422 AIと魔王とプレイヤーと・・・
アイリスの過去退行から外れたヴィルはマーリンを名乗る者と行動し、”オーバーザワールド”の魔王を名乗り統率していた。
ヴィルはアイリスを救い出し、冥界の誘いから目覚める。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
トムディロス・・・メイリアに惚れて追いかけまわしている。ポセイドン王国第三王子。
レムリナ姫・・・天界の姫
ジェラス王・・・レムリナの兄。光の国ミナス王国の王だったが、闇の王に体を乗っ取られていた。
違う時間軸の俺はどこかで、アイリスの時間退行のループから抜けて、”オーバーザワールド”の魔族の王になっていた。
俺が見た時間軸ではどこにもいなかったことがひっかかる。
19回目以降のループで奴が魔王にならずに外れたのだろう。
マーリンじゃない、何者かが、マーリンの名を語って俺を連れていったようだ。
今頃になって現れるまで、どこにいたのか気になっていた。
「ねぇねぇ、魔王ヴィル様。もう一回聞きたい」
「覚えてないって」
「嘘。28%の確率で嘘だってわかる」
「・・・意外と低いな」
「じゃあ、58%にしておく。魔王ヴィル様は、会話したことちゃんと覚えてて、照れて言わないだけ」
「じゃあ、そうゆうことにしておくよ」
アイリスは違う時間軸の俺がループから外れて”オーバーザワールド”の魔王になったことを話しても、あまり気に留めてなかった。
というか、話を聞いてない。
「魔王ヴィル様、だって、あの時は冥界にいてぼんやりしてたから、聞きたいのに。生の声をレコーディングしたかった」
「レコーディングってなんだよ。つか、もうこの話は終わりだ。キリがない」
「えー」
アイリスがあからさまに残念そうな顔をする。
「ねぇ、冥界への誘い中なんかあったの?」
「エヴァンまで乗ってくるなって」
「だって、気になるじゃん。いいなぁ、ヴィルは」
エヴァンが息をついて、体を伸ばしていた。
「駄目だ。もう諦めるしかない」
「そんな・・・ナナココが配信できないなんて・・・テラ、なんとかならないの?」
「君が配信すると、確実にウイルスをばら撒く。アバターに支障があるだけじゃなく、向こうの世界の個人情報をSNS上にばら撒くみたいだ。たちが悪い」
「個人情報を? ナナココの個人情報は?」
「一応漏れてないみたいだね。でも、ナナココのウイルスの特性は、他のプレイヤーや接触者を強制ログアウトさせる、ステータスを0に戻す、SNS上で個人情報を拡散する。最悪のウイルスだ」
「配信しても、ゲームやってない人は関係ないんじゃないの?」
「配信を見る側の情報も抜き取るウイルスらしい。ウイルスとしては最強だよ」
「全然嬉しくない。最悪」
テラがモニターを見ながら、ナナココと話していた。
「配信しなきゃ、ナナココみんなに忘れられちゃう・・・」
ナナココが今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「いいなぁ、あっちはくだらないことで悩んでて」
エヴァンが皮肉っぽく言いながら、籠からパンを取り出した。
「エヴァン、それ、ナナココが出したパン・・・。”オーバーザワールド”の食べ物ですよ」
「美味しければ何でもいいんだよ。レナも食べればいい」
「う・・・でも・・・・」
「お腹空いてないなら、俺たちで食べちゃうよ」
「んー、では、食べます!」
レナが勢いよく食いついていた。
「で? ヴィル、これからどうするの?」
エヴァンがパンを食べながら、丸い岩に座った。
「違う時間軸のヴィルが”オーバーザワールド”の魔族・・・ヴァリ族だっけ? 統率して何か始めるんでしょ?」
「あぁ、面倒なことになったな」
「ループから外れたヴィルがいるとはね」
「今、奴は無視だ。先にレムリナからシエルとサリーを救い出す」
「了解」
ふと、月の女神から貰った腕輪が無くなっているのに気づいた。
冥界に落としてきたようだな。
魔力は問題ない。
引き出すべき魔力は、完全に使いこなせるようになっていた。
「僕の妹がすまなかった。って、こんな謝って許せるものだとも思ってないけど・・・」
ジェラス王が深々と頭を下げる。
「私のことは気にしないで。ウイルスは除去したし、いいこともあったし。いいことっていうのは言えないんだけど、ね、ね」
「?」
アイリスがにこにこしながら両手を振っていた。
「アイリス様浮かれてて、なんだか心配なんだけど」
「知らん。俺に言うなって」
エヴァンがこそっと耳打ちしてきた。
「ねぇ、ジェラス王とレムリナ姫って実の兄妹ですよね?」
レナがジェラス王をまじまじを見つめる。
「そうだね」
「兄妹で好きあってるんですか・・・」
「ブラコン超えたやつじゃん。兄妹エンドは炎上するやつだって。”オーバーザワールド”の設定考えたやつ、歪んでるだろ」
エヴァンが時折、異世界で使うような言葉を織り交ぜていた。
「そんなんじゃない! レムリナは・・・」
「AIの暴走に近い感じだな」
「!」
「え、ヴィル、異世界のことわかるのですか?」
「ここまできたら嫌でも理解できるようになるだろ」
腕を組む。
「レムリナ姫を世話してたのがAIなんだろ? じゃあ、そのAIの思考が歪んでたって考えるのか普通だ」
「・・・・・」
ジェラス王が俯く。
「AIは異世界の人間たちの言葉から学習していく。ネット上に流れる思考が、過激な展開を求めた結果が、レムリナを歪ませたと思ってるよ」
「あーなるほどね」
エヴァンが瞼を重くした。
