451 IF Root②
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは『日蝕の王』の拠点、アルテミス王国に乗り込んでいく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ガラディア王子・・・ポセイドン王国第一王子。陸軍のトップ。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「え!? ヴィルとシエルが結婚エンドなの?」
「ヴィルはアイリスをとらなかったのですか!?」
「話をよく聞けって。俺じゃない」
ヴァリ族を10体くらい倒して一息ついていた頃、最初のヴァリ族の話していたことを伝えた。
「うわぁ、マジか。デマとかじゃなく?」
「知らん。奴らが死に際に話してたことを伝えただけだ」
「でも! でも!」
エヴァンとレナが興奮気味に話してくる。
「ヴィルはシエルを選んだのですね!? これは驚きの展開です」
「『日蝕の王』だ。紛らわしいな」
「そうゆう選択するのか。アイリス様、悲しむだろうな」
「だから・・・」
アイリスと出会っていなかった世界の、俺の選択は本気でシエルを妃とするようだ。
シエルの力を最大限に引き出し、ヴァリ族を増やして勢力を強めるためか。
魔族を潰そうとしているのだろう。
キィイイアアア
突如巨大化して獣のようになったヴァリ族が襲い掛かってくる。
レナが人差し指を天に向ける。
― 氷蓮華 ―
敵に背を向けたまま、氷の花を出した。
くるくる回りながらヴァリ族の足元に落ちると、一瞬で凍らせていた。
ザザザザザアァァァァァアア
「ヴィルが結婚・・・結婚式ってなんだか久しぶりな感じがします。何百年ぶりでしょうか」
レナが口に指を当てた。
「・・・・すごいな・・・敵も見ずに」
「マジでチートだね」
ガラディア王子が剣を持ったまま、硬直していた。
リュウジがガラディア王子と並ぶ。
「何百年って・・・エルフ族って結婚式挙げないの?」
「もちろん挙げますよ。でも、頻繁にはありませんし、そもそも人間の時間の流れと違うので。レナだって、まだ結婚適齢期ではありません」
「何歳から適齢期なんだ?」
「1200歳頃からです」
「レベルが違うな・・・」
「少なく見積もって、人生12周しなきゃいけないって」
「ガチで強キャラだよね。君たち」
リュウジが記録用のゴーグルを消して、歩いてくる。
「まぁね」
「ここまで12体のヴァリ族の戦闘を記録できたよ。データはアイリスに送ってる。あ、音声は消してるから安心して」
「よかったね、ヴィル」
「俺は別に・・・・・・」
頭を搔いて、ため息をついた。
「城下町のわりにはヴァリ族が少ないな」
「確かに。人間がヴァリ族になったなら、もっと出てきてもいいと思うけど」
エヴァンが周囲を見渡す。
どの国にもある普通の城下町が広がっていた。
正面のパン屋らしき店は、看板に今日のおすすめという文字が書かれている。
建物の中から人間が出てきても驚かない。
人の生活を感じられる街並みだった。
「もしかして、みんな結婚式に向かってるのですか?」
「その可能性が高いな」
「なんか、デジャブなんだけど、前も結婚式ぶち壊したことなかった?」
「二回目だ」
「因果応報で俺の結婚式はぶち壊さないでくれよ」
「まずは結婚相手を探してから言え」
エヴァンが嫌そうな顔をする。
ザッ
『外の者たちがアルテミス王国に乗り込んできたから何かと思えば・・・フフフフ、闇に誘われてきたってことかしら?』
黒い尻尾を持つ少女が現れた。
瞳は深海のように蒼く、骸骨のついた杖を持っている。
「人の言葉を話すヴァリ族・・・」
『そう。私は『日蝕の王』に仕える五古星の一人、他のヴァリ族とは違うわ』
「五古星?」
『『日蝕の王』に名付けていただいたの』
どこかで聞き覚えのある名だった。
こめかみを軽く抑える。
「ニーナ・・・」
ガラディア王子が前に出た。
『あら、ガラディア王子』
少女がにやっと笑った。
「知り合いなの?」
「アルテミス王国の軍とギルドにいた賢者だ。SS級クエストで、プレイヤーと共に行動して、名を上げた者でもある」
『懐かしいね。でもプレイヤーと一緒なんて心底嫌だったなぁ』
骸骨の杖を回して、地面に魔法陣を展開した。
『悪いけど、長話するつもりは無いの。知り合いだろうと、殺す』
― リアスー・エイ・ビス ―
ゴオォオオオオオ
魔法陣の中から炎のドラゴンが現れた。
レナが瞬時に動いて、氷の剣で炎のドラゴンを封じた。
『え・・・・』
ザッ
レナが氷の剣を消す。
「その程度の力で本当に勝てると思ってるのですか?」
『!?』
「無理だと思いますよ」
『そんな・・・魔力では私のほうがはるかに勝っていたはず』
人差し指を少女の額に向けた。
「魔力なんて飾りですから。レナも長話は嫌いなので」
『っ・・・・』
レナが撃ち抜こうとしたとき、どこからともなく漆黒に燃える球が飛んできた。
