436 リュウジ
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。
ヴィルは魔王城に戻り、立て直しを計画していた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
ユイナ・・・異世界住人の一人。魔女との契約により、アバターで転移してきた。肉体は現実世界にある。
リリス・・・アイリスのコピーとして作られた人工知能。
イオリ・・・セイレーン号の操縦に長けている異世界住人。
フィオ・・・イオリが勝っていたペット。転移する際に擬人化してついてきてしまった。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
レムリナ姫・・・天界の姫
ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。
ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。
「魔王城にいた雛菊アオイ、りんねる、ナーダたちは消えました。時間差でナルキッソスが消えました。ピュグマリオンたちは不明です」
「いきなりだったのか?」
「はい。私もその時にいたわけではないので、聞いたときは驚きました」
ユイナが俯いていた。
「こんなにあっけないなんて・・・」
『原因は複数考えられますが、”オーバーザワールド”の接続時のキャラ設定が確立できず、バグとみなされ自動排除されたのかと』
セイレーンが大きなモニターに異世界のコードらしき文章を流す。
『具体的に説明します。これは、雛菊アオイのバックアップコードですが一部が破損しています。”オーバーザワールド”でバグと認知され、消滅したかと推測します。他の者たちも同じ理由でしょう』
「異世界住人はどうして消えない?」
『彼らはアバターですが、この世界の者と認知されていますから。『命の数』という制約でと聞いておりますが、合っていますか?』
「なるほどな・・・・」
『私、セイレーンもリリスの力が無ければ消滅していました。この世界でのアバターの脆さを実感します。『ガリレオの羅針盤』ではどんなにボロボロになっても消滅することはありませんでしたから』
セイレーンが無表情のまま話していた。
深い息を吐く。
異世界の本を読むことで、言葉や文化もわかってきていた。
アバターの消滅についても理解できる。
アイリスがウイルス感染してから、気づいた部分も多いけどな。
「初めて聞いたときはびっくりして、信じたくありませんでした」
ユイナがふらつきながら、ソファーに座った。
顔を押さえる。
「ぱっと消えちゃうなんて・・・」
「そうだよね。僕らが消えればよかったのかもしれない。みんなバックアップがあるかわからないし、アバターが消されたら死んだのと同じだよ」
「にゃー・・・」
「一瞬だったんだ」
イオリが呟くように言う。
『消滅を確認したのはイオリでしたね』
セイレーンが目を細めた。
「ナーダとセイレーン号で調べものをしていたときだった。何の前触れもなく、ナーダが消えたんだ」
「ん・・・にゃー」
イオリがフィオの頭を撫でながら言った。
フィオの寝言は猫の鳴き声だった。
「Vtuberだけか・・・・」
メイリアは消滅していない。
何か理由があるのか?
「全く、ひどい話だぜ」
りりるらが部屋に入って来て、空中で胡坐をかいた。
「おう、魔王ヴィル、久しぶりだな」
「ん? どうしてりりるらだけ残れたんだ?」
「あたしは元々、表には出ないし、悪魔だからな」
小さい翼をパタパタさせて、セイレーンの傍に降りた。
『りりるらは昔”オーバーザワールド”に入ったことがあり、記録として残されているためバグにはならなかったかと。キャラとして認識されたのだと推測されます』
「自分では覚えてないけどな」
りりるらが牙を見せた。
『りりるらのコードを見ると、”オーバーザワールド”とのアクセスキーが一致しています。なので、バグとはみなされず、正常ログインできたようです』
セイレーンが淡々と話す。
「ま、んな感じで、Vtuberは消えていってるんだ」
「そうか」
背もたれに寄りかかって、足を組む。
りりるらが平気な顔を装っているのがわかった。
言いながら、指先が震えていた。
「メイリアもいつか消えるのか?」
「彼女は消えませんよ」
ユイナが涙を拭ってから、鼻声で言う。
「勇者のパーティーとなったものは特別だそうです。ゼロが行った場所で”オーバーザワールド”が接続されてたので、キャラとみなされたのかと」
「運がいい奴だな」
「メイリアはゼロのパーティーの1人ですから」
― 魔王の剣―
「!?」
立ち上がって剣を回した。
「お前らも元の世界に戻りたいか?」
「ど、どうしたんですか!?」
「ヴィル様・・・」
「これから大規な戦闘が始まるだろう。異世界の命の数も、もう無いと聞いている。死んだら元の身体に戻って、永遠にこの世界に来れないだけだ」
長い瞬きをする。
「どうして・・・」
「”オーバーザワールド”のヴァリ族がどんな手を使ってくるかわからない。アイリスでさえ、ウイルスを埋め込まれて死にかけたんだ。奴らが異世界住人に対して、どんな戦略を撃ってくるかわからない」
「・・・・・・・・」
「プレイヤーみたいに、綺麗に消滅できたらいい。でも、奴らにかかればウイルスを埋め込まれたり、どんなふうに殺されるかわからないだろ? 死にたければ殺してやるよ」
魔王の剣に魔力を込める。
俺は日蝕の王の残虐性がわかっていた。
俺だからな。
「アイリスやリリスとは違って、お前らは向こうに身体があるんだから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙が降り落ちる。
イオリが少し悩んでから、口を開いた。
「僕は最期までいます」
「?」
