458 星降る夜に
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは『日蝕の王』の拠点、アルテミス王国で『日蝕の王』を圧倒したが逃げられてしまった。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「ありがとう、魔王ヴィル殿」
「貴殿のおかげでこの国は救われた」
国王とガラディア王子が、赤いじゅうたんの上で深々と頭を下げた。
国民たちが歓声を上げる。
トムディロスも盛大に拍手していた。
「つか、何もやってないんだけどな」
頭を搔く。
「『日蝕の王』は逃がしたし・・・」
「はは、同感。今回はマジで何もやってないから、これはキツいね・・・」
エヴァンも民衆の圧に引いていた。
13人の勇者の亡霊が民衆に向かって手を振っている。
ポセイドン王国に着くと、城の門が開かれていた。
ベルギリュス王子の扇動もあって、逃げ遅れた国民は無く非難できたらしい。
ヴァリ族の群が束になって押し寄せてきたが、勇者の亡霊たちが圧倒的な力で制圧したようだ。
怪我人も、闇落ちした者も無く、俺たちが着いたころには戦闘が終わっていた。
「この国の恩人だ。今夜は闇に打ち勝ったことを盛大に祝おうじゃないか」
「あぁ、この国にとって宴は久しぶりだな」
オオオォオオオ
「きゃー、リルム様かっこいい!」
リルムと呼ばれた勇者が笑顔で手を振る。
『くぅーこの感覚だよね』
『我ら英雄が民衆の前に現れるのも久しいからな』
勇者たちはまんざらでもないようだ。
「待て」
間に入って手を上げる。
「歓談中に悪いが、こいつらは亡霊だ。ここに長居はさせられない」
マントに片腕を隠す。
勇者たちがこの世に留まることで、俺の魔力はかなり消耗されていた。
まぁ、元々魔力はある。
問題ないけどな。
「今すぐ黄泉へ戻す」
「・・・そうか・・・せっかく英雄も含めて、宴を開きたかったが残念だ」
国王が長い瞬きをした。
「・・・・・・」
レナが俯く。
戦闘が終わってからも、口数少なかった。
「ねぇ、今日一晩くらい、いいんじゃない?」
エヴァンがこちらを見る。
「ヴィルも早く魔王城に戻らなきゃいけないかもしれないけど・・・ほら、勇者たちとの信頼関係も大事だし。ノアもスリープモードのままだし」
「・・・・・・・・」
勇者の亡霊たちの視線がこちらに集まる。
「わかったよ。明日の早朝戻るからな」
「そうか! よかった」
ワアァ
『久しぶりの祭りだ! 最高だな!』
『おぉ、もしかして久しぶりの酒か?』
『宴と言えばお酒でしょ』
勇者の亡霊が沸き立っていた。
『久しぶりにレナの舞が見れるのか?』
「踊りませんよ。私は食べる係です」
『相変わらずだな』
ゼラフがレナに笑いかけていた。
「魔王ヴィルもこの上ない恩人だ。どうか宴に・・・」
国王の誘いに手を上げる。
「悪いが、俺は休む。トム、部屋に案内してもらえるか?」
「あぁ」
「トムディロス王子・・・」
トムディロスが歓喜の輪から外れて、こちらに駆け寄って来た。
民衆がしんと静まり返る。
「いいか、トムが俺たちをここに連れてきたんだからな。トムがいなきゃ、お前ら全員死んでたってこと忘れるなよ」
エヴァンが語気を強める。
「俺たちだってトムディロス王子のことは・・・」
「お前はいつも愚痴ばっかだっただろ?」
「お前だって」
民衆がバツが悪そうにもごもご話していた。
「エヴァン、いいって」
「良くない。こうゆうのは釘刺しとかないと」
「本当だ。トムのおかげだよ」
ガラディア王子がトムディロスの肩を叩いた。
「ありがとう。お前がいなかったら、俺は本当にすべてを失うところだった」
「兄さん・・・・」
「魔王ヴィル、エヴァン、レナ、今日は本当にありがとう」
ガラディア王子が敬礼した。
「フン・・・」
マントを後ろにやって背を向ける。
トムディロスが嬉しそうに敬礼してから、後についてきた。
夜空に浮かぶ星々が美しかった。
城下町では民衆の宴が始まっている。
アルテミス王国のヴァリ族の脅威が無くなったからか、大人も子供も堰を切ったようにはしゃいでいた。
アリエル王国のメイフェアもこんな感じだった気がするな。
ゼラフは特に子供に人気で、小さい子供たちが群がっていた。
レナも屋台の椅子に座って、楽しそうにお菓子を食べている。
アイリスが喜びそうな光景だ。
リュウジはアルテミス王国に着くなり、部屋に閉じこもっていた。
ユイナにデータを送ってから、寝ると話していたが、奴の行動は読めない。
『この魔法を使い続けて、どこも支障がないとは大したもんだ』
「オーディン」
オーディンが屋根に上って来た。
ため息をついて本に栞を挟む。
「なんで俺が一人になってると誰か来るんだよ」
『ははは、そうか。人気者でよかったなぁ』
「別に俺はそんなのどうでもいい。お前と違ってな」
オーディンが笑いながら腕を組む。
「何の用だ? 死に際に言い残したことでも思い出したのか?」
『心配して来てみただけだ。この魔法は魔力を使う。魔力が尽きて、どこかでぶっ倒れてるんじゃないかと思ってな』
「そんなに俺を信用できないか?」
乾いた笑いが漏れる。
「俺は魔族の王だ。いつまでもガキじゃない」
『親は子が何者になっていようと心配するものだ』
「ったく、放置してたくせに、今更・・・」
息をついた。
「なぁ、ワルプルギスの夜って何だったんだ?」
