442 魔女とは
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城に戻り、立て直しを計画していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
魔王城から、あいつが消えてから1週間が経っていた。
ヴァリ族も、目立った行動はしていない。
気味が悪いくらいの静けさだ。
あいつが拠点としている場所も、まだ見つかっていない。
レナの戦闘記録は対ヴァリ族戦に役立ち、魔族の自信に繋がっていた。
ザガンの部下は、上位魔族無しでヴァリ族に勝利したらしい。
「このダンジョン付近は”オーバーザワールド”と接続し、王国になっていました。こちらのダンジョンの周囲にはヴァリ族の国があります」
「カマエル管轄のダンジョンなので、サンフォルン王国と協力し、別の洞窟のような場所に魔族が避難しています」
「まさか、人間が関わるとは思いませんでしたが、退避場所としては十分です」
「他にもこのダンジョンは昨日・・・・」
ププウルが交互にダンジョンの状況について説明していた。
「そうか・・・・」
「魔王ヴィル様、どうかしましたか?」
ププが地図の横に座ったままこちらを見上げた。
「何かご質問でも?」
「ププウルはどんな願いを叶えて魔女になったんだ?」
「え・・・・」
ププウルが顔を見合わせる。
「あの・・・」
「いや、話したくなければいい。ただの興味だ」
背もたれに寄りかかって、ハーブティーを飲み干す。
ププがウルのほうを見て頷いた。
「・・・私たちは人間だったという話はしましたよね」
ウルがぽつりとつぶやく。
「元々、とても弱く、魔力もほとんどなかったので、使える魔法はバフ系しかありませんでした。力も無いので戦闘に出たことも無かったんです」
「何百年も前・・・・人間に襲われたんです」
「忘れられない・・・月の夜でした。他国の人間たちは何かのクエストで、私たちのいた村を殲滅するよう言われていたそうです」
「魔族と協力し、魔法兵器を開発しているといいがかりをつけて・・・」
「人間たちは全滅したと思って、外で宴を開いていました」
ププウルが机から降りて近づいてくる。
「月の女神の使い、悪魔が降りてきて契約を持ちかけました」
帽子を深々と被った少年だったという。
名前は名乗らず、魔女になるかこのまま野垂れ死にするかを聞いてきたらしい。
「魔女になるってどんなことかわかりませんでしたが、私たちは契約しました」
「人間たちが憎くて」
ププがこぶしを握り締める。
「人間たちは殺したのか?」
「はい。外に出てすぐ、皆殺しました。宝玉はダンジョンに戻しています。あの時、自分たちの劇的な魔力と攻撃力の向上に気づきました」
「契約を後悔はしていないのですが・・・」
「ん?」
「魔王ヴィル様!!」
ププウルが同時に頭を下げる。
「ごめんなさい!」
「私たちはカマエルやサリーたちみたいに元々強いわけじゃないんです。なのに、上位魔族を名乗って居座ってしまい・・・」
「んなこと、思ったことない。顔を上げろ、ププウル」
ププとウルがゆっくりと顔を上げた。
ププは大きな涙を一つこぼした。
「ププ・・・・」
「魔王ヴィル様の前では泣かないと決めてたのに、ごめんなさい・・・」
ププが顔をくしゃくしゃにして涙を拭いていた。
ウルもつられるように一筋の涙が頬を伝った。
「2人とも、よくやってくれてる。本当に感謝しているんだ。お前らがいなきゃ、俺は魔王にならなかった。魔族はどうなっていたかもわからない」
ププウルの頭を撫でた。
「話してくれてありがとな」
「・・・はい・・・・」
ププウルは緊張が解けたのか、堰を切ったように泣いていた。
アイリスの話では、悪魔が目をつけた女に交渉を持ちかけるのだという。
女は年齢関係なく、魔女になるときに処女であることが求められる。
悪魔がひとつ願いを叶える代わりに、月の女神の使いである魔女となり行動するらしい。
魔女は儀式については口外してはならない。
ワルプルギスの夜には必ず集まり、地上に月の女神を召喚する義務がある。
招集に応じない魔女は殺される。
魔女は基本的に自由を許されているのだという。
月の女神を降ろすときに、地上での祈りが必要なため、魔女という制度ができたらしい。
魔女は通常の者より、高い魔力を与えられる。
道を間違えれば、終焉の魔女イベリラのように狂気に堕ちると話していた。
ユイナ、ププウル、サタニアも危険ではあるらしい。
魔女は純粋がゆえに、堕ちていることに気づかないこともあるのだという。
通常はイベリラのようになる前に、悪魔が殺すと聞いていた。
軽く地面を蹴って、セイレーン号のデッキに乗る。
「配信できないのつまらないなぁ」
「ナナココもパズルゲームやればいい」
「リリスみたいに早くできないもん」
