446 ポセイドン王国①
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王、または『日蝕の王』を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城から『日蝕の王』の拠点らしき場所に向かっていた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
海に面したポセイドン王国の先に、アルテミス王国があるらしい。
ヴァリ族が通っているのか、ほんのりと闇の魔力が漂っているのを感じる。
ポセイドン王国の近くに空飛ぶ船を降ろしていた。
地面に降りて、体を伸ばす。
風が吹くと土の匂いに交じって潮の香りがした。
「久しぶりによく寝たな」
「ねぇ、ヴィルっていつ寝てるのですか?」
「レナ、よだれついてるぞ」
「わっ・・・」
レナが慌てて後ろを向いて布のようなもので拭っていた。
「ありがとう、ノア。またよろしくね」
『かしこまりました。ご武運を祈っております』
ノアが船の横で頭を下げると、魔法陣が展開され、体ごと消えていった。
リュウジがモニターで、ノアの様子を確認していた。
「ノアの船はこうやっていつでも確認できるようになってるんだ」
「へぇ・・・」
レナが不思議そうにモニターを見ていた。
「はぁ・・・俺の国は何も感じない。みんな無事みたいだ。よかった」
トムディロスがポセイドン王国のほうを見つめながら息をついていた。
ポセイドン王国は海に面した位置にある大国だった。
遠くのほうまで敷地が続いている。
「これがポセイドン王国か・・・」
「第三王子って噂、本当なの?」
「本当だって。しかも噂じゃないし」
トムディロスがむきになっていた。
エヴァンがふうんと言いながら伸びをしていた。
「アルテミス王国に行く前に、俺の国寄って準備したほうがいいよ。”オーバーザワールド”の対ヴァリ族用の聖水とかもあるし、行って損は無いと思うよ」
「美味しいものあるの?」
「もちろん、ポセイドン王国は美食家揃いで・・・・」
「トムディロス王子! おーい、トムディロス王子がお帰りになられたぞ!」
軍服を着た兵士たちが城から出てくるなり、トムディロスを見つけるなり大声で叫ぶ。
「うっ・・マジか・・・・・・」
トムディロスが下がった。
シュッ
『トムディロス王子、おかえりなさいませ』
急にメイド服を着た少女が現れて、トムディロスの腕を掴む。
「うわっ、ミュレイ・・・」
『国王がお待ちです。ブレイブアカデミアでの成果が見えないまま脱走したとのこと、伝わっておりますよ。さぁ・・・』
「脱走じゃない、誤解だって。なぁ、魔王ヴィル!」
「いや、俺に振られても・・・」
「久しぶりの帰省楽しんだらいいよ。俺たちはその辺の城下町で魔法道具探してから、アルテミス王国に行こうか」
エヴァンがトムディロスの背中を叩く。
「トムはゆっくり話してきなよ。国民も待ってるだろ」
「・・・・・・」
「腹が減ったな。戦闘の前に食べていくか」
「はい! レナは可愛らしいお店に寄りたいです! せっかく来たので、またマカロンという食べ物を食べたいのです」
レナが少し弾みながら手を挙げた。
『あの、トムディロス王子のご友人も是非お会いしたいと、国王様が』
ミュレイが口を挟む。
「え、親父が?」
『はい。トムディロス様が元の世界の魔族の王と親しくされてるとの情報は入っております。貴方が魔族の王ヴィル様ですね?』
「そうだ」
『自己紹介が遅れました。私はポセイドン王国に仕えるアンドロイド、ミュレイです。どうぞよろしくお願いします』
「どうして俺が魔王だということがわかった?」
『アルテミス王国にいる『日蝕の王』と同じ顔をしておりますので』
「!」
緊張感が走る。
ミュレイが顔色一つ変えず、淡々と話していた。
「やっぱりアルテミス王国にいるのか、あいつは・・・」
「なるほど。記録させてもらうよ」
確かにダンジョンのあった位置だな。
リュウジがこめかみを触ると魔道メガネのようなものが現れた。
ボタンのようなものを押すと緑色に光って消えていった。
「なんですか? 今のは」
「記録用のゴーグルだよ。俺の目を通してみたことを記録する。アルテミス王国で何が起こるかわからないんだから必要だろ?」
「そうだな」
腕を組んだ。
「ミュレイ、どうして俺が魔王だと思った?」
『微細な魔力、表情、周りにいる者、全てを総合判断し、99,9%貴方様が魔族の王と判断しました』
「フン・・・・」
アイリスみたいな話し方をする奴だ。
「ねぇ」
エヴァンが前に出る。
「君は、ミナス王国にいたAIとは違うの?」
『私はあくまでポセイドン王国に仕えておりますので、天界の姫に仕える者とは接点がございません』
ミュレイが兵士のほうを見て手を挙げた。
