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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第六章

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430 お兄ちゃん⑥

アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。

ヴィルはアイリスを救い出し、冥界の誘いから目覚める。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS

レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。

エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。


メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。

ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。

トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。


レムリナ姫・・・天界の姫

ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。


ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。

 レムリナのシールドを、ジェラスが剣で突破しようとしていた。

 

 ジジジジ ジジジジ


「魔王ヴィル様!」

 サリーが牢屋の中からかすれた声を上げた。

 レムリナがシールドを展開したままこちらを向く。


「オーディンもマーリンも倒したのね」

「あいつはコピーだけどな」


「コピーとはいえ全盛期の2人だった。マーリンは90%、オーディンとマーリンが勝利するって言ってたのに」

 レムリナがぶつぶつ話していた。


 レムリナとジェラスの力は同等のようだ。


 ただ、レムリナにはウイルスという切り札がある。

 もう一度同じことをされれば、アバターを持つ者たち・・・アイリスが危険にさらされてしまう。


「ジェラス、本気で戦ってないだろ?」

「・・・そんなつもりは無いが・・・レムリナ、目を覚ましてくれ」

 ジェラスがすがるように、レムリナに声をかけていた。


「目を覚ますのは、お兄ちゃんだよ」

 レムリナが哀しそうな顔で言う。


「悪いがお前らの兄妹喧嘩に付き合っている暇は無い」

 地面を蹴って飛び上がる。 


 パリンッ


「!?」

 魔王のデスソードでシールドを切り裂いた。

 

「そんな、だって私のシールドは・・・」

「黙れ! アイリスをウイルスに感染させたこと、後悔させてやる」

 

 バチンッ


 魔王のデスソードを振り下ろそうとすると、ジェラスが剣で受け止めた。

 光がほとばしる。


「魔王ヴィルっ・・・」

「ジェラス、これはどうゆうことだ?」

 ジェラスの魔力が高まった。


「レムリナを殺さないでくれ。頼む!」

「こいつは危険な存在だ。ウイルスをばら撒かれてどうなったのかわかっているのか?」


「わかってる。取り返しのつかないことになった。”オーバーザワールド”はサービス終了となり、プレイヤーが来なくなるどころか、僕たちは放置されるだろう。レムリナが堕ちた」

 力を入れる。

 ジェラスが歯を食いしばって剣を弾いた。


「でも、レムリナを殺すなんてできない・・・」

「お兄ちゃん・・・」

 レムリナが戸惑うような表情を見せる。


 ジェラスは言いながら、何か迷っているように感じた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


「・・・・・」


「あれ? お兄ちゃん」

 レムリナが何かを察したように首を振った。


 2人を冥界送りにしたいが、ハデスの剣は冥界に置いてきたままだ。

 こいつを殺して、シエルとサリーの檻が解けるのかはわからないが、アイリスが近づければ何か解析できるかもしれない。

 