ナナココがセイレーン号のデッキに寝転がって、退屈そうにしている。
リリスは手すりに寄りかかって、モニターでパズルゲームをしていた。
指を動かして、かなり素早く処理をしているようだ。
アイリスとやった〇×ゲームを思い出すな。
「お前ら何やってるんだ?」
「ナナココ、やることがないから時間潰してる」
「リリスはナナココのウイルスについて特定できたか?」
「うん。聞いた通り、プレイヤーだけに影響する仕様になってるみたい。ログインすれば、ナナココを軸にして、ネット上にプレイヤーの個人情報を晒すってウイルスなんだけど・・・・これを、レムリナ姫が作ったの?」
リリスがパズルゲームを止めて、ナナココに聞く。
「そうだよ。作ったけどウイルスを除去する方法は作って無いんだって」
ナナココが不貞腐れたように言う。
「まぁ、他のプレイヤーは入って来ても面倒だし、今のままでいいじゃん」
テラがセイレーン号から出てきた。
「テラ、まだいたのかよ」
「当然だ。俺は戻らない。このアバターがゲームオーバーするまでね」
「テラって図太いよね」
「ナナココには言われたくないんだけど」
「アバターも実物とかなり違うみたいじゃん。今は実体に沿ったアバターでゲームするのが暗黙の了解なのに」
「誰の情報だよ」
「内緒」
ナナココが意地悪く笑う。
「はぁ・・・・」
こいつらは魔族じゃないのに魔王城に居座っていた。
魔族のための魔王城なんだが、エルフ族、異世界住人、ゲームのキャラ、Vtuberまで入って来ていて、混沌としている。
魔族から文句が出ないからいいけどな。
「あ・・・私なら、ナナココのウイルス解けるかも」
「え!!」
「さっき、ゲームやってて思いついちゃった。私ね、アイリスと同じくらいの知識量はあるから。ちょっと待っててね」
リリスがふんわり笑って、体を起こした。
画面にナナココを映して、コードを読んでいる。
「すごいね・・・・リリス」
「だって私、アイリスのコピーだし、ゲーム配信をよくやってたからオンラインゲームにいるウイルスには強いの」
「知ってるよ! リリスの配信見たことあるもん」
ナナココが前のめりになっていた。
「魔王ヴィル・・・?」
「セイレーンに話がある。入ってくるなよ」
バタン
テラがこちらを気にしていたが、無視してドアを閉めた。
3人の声が聞こえなくなった。
中央の光りの中にいるセイレーンに話しかける。
「セイレーン、今、話しえもいいか?」
『はい。スリープモードに入っておりました。現在データを起動中・・・』
セイレーンが体を起こしてこちらを見つめる。
周りに誰もいないことを確認して、セイレーンの前に座った。
『正常に起動しました。どうしましたか?』
「ゲームと人工知能について知っておきたい」
『え・・・・?』
セイレーンがきょとんとした顔をする。
『人工知能、ですか?』
「あぁ。”オーバーザワールド”のヴァリ族は、元々人間だった者たちが魔族になり、理性を失った状態になっている。ゲームのラスボスである闇の王不在にも関わず、だ」
『そうですか。事情は察知しました』
「・・・・・・・」
『”オーバーザワールド”のゲームのキャラと遭遇し、会話されたからこのような質問が出てきたのですね』
セイレーンが何もかも理解したように、長い瞬きをした。
『ゲームのキャラクターは設定に抗えません。アイリスやリリスたちとは違います。私も他のゲームから転移したキャラなのでわかります』
「もし、転移して、前のゲームと同じ状態になれば、ゲームの設定と同じ行動をするのか?」
『YESです』
セイレーンがふわっと光の柱に手を置く。
『もし私が『ガリレオの羅針盤』に戻らなくても、この世界で『ガリレオの羅針盤』のような分岐モードがあるなら、ストーリーを引き継いだ選択をするでしょう。あくまでもゲームのキャラですから』
「絶対にか?」
『絶対です。抗えません』
「・・・・・」
『転生という形でしたら、不明です。どこまで記憶を引き継いでいるかによるかと。転生で初期化されていれば、問題ないと思いますが・・・』
「そうか」
サタニアはここ数日ぼうっと物思いにふけることが多くなった。
窓から遠くを見つめ、心がここに無いようだった。
『七つの大罪』の怠惰のオベロンが来てから顕著になったように思う。
直接聞いても、誤魔化すだけだ。
もし、今、『七つの大罪』がサタニアを迎えに来て、星の女神になればどうするのだろう、と。
読んでくださりありがとうございます。
サタニアにはゲームのキャラだった頃の記憶を思い出してしまいましたが・・・・。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
次回は来週アップします。また是非見に来てください!
物語終盤に来ておりますので緊張しながら書いています笑




