423 暴食のデンデ
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。
ヴィルはアイリスを救い出し、冥界の誘いから目覚める。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になっていた。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
レムリナ姫・・・天界の姫
ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。
七つの大罪・・・???
「わぁ、空飛ぶ船。すごい、早いね!」
アイリスが目をキラキラさせて船の先端に立っていた。
「音楽とか聴きながらだと最高! 星空が降ってきそう」
「落ちるなよ」
「はーい」
機嫌よく手を伸ばしていた。
アイリスはウイルスが入ってたとは思えないほど元気だった。
「魔王ヴィル、乗り心地はどう?」
テラが少し自慢げに聞いてきた。
「なんかこうゆう船見たことある気がするんだよな」
「異世界からこっちに移行できるか確認してたから、見てると思うよ。試運転は、十戒軍にやらせてたんだ。正直、どうなるか読めなかったし」
「あー・・・・」
「”オーバーザワールド”の地図から出ると、魔力を切り替えなきゃいけないからルート確認しながらじゃないと」
テラがぶつぶつ話していた。
「なんとなく乗りたくない船だな」
魔王城に十戒軍が現れたときに使っていた船に似ている。
船といっても、通常の船ではない。
楕円形で、帆のない船だ。
大きめのソファーに椅子、テーブルに食事が備わっていて、どこかの部屋が移動しているような感覚だった。
「私、こうゆう乗り物初めてです」
「僕もだよ。メイリアたん。今日は月が綺麗だね」
「柔らかい。不思議なソファー」
メイリアが毛皮のソファーを珍しそうに撫でていた。
「そういや、そこの小太りくんもついてきたんだ」
「小太りくん!?」
「だって、そうじゃん。なんだっけ?名前」
「トムディロス、ポセイドン王国の第三王子だ!」
「あ、そ」
エヴァンがソファーに横になって、毛布にくるまっていた。
トムディロスが膨れながら、籠の中のクッキーをつまんでいる。
「あはは、なんだか大所帯ですね。ヴィルはいろんな仲間を集めますよね」
「たまたま集まっただけだ」
「ふふ、こうゆう旅って楽しいのです」
レナが空を見つめながら言う。
「ねぇねぇ、ヴィル」
エヴァンが寝転がりながらこちらを見る。
「俺にとっていいこと教えてよ。死ななかったらって言ってたじゃん」
「あぁ、そうだ。約束してたな」
椅子に座り直して、エヴァンのほうを見る。
「望月りくは”クォーツ・マギア”というゲームに転生しているらしい。アエル・・・いや、ゼロも聖騎士として転移させられると聞いている」
バサッ
「え!?」
「!?」
エヴァンとメイリアが同時に反応した。
2人が勢いよく立ちあがる。
「ゼロが消える前に話してた。あいつは嘘は言わない奴だ。月の女神とデウスエクスマキナがどうとか言ってたな。あとは知らん」
「”クォーツ・マギア”も体感型VRゲームだよ。ナナココよりもテラのほうが詳しいかもしれないけど」
ナナココが毛布を頭からかぶって、不貞腐れたように言う。
「もちろん知ってるよ。”クォーツ・マギア”は”オーバーザワールド”に似てるからね。基本的にはプレイヤーが旅人として、”クォーツ・マギア”の世界を知っていくストーリーだ。クリエイターが自由に創っていて、競争的な要素のないゲームらしいから、俺は興味ないな」
テラがそっけなく言った。
「・・・・りくが・・・」
エヴァンが立ちあがったまま毛布を掴んでいた。
「よかったですね。エヴァンもそのゲームに入りたいのですか?」
レナが無理してほほ笑んでいるのがわかった。
「いや、今はいいよ。でも、嬉しいな。りくが・・・」
「そうですか」
エヴァンが下を向いて、喜びをかみしめていた。
「魔王ヴィル、その情報に信憑性はあるの?」
「あいつはそうゆう嘘はつかない。本当なんだろう」
「じゃあ・・・・・」
「なんでそんなことを俺に言い残していったのかは知らないが、俺はまたあいつに会えるような気がしてるよ。腐れ縁ってやつだな」
夜風が冷たく、頬にあたった。
「そっか。勇者様・・・」
「えっ、メイリアたん、まさかゼロのことが好きとかそうゆうのあるの?」
「好き?」
「いや、今答えないで。聞きたくないから。勇者のパーティーはカップルができやすいって定番設定、見ないふりしてきたから」
メイリアが首を傾げた。
「まぁまぁ」
