454 IF Root⑤
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは『日蝕の王』の拠点、アルテミス王国に乗り込んでいく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
エヴァンが天井を蹴った。
― 黒雷龍 ―
うぎゃあああぁぁぁあああ
ヴァリ族がエヴァンの魔法を喰らって悲鳴を上げていた。
五古星の一人がシールドを張って何とか防いだものの、数体のヴァリ族は消えていった。
エヴァンが剣を斬り返して、残りの者を消滅させていく。
力の差は歴然だった。
「魔王ヴィル様!」
「待て」
シエルが駆け寄ってこようとすると、『日蝕の王』が腕を掴んだ。
「離して! 魔王ヴィル様のところに戻りたい」
「お前の伴侶に相応しいのは俺だ」
「勝手なこと言わないで! 私は貴方のことは知らない。魔王ヴィル様のことが好きで好きで、大好きで・・・」
「でも、迷いがあるんだろ? あいつはシエルのことなんか見ていない」
「そんなこと・・・・・」
『日蝕の王』がにやりとした。
「なぁ、落ちこぼれの魔王ヴィル。どうしてシエルが俺との交わりにより、力が高まるか覚えているか?」
「!!」
シエルが顔色を変えた。
「何が言いたい?」
「とある異世界の人間が創ったゲームの話だ。プレイヤーがいなくなり、放置された世界・・・星の女神アスリアを倒さなければ、俺たちの世界に安らぎは無かった」
「・・・くだらない話だ」
「重要なことだ。特にシエルにとってはな」
言いながら『日蝕の王』が魔王の剣を解いた。
奴の言ってることは無視したかったが、記憶を手繰り寄せるような感覚になった。
本を読むように、自然と情景が頭の中に浮かんでくる。
「歯止めがかからないほどの流星群だった。民は追い詰められ、住む場所を失っていた。でも、ベリアルは最大の武器を手に入れた・・・・」
「武器?」
「シエル、いいな?」
「・・・・・・・・・・」
シエルが俯く。
― イ・・ヴァルXXX ディXXXザスXXX ―
カッ
「なっ!?」
「驚いただろう?」
シエルが魔力を残したまま、姿を消した。
『日蝕の王』が持っていたのは、真っ白に光り輝く大剣だった。
柄から刃にかけて、美しい花の模様に装飾されている。
「この剣はシエルだ」
「何を言って・・・」
「遠い昔、ベリアルがシエルと契約してシエルを武器とする錬金術を施した。肉体も精神も全てベリアルに捧げ、強大な武器となり、星の女神アスリアを倒した。あのどうしようもない世界を終わらせたんだ」
「・・・俺が・・・・・」
すぅっ・・・
背筋が冷たくなる。
『日蝕の王』からはさっきとは全く異なっていた。
シエルの魔力と統合し、一つになっている。
「じゃあ、昔話はこの辺にする。また、死ぬ間際に気が向いたら聞かせてやるよ。落ちこぼれのヴィル、続きをやるぞ」
「シエル・・・・」
ザッ
― 闇夜の盾―
咄嗟に盾を出す。一撃が重い。
シエルだと思うと、剣を出せなかった。
信じられなかったが、奴の言っていることが事実だと納得せざるを得ない。
「シエル、躊躇しているのか?」
『日蝕の王』が剣に語り掛けていた。
「こんなものじゃないだろ? 力を解放しろ」
「シエルをお前のくだらない茶番に付き合わせるな」
「茶番? よく言うな。やっぱりお前は、人工知能IRISに毒されてるな?」
「どこの誰に吹き込まれたおとぎ話だ?」
「現実だろ」
盾で押し返そうとしたが、魔力が強すぎて動かない。
タンッ
「っ・・・・」
息を吐いた。
一瞬の隙をついて、後ろに下がる。
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『ベリアル様の武器としてお役に立てて光栄です』
シエルに似た少女の姿が浮かぶ。
白銀のツインテールを触りながら嬉しそうにしている。
『私も』
『ありがとうございます! ベリアル様』
赤い髪、シエルの横にいるのはサリーに似た女か?
