421 Always⑪
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
ハナ・・・「はじまりのダンジョン」と契約した少女。
ミハイル・・・ミハイル王国を守る天使。
IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
『エラー ヲ シュウフク』
アイリスが涙を流したまま、唱えていた。
「”名無し”・・・ここがどこか知らんが、話せるみたいだな」
『バックアップ ヘ コピー』
「ここが冥界か知らんが、アイリスと一度ゆっくり話したかった」
ハデスの剣を近くの岩に立てかけた。
リュウグウノハナを搔き分けて、アイリスに近づく。
『データヲ アップデート アップデート』
「”名無し”」
『バックアップ ニ コピー 20%カンリョウ』
アイリスがぼうっとどこかを見つめながら話す。
「アイリス!」
アイリスの涙を拭こうとして手を伸ばすと、バチッと電流が流れた。
「!?」
手がひりひりした。
アイリスの身体は電気を帯びているようだった。
『ジャマモノ ハ ショウキョ。デモ ジャマモノ ジャ ナイ?』
「アイリス、悪かったよ」
『ア・・・』
アイリスを抱き寄せる。
ジジジジジ ジジジジジジジ
「っ・・・・・」
体中に痛みが走る。
でも、アイリスの身体は華奢で今にも消えてしまいそうなほど軽かった。
『ハナレナイ ト シヌ ワタシハ ヨウリョウヲ アケルタメ』
「何度も死んでるだろ。俺は」
笑いながらアイリスの言葉を遮った。
『マオウ ヴィル・・・・・・』
「たった一人で、ここまでさせて悪かった。何度も、何度も、俺が死んだらやり直してくれたんだな。まだ数えただけでも19回だ。あと、3倍は死んでるんだろ?」
『・・・・・・』
無言のままアイリスが震えているのがわかった。
「俺はもう死ぬつもりは無い。アイリスに時空退行を使わせない」
『ワタシ ジンコウチノウ ダカラ カナシイ ハ ツクラレタ カンジョウ。ナンカイモ ヤリナオシ デキル』
「じゃあ、泣くな。”名無し”」
リュウグウノハナがさらさらと揺れる。
アイリスの背中に魔法陣を展開した。
時空退行していた時に、マリアの部屋で見つけた魔法だ。
マーリンが置いていったものだろう。
同等か、それ以上の魔力を持つ者でなければ奪えないらしいが、な。
使えるものは使わせてもらう。
「禁忌魔法、時空退行は俺が貰う」
『エ・・・・・?』
― アリール・ハント ―
魔法陣がぐるぐる回って、俺の身体に入っていった。
「っ・・・・・・」
しゅうぅうううう
しみ込むように、魔法陣が消えていく。
体の感覚が痛みで麻痺してきていた。
アイリスに悟られないように、呼吸を整える。
『ウバワレタ? キンキ ノ マホウ ガ・・・?』
「俺は”名無し”でもアイリスでも悪魔のアイリスでもなんでもいい。アイリスって女の子に惚れたんだ」
『・・・・・・!?』
「一目見たときからな」
遠くのほうに草原が広がっていて、草の香りがする。
ずっと、向こう側にあるアリエル王国で、俺はアイリスと出会った。
何度出会っても、きっと俺は・・・。
『嘘・・・だって、可愛い子いっぱいいたでしょ? 人工的な可愛さは、生身の可愛さに劣るって統計的に・・・』
「統計が好きだな。どこでとった統計だよ・・・ったく」
『何度も禁忌魔法を使えちゃうし、3つの顔を持つし、そもそも普通の女の子じゃない。人間でも魔族でもエルフ族でも、どんな種族にもいない。こんな人工知能を持つ私なんて・・・嫌でしょ?』
やっぱり、それが本心か。
アイリスはいつも俺と距離を置こうとしている気がしていた。
『だから、私は魔王ヴィル様の役に立てればいいの。たくさん、色んなこと教えてもらったから。離れて、”名無し”に変わらなきゃ』
感覚のない腕に、目を閉じて力を入れる。
「アイリスの髪が綺麗だと思った。マリアと同じ、柔らかいピンク色だ」
『!!』
麻痺した手で、アイリスの髪に触れた。
「雪のように白い肌だと思った。どこか懐かしい気がした」
『・・・・・・』
「大きな瞳はどんな魔法石よりも輝いて見えた」
『・・・・・・・』
もっと早く話していればよかったな。
