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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第六章

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424 夜の空飛ぶ船

アイリスの過去退行から外れた別の世界線のヴィルがマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。

魔王ヴィルはアイリスを救い出し、冥界の誘いから目覚める。


主要人物

魔王ヴィル・・・魔族の王

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS

レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。

エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。


メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。

ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。

トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。


レムリナ姫・・・天界の姫

ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。

 テラの出した空飛ぶ船はスムーズに進んでいた。

 徒歩で10日と言われていたが、あと2日で着くらしい。


「テラは寝ないのか?」

 本を読みながら、テラに声をかける。

 夜も更けて、みんな寝静まっていた。


「俺はたまにこうやって、軌道がずれてないか確認しなきゃいけないからな。昼間に仮眠とるよ。魔王ヴィルこそ寝ないのか?」 

「魔族はそもそも夜行性だ」

「なるほど」

「ま、たまに昼から元気な奴もいるけどな」


 船は夜になると形を変えて、大きな一つのベッドのようになっていた。

 揺れで落ちないように、ガラスで覆われている。


 船内はトムディロスのいびきが響いていた。

 アイリスとレナはくっつくようにして同じ毛布を掛けている。

 ナナココは動物のぬいぐるみを抱きながら、寝息を立てていた。


「アイリスが修復してよかったな」

「ん?」

 テラがモニターの地図を動かしながら言う。


「ありえないことだよ。いくら完璧な人工知能を持っていたって、あんなウイルス除去できない。アイリスの場合、アイリス特化型のウイルスだったはずだ。ナナココのウイルスでさえ、俺もAIを使いながら修復を試みたけど、全く歯が立たなかった。さすがだ」

「テラ、お前がこっちに来てることは、異世界住人は知ってるのか?」

「いや、知らない」

 テラが地図をぴたりと止める。


「放置かよ」

「そうだね。あとはそうゆうのが得意なAIに任せてる。といっても、転移は成功したしやることがないんだよ。命の数が尽きれば、みんなこっちのアバターを無くして戻るだけだ」

