440 ヴァリ族のリミューレとベラスクス
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城に戻り、立て直しを計画していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・魔王代理の少女。転生前は人間であり、その前は星の女神アスリアというゲームのキャラだった。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リュウジ・・・ユイナのアバターを異世界住人から避けるようにアップデートした。”オーバーザワールド”のプレイヤーとして、ゲームに入って来た。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「魔王ヴィル様と会うの、なんだか久しぶりな感じがする」
「ん、ずっと城にいただろうが」
「でも、魔王ヴィル様ずっと忙しそうだったから。こうやって話せるのは久しぶり」
アイリスが屋根の上を歩きながら、嬉しそうに言う。
「あぁ、魔族への説明が多かったからな」
「でも、あのヴィル様のことは話してないんでしょ?」
「そうだな・・・早く話すべきだが、魔族もあぁ見えて余裕がないんだ」
ヴァリ族を統べる奴がループから外れたもう一人の俺だということを、魔族にはまだ話していない。
上位魔族を含め知っているのは、体力を回復させているサリーと、さらわれたシエルだけだ。
魔族の士気は上がっていた。
戦闘があってこそ、魔族は自分の力を誇示できる。
でも、”オーバーザワールド”の接続に戸惑っているのも感じざるを得ない。
得体のしれない者たちがわらわらと現れるだろう。
上位魔族はともかく、下位魔族が臨機応変に対応できるか・・・。
「落ち着いてから上位魔族には話すつもりだ。あいつらは精神力も強いからな。でも、タイミングは慎重にしないと、いらない負荷をかけてしまう」
「魔王ヴィル様は魔族をよく見てるね」
「当然だ。魔族の王だからな」
「そっか。魔王ヴィル様、魔族の王様だもんね」
「今更なんだよ・・・」
「改めて納得しただけ」
アイリスがほほ笑んで、両手でバランスを取りながら空を見上げた。
「禁忌魔法、時空退行は魔王ヴィル様にとられちゃったなぁ」
「あれはお前が持ってると危険だ。すぐ使うからな」
ふわっとアイリスが近づいてくる。
「今度、死んだら本当に死んじゃうんだからね。魔王ヴィル様、絶対死なないでね」
「もちろん、死ぬつもりは無い。アイリスが”クォーツ・マギア”でVtuberの楽園を創るのを見るまではな」
「えっ!? ・・・・っとわっ」
すっとアイリスを抱える。
「魔王ヴィル様、急に変なこと言わないでよ。びっくりしちゃった」
「自分で言ってたくせに」
「あっ・・・・」
アイリスがはっとして、離れた。
「魔王ヴィル様のラッキースケベ属性発動・・・」
「今のはどう見ても違うだろうが」
頭を搔く。
アイリスがふふっと笑う。
「冗談だよ。私は欲張りだなぁ。魔王ヴィル様といられるだけで嬉しいのに、Vtuberの楽園を創りたいって思うなんて・・・でも、絶対叶え・・・」
「!?」
ズズズズズズズ・・・
魔王城の森から闇の濃い魔力がこっちに向かってきているのを感じた。
ヴァリ族か?
「魔王ヴィル様! これは・・・」
「アイリスはこのことをユイナに伝えてくれ、データを取得してもらいたい。俺が行く」
「うん。魔王ヴィル様、気をつけて」
魔王の剣を持って、屋根から飛び降りる。
後ろでアイリスが魔王城の中に入っていくのが見えた。
魔王城の前の草むらに立つ。
暗闇の中で木々が大きく動いていた。
グルルルルルル
獣の鳴き声・・・。
数にして、30体くらいか? 図体のでかい奴が1体、強そうな奴が1体。
あいつの置き土産ってとこだろう。
「ヴィル、ちょっとどいててください」
「レナ!」
スッ
― 氷蓮華 ―
レナがいきなり現れて、氷魔法を放った。
ザアアァァァァァアア
大きな氷でできた蓮華の花がくるくる回りながら森の中に入っていった。
見えない敵を追撃しているようだ。
ぎゃぁぁぁぁぁあああ
獣の悲鳴が森に響き渡った。
暗闇の中に光が走り、ヴァリ族たちが消えていくのがわかる。
ザンッ
「レナ、俺の見せ場まで取るつもりか?」
「ふぅ、雑魚でしたね。あれじゃヴィルの見せ場にもなりませんよ」
レナが一息ついて、杖を降ろす。
「今のレナは戦いたくて仕方ないのです。邪魔だったら殺していいですよ」
「随分、憎たらしくなったな」
「レナは元々こうゆう性格です」
