418 Always⑧
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
ハナ・・・「はじまりのダンジョン」と契約した少女。
ミハイル・・・ミハイル王国を守る天使。
IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
アイリスは俺が死ぬたびに、時間退行を続けていた。
魔王となった俺は”名無し”の言う通り、死ぬことを定められていたのだろう。
アイリスが異世界とこの世界を繋いでも、まだ、俺は何らかの理由で死んでいた。
ミハイルが俺が殺した後も、当然のように、死ぬ。
魔族を庇って人間に処刑されて死んだ。
十戒軍からアイリスを守るために死んだ。
人間たちの単純な罠にはめられて死んだ。
イベリラらしき魔女に、不意打ちで殺されたこともあった。
今通過した限り、18回も死んでいた。
俺は最初から強いわけではなかった。
イベリラの封印が解けて、魔王となっても何らかの理由で死ぬ。
ダンジョンに魔族が入るようになっても、死ぬ。
アイリスはループを繰り返すたびに、自分に起きていた出来事を忘れていってるようだった。
何も知らずに俺と会って、死んで”名無し”に代わり、時間退行を繰り返す。
死ぬ奴は、どうあっても死ぬ。
アイリスはいつも俺が死ぬと泣いていた。
俺を生かす価値なんか・・・。
「魔王ヴィル様?」
IRISが飛んで、19回目に死んだ俺の亡骸から離れる。
死因は毒殺。
人間が魔族に化けて、魔王城に侵入していたようだ。
「!?」
「魔王ヴィル様、大丈夫?」
意識が朦朧としてきたとき、ハデスの剣が動いた。
IRISの声が遠くなっていく。
こめかみを抑えて、ゆっくりと目を開くと、見覚えのある部屋にいた。
窓から木漏れ日が入ってくる。
『ヴィル、ほら、元気出して』
『別に、元気だって』
『ヴィルが元気なら、それが一番なんだから』
マリアの声がした。
ガキの頃の俺の背中をぽんと叩く。
ここは、マリアの部屋か?
『マリアこそ体調はどうなんだ? 眩暈がひどいんだろ?』
『だいぶ良くなった。でも、少し眠りたいかな。ごめんね』
『そうか・・・』
いや、マリアが通っていた教会の一室だ。
マリアが体調悪いときに、休憩する場所になっていた。
マリアが体を起こして、ふぅっと息を吐く。
『じゃあ、俺は先に戻るから。眩暈が収まった頃に、迎えに来るよ』
『ううん、大丈夫。ヴィルにかけてもらった肉体回復が効いてるから。施設はすぐそこだもの。自分で帰れるよ』
『ふうん。でも、なんかあったらちゃんと助け呼べよ。マリアは無理するからな』
『わかってる。ありがとね。ヴィル』
ガキの俺が部屋から出ていく。
アイリスはどこにも見当たらなかった。
これはアイリスの記憶ではない。
どうしてアイリスの記憶から外れたんだ・・・・?
IRISもいなくなっていた。
ハデスの剣が冥界への誘いを狂わせたか?
『ヴィル・・・』
「!?」
マリアが俺のほうを見上げた。
『ヴィルなんでしょ? 大きくなったヴィルだよね?』
「どうして・・・俺の姿が見えるのか?」
『もちろん、大きくなったヴィルと話したくて、小さい頃のヴィルに嘘ついちゃった。でも、どうして会えたのかしら? マーリンが言ってた時空の歪み、だったりして』
マリアがふんわりとほほ笑む。
思わず一歩下がった。
「なんでここに・・・」
『ヴィル、哀しそうな顔をしてるね』
マリアがこちらを見上げる。
カーテンが膨らんで風が吹き込んでいく。
「・・・んなわけないだろ」
『ふふ、私に嘘は付けないんだから。ヴィルが大きくなったらどうなるのかな? って思ってたけど、こうゆう感じなんだね。背も随分大きくなったね。ねぇ、彼女とかいるの?』
マリアが嬉しそうに聞いてきた。
「別に、興味ないって」
『嘘、ちゃんとモテるでしょ?』
マリアから視線を逸らす。
「・・・俺が愛を知らないことを、マリアならよく知ってるだろ?」
『ヴィル・・・』
「俺は捨て子だ。エルフ族に生かされずに、死ぬべきだったんだ」
本当はアエル・・・兄貴が生きるべきだった。
あいつなら、オーディンの息子としてうまくやっていけただろう。