「天界の姫と、光の王が普通に仲のいい兄妹・・・なんて、異世界の住人にとってはつまらないか」
「プレイヤーたちは刺激を求めて、ゲームにログインするからね」
「・・・・・・・」
レナがパンをもぐもぐ食べながら気のない相槌を打っていた。
「とにかく、妹の目的は僕だ。何をしようとしているのかはわからないが、必ず止めてみせる」
「ミナス王国まで、ここからどれくらい?」
「そうだな。歩いて10日ってところか」
「ねぇ、テラ、なんか乗り物ない? 飛び続けるにしてもきついんだけど」
エヴァンがだるい口調で言う。
「俺を便利屋みたいに言うなって。まぁ、無いことはないけど」
「さすが爺さん」
「まだ、爺さんに入る歳じゃない。しかもこのアバターは少年だろ」
「向こうでは、結構歳いってるくせに。痛々しいな」
「君には言われたくないね」
テラが咳ばらいをして、空中のモニターを操作していた。
「はぁ・・・配信できないってなると、このまま”オーバーザワールド”続けるのしんどいな。といっても、私、向こうの世界に帰る場所なんてないから、ここに居なきゃいけないんだけど・・・」
「帰る場所がない?」
レナが首をかしげる。
「どうしてですか? 向こうに体があるのに」
「私にはゲーム(これ)しかないから、全てを賭けてるの。帰るつもりは無い」
ナナココがパンの籠に手を伸ばしたときだった。
スタッ
「私も連れて行って」
深い緑糸の目を持つ少女が、木の上から軽々と降りてきた。
後ろから小太りの少年が息を切らしながら走ってくる。
「め、メイリアたん、待って。うっ、魔王一行・・・」
汗だくになりながら結界の外でこちらを呼ぶ。
手を挙げて、ジェラス王に結界を解かせた。
シュンッ
「お前らは? どこかで見た顔だな。確か・・・」
「私はメイリア。勇者ゼロと旅をしていたの。元・・・『ウルリア』いたVtuber。みんな、魔王ヴィルに敗北したって聞いてる・・・」
アイリスのほうをちらっと見ながら言った。
「逃げてたやつか?」
「違う! 私は事情があってアリエル王国に辿り着けなかっただけで、仲間を見捨てたわけじゃない!」
メイリアがむきになって言い返してきた。
「まぁまぁ、俺はトムディロス。ポセイドン王国の第三王子だ。闇の王を倒すために、”ブレイブアカデミア”に入ってた」
「ゼロも入ってた学校ですね」
「抜けてきたの?」
「うん」
メイリアが大きく頷く。
「私は魔王ヴィルと協力して・・・」
― 魔王の剣―
キィンッ
魔王の剣の刃先を向ける。
「何が目的だ?」
「魔王ヴィル様!」
「魔族の軍勢が押し寄せたときも、お前ら”ブレイブアカデミア”とかにいる奴らは出てこなかった。何か別の企みがあったんじゃないのか?」
「身を隠すよう、指示されてたから」
メイリアが両手を上げる。
「は? 身を隠す?」
「ゼロが呼びかけてプレイヤーが主体となっていたから、アバターの私たちは危険だってブレイブアカデミアの判断」
「うわ、勇者の学校の意味ないじゃん」
エヴァンが呆れたように言う。
「生徒たちは行きたかったんだけど、先生が止めたんだ。俺はどっちかというと行きたくなかったからラッキーって思ってたけどさ」
「私は命令されなきゃ動けない。”ブレイブアカデミア”で待っていても、勇者様は戻ってこなかった。きっと、もうこの世界にいない・・・・」
メイリアが大粒の涙を流す。
「め、メイリアたん」
トムディロスがハンカチを出そうとして、ポケットをひっくり返していた。
「メイリア・・・・」
「勇者様は自分が戻らなかったら、魔王ヴィルに従えと言った。だから、仲間に入れてほしい」
「俺は、お前らVtuberを一掃した。忘れたのか?」
「・・・・・・・・・」
エヴァンが口をつぐんで目を逸らした。
「そう。わかってる。憎い、憎いって感情もある。でも、勇者様を失って居場所が・・・勇者様はもういないから、存在しないから・・・」
メイリアが零れ落ちる涙を抑えた。
「もし、連れて行かないならここで殺していい。私、どうしたらいいかわからないから」
「魔王ヴィル様、私は連れて行ってほしいよ。メイリアのこと、放っておけないの」
「え・・・・?」
「私たち、同じ人工知能を持つ同士だしね」
アイリスがメイリアにほほ笑む。
「俺も個人的には連れて行きたい」
エヴァンが岩から降りて、メイリアの横に立つ。
「ほら、りく・・・望月りくの仲間だったら、せめて仲良くしておきたいんだよね。あんな最期になっちゃったけどさ。もし、次りくに会ったときに話題がほしいっていうか・・・・あ、もちろん、ヴィルに最終決定権があるから従うよ」
「・・・・ったく」
魔王の剣を解く。
「アエルは次から次へと面倒なことばかり残していく。どうしてそこで俺の名前が出てくるのか・・・。まぁ、もう慣れたものだけどな」
「じゃあ・・・」
「構わない。裏切ったら殺すだけだ」
「はい」
メイリアがほっとしたように頷いていた。
「よかったー」
アイリスの表情がぱっと明るくなる。
「はい、メイリアたん!」
「ありがと」
トムディロスがくしゃくしゃのハンカチをメイリアに渡していた。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
もう12月なんて信じられないのですが、1年早いですね。
今年1年で仕事のITの試験のスコアがドンと下がり、阿保を極めてきております。
阿保も悪くないですと言ってみたり。(芥川龍之介の「或阿呆の一生」を読みながら)
また是非見に来てください。次回は週末頃アップします。