レナがにやっとしながら、杖を氷の剣に変えた。
サァァ
「私の可愛いペットちゃんたちを一気に殺すなんていい度胸ね」
金髪の露出の高い服を着たヴァリ族の女が降りてくる。
目つきは鋭く、黒い尻尾がくるんとしていた。
「誰かと思えば魔王じゃないのね。何? そのガキは」
腕を組んで、レナを見下ろす。
「・・・・・・!!」
レナが急に硬直した。
「レナ、大丈夫か?」
「どうして、魔族はみんな胸が大きいんですか!? しかも、露出が高くて、胸を強調するような恰好で! こんなひどいことを平気で仕掛けてくるなんて・・・」
「何を言っている・・・?」
女が少し困惑していた。
「ヴィルも一言文句を言ってください!」
「なんでだよ」
「貧乳の魔族っていないじゃないですか。これからは貧乳の魔族も取り入れるべきです。あんな巨乳の魔族ばかり入れちゃダメです」
レナが指をさして文句を言う。
「落ち着け、あいつは魔族じゃない。”オーバーザワールド”のヴァリ族だ」
「そうよ。私は『日蝕の王』に仕えるヴァリ族のリミューレ。この世界の魔族とは違うの」
リミューレが軽く咳払いをする。
ふんわりした髪を後ろにやって、笑いかけてきた。
「偉大なる王に認めてもらうためには、美しいだけじゃダメなの。実績を残さなきゃ。ね、そうでしょ? ベラスクス」
グルルルルル
獣のような姿をした巨人が、木々をなぎ倒してリミューレの隣に並んだ。
木よりも大きく、吠えると地鳴りがした。
「ヴィル・・・」
「なんだ?」
「胸ってそんなに大事ですか?」
「は? まだ言ってるのか?」
レナが自分の胸を見て、リミューレの胸を見た。
「レナは1000年かかってこれくらいしかないのですが。これから成長する可能性はあるんですか?」
「知らん。んなこと、後でエヴァンに確認しろ」
「エヴァンは関係ありません!!」
「ベラスクス、やりなさい!」
グアアァァ
ドンッ
巨人が勢いよく腕を振り下ろした。
レナと同時に飛んで、攻撃をかわす。
「もう、イライラするわね。どうでもいい雑談は後にしてくれない? 今ので潰してやろうと思ったのに・・・・ま、私のベラスクスに勝てるわけがないけど」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
地上に走った魔力の衝撃に、地面が割れていく。
「どうしたの!?」
「め、め、メイリアたん!!」
メイリアとトムディロスが飛び出てきた。
セイレーン号の後ろに、ナナココが隠れているのが見えた。
「お前らどこに・・・」
「セイレーン号にいたら急に音が聞こえて・・・ヴァリ族」
「何事だ!?」
カマエルとジャヒーが同時に扉を開けて出てきた。
「フフフ、出てきた出てきた。ウジ虫どもが湧いてくる湧いてくる。一気に倒したほうがいいわね」
リミューレが口に手を当てて嬉しそうにする。
グルァアァァァァァ
巨人が天に向かって叫ぶ。
身体が硬化されて、鉄のような皮膚に変化していった。
「っ・・・・」
「・・・”オーバーザワールド”のヴァリ族・・・」
カマエルとジャヒーが少し怯んでいた。
「そっか。今までは雑魚ばかり送り込んだから、本来の私たちの力を見るのは初めてなのね。本当はもっとすごいんだけどね」
「・・・・・・・・・」
メイリアも額に汗をにじませて、怯えているのが伝わって来た。
トムディロスがメイリアの手首を掴んで、隠れていようと話していた。
「俺がやる。お前らは下がってろ」
「レナにやらせてください。ヴィルが強いのはわかっています。でも、王はいざという時にしか剣を抜かないものですよ」
レナがこちらを見上げてほほ笑む。
「今はその時じゃありません」
「・・・・わかったよ。死にそうになったら手出ししてやる」
「あはは、死にそうになったら、そのまま死にますけどね」
言いながら、レナにはブレない自信を感じた。
勇者ゼラフとはどんな旅をしていたのだろう。
レナは忘れたと言って、詳細を話さないけどな。
リミューレがつまらなそうに言う。
「貴女が私の相手? 小娘相手なんて、つまらないわね。魔族にも見えないし」
「レナはエルフ族です。北の果てのエルフ族の末裔です」
レナが氷の剣に魔力を込めて、リミューレのほうへ歩いていった。
「貴女の相手は私で十分です」
レナの瞳が緋色に光る。
読んでくださりありがとうございます。
アイリスと魔王ヴィルの会話は落ち着きますね。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
今週中にも最新話アップしたいなと思っております。また是非見に来てください!