 淡々と話していた。


「勝手な奴だな。神だとか名乗ってたくせに」


「まぁ、俺は長く生きたし、動けるうちに何でもやっていきたくてね。ここに居れる限り、異世界で好き放題やっていくよ」

「マジで、実年齢は何歳なんだ?」


「還暦を・・・って、言う必要ないだろ? 今の見た目の通り相手してほしいね。ほら、そこのエルフ族のレナなんて1000年生きてるっていうし」

「エルフ族と異世界の人間を比較するなよ。レナが怒るぞ」


「そうだね。その子には悪いことをした・・・あの時は、異世界とゲームの区別がついてなかった」

「だろうな。じゃなきゃ、イベリラの話に乗らない」


 不運にも、異世界住人が来たから、俺が生きているようだけどな。

 後は魔王になれば死ぬルートだった。 

 アイリスは本当に無茶をする。


「ん・・・・・」

「相変わらず寝相が悪いな」

 レナが寝返りを打って、アイリスから毛布を奪っていた。


 ふぁさっ・・・


 マントを広げてアイリスにかけてやる。


「優しいじゃん」

「エヴァン、起きてたのか?」

「りくのこと考えたら眠れなくてね」

 エヴァンが笑いながら体を起こした。


「”クォーツ・マギア”か。”オーバーザワールド”よりも、そっちと接続してほしいな」

「変なこと言うなよ。”オーバーザワールド”だけでも混沌としてるのに」

「冗談だって。ただ、りくが転生してたのが本当に本当に嬉しくてさ」

 エヴァンがにやける頬を手で隠していた。


「今度は何も背負わずに、悠々自適に暮らしてほしいな」

「エヴァンのこと忘れて、新しい男見つけて大恋愛とかしてるかもな」


「うっ・・・一番ダメージでかいところ、えぐるなって」

 ふっと笑って、椅子に座り直す。

 本に挟んでいた栞を抜いた。


 エヴァンがメイリアが寝ているのを確認して、声を潜める。


「ねぇ、メイリアが話してたこと、どう思う?」

「ん?」

「サタニアが星の女神アスリアだったって話だよ。本当かな?」

「さぁな。本人に聞いてみなきゃわからないけど、七つの大罪の奴らが使う転移魔方陣は、どこかサタニアの魔法に似てるからな」


 サタニアは謎が多い。

 元は十戒軍に召喚させられた異世界の人間だったってことだったが、本人もどこまで自分を把握してるのかわからないようだったからな。


「まぁ、何者だったとしても、サタニアが仲間であることは変わりないよね」

「当然だ」

 エヴァンが少しほっとしたような表情を浮かべた。


「で、何の本読んでるの?」

「異世界で流行ってる本らしい。テラから貰ったんだ」

「ちゃっかりしてるね。じゃ、ヴィルは相変わらず本ばかりだし、俺も寝ようか・・・」



 ズンッ・・・


「この魔力・・・」

「!?」

 はっとして地上のほうを覗き込む。

 鳥肌の立つような魔力が走るのを感じた。


 エヴァンも同時に覗き込んでいた。


「これ、”オーバーザワールド”の闇側の魔力じゃない?」

「だろうな。あいつ、何をしたんだ?」


「もう一人のヴィルか・・・。闇の王無しでも”オーバーザワールド”の魔族を統率できてるみたいだね。むしろ、魔族の力が強まったようだ」

「・・・・・・・・・・・」


 アイリスに出会わなかった世界線の俺だ。

 自分のことだからか、大体何を目論むのかは想像つく。


「今のはなんだ?」

 ジェラスが起き上がって、こちらに近づいてきた。


「闇の魔力が一時的に高まった。お前らの言う、街に闇に染まれば人間が魔族になるって制約は続いてるようだな」

「闇の王がいなくなったのに・・・」

「もう一人のヴィルを闇の王として受け入れたんじゃない? ”オーバーザワールド”が、さ」


「っ・・・・」

 ジェラスが悔しそうな表情を浮かべて、こぶしを握り締めていた。


「こんなことになるなんて・・・」


「とりあえず魔族が心配だな。あいつら臨機応変に対応できているだろうか」

「上位魔族がププウル、シエル、サリーが欠けてるもんね。でも、ほらサタニアがいるから大丈夫だよ。サタニア、自分に自信はなさそうだけど、実力は俺と同等だと思うよ」

「そうだな」

 今、ここで俺が焦っても仕方ない。

 シエルとサリーの救出が優先だ。


「もどかしいな。僕は光の王なのに、名ばかりの王だ」

 

「名ばかりの王になるかはこれからだと思うよ」

 テラが振り返った。


「まだ、イベントは始まったばかりなんだから」

「テラ・・・」

「逃げまくった勇者が偉そうに」

 エヴァンがぼやいた。


「年寄りは偉そうにしたがるからな」

「こじらせた年寄りね」

「と、とりあえずこれ以上スピード上げられないから、ミナス王国まで2日はかかる。どのルートを通っても同じだ。心配ならどこかの国に降りるか?」

 テラが早口で話していた。


「いいよ、このまま突っ走ってくれ」

 ジェラスの目を見る。


「ジェラス、わかったか、今は休息だ。じたばたしても仕方ない」

「あぁ・・・そうだよな」

「同感。休める時に休まなきゃ。つか、レナの寝相すごいな。さっきまでアイリス様の横にいたのに、今端にいるし」

 レナが毛布を独占したまま転がってメイリアの横で寝ていた。


「便利な船だよな。ソファーが無くなって大きなベッドみたいになるんだから。じゃ、おやすみ」

「あぁ」

 椅子に座ってアイリスのほうを見る。

 何事も無かったように、ぐっすり眠りについていた。


「ジェラス、今は気にするなと言っただろ?」

 ジェラスが船の端に座って、遠くのほうを見つめていた。


「気にしてないよ。目が覚めたし、景色を見てるのも悪くない」

「ふうん」

「君は本当にゼロに似ているね。顔というより、雰囲気が、かな」


「一応兄弟らしいからな」

 ランプの明かりをつける。


「はは、きっとゼロが聞いたら喜ぶよ。兄は下の子が心配だからね」

「あんなにめちゃくちゃやった妹でも、そう思うのか?」

 

「・・・そうだよ。レムリナの苦しみを、わかってやれなかった。落ちぶれた妹だけど、代われるなら代わってやりたい。もちろん、兄としてね」

「弟の身分から忠告しておくと、かっこつけるなって言いたいな」


「・・・・・・」

「別に、兄貴に守られなくたってどうにかなる」

 ジェラスをたしなめるように言った。


「・・・貴重な意見だね。心に刻んでおくよ」

 本のページをめくって、読んだところまで確認する。

読んでくださりありがとうございます。

ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。


今日はこれから成田山に行ってきます。

来年は書籍化の夢を叶えられるよう、お願いしてきます。

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