「僕、向こうの世界では何の役にも立てなくて、登校拒否を繰り返したり、だからといって配信ができるわけでもないし、インフルエンサーでもないし・・・自分が存在している意味を感じられなかったんです」
メガネの曇りを拭きながら続ける。
「ここで何か役に立てることがあるならやっていきたいです。ウイルスが入ろうと、”オーバーザワールド”が何をしてこようと、最後までしがみつきます!」
「・・・フィオもイオリに従います」
フィオが目を擦りながら起き上がる。
イオリがメガネをかけ直す。
「この世界では人間になれるのでこっちのほうが楽しいです」
耳をピンとさせていた。
「ユイナ、お前はどうする?」
「ヴィル様、殺してくれるんですか?」
「あぁ・・・ユイナは貴重な情報源だ。でも、”オーバーザワールド”の日蝕の王・・・奴に何かされる前に殺してやるよ。今度は本気だ」
真っすぐユイナと向き合った。
「痛覚を切れるだろ? 死ぬなら準備しろ」
ユイナが力なく微笑む。
「・・・・・私、死にません。死にたくありません!」
はっきりした口調で言う。
「始めは勝手に異世界に転移させられて、嫌で嫌で仕方なかったのですが・・・死にたくてしょうがなかったのですが、今はこの世界でできるところまで頑張ってみたいんです」
「ユイナ・・・」
「仲間もできました、もう一度冒険に出ることができました、世界が楽しいって思えたんです。皆さんが私に存在する意味を与えてくれました。魔王ヴィル様・・・魔族の皆さん、エルフ族のレナの役に立ちたいんです」
ユイナが少し俯いて、髪を耳にかけた。
「勝手でごめんなさい。もちろん魔王ヴィル様が迷惑じゃなければ・・・ですが・・・・・」
ビービービービー
「!?」
セイレーン号がけたたましい音を響かせる。
セイレーンがユイナのほうを向いた。
「何事だ!?」
『異質な者がログインした信号をキャッチしま・・・』
ジジジジ ジジジジ
「うわっ、いきなり警報音? って俺のせいか」
「リュウジ!!」
「ユイナ」
リュウジがユイナの前に立っていた。
俺を見て、慌てて両手を上げる。
「そのアバター・・・」
「あぁ、”オーバーザワールド”のプレイヤーで入って来たんだよ。エリアスに色々聞いてる。これがセイレーン号か、確かに『ガリレオの羅針盤』に出てきそうな造りだな」
リュウジが周囲を見渡しながら言う。
「で、この子がセイレーンね。配信でしか見たことない、めちゃくちゃレアキャラ」
「”オーバーザワールド”は2人しかプレイヤーがいないと聞いてる。どうやって入ってきた?」
「あ、レムリナ姫がばら撒いたウイルスのこと?」
「そうだ」
手を挙げて、セイレーンに警報音を止めさせる。
魔王の剣を消した。
「この身体は特殊なんだ。俺は元々この世界のダンジョンに接続してたし、”オーバーザワールド”のプレイヤーとして入りながら、コードを異世界住人のアバターに近づけることもできた。もちろん、成功したよ」
「へぇ・・・・・」
「だから、”オーバーザワールド”にログインしたプレイヤーの履歴も残らない。ウイルス感染対象にもならなかったみたいだ」
リュウジが腕を降ろして、手のひらを見つめる。
「全部一人でやったの?」
「エリアスの力を借りたんだ。あいつがいないと無理だったよ」
「エリアスとお前の関係は・・・・」
「ねぇ! どうしてここに転移して来たの!?」
ユイナが俺の言葉を遮って、前のめりになった。
「魔王城を狙って転移して来たの!? 魔王ヴィル様に何かする気!? まさかエリアスにも情報を流して・・・」
「違う違う。ユイナのアバターをアップデートしたのは俺だ。GPS機能を搭載して、ユイナのいる場所に転移できるようにしてたんだよ」
「え!?」
ユイナが目を大きく広げて一歩下がる。
血の気が引いているように見えた。
「そうゆうのってアレだよね。ストーカーって言うんじゃ・・・」
「フィオ、静かに!」
イオリが焦りながらフィオの口を塞いでいた。
確かに、リュウジはユイナを追いかけまわしているようだな。
ストーカーと言われても仕方ないが・・・。
「そんなにびっくりすると思わなかったな。いいじゃん、ユイナと俺の仲なんだし」
「ゲームでしか親しくした覚えないけどね」
「冷たいな。そのアバター快適だろ? 俺の自信作だ」
「GPS機能入れられてるなんて思ってなかった!」
ユイナがリュウジを睨みつける。
「リュウジ、エリアスが『日蝕の王』側についたのは知ってるだろ?」
腕を組んで、リュウジのほうを見る。
「聞いてるよ。本人からね」
「お前はどうする? どっちの味方をする気だ?」
「そこはちゃんと決めている。ユイナがいるほうだよ」
「私?」
リュウジが軽くほほ笑んで、頷いた。
「もちろんエリアスは変わらず友達だよ。本当はまた三人で冒険したいって、言ってたんだけどな。俺もあっち側につくのは予想外だった」
「リュウジ・・・」
「俺はユイナに会いたくてこの世界を探ってたんだ。このアバターも馴染んできたし、力になるよ。魔王ヴィル、よろしくね」
「あぁ・・・わかったよ」
「ありがとう。セイレーンってこんなに小さいのに、この船を動かせるの? マジでチートスキルだね」
『警戒を強化します。電流の流れるシールドを・・・』
「えっ」
リュウジがセイレーンに近づくと、セイレーンがシールドを張っていた。
ユイナが慌てて2人の間に入って、リュウジが何者なのかを説明していた。
正直、リュウジの本音はわからない。
エリアスと繋がってる可能性も否めないと思っていた。
本当にこちら側につくつもりでいるのか・・・。
「・・・・・」
りりるらが離れた場所で、無言のままリュウジを目で追っていた。
読んでくださりありがとうございます。
リュウジは味方か、敵か? まだ信じるのは早いですよね。
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次回は今週中にアップします。また是非見に来てください!




