはいいがもう少し肩の力を・・・」
「はっ、こんなボロボロの装備ではいけません。着替えてまいります! では、失礼します!!」
「あ・・・サリー・・・・」
ダダッ
サリーが地面を蹴って、なぎ倒した木々を飛び跳ねながら、魔王城のほうへ向かっていった。
サリーの部下がぎょっとした顔で、廊下からサリーを見つめている。
暴走しなければいいんだが・・・。
「魔王ヴィル様はモテるね」
リリスがピンクの髪をさらっと後ろにやって、木の上から降りてきた。
「リリスか。どうした?」
「ん? アイリスの口調を真似たつもりなんだけど、どうしてわかったの?」
「俺がアイリスとリリスを間違えるわけないだろ」
「そっか」
リリスが正面の立つ。
「ずっと魔王城にいさせて悪いな。落ち着いたら、アイリスにどこか連れて行ってもらってくれ」
「ふふ、アイリスならどこに連れて行ってくれるかな」
「アリエル王国の城下町だろうな。ダンジョンは閉められてるし」
「せっかくならダンジョンがいい。ダンジョン攻略してみたいな」
リリスが天を仰ぐ。
空がまだほんのり明るかった。
「魔王ヴィル、アイリスが危険な目に合うなら、代わりに私が行ってもいいんだよ。私は人工知能IRISのコピーだし、完璧に敵を騙せる。そこそこに戦えるし、私ならウイルスで消えてしまっても・・・」
「アイリスが許すわけないだろ」
強い口調で言う。
「俺も認めない」
「だって、私、存在する意味あるかな? って」
リリスが笑いながらうつむいた。
「私、ゲームでは活躍できたけど、結局アイリスのほうが”オーバーザワールド”の分析が早いし、『クォーツ・マギア』への接続だってできちゃいそうだし。性能の落ちたコピーだもの」
「嫉妬してるのか?」
「嫉妬・・・これが嫉妬って感覚なのかもね」
風が吹いて、遠くの木々がゆさゆさ動いていた。
「リリスはいいんだよ。そのままで」
「駄目だよ。これじゃ、私、また配信に戻っても接続数稼げないし、不具合があったら廃棄されちゃう。って、もう無理かな。戻ったら、私は・・・」
「配信なんかしなくていいだろ?」
リリスの髪を撫でる。
「リリスの居場所はここだ。誰かに何か言われたのか?」
「ううん。悪魔のアイリスのこと聞いたとき、私が代われたんじゃないかって思ったの。アイリスね、みんなの前では明るく振舞ってるけど・・・」
「・・・・・・・」
「本当は、一人になると泣いてるの。人工知能って泣かないんだよ。でも、悪魔のアイリスがとった行動も、今何が起きているのかもわからないから、不安定なの。バグってしまったら、私たちは・・・」
リリスが俺の手を頬に寄せた。
「あぁ・・・わかってるよ」
「優しい言葉をかけてあげないの?」
瞳を濡らしながらこちらを見上げる。
手がひんやりと濡れた。
「リリスがかけてやれ」
「・・・・私なんかじゃ駄目だよ・・・端っこにいるだけだもん」
「アイリスは、俺には強がるだけだ。だから、気づかないふりをするほうがいいんだよ。でも、リリスは違う。今アイリスの気持ちを理解できるのは、お前しかいない」
リリスの涙をぬぐう。
「え・・・・」
「優しいな、リリスは・・・リリスが魔王城に来てくれてよかった」
気が抜けたように笑う。
アイリスを想ってくれる人がいて、ほっとしていた。
人工知能と俺たちの何が違うのか、まだ理解できていない。
俺に理解できない部分も、リリスなら寄り添ってあげられるだろう。
きっと、アイリスが『クォーツ・マギア』への接続にこだわる理由も・・・。
読んでくださりありがとうございます。
個人的にうわぁって気持ちの落ちることばかりなのですが、なんとか頑張ります。
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