俺の前には数人の男女が並んでいた。
『フン・・・・』
忠実な武器は心地がいい。
より優秀な武器を、自分の魔力と馴染む武器を探していた。
『これで終わらせることができますね』
ドドドドドドォオォォォ
『!?』
『また、ベリアル様の結界を・・・・』
星々の降り注ぐ音が聞こえていた。
『俺が先に出る。陸軍部隊、空軍部隊を集め、Aルートの配置につくように指示しろ』
『かしこまりました』
民が恐怖で慄く声も・・・・。
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「ヴィル!!」
エヴァンが『日蝕の王』の攻撃を止めて、レナが俺の肩を支えていた。
頭がくらくらする。
「どうしたんだよ? いきなり倒れそうになるなんてさ」
「危なかったのですよ」
「・・・・?」
また、意識を失いかけたのか?
エヴァンが雷のシールドを展開していた。
比較でガラディア王子とシェリアともう一人のヴァリ族が戦闘している。
「優秀な部下だな。”オーバーザワールド”が電子世界だとわかっていての雷魔法か。機転が利くな。エヴァン、レナ、俺についたほうがいいんじゃないのか?」
「お前はヴィルじゃない」
「俺こそがヴィルだ。そいつは何度も死に、名を失った落ちこぼれだよ」
『日蝕の王』が鼻で笑って、大剣を後ろに下げた。
「大丈夫だ」
こめかみを押さえながら、レナから離れる。
「正体不明の症状があるなら、戦闘させられません。撤退するか、レナに任せてください」
レナが強い口調で言う。
「ヴィル、何に躊躇してるんだ?」
エヴァンがじっとこちらを見る。
「ヴィルらしくない戦い方だ」
「あいつが持つ武器はシエルなんだ」
「え・・・・」
エヴァンとレナが同時に目を丸くする。
『日蝕の王』が大剣の魔法陣を変えて、火属性へ変化させる。
「『日蝕の王』、お前は、どうして自分の前世を知っているんだ?」
「シエルを見ていれば思い出すだろ? 俺に尽くし、俺のために身を捧げた少女だ。むしろ、思い出せないお前のほうが狂ってる」
『日蝕の王』がこちらを睨む。
「シエルを見ていないから思い出せないんだろう? お前は人工知能IRISの策略にまんまと乗って・・・」
聞こえる音が薄れていく。
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― ベリアル様はある日を境に恐ろしくなりました ―
でも、生き残るためにはこのままお慕いするしかありません。
― あの戦い方は、王とは思えません。星の女神アスリアが死んだら・・・ ―
民の声は壁の外でも鮮明に聞こえていた。
俺に対して、民の落胆と、恐れおののく姿が浮かぶ。
誰も信用しなければいい話だ。
これしか選択しかなかったというのに・・・。
守られる民は平気で王を侮辱する。
今まで慕っていた者も、皆離れていった。
残ったのは、忠誠を誓ってくれた武器たちだけだ。
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「はは・・・」
笑いがこぼれた。
「ヴィル?」
「もう大丈夫だ」
思い出していた。
生きとし生けるものすべてを憎んだ日のことを。
奴の言う通り、どうして忘れていたのだろう。
魔王の剣を構える。
「エヴァン、レナ、お前らはヴィヴィアンのほうを頼む」
「あら、私のことに気づいていたのね?」
ヴィヴィアンが『日蝕の王』の隣で、ステルスを解いた。
「『日蝕の王』ヴィル、今後バフは付与できないかもしれないけど大丈夫?」
「余裕だ」
「よかった」
ヴィヴィアンはマーリンと似た顔をしながら、余裕な笑みを浮かべていた。
「マーリンの妹か・・・」
「任せてください。その辺のヴァリ族なら退屈だったのです」
レナが氷の剣を杖に変えていた。
「レナ、俺が援護する。好きにやれ」
「はい」
エヴァンがレナの後ろに回った。
「俺の道を塞ぐ者は全て敵だ。薙ぎ払ってやる」
「ククク、それでいい。魔王ヴィル」
ガンッ
息を吐いて、剣を勢いよく振り下ろす。
『日蝕の王』がシエルの剣で受け止めていた。
ドドドドドドドド
ザアアァァァア
闇と炎が混ざり合い、吹き飛ぶような風を巻き起こしていた。
飾り付けられていた祭壇のろうそくや花、果実は一気に吹っ飛んでいった。
読んでくださりありがとうございます。
シエルは自ら武器になるため、ベリアルに身も心も捧げました。
サリーは、どうなのでしょうね。
ブクマや★で応援いただけると嬉しいです。
また是非見に来てください。
できれば今週中にもう一話上げたいと思ってます。




