448 ポセイドン王国③
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城から『日蝕の王』の拠点、アルテミス王国に向かっていた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「なるほど。時間のループから外れたのが『日蝕の王』となっているのか。どおりで瓜二つだ」
「奴の顔を見たことがあるのか?」
「あぁ、ローブのフードを深々と被っていたが、ヴァリ族がここに攻め込んできたとき、一瞬だけ顔が見えた。よく目に焼き付けたよ」
ガラディア王子がハーブティーを飲みながら話していた。
メイドのミュレイがお菓子を並べていく。
「時間のループなんてあるとはね。そんな神みたいな魔法、使える者がいたのか?」
「まぁな。今は使えない」
「ん? 使えた者が殺されたとか?」
「・・・そんなところだ」
適当に答えていた。
俺が時空退行を使えるということは、上位魔族ですら知らない。
「これ美味しいです」
「いいよな、レナは気楽で」
「美味しいものが一番なのです」
レナが嬉しそうにマカロンをちびちび食べていた。
エヴァンが頬杖をつく。
「奴と戦ってどうだった?」
「冷酷な目をしていたよ。残酷で手段は択ばない目、絶対的な力を持っていた。俺は、あの時死んだと思ったんだ」
「ヴァリ族を追い返せたのか?」
「いや、急に『日蝕の王』が引き上げるよう指示を出したんだ」
窓から柔らかな日差しが差し込んでいた。
「兵士たちは自分たちの勝利だと騒いでいたけどね。確かに多くのヴァリ族を倒せたが、『日蝕の王』はいつでも俺たちを全滅させることができたはずだ」
「だろうな」
ナッツの入ったクッキーを口に放り込む。
アイリスが好きそうな味だな。
「ねぇ、兄・・・じゃなくて、ガラディア王子」
「はは、兄さんでいいって。いきなり、気色悪いなぁ」
トムディロスがハーブティーを飲んで言いにくそうに口を開ける。
「婚約者がいたって・・・風の噂で聞いてたんだけど。その、アルテミス王国に・・・」
「シェリアのことか」
ガラディア王子が深呼吸をする。
「ヴァリ族になっていた。一度目の大規模戦闘時に会ったよ」
「!!」
「どうしてわかったの? だって、ヴァリ族になったら姿が変わるじゃん。獣になる者もいるらしいしさ」
エヴァンがお菓子を食べながら聞いていた。
「わかるよ」
ガラディア王子が確信を持った目で、肘をつく。
ハーブティーの表面をじっと見つめていた。
「ヴァリ族の幹部になったらしい。シェリアは修道女、元々魔力もあったから・・・いや、シェリアの姿のままだったけど、あれはシェリアじゃなかったな」
「そうか・・・聞いて悪かった。もう話さなくていいよ」
エヴァンが途中で話を止めた。
「俺にも似たようなことがあったから」
「ん?」
「で、ヴィルは行くんだろ? いつ出発するの?」
「早いほうがいい」
「そうだ。確か・・・・」
チャラン リリリリリ
「?」
いきなりリュウジのほうから不思議な音が鳴った。
リュウジが空中で指を動かして、モニターを表示する。
「あぁ、アイリスからだよ。ちょっと待って、接続するから」
「は?」
ハーブティーを噴き出しそうになった。
「なんでアイリスが・・・・」
「モニターのパスコードキーを渡されたんだよ。いつでもやり取りできるようにって」
いつの間にかアイリスも自分のモニターを出せるようになってるし。
異世界のことはアイリス任せで、わかっているようでわかっていないんだよな。
「彼はプレイヤーなのか?」
「プレイヤーだし、アバターなんだけどなんか色々あって残ってるんだよ」
「確かにプレイヤーのような、別のゲームの者のような不思議な魔力だな」
ガラディア王子が少し驚いたように、リュウジのほうを見ていた。
『あ、繋がった。魔王ヴィル様ー!! リュウジ、魔王ヴィル様を呼んで』
アイリスの声が響く。
お菓子を喉に詰まらせそうになった。
「ご指名だよ。魔王ヴィル」
「アイリス・・・・」
軽く咳払いをして、リュウジが出したモニターの前に座った。
『魔王ヴィル様!!』
「魔王城で何かあったのか?」
『ううん。なんだか寂しくなって。魔王ヴィル様、そろそろアルテミス王国についたころだから、連絡してみた』
「だろうな。戦闘中だったらどうするつもりだったんだよ」
『大丈夫。魔王ヴィル様が現在どこにいるのか、追跡用の魔法石をつけて、魔法ヴィル様の様子を確認してたの』
「げっ・・・つけてたのか!?」
マントの裏側を見ると、小さなアクアマリンの魔法石がついているのが見えた。
全く気付かなかった。
夜話していた時につけられたのか?
