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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第六章

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426 お兄ちゃん②

アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。

ヴィルはアイリスを救い出し、冥界の誘いから目覚める。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS

レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。

エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。


メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。

ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。

トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。


レムリナ姫・・・天界の姫

ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。


ヴァリ族・・・”オーバーザワールド”の魔族。”オーバーザワールド”の魔王となった、別時間軸のヴィルが魔族と区別するために名付けた。

 ガチャン

 

「メイリアたんは心配しなくていいよ。いざとなったら俺が守ってあげるから」

「いらない」


「えっ?」

「さっきの戦闘では少し出遅れた。今度は私が行く」

 メイリアが銃のようなものに、魔法弾を詰めながら周囲を伺っていた。


「別にいいのに。なぁ、ヴィル」

「そうだな。勝手に出てきて、勝手に死なれるのも面倒だ」


「私は強い。そう簡単に死んだりしない」

 メイリアがむきになって言い返してきた。

 エヴァンが肩をすくめる。


 城下町を城へ向かって歩いていた。

 あれからヴァリ族との戦闘は一度もない。


「・・・でも、ほら・・・・魔王ヴィルもいるんだし、俺らはテラたちと後方でいいじゃん」

「トムは隠れてていいよ。私、トムの分も戦えるから」


「いや、俺だって戦える・・・たぶん。だって、”ブレイブアカデミア”にいたし・・・合格者だし・・・一応、コネなんか使ってないから」

 トムディロスは言葉とは裏腹に、びくびくしながら、メイリアについていた。


「ふうん。楽しそうだなぁ、そっちは推しと旅に出れて」

「エヴァンもリョクの居場所が分かったんだから、よかったじゃないですか」


「まぁね。会えないけど、なんかほっとしたな」

 エヴァンの足取りは軽かった。


「あまり浮かれるなよ」

「浮かれてないって!」

「浮かれまくってるだろうが・・・」

 月明かりが地上を明るく照らし、星々は今にも落ちてきそうだ。


「・・・・・・」

 レナが髪を耳にかけて息をつく。


 城下町のほうは不気味なほど静まり返っていた。

 民家や森の中にヴァリ族の気配はするものの、こちらに襲ってくる様子はない。


「すっかり静かになったな」

「あれだけ力を見せつければ、そりゃね。俺はもう少し肩慣らししておきたかったな。いまいち、”オーバーザワールド”のキャラって倒しにくくて」

「レナもなのです」

 レナが氷のブリーズソードを見つめながら言う。



 ― 電子防壁フェアシールド ー


「これで大丈夫。また後でかけるね」

 アイリスが、テラとナナココにシールドを張り直した。


「ダメージ無効のシールドか。すごいね」

「15分で切れちゃうし、アバターにしか効かないシールドだけどね。異世界住人のアバターを分析して、”オーバーザワールド”用にカスタマイズしてるの。これは禁忌魔法じゃなくて、私が創り出した魔法なんだよ」

