447 ポセイドン王国②
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城から『日蝕の王』の拠点らしき場所に向かっていた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
パン パン
「!!」
手を叩く音が聞こえた。
民衆が一斉に振り返る。
「何事だ?」
「ガラディア王子!」
「トムディロス王子の連れてきた者たちが・・・」
「そうです。こいつらが急に襲い掛かってきまして、武器を持たない民衆まで攻撃をしようとしております」
少し離れた場所にいた陸軍兵士たちが説明をする。
「開けてくれ」
ガラディア王子はトムディロスと似た目と鼻を持つ青年だった。
マントを後ろにやってこちらに歩いてくる。
民衆がすっと道を開けた。
「・・・・・」
魔王の剣を消す。
エヴァンに掴んでいた2人から離れるように指示した。
「命拾いしたな。言っとくけど、俺は本気だったからな」
「っ・・・」
エヴァンが小声で吐き捨てた。
剣をしまうと、兵士たちが腰を抜かしていた。
「どうした?」
「こいつらが急に暴れだして、民衆を襲おうとしたんです!」
「元の世界の魔王とのこと。顔も奴と瓜二つです! 危険人物です」
「トムディロス王子が連れてきたんですよ。ど、どうなってるんですか?」
「確かに似てるが、何か事情があるんだろう。魔力の質が違う」
ガラディア王子が俺をまじまじと見る。
「・・・・・・・」
トムディロスが視線を逸らして黙っていた。
「ミュレイ、状況を説明してくれ」
『かしこまりました』
ミュレイがカチューシャの位置を直す。
『ここにいる民衆がトムディロス王子含め魔王ヴィルの仲間を侮辱しました。会話の内容につきましては、記録に残っております』
「な・・・・!!」
『きっかけを作ったのはここに居る者たちと見えます』
ミュレイが淡々と言う。
文句を言っていた民衆たちが焦りながら、人ごみに流されるようにして掃けていった。
ガラディア王子が腕まくりして浅黒い肌を見せる。
「ほぉ・・・それが真実か。陸軍兵士ともあろうものが、客人を侮辱するなど、会ってはならないことだ」
「でも、が、ガラディア王子・・・・・・」
「処分は後で決めよう。客人の前だ、去れ」
陸軍兵士に詰め寄る。
「し、失礼します!!」
青ざめた表情でガラディア王子に頭を下げて逃げていった。
ガラディア王子がトムディロスのほうを見る。
「トム、気にするなって言ってるだろ」
「俺は別に、き・・・気にしてないって!」
トムディロスが顔を真っ赤にして言った。
「やぁ、トムの仲間だね。はるばるこの地にまで、よく来てくれた。我が国民の無礼を心から詫びる」
ガラディア王子が真剣な表情で、深々と頭を下げた。
「まぁ、こっちは邪魔されたら殺すだけだ」
腕を組んで息をつく。
「そうそう、俺らならこの国を更地にすることだってできるからね。言葉もナイフって言うだろ?」
「・・・・・・」
「正当防衛だ。次同じこと言ってきたら、全員まとめて殺してやる」
エヴァンが残っていた民衆を睨みつけながら言った。
ガラディア王子の顔を見て、転げるようにして逃げていく。
「ミュレイ、俺が彼らを案内する。兵士の処罰はデータを見て決めるから、データを俺のほうまで送ってくれ」
『かしこまりました』
ガラディア王子がこちらを見た。
「ついてきてくれ。今は戦闘がひと段落したところだ。ここで立ち話するより、城の中に入ったほうが何かと都合がいい」
「あぁ」
砂埃を払って、ガラディア王子についていった。
海の風が心地よかった。
時折見える海が珍しいのか、レナが何回か立ち止まっていた。
ポセイドン王国の民衆は、闇落ちしていないものの、異世界のネットに毒されている部分があるのだという。
「ネットって、プレイヤーやリスナーが情報交換に使う電子空間だよな?」
「あぁ、こっちの世界の者なのによく知ってるね」
「異世界がかなり侵食しているからな。基礎知識ぐらいは持ってる」
「じゃあ話は早いな」
主にアイリスから説明を受けた知識だけどな。
レナが首をかしげてエヴァンに何か聞こうとしていたが、静かにするように促されていた。