エヴァンがトムディロスの肩を叩く。
「落ち着きなって、小太りくん、恋愛は長期戦だよ」
「君、実年齢何歳だよ」
トムディロスが怪訝な顔をしている。
ガタン
「なんか美味しそうな匂いがすると思ったら、プレイヤーの残りがいたのか。あ、やっぱりこんなところにお菓子が。俺の好きなチョコレートクッキーも入ってる!」
「!?」
突然、色白の太った男がトムディロスの横に座っていた。
― 氷の剣―
レナがすぐに剣を出して、構えた。
「うわぁっ」
トムディロスが床に転げながら、お菓子の入った籠を抱える。
「いいじゃん。こんなにあるんだから、貰ったって」
「何者ですか!?」
「俺は七つの大罪、暴食のデンデだよ。アスリアの気配がするなって思って動いてるんだけど、美味しそうな匂いがするとつられて、なかなかジオニアスのところへ行けないんだよね」
顎をたぷんとさせながら、クッキーを食べていた。
「重量オーバーだ! 魔力消費激しいから、早くそいつ降ろしてくれ!」
テラのモニターの縁が赤く点滅していた。
「だってよ、小太りくん」
「僕じゃない。降りるのはあっちだ」
トムディロスがデンデを指さす。
「冗談に決まってるじゃん」
「君が言うと、冗談に聞こえないって」
エヴァンがトムディロスをからかって笑っていた。
「エヴァン」
「というわけだよ。降りてもらう。力ずくでもね」
エヴァンが剣を出した。
「俺は温厚なほうなんだ。その食べ物よこさないなら、降りる気はない。食べ物さえよこせば、おとなしく降りてやる」
デンデが空中に線を描いて、斧を出していた。
「俺は七つの大罪だ。意外と強いからね」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
レナとエヴァンが無言でトムディロスのほうを見る。
「嫌だって、これは貴重な食べ物で。あっ」
「交換条件だ」
お菓子の入った籠をトムディロスから奪って、デンデに近づいていく。
「3つの情報を話せ。そしたら、これをやる。速やかに降りろ」
「食べ物をくれるならいいよ。俺は暴食のデンデだからね」
デンデが斧を降ろした。
「・・・・・・」
目で合図して、レナとエヴァンに剣を降ろさせる。
「1つ目、お前ら七つの大罪の目的はなんだ?」
「俺たち、アスリアを探してるんだ」
冥界の誘いで会ったミーナエリスとかいう女と同じ奴らか。
あいつも、自分のことを『七つの大罪』だと話していたな。
「『七つの大罪』は何者だ?」
「”ユグドラシル”というゲームで、星の女神アスリアに救われた仲間だ。はい、これで2つ答えた」
デンデが肉付きいい手をこちらに向ける。
「3つ目の質問は?」
「ちょっと待って」
突然、メイリアが前に出た。
「私、勇者様と旅していたとき、アスリアのことを知ったの。あとで説明するから、最後の質問は私にさせて」
「わかった」
お菓子の入った籠を、メイリアに預ける。
腕を組んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ
船が軽く傾いてきていた。
テラとナナココが慌てているのが見える。
「アスリアとゼロはどうゆう関係?」
「ゼロ? 知らない名前だな。いや、それじゃだめだ。うーん、お菓子のため、お菓子のため」
デンデが自分の頭をくしゃくしゃ搔く。
「じゃあ、ベリアルは?」
「!!」
デンデの顔色が変わる。
「ベリアル・・・憎き名前だ。アスリアはベリアルを信頼し、ベリアルもアスリアを信頼していた。これですべての質問に答えた。そのお菓子はもらうよ」
「あっ・・・・」
デンデが、メイリアの差し出したお菓子の籠を手に取る。
「美味しそう。やっぱ、プレイヤーが持ってるお菓子って美味しいんだよな」
シュンッ
一瞬で転移魔方陣を描き、消えていった。
傾いていた船が、平らに戻っていく。
「ふぅ・・・なんか傾いてたみたいだね。あれ? みんなどうしたの?」
アイリスがふわっと飛ぶようにしてこちらに来た。
「アイリス、今の状況見てなかったのか?」
「だって、ずっと空飛ぶ船に夢中だったから。テラが持ってきた今異世界ではやってる音楽聞いてて・・・」
「・・・・・・」
やっぱりアイリスが浮ついている。
気を引き締めなきゃな。
ため息をついて今起こったことを説明していた。
レナがぼうっとエヴァンのほうを見つめている。
アイリスは胸がいっぱいなので、他の話は頭に入って来ていません。
エヴァンはよかったですね。レナは複雑ですが。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
次回は来週アップ予定です。また是非見に来てください!