 アイリスが少し得意げに話している。


「また15分後にかけ直すね。今回は後方支援だから、これくらいはできなきゃ」

「ありがとう。さすが導きの聖女だ」

「その呼び方はもうナシ。今は魔王ヴィル様の奴隷なんだから」


「奴隷?」

 テラとナナココが同時に言う。


「アイリス、ややこしくなるからその辺にしてくれ」

「?」

 アイリスが首をかしげる。

 エヴァンが声を出して笑っていた。



「みんな強くて羨ましいよ。この中で弱いのは俺だけかもな」

 ジェラスがため息交じりに言う。


「いや、どう見てもトムでしょ」

 エヴァンがつっこむとトムディロスが何か言い返そうとして、口をもごもごさせていた。


「僕も変わらない。一応、これでも光の王だし、強キャラ設定のはずだったんだけどな」

「キャラ変ってやつ?」


「そうだね。強いキャラって、自信が無くなってきたよ」

「ふうん」

 エヴァンが興味なさそうに体を伸ばして聞いていた。


「うぅ・・・魔族の街に来たのに配信できないなんて。プレイヤーが減ってるんだったら、今、配信したら絶対バズるのに」

「配信なんてどうでもいいだろ。これだから若者の承認欲求は・・・」

 ナナココが今にも泣きそうな顔をしている。

 テラがナナココを見て、呆れたようにぶつぶつ言っていた。





「正面から行けるの?」

「僕がいればね」

 ミナス王国の城は闇の魔力が渦巻いている。


 ゴゴゴゴゴゴゴ


「向こうも待っててくれてるって感じだ」

 ジェラスが城の門に立つと、自動的に門が開いた。

 神妙な面持ちで、顔を上げる。


 ジェラスが指を動かすと、ぱっと城全体に明かりがついた。


「おぉ・・・」

「入ってくれ。攻撃する者はないはずだ。階段を上った先に、中庭がある。おそらくレムリナはそこにいる」


「シエルとサリーの気配がするな」



 ジジジジ ジジジ



「おかえりなさいませ、ジェラス王様」

 入ろうとしたとき、どこからともなくメイドの服を着た少女が現れた。


「!!」

「そしてそのお友達の皆様。お待ちしておりました」

 こちらを向いて、深々と頭を下げていた。


「ヴァリ族じゃない。プレイヤーでもないな。人間か?」

「ヴァリ族・・・魔族にはならなかったのですか? 一人だけですか?」

 レナがまじまじと少女を見つめた。


「彼女は天界の城にいたとき、レムリナの傍にいた、AIの一人、ミュゼだ。ゲームを操作する立場にあるから、基本的に影響を受けない」

「ミュゼです、よろしくお願いします」

 ミュゼがくるっと俺たちのほうを見ながらほほ笑みかけてきた。


「ジェラス王様、姫がお待ちです」

「あぁ」

「私もついていきます。決まりなので」


「みんなついてきてくれ。僕が案内する。僕の城だからね」

 ジェラスがミュゼと目を合わさずに歩いていった。



 城の中はきらびやかな装飾が施されたままだった。

 城下町のように、何かが暴れた痕跡も無い。


「わぁ、綺麗な城だな。このへん金とか本物?」

「エヴァン、触っちゃだめですよ」


「私はこの城苦手かな」

「ん? なんかあるのか?」

「特定できないんだけど・・・なんとなく・・・」

 アイリスが胸を抑えながら言う。

 中庭に行くにつれて、闇の魔力が重くなっていった。


「姫からはジェラス王の様子を記録するようにと言われているのですが、お友達といらしたことも記録していいですか? 会話なども・・・」

「うるさい。下がってろ」

「かしこまりました」

 ジェラスの表情がどんどん険しくなっていく。

 ミュゼがジェラスの横にぴったりとくっついていた。


「ちょっとどいて」

「貴方は?」

「忘れたのか? 俺はポセイドン王国の第三王子、トムディロスだ」

「失礼しました。一応メインキャラでしたね」


「本当、鬱陶しいな。なぁ、ジェラス、大丈夫なの?」

 トムディロスがミュゼを避けて、ジェラスの横についた。

 ミュゼはトムディロスが来ると、すっと避けた。


「君は光の王だ。でも、光と闇、どちらかにしか転ばないキャラ設定だろ。今の君は闇に近い」

「・・・・・・」

「まぁ、こんなことがあったから仕方ないとは思うけど」

「安心してくれ。僕は光のほうにいる」

 ジェラスが低い声で言った。


「・・・じゃ、いいけど」

「お話は終わりましたか?」

「終わったよ。ほら、もう着いただろ?」

 トムディロスが隣にいるミュゼを睨んだ。


「そうですね。もっと話したかったのですが、残念です。ジェラス王、姫がお待ちです」

「二度同じことを言うな」


 ガタン


 階段を上った先に、真っ白なカーテンに包まれたドアがあった。




「ここだ」

 ジェラスが手をかざすと、木の扉がゆっくりと開く。


 夜風に乗って、花の香りがした。 


「レムリナ・・・・」

 大きなステンドグラスのランプに火がついて、夜なのに明るかった。


 レムリナが黒いドレスを着て、中央のテーブルでお茶を飲んでいる。


「魔王ヴィル様!」

 シエルの透き通るような声が響く。


「魔王ヴィル様、申し訳ございません!」

「この檻に、私たちの魔力が効かなくて・・・」

「シエル、サリー・・・」

 レムリナの椅子の横の檻に、シエルとサリーが閉じ込められていた。


 魔王のデスソードを出して、レムリナに近づいていこうとする。


「待ってくれ。魔王ヴィル、頼む。ここは俺に先に行かせてくれ」

 ジェラスが俺を制止して、前を歩いていく。


「あいつらに何かしたらすぐ殺すからな」

「わかってる」


「お兄ちゃん」

 レムリナがティーカップを置いて、こちらを見た。

 ジェラスと目が合うと、レムリナが嬉しそうにほほ笑んでいた。 


「待ってた。お兄ちゃんなら絶対に、私のところに来てくれるって信じてた」  

読んでくださりありがとうございます。

ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。


インフルにかかりダウンしております。

皆様も体にはお気を付けください。次回はインフルの回復次第ですが、週末にはアップしたいと思います。

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