「レムリナ姫がAIにやられただろ? AIの思考にもネットでの情報が入って来ているんだ。前は楽しいとか明るい書き込みもあったが、今は恨み、妬み、嫉妬が主な感情だろう」
ガラディア王子が城下町の階段を下りながら言う。
「突然のサービス停止でプレイヤーも損害を受けているらしいからね」
「だろうね」
エヴァンが階段を一段飛ばしで降りた。
「人工知能は人間より数倍の情報を取得して人格を形成させると言われている」
「このゲームのキャラも負の感情を集めてるってこと?」
「あぁ、俺はまだ自覚がないが・・・・”オーバーザワールド”をコントロールしていた、レムリナ姫もジェラス王も力を失った。秩序が崩れかけていることは確かだ」
ガラディア王子がため息をついた。
「ここからは俺の想像でしかないが、ネットで”オーバーザワールド”に向けられた反応は、この世界の闇となって漂っているように思える」
「げ、マジかよ」
エヴァンが心底嫌そうな顔をした。
「確証はないけどね。元々、”オーバーザワールド”に住む者たちはそうゆう仕様で創られてるしい。闇の王がいなくても、ヴァリ族には何の支障もない。むしろ、奴らは前よりもずっと勢力を増しているよ」
「・・・なるほどね」
リュウジが口に手を当てていて納得していた。
「想定通り、ネットは荒れてるんだよ。ちらっと異世界の様子を見たけど、”オーバーザワールド”のサービス停止が話題に上がってる。ランキングには常に入っていたし、コストもかかっていた。ユーザーの怒りも相当だと思うよ」
風が吹いて、花壇の花が揺れていた。
リュウグウノハナに似た花のように見える。
「勝手な奴らだな。自分の世界があるくせに」
「・・・・そうです。だって、遊びで来てるんですよね?」
レナが両手を握り締めながら声を絞る。
「レナたちはゲームじゃありません。生死をかけてるのです」
「俺たちも」
ガラディア王子が遠くを見つめる。
「好きでこんな仕様で生まれたわけじゃない。ポセイドン王国の我が軍はヴァリ族からの攻撃には耐えられている。でも、民の心は危うい」
子供たちが噴水の周りを走っていった。
「他国の闇落ちの瞬間は一度も見たことないが、ヴァリ族に勝利しても・・・」
「まぁ、そうゆう重い話は後にしてさ」
トムディロスがガラディア王子に並んだ。
「俺、ブレイブアカデミアにいて、大分強くなったと思うんだけど」
「はははは、そうか」
「いや、笑い事じゃなくて。魔法防衛術とか大分うまくなったんだよ」
「ん? ブレイブアカデミアが嫌で辞めたんじゃないのか?」
「違うって」
『トムディロス王子はメイリアという少女のストーカーをして、ブレイブアカデミアをご退学されました』
「ミュレイ! つか、どこの情報だよ!」
『アポロン王国のアンドロイドより、連絡がありましたので』
「誤解だって。いや、誤解じゃないかもしれないけど誤解だ!」
トムディロスが必死に否定していた。
ガラティア王子が目を伏せがちにしながら笑っている。
ポセイドン王国城下町の先には、大きな城があった。
軍の兵士たちが整列して道の両端にいた。
「ガラディア王子、トムディロス王子、おかえりなさいませ」
「おかえりなさいませ」
敬礼をしていた。
魔導士、賢者、剣士、アーチャー、ランサー、たまに召喚士もいるようだ。
「なんか、今までの中で一番、軍隊って感じがするかも」
「アリエル王国の軍は弱かったもんな」
「本当、あいつら阿保だから、俺が仕切らなきゃもっと死んでたよ。ま、最終的には消されたけどね・・・」
エヴァンが敬礼する兵士を見つめながら言う。
「お前がいない間はどうしてたんだ?」
「アイリス様がいたから、救われてたんだろ。民には知らされていなかったと思うけど、アイリス様が単独で戦闘、敵を殲滅していたんだ」
ギィイイイ
城の大きな門がゆっくりと開いた。
「あぁ、そうだったらしいな」
「俺、今でもたまに思うんだ」
「ん?」
エヴァンが長い瞬きをする。
「アイリス様がこの世界に、2つの身体を持って転移して来たのは正解だったのかって・・・ね」
聞こえるか聞こえないかのような声で呟いていた。
敬礼する兵士の前を通って城に入っていく。
読んでくださりありがとうございます。
トムディロス王子は意外と空気の読める男性なんですよね。
また是非見に来てください。
仕事がひと段落ついたので、小説も頑張っていきます!