『・・・・秘匿なんだがな。少しなら話してやろう。それは・・・・・』
ザアアァァァァァ
「なんだ!?」
ドドドドドドドッド
星々がちらほら地上に降り注いでいた。
遠くのほうから時間を置いて、大きな音が鳴り響く。
隕石の落ちた音だ。
木々が崩れていくのが見えた。
「あれ、見て!!」
屋台の傍にいた少女が指をさす。
ポセイドン王国の上にも巨大な隕石が迫っていた。
足に力を入れる。
すぐに魔王の剣を出して、遠くの巨大な隕石目掛けて風を斬った。
― 黒雲斬り ―
ガガッ ガン
ボウッ
「!!」
火球が4つに砕けただけだった。
クソ・・・思ったより、魔力の消耗が激しかったか。
『俺に任せろ』
オーディンが剣を持って天高く飛び上がった。
― グランド・クロス ―
キィンッ
隕石の近くに真っ白な十字架が現れる。
パァンッ
一気に弾けて蒸気になっていった。
オーディンが隕石の欠片を取って、地上に降りていく。
周りを見渡すと、星々の落下は無くなっていた。
夜空は静まり返っている。
「なんだったんだ?」
「うわぁ、見ろ! 津波が!!!」
隕石の落下した場所から溢れ出すように、波が押し寄せてきていた。
エヴァンがふわっと飛んで屋根に上がる。
パチンッ
「ふぅ・・・」
指を鳴らして俺とレナ、自分以外の時間を止めていた。
「”オーバーザワールド”じゃ効かないと思ったけど、今は効くみたいだ。理由はわからない」
エヴァンが隣に並ぶ。
「わ、すごいですね」
波が5メートルもの高さになり、漁港を飲み込もうとしていた。
レナが氷の剣を出して、屋根を歩いてくる。
「時止め・・・今の私でさえ使えない魔法です。エヴァン、こんな魔法連発していたら敵なしじゃないですか。もしかして今までもこんな感じで・・・?」
「まぁね」
「ふうん」
エヴァンが得意げに言う。
レナがちょっと膨れた。
「では、ここからは私がやります。ヴィルとエヴァンはそこにいてくださいね」
レナが海のほうへ降りていく。
空中で円を描くように大きく回った。
一つ一つ、空中でステップを踏むようにして、魔法陣を展開していった。
巨大な氷のシールドが現れてくる。
「ねぇ、これって・・・」
「星の女神アスリアの力が目覚めたんだろうな」
「サタニアが・・・マジか・・・」
「事態が飲み込めないが、アイリスが”悪魔のアイリスの魔力が消えた”と話していたのとも繋がる」
「最悪じゃん・・・ラグナロクが星の女神復活説を否定する要素は?」
「探してるところだ」
「・・・・・・・」
エヴァンが神妙な顔でレナの舞を眺めていた。
七つの大罪がサタニアを・・・・?
いや、信じられなかった。
悪魔のアイリスはどうなったんだ?
『へぇ、時止めできる者いるんだ。あ、今、力を貸したのは私だよ。じゃなきゃ、”オーバーザワールド”で時は止められない。神が違うからね』
「!」
突然、エヴァンの横に腰までの長い髪を持つ女が現れた。
しゃがんでレナのほうを見つめる。
『綺麗な舞だね。純粋で癒されるなぁ』
「君は誰? 時止めから除外したのは俺とヴィルとレナだけなんだけど」
エヴァンが剣に手をかけながら言う。
『私はライネス。あ、聞き取りにくいね。私はライネス、”オーバーザワールド”の時空の魔女だよ』
ライネスが空中から小さな砂時計を出す。
ひっくり返して星型の砂が流れると、ライネスの声はクリアになっていった。
「これで聞こえるようになったでしょ? 君はこの世界の時間の管理者?」
「違うよ。俺はただの時帝、時の神クロノスの雇われ人だ。ある程度時空の行き来を許されているけど、管理者ではない」
「ん? ”オーバーザワールド”の仕組みと違うのかぁ」
ライネスが片目を長い髪で隠したまま話していた。
「で、もう一つ質問なんだけど・・・」
ライネスが立ち上がって、青い瞳を光らせてこちらを見る。
「星々を落とす、あの力はヤバいと思うんだよ。”オーバーザワールド”の決まりを潰そうとしているよね。こんなことをするのは、何の神なの? 私たちの敵ってことでいいよね?」
「さぁな。お前らの世界なんか知らない」
ライネスを睨む。
星の女神アスリアのことはまだ掴んでいないようだ。
当然か。
時間の問題だろうけどな。
「ふうん・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
ライネスが左右に揺れながら、視線を逸らした。
「まぁいいや。そのうちわかること。あの子が踊り終わったら、時止めも解くよ。私、あの舞が気に入ったからね」
「りょーかい」
エヴァンがつまらなそうに自分の指を鳴らしていた。
レナは軽やかに回りながら、氷の壁を大きく大きく広げていく。
こちらの声は全く聞こえていないようだ。
「それにしても、綺麗な舞だなぁ。時が止まってるみたいだ。実際止まってるんだけどねぇ」
ライネスがぼそっと呟く。
4人しかいない時間の中で、レナの氷の弾ける音だけが響いていた。
読んでくださりありがとうございます。
英雄の帰還ってワクワクしますよね。
私もゲームをしていて、ボス倒して歓迎されると嬉しかったです。
(ゲームしているときは異世界転移してると思ってます)
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
次回は週末アップを目指します。是非是非また見に来てください!