これなら、ヴァリ族も気づかなかった可能性があるな。
「アイリス・・・」
『だって、魔王ヴィル様が無理しちゃわないか心配で』
「戻るって言っただろ?」
頭を搔く。
『でも・・・やっぱり私もそっちに行きたい。魔王ヴィル様、役に立てるよ』
「駄目だ。すぐ戻るって言っただろ?」
『魔王ヴィル様のすぐは10日くらいかかるんだもん』
「絶対駄目だ。ウイルスの危険性だってあるんだからな」
『もう・・・・・』
アイリスがモニター越しに膨れていた。
『じゃあ、せめてその追跡用の魔法石は付けておいて。魔王ヴィル様に何かあったら、私、すぐに向かうからね! 位置だってわかってるんだから』
「わかったよ」
『このモニターを通じて、1日1回連絡してね』
「面倒だな・・・こっちは戦闘中だろ」
『戦闘してる魔王ヴィル様を見る』
「無茶苦茶だな・・・」
エヴァンがこちらを見てにやにや笑っている。
アイリスとの生産性のないやり取りがしばらく続いた。
「ねぇ、アイリス」
リュウジがアイリスの会話を切った。
「ユイナはどうしてる?」
『”オーバーザワールド”と完全に接続した場所を、上位魔族と確認してるよ。私が説明してもいいんだけど、ユイナのほうが説明上手いから』
アイリスがふっと笑った。
『こっちにヴァリ族は来ていない。安心して。森の向こうでヴァリ族を見つけたんだけど、ザガンたちが殲滅したから』
「そうか。じゃあ、安心だな」
「へぇ・・・人工知能IRISか。確か”オーバーザワールド”のトーナメントに出てたよね?」
ガラディア王子が覗き込んできた。
『今はアイリスだよ』
「あぁ、そうだよな。悪かった。俺はポセイドン王国の第一王子ガラディアだ。アイリスの目線から我が国の状況を判断してほしい。力を貸してほしいんだ」
『闇の魔力の侵食率を見てほしいってことね。分析してみる』
「頼む。ミュレイ、ここ数日の国のデータを・・・リュウジデータの共有を頼めるかな」
『かしこまりました。少々お待ちください』
リュウジがモニターを2つ出して、片側に異世界の文字を流していた。
「へぇ、よくできてるな。ここで場所を特定してるのか」
『コードが読めるのですね?』
「まぁ、多少は。あ、この部分は省略させたほうがいい。読み込み速度が速まるから」
エヴァンが口を出すと、ミュレイが少し驚いたような顔をしていた。
あくびをしながら、お菓子の並んだテーブルに戻る。
レナとトムディロスがもくもくと食べていた。
「あまりものの3人ですね」
隣に座ると、レナが口のお菓子を拭きながら言ってきた。
「ははは、そりゃ、アイリスが出てきたら、ここの住人はみんな驚くよ。隙が無く、完全完璧で、有名な自立型Vtuber。”オーバーザワールド”を広めた者でもあるからね」
「俺には天然で方向音痴な女の子だけどな」
「それは、魔王ヴィルだけに向ける素顔じゃないのか?」
「・・・・・」
トムディロスが頬をたぷたぷさせて食べていた。
「俺らはともかくトムはいいのか? 向こうに入らなくて」
「俺も仕様とか仕組みとか、そうゆう難しいことはわからないよ」
大きなパイを切って自分の皿に移していた。
「兄様たちが上手くやってくれる。俺は足手まといの第三王子だし」
力なく笑った。
「でも、この国が無事でよかった」
「・・・・・」
レナが何か言いかけて口をつぐむ。
窓のほうを見つめる。
風に乗って、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてきた。
ゆっくりとハーブティーを飲む。
「・・・・え・・・と、レナもラグナロクから世界を守った時に、そう思ったのです。勇者ゼラフは死んで、様々なことが変わりましたが、あの時だけは・・・」
「勇者ゼラフとお前の関係は何なんだ?」
「うーん、なんだったんだろう」
レナが顔をしかめて唸った。
「仲間じゃないの?」
「では仲間ってことにしておきます。あ、これ、食べちゃいますよ」
「あ! それ、俺が最後に残しておいたミートパイの一切れだったのに!」
「早い者勝ちです」
レナが話を逸らして、ミートパイを自分の皿に移していた。
トムディロスがぶつぶつ文句を言いながら、クッキーを2つ皿に載せた。
「やかましい奴らだな」
窓のほうに視線を向ける。
柔らかな日差しで、視界が白くなった。
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― 日蝕の王、ベリアル様!―
― あいつを殺さなきゃ終わらない。プレイヤーの手で・・・・―
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「!?」
はっとしてこめかみを押さえる。
また・・・あの夢の続きを・・・?
「ヴィル、どうかしましたか?」
「いや・・・少し、本を読みすぎただけだ」
「?」
ハーブティーを注いで息をつく。
カモミールの香りが頭痛をやわらげた。
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