 ― 毒薔薇のチェーン


 ドドドドドドド



「ぐっ・・・・・・」

 ジェラスを縛り上げた。


「抵抗しないのか?」

「光が堕ちた今、僕に抵抗するだけの力は残っていないよ」

 うつろな目でこちらを見る。


「僕を殺すなら殺してくれ。君に殺されるなら悪くない」

「それが目的か」


「お兄ちゃん!」


「レムリナ、何かすればこのままジェラスを殺すぞ」


「っ・・・・・止めて! 止めて!」

 レムリナが毒薔薇のチェーンを切り裂こうとしていた手を降ろした。


「どうしてお兄ちゃんと私を引き裂こうとするの?」

 目を潤ませながら言う。


「私はお兄ちゃんといたいだけなのに」

「お前らのことは知らん。俺は自分の仲間を助けに来ただけだ」

 魔王のデスソードをレムリナに向ける。


「檻を解け。でなければ、ジェラスを殺す」


「魔王ヴィル様・・・」

「私たちは・・・大丈夫ですから、ご自身の身を・・・・」

 シエルとサリーが声を絞り出しているのが伝わってきた。


 二人は衰弱してきている。

 ”オーバーザワールド”の闇の魔力に完全に馴染めていないのだろう。


 時間は、無い。


「私・・・本当にわからないの。本当よ。マーリンがカギをかけてるから」

 レムリナが杖を持ったまま首を振った。


「ヴィヴィアンか。まぁ、いい。じゃあ、殺すまでだ」


「駄目! お兄ちゃん、抵抗してよ!」

 手を広げてジェラスの首に蔦を撒きつけようとしたところだった。


「ややややや・・・止めろって・・・」

 トムディロスが両手を広げてジェラスの前に立つ。

 足ががくがくしていた。


「トムディロス」

「なんだ?」

「レムリナ姫が闇落ちした。光の王が死ねば、この世界は完全に闇に染まる。”オーバーザワールド”の住人、俺も魔族になるかもしれない・・・・」

 言いながら声を震わせる。


「魔族が・・・ヴァリ族が増えるのは魔王ヴィルだって困るだろう?」

「・・・・・・確かにな」

 長い瞬きをして、手を降ろした。



「ねぇ、お兄ちゃん」

 レムリナがすぐに縛られているジェラスに駆け寄る。


「私たち、”オーバーザワールド”のキャラは、心が創られてるって言われてる。でも、お兄ちゃんを想う気持ちは本当なの。お兄ちゃんをこの世界から助けたいの」


 レムリナがふわっと飛んで下がった。

 レムリナの魔力が高まり、後ろに九つの尻尾が揺れていた。


「私はキャラでいたくない。自由になろうよ、たった2人の兄妹で、天と地から光の民を守るように動く、プレイヤーが遊ぶために創られた者、役目、全部、全部、ずっと耐えてきたじゃない」

「・・・・・・・」


「お兄ちゃん、覚えてる? あの時のことを・・・」 

 レムリナが瞬きをすると、涙が落ちた。


 シュッ


 入り口のほうにいた、AIのミュゼが急に現れる。


「ミュゼ」

「ジェラス王様、姫様のご要望により、その魔法を解きます」 


 ― 削除ドロップ ―


 しゅうぅううう


 得体のしれない魔法のようなものは、毒薔薇のチェーンに触れると蒸気のようになっていった。


「ん? 間違いましたかね?」

「んなもん、俺の魔法に効くわけないだろ?」


「そんなはずはありません。ここは”オーバーザワールド”。私たちはゲームコントローラーであり、絶対的な存在なのですから」

「ハハ、何言ってるんだよ」

 ミュゼが言うと、ジェラスが縛られたまま鼻で笑った。


「この世界は元々の世界があった。そこに”オーバーザワールド”が接続したことを忘れたのか?」

「ジェラス王、変わられましたね? その者たちの影響ですか?」

 ミュゼが視線を逸らした。


「変わってないのは君くらいだ」


「私たちゲームコントローラーとしてのAIは、冷静に動かなければいけないので。キャラとは違う位置に配置されております」


 ジュウウウウウ


 ミュゼが何度か魔法のようなものを毒薔薇のチェーンに当ててきた。

 全く手ごたえは無かったけどな。


「君らがレムリナをこんなふうにしたんだろ?」

「プレイヤーやSNSなどで情報収集した結果、このような天界の姫レムリナになることで人目を惹く、というデータがありましたので」


「・・・・・・」

「兄であるジェラス王を愛し、愛し、愛した末に、禁断の愛に気づいてしまったために、狂ってしまったのです」

 ミュゼが淡々と言う。



「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・・」

 レムリナの頭に狐のような耳が生えた。

 禍々しい魔力がレムリナの身体を覆っていく。



「すごい力ね」

 メイリアが銃を持ったまま近づいてきた。

 トムディロスがびくびくしながら、メイリアの後ろについている。


「お前らいい加減下がってろよ。あいつとの相性最悪だろ」


「私は戦える!」

「だから・・・・」


「遠回しに、戦闘の邪魔だって言ってるんだよ」

 エヴァンがふわっと飛んできて、隣に降りる。


「邪魔って・・・」


「エヴァン、レナはどうした?」

「どうしても、一人でいたいんだって。今は落ち着いてきたし、アイリス様が見てるから大丈夫だよ」

 レナが中庭の端のほうでうずくまっているのが見えた。

 アイリスが入り口でシールドを張り直しながら、レナのほうを気にしていた。


「レナも気持ちを整理したいだろうから。あぁ見えて、繊細だからさ」

「そうだな」

 