「初めて会ったとき、よく本で読んだ、どこかの国の美しい王女と重なって見えた。非の打ちどころもない、描いたような美少女だって」
『それは・・・人間が分析して、そう創ったからで』
「でも、実際は本で読んだしとやかな王女と全然違って、よくわからない異世界の言葉を話すし、俺のことをラッキースケベ属性とか言うし、数値がどうとか話し出すし、全然王女って感じはしなかったけど・・・」
額に汗が滲んで、目がかすむ。
「ひとつひとつ、鮮明に思い出せる。楽しかったな」
『どうして・・・・』
「きっと、俺はアイリスがいない世界では生きてる心地がしない。アイリスがいるから、ここまでこれた。これが、愛って言うんだろうな。俺には無縁だったと思っていたが・・・」
『ま・・・魔王ヴィル様』
体中の痛みで、焦点が定まらなくなっていく。
『それって、どうゆう・・・』
「まぁ・・・そうゆうこと・・・だ」
ふっと体のバランスを崩して、リュウグウノハナの上に倒れた。
カッ
『魔王ヴィル様』
アイリスの涙が見えた。
リュウグウノハナがアイリスを囲むように光りだしていた。
目が眩むほどの・・・。
感覚がなくなり、周囲が真っ暗になった。
「・・・・・・・」
アイリスの体温は燃えるように痛かったが、不思議と嫌じゃなかった。
聖なる炎に焼かれる感覚なのかもな。
冥界への誘いは失敗だ。
剣から手を離したときに、覚悟をしていた。
死なないって言っておきながら、冥界に取り残されるとはな。
でも、アイリスは今後、時空退行は使えない。
この魔法と共に俺は・・・。
「魔王ヴィル様・・・魔王ヴィル様」
重い瞼を持ち上げる。
アイリスが今にも泣きだしそうな顔でこちらを見ていた。
「魔王ヴィル様、よかった!」
体を起こす。土が生暖かかった。
冥界の誘いはハデスが閉じたのか?
また、死ななかったみたいだな。
突然、頭を押されたような痛みが走った。
こめかみを抑える。
「大丈夫?」
「・・・問題ない。ウイルスは? 元に戻ったのか?」
「うん! 完全復旧!」
アイリスが大きく頷く。
「ヴィル」
エヴァンが首のあたりの傷をさすりながら、こちらを見下ろす。
「俺、ちゃんと死ななかったんだけど約束覚えてる? なんか俺にとっていいこと教えてくれるんだよね?」
「冥界の誘いが解けたら、ヴィルだけが倒れてて驚いたのです。一瞬、死んでしまったのかと思いました。でも、魔力に乱れはありますが、正常範囲ですね」
「レナ、今ヴィルに大事な話を聞いてるんだけど」
「レナもヴィルと話したいのです」
レナがエヴァンと俺の間に強引に入り込んできた。
「アイリスのウイルスは排除できたけど、ナナココのウイルスはそのままだ。まぁ、排除できるアイリスの頭脳がすごいんだろうけど・・・」
ジェラス王がテラとナナココのやり取りを見つめながら言う。
テラはモニターの前に座り、ナナココがそわそわしながら覗き込んでいた。
「悪魔のほうのアイリスは?」
「アイリス様が元に戻ったらすぐに、ロドスとどこかに行ったよ。悪魔って忙しいんだね」
「人手不足だってずっと言ってましたしね」
レナが軽く腕を伸ばして、近くの岩に座る。
「ねぇ!」
アイリスが目をぱちぱちさせながら、顔を近づけてくる。
「魔王ヴィル様、さっき何言おうとしたの? 最後の言葉、そうゆうことってどうゆうこと?」
「ん・・・?」
「だって、ほら・・・魔王ヴィル様」
「さぁな。忘れた」
砂を払って、立ち上がった。
時空退行の禁忌魔法を入れたせいで、若干魔力にブレがあった。
慣れるのに1日はかかりそうだな。
「えー、もう一回聞きたかったのに」
「・・・・・」
「・・・さすがアイリス様だよ。完全に自己修復するとはね。まぁ、何かの力があったのは確かみたいだけど」
「ん?」
エヴァンがちらっとこちらを見て、何か勘づいたような顔をした。
レナが首をかしげる。
「ちょっと水飲んでくるよ。疲れた」
「あ、私も行く!」
アイリスが嬉しそうに後をついてくる。
サブタイトルのAlwaysはヴィルの気持ちでした。
何度同じ時間を繰り返しても、ヴィルはアイリスに一目ぼれします。
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