勇者になれば、人間を統率する能力もあった。
魔王になっても、俺みたいに何度も死ぬことも無かったはずだ。
『まだ、そんなこと言ってるの?』
マリアが叱るような口調で言う。
『ヴィルは昔から目に見えないものを信じないの。そうゆうの駄目だからね』
指で胸を突いた。
『本当は全部わかってるでしょ。愛は肉体が死んでも、途切れることはない。私も、ね』
「・・・・・・・」
『私は、たぶん・・・・ヴィルの前からいなくなる。でも、ちゃんと忘れないで。ヴィルは記憶力いいから覚えてられるでしょ?』
マリアの声は懐かしかった。
どの時間軸に居ても、マリアは純粋なままだ。
思わず笑みがこぼれる。
『また綺麗ごとだって言うの?』
「いや、久しぶりにマリアの声を聞いて安心したんだよ」
『ヴィルは、私だけじゃなく他の誰かに愛されてるから生かされた。今もきっとそうなのよ。全てをわからなくてもいい。だって、他者の気持ちなんてわからないんだから』
「・・・そうだったな。マリアはいつもそう話していた」
綺麗ごとばかり並べる。
だから、マリアは人に騙されやすい。
でも、弱いわけではなかった。
マントを後ろにやって、マリアに背を向ける。
『ねぇ、ヴィル、どうして今会えたのかは・・・きっと言えない事情があるのね。また、会える?』
「いや・・・・・」
ハデスの剣に魔力を込める。
「この世界線では最期だ」
『・・・そっか。残念』
マリアがため息交じりに呟く。
『でも、絶対に忘れないでね。貴方がどこにいても、愛してるわ。私が貴方のお母さんなんだから、たまには私のこと、思い出してね』
「わかってる。いってくるよ、母さん」
『え、ヴィル・・・うん!』
マリアが背中越しにほほ笑んだ気がした。
『いってらっしゃい』
足を一歩踏み出すと、時空が歪んで景色が移り変わっていった。
「魔王ヴィル様、大丈夫!?」
IRISが心配そうにこちらを覗き込んでいた。
アイリスの過去に無い場所に、ハデスの剣が引き込んだのか?
「IRISはなんともなかったか?」
「え・・・魔王ヴィル様が急に気を失ったから。でも、魔法は解けてなくて、何が起こったの?」
「少し軸がブレただけだ。悪い。心配かけたな」
ハデスの剣を地面に突き立てて、体を起こす。
変わっていく景色が止まった。
何度も通ったアリエル王国だった。
『あれ? 私、何してたんだろう? あ、泣いてる?』
アイリスがアリエル城の門の前で自分の頬を伝う涙を拭って、首をかしげていた。
『IRIS』
『え?』
エヴァンが木からふわっと降りてきて、アイリスに話しかける。
『いや、アイリス様だね。どうしたの? また記憶喪失?』
『なんか、私、ここにいなかったような気がして』
『・・・・・・』
エヴァンは何もかも知ってるようだった。
クロノスから聞いていたんだろう。
『・・・・きっと、夢でも見てたんだ。俺もよくあるよ』
エヴァンがアイリスの涙から目を逸らすように言う。
王国騎士団長の紋章の入った剣を、腰に差していた。
ブーツ、マント、剣、全てアリエル王国のものらしき装備を身に着けている。
が、身長に見合ってないのか、どれもぶかぶかだ。
王国騎士団長になったばかりか。
『次の戦闘は俺が出るから、アイリス様は出なくていいよ』
『・・・でも・・・クロノスに言われたから?』
『まぁ、それもあるけどね』
エヴァンがマントをなびかせる。
『ほら、俺、せっかくフルステータスで転生したんだ。思いっきり目立って、偉そうな奴らを震え上がらせてやりたくてさ』
『転生?』
『あぁ、こっちの話』
エヴァンが笑いながら、正面から城へ入っていった。
アイリスがエヴァンから離れて、裏口のほうへ向かう。
『・・・・・・・』
エヴァンが真っすぐ前を見つめる。
兵士たちはエヴァンを見ると、背筋を伸ばして敬礼していた。
魔王ヴィルの死を回避できるルートを見つけるために、アイリスは時空退行を繰り返します。
自分の大切な人が死ぬルートを回避できるなら、時空退行をしたいですね。
読んでくださりありがとうございます。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
次回は週末アップ予定です。また是非見に来てください。