「・・・どうする? ヴィル」
「情報収集したい」
「了解」
エヴァンに言うと、すっと下がった。
『では、参りましょう』
「ミュレイ、親父・・いや、国王はなんて・・・」
『直接話したほうがいいですよ』
メイド服のスカートについた草を払いながら話していた。
ポセイドン王国は陸空海軍がいるらしく、陸軍兵士たちが城下町を見回りしていた。
外で感じた闇の魔力を全く感じないのは、賢者が交代で結界を張ってるからだろう。
アポロン王国よりも、軍の統制が取れているように見えた。
まぁ、アポロン王国はプレイヤーが多かったらしいからな。
「剣士、アーチャー、魔導士、賢者、この国の軍はかなり強いように見えるね」
リュウジが周囲を見渡しながら言う。
「もちろんだよ。ポセイドン王国もプレイヤーのトーナメント戦もしていたけど、全員が参加できるわけじゃない。国の兵士と同等、S級以上の者だけが参加できるトーナメントだったんだ」
トムディロスが自慢げに話す。
「ポセイドン王国の軍はどの国の軍よりも強いと言われてるよ」
「ん? ではトムはどうしてブレイブアカデミアに入ったのですか?」
レナが首をかしげる。
「ポセイドン王国がそんなに強いのなら、ここで修行したほうが強くなれるのではないですか?」
「うっ・・・それは色々あって・・・」
『トムディロス王子の兄である、ガラディア王子は陸軍総司令官、ベルギリュス王子は来月より空軍総司令官になる予定でございます』
ミュレイが説明していた。
『おそらく優秀な兄2人に自信が無くなってしまい、はるか遠くに渡り、ブレイブアカデミアにコネで入って・・・・』
「んなことないって! あ・・・」
トムディロスが大声で否定した。
「!!」
城下町を歩いていた人々が一気にこちらを見る。
「気づかなかったけど、あれは、トムディロス王子だよな。アポロン王国の『ブレイブアカデミア』で修行しているんじゃなかったのか?」
「優秀な兄2人のようにはならないわよな。あのままアポロン王国にいてくれてよかったのに。ブレイブアカデミアにいたって英雄にはなれないだろうな」
「ブレイブアカデミアでも使えなかったんだろ。お荷物だしな」
中傷する、笑い声が聞こえた。
人がなんとなく、俺たちの周りに集まって来ているのがわかった。
「しかも、連れている者たちは誰? 異世界から来たプレイヤーじゃない?」
「ちょっと待って。あの女の子はおそらくエルフ族よ。エルフ族って殺して血を取れば、万病に効くって噂があったよね」
「それ、俺も聞いたことがある。異世界住人はその血で、異世界で過ごせていたんだろ?」
「運がいいよな」
「その辺で止めておけ。一見弱そうに見えるが、かなりの血の匂いがする・・・」
「あいつは化け物だ」
「っ・・・」
レナがびくっとして俯きながら歩いていた。
トムディロスが慣れたような顔をして、真っすぐ歩いていく。
「あの王子は本当に使えない奴だよな。付き合ってる仲間も仲間だ。兄様の足元にも及ばない」
「ハハハハ、あれを、王子と呼ぶことすら恥ずかしい」
こいつら・・・。
俺が剣を出す前にエヴァンが剣を抜いていた。
「黙れ!!」
ザッ
エヴァンが周囲を睨みつける。
「全員殺すぞ。お前ら」
「なっ・・・・」
「エヴァン! レナはこんなことしなくても・・・」
「レナ、下がってろ!」
「っ・・・・」
エヴァンがレナを制止して民衆に剣を向ける。
「何をやっている!」
「ガキが暴れてるのか!?」
巡回していた陸軍兵士2人がエヴァンを取り押さえようと魔法を放った。
エヴァンが手をかざして魔法を撃ち消す。
スッ
「!!」
「なんで俺に勝てると思ってるの? 馬鹿なの?」
一瞬で移動して、2人を抑え込んだ。
「わが軍の兵士が!?」
「あんなガキに・・・」
キィン
剣を後ろの首に突きつける。
「うっ・・・」
「この場で俺たちが一番強い。わかったら口を慎め。クズどもが」
エヴァンが吐き捨てるように言うと、民衆が怯えるように下がっていった。
「いや、俺はいいよ。気にしないから。なぁ、魔王ヴィル、エヴァンを・・・」
トムディロスが鎮めようとしてきた。
「俺もエヴァンに同感だな」
「は・・・?」
― 魔王の剣―
「こそこそしていて、腐った奴らが一番嫌いだ。俺たちに文句がある奴は、軍の奴でもギルドの奴でも出て来い。この場にいるすべての者を地獄の炎で焼き尽くしてやる」
「!?」
ザッ・・・・
地面に剣を突き刺した。
民衆が静まり返り、恐怖の表情でこちらを見ていた。
読んでくださりありがとうございます。
魔王一行、いきなり暴れますね。
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また是非読みに来てください。
本職SEのほうがドタバタしてますが、何とか来週中にもう1話進めたいです!