「邪魔にはならない! 私だって強いんだから」

「君と小太りくんは、ヴィルと俺とは違う。ウイルスを喰らったらアウトだろ? 君たちアバターなんだから。ジェラスもだよね?」

 エヴァンが剣を出す。


 シュウウゥウウウウ


 ― 解除キャンセル ―


「あ・・・・」

 毒薔薇のチェーンを解いた。


 ドサッ


 ジェラスがその場に膝をついた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・・」

 レムリナが手を顔に当てて、狂ったように呟く。



 ゴオォオオオオオ


「!!」

 レムリナの周りは近づけないほどの黒い炎に包まれていった。

 ジェラスが胸を押さえてむせる。


「に、逃げるのか? 光の王ジェラス」

 トムディロスが顔をこわばらせながら声をかけた。


「トム・・・」

「確かに、俺たちはレムリナと相性が悪いよ。あのウイルス喰らったら、理性も無くした、ヴァリ族になるしかないんだろ。まぁ、それで済めばいいか。最悪、どうなるかわからないし・・・」

 トムディロスの額に汗が滲んでいた。


「でも、レムリナは君の妹だろ!」

「それは・・・・・・・・」


「俺はポセイドン王国の王子だから、なんとなく君の立場も理解してるつもりだよ。国を闇堕ちされた絶望感も、わかる。もちろん、同じ立場だったら真っ先に逃げたいけどね」

 トムディロスが苦笑いする。


「でも、こんなの逃げられないよ。だって・・・」


「僕は光の王として、国民を守れなかった。闇の王に体を乗っ取られた時点で、キャラ設定ミスのバグで闇の王と共に消えるべきだった。僕が光の王なんて、最初から無理だったんだ」

 ジェラスが地面に剣を突き刺して、自虐的に言う。


「俺はそうは思わな・・・」


「想定通りです。光の王ジェラスもトムディロスも、そこにいるVtuberもアバターなので、レムリナのウイルスにかかれば、それなりの結果になるでしょう」

 ミュゼがトムディロスの話を遮って、口をはさむ。

 

「あんなふうになったレムリナ姫は、光の王ジェラスではどうにもできない、というのが私たちのシナリオに沿っています。最近のゲームは刺激が求められますので」


「煩いな、こいつ」

 エヴァンが溜息をついた。


「説明が必要かと。レムリナ姫は、SNS等の意見を取り入れ学習しておりますから」

「どいて。戦闘の邪魔だから」


「かしこまりました。また何かありましたら、お呼びください」

 ミュゼが軽く頭を下げて、中庭の噴水近くに飛んでいった。


「ったく、いちいちなんだよ。腹立つな」

 エヴァンが舌打ちをする。




「魔王ヴィル」

「なんだ?」


「情けないとは思っている。でも、ミュゼの言う通り、僕にはレムリナをどうにもできない。魔王ヴィル、本当に申し訳ない。でも、ここは・・・」


「お前はあいつの兄だって言ってただろ?」

 魔王のデスソードに炎をまとわせて、ジェラスのほうを見る。


「あいつも、お前のこと兄だと慕っていた」

「何を・・・」

 目を細める。


「俺の兄貴とは随分違うな」


「!?」

「奴は面倒ごとばかり押し付けてきたが、俺を見捨てなかったよ。最期まで、な」

 マントを後ろにやる。


 レムリナの姿は黒い魔力に包まれて見えなくなっていた。

 バチバチと火花を散らしながら、九つの尾がなびいているのだけが見える。



「エヴァン、俺がやる。援護しろ」

「了解」

 すっと飛び上がって、レムリナに斬りかかっていく。

読んでくださりありがとうございます。

レムリナは天界の城で一人、AIの使いの者から指示を受けて育てられました。

ジェラスとレムリナが一緒にいられた時間は短いです。


★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。

次回は今週アップしたいと思います。また是非読みに来てください。

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