カンッ
瞬時に魔王の剣を出して球の軌道を逸らす。
ドーンッ
地面に食い込んで、回転しながら煙を噴き出していた。
『『日蝕の王』に仕える者が、こんな簡単に隙を突かれないようにして』
『ごめんごめん。気を抜いちゃって』
シスターの恰好をした者が剣を持ったまま、屋根から降りてきた。
「シェリア!!」
ガラディア王子が声を上げる。
少女がゆっくりと振り向いた。
額に薔薇のような赤く光る痣が浮かび上がっていた。
『あー、彼ってシェリアの婚約者だったポセイドン王国の王子じゃないの?』
『・・・・・・・・』
シェリアがじっとガラディア王子を見つめる。
耳は尖っていて鋭い牙が見えた。
「シェリア、君は聖女だった。いつも皆の平和を祈っていたじゃないか」
『この前は殺し損ねた』
シェリアが冷たく言う。
「・・・・」
エヴァンが無言で剣を構える。
『今度こそ殺す』
『ねぇ、シェリア。もうすぐ式が始まっちゃうよ』
少女がシェリアを止めていた。
『でも・・・』
『ここで魔王一行を殺すように指示されてないでしょ?『日蝕の王』にも考えがあると思うの』
『・・・ここで見逃すのは惜しいけどニーナの言う通りね』
「待ってくれ」
魔王の剣を持ち直したとき、ガラディア王子が前に立った。
「シェリア! 記憶を・・・思い出してくれ。聖なる魔力に満ちていた頃を・・・」
『私はヴァリ族に生まれ変わったの。ゲームの仕様通り、力が漲るヴァリ族となった。人間だった頃の話なんてどうでもいいわ』
どこかで聞き覚えのある言葉だ。
ジジジ ジジジジジ
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『昔の話はどうでもいい。今の話をしろ』
『このゲームを終了させるにはXXXXを倒すしかない』
『はい。そのような仕様・・・となっておりますので』
『馬鹿馬鹿しい。その呪縛から逃れられないのか』
『運命ですよ』
荒廃した城の風景が浮かび上がる。
『俺たちは、その後どうなる?』
『XXXXはXXXXと生まれ変わるのでご安心を』
『どこまでもプレイヤーのおもちゃだな』
『私は生まれ変わりたくありません。ずっとここでベリアル様と一緒に・・・』
話しているのは妖精のような少女と、異世界の者なのか?
腹の底から湧き上がる、燃えるような怒りを・・・。
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「ヴィル」
「!?」
はっと我に返る。
レナがドラゴン化した俺の手を押さえていた。
「どうしたのですか? 今はその力を使う時じゃありません」
「あぁ、悪い。最近夢見が悪くてな」
「ヴィル・・・・」
「向こうも俺たちのこと待ってるらしいじゃん。面白そうだから逃がしたよ」
エヴァンが剣をしまった。
「結婚式かぁ、美味しい食べ物とかあるといいな」
「エヴァンは食べ過ぎですよ」
「レナには言われたくないな」
レナが少し膨れる。
「今の戦闘記録はアイリスに送っておくよ。あの攻撃、普通のプレイヤーにとって最悪なウイルスが入ってたみたいだ。これも連携しておこう」
「あぁ・・・頼む」
リュウジがモニターを出して、指を動かしていた。
「クソッ・・・」
ガラディア王子が頭を抱える。
「顔も声も仕草も全てシェリアだ。なのに、どうして・・・俺たちは”オーバーザワールド”に縛られたままなんだ? 天界は堕ちて、ストーリーは変更、プレイヤーもいなくなったのに・・・」
「それは仕方ないよ」
リュウジが声をかける。
「君らは”オーバーザワールド”のゲームの登場人物。どうやったって、その事実は変えられないんだから」
「・・・・・・・・」
ガラディア王子が悔しそうに息を吐いていた。
「行こう。ガラディア王子、シェリアが五古星だか何だか知らないけど、次襲い掛かってきたら、容赦なく殺すからね」
「・・・・わかってるよ。でも、次は俺に任せてくれ。他人の手で殺されるくらいなら自分でやりたい」
「あ、そ」
エヴァンが視線を逸らしたまま言う。
ガラディア王子が重い足取りでこちらに歩いてきた。
「はい、これで大丈夫ですよ。ヴィル」
「ありがとな」
「”オーバーザワールド”と接続してるからだと思いますが、ドラゴン化するときの魔力の放出が激しいです。気をつけてくださいね、また暴走しますよ」
「肝に銘じておくよ。でも、どうしてこんなことできるんだ? この力は異世界の力だろ。レナがいくら長命なエルフ族だからといって、異世界の知識までは持ってないだろ」
「・・・どうしてでしょうね・・・自分でもわかりません」
俯いたままほほ笑む。
シュウウゥウウウ
レナの手が離れると、ドラゴン化していた手が元に戻っていった。
読んでくださりありがとうございます。
ゲームの仕様はなかなか変えられないですよね。ガラディア王子は奇跡を起こせるのか・・・。
また是非見に来てください。
次回は来週アップしたいと思います!




