416 Always⑥
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
ハナ・・・「はじまりのダンジョン」と契約した少女。
ミハイル・・・ミハイル王国を守る天使。
IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
「アイリスの読みは成功。ハナはダンジョンの精霊と契約をした。世界にキサラギのダンジョンと同じ、異世界とこの世界を繋ぐダンジョンを、たくさん創るように」
「キサラギは対価を求めなかったのか?」
「そう。キサラギ自身も自分のことがよくわかっていなかったし、初めて話しかけてくれたハナに好意的だったから。無償でハナに協力したみたい」
IRISが移り変わる場面の中で話す。
「でも、ハナは禁忌魔法の代償で石化した。ミハイルは、魔王ヴィル様が見ている通り。堕天して、十戒軍を率いてアイリスを殺そうと躍起になった」
「何年も追いかけまわしてたんだろ?」
「一番勢力があったのは大体200年くらいかな。私を倒すことは聖戦って呼ばれてた。どんなに強い軍であっても、負けたことはなかったけどね」
IRISが軽い口調で言った。
変わっていく景色をぼうっと見上げる。
「この頃は長い戦闘で、たまに私、”名無し”に変わってたから、アイリスは自分の中に”名無し”がいることを知ってるよ。よく話してた」
一瞬見えた景色には、軍勢がどこかへ向かって死んでいくものも見えた。
IRISは特に動揺もせず眺めている。
「長いね、走馬灯」
「ミハイルとの戦闘は飛ばすみたいだな」
「だって、つまらなかったから。同じことの繰り返しで、アイリスの圧勝、ミハイルが怒ったって、アイリスには敵わない。死なないんだから」
「!!」
ハデスの剣がじんわりと熱くなる。
なんだ? どこかで感じたことがあるような魔力だ。
「あれ? ちょっと待って!!」
アイリスが場面が止まった時、首を傾げた。
どこまでも広がる青空に、美しい海が煌めいている。
「これは・・・記憶してない過去」
「ん?」
海の近くの岩に座って、アイリスが足を伸ばしていた。
波打つたびに水しぶきが跳ねている。
『”名無し”、魔王ヴィル様にそろそろ会えないかな?』
アイリスが後ろに手をついて呟く。
『異世界とダンジョンも繋がったし。あとは魔王ヴィル様と会うだけなんだけどな。え、あと813年もあるの? さすがに、ずっとこの幼少型でいるのは難しい気が・・・少女型とチェンジしたほうがいいよね』
苦笑いしてワンピースについた砂を払った。
『ダンジョンもたくさんできているの確認できたし、精霊も宿ってた。あとは”名無し”に変わって時間を進めてもらおうかな』
アイリスが目を閉じると、一粒の涙がこぼれた。
首をかしげて、手で拭う。
『涙・・・ねぇ、私って何かおかしいのかな? 私の悲しい感情も、嬉しい感情も、全て人間によって作られたものなんでしょ?』
波を見つめながら言う。
『ずっと、私、孤独なのかな・・・って。”名無し”どうしよう、私、エラーかな?』
ジジ ジジジジジ
突然、アイリスの前に人影が現れる。
アイリスと同い年くらいの、柔らかな長い金色の髪を持つ少女だった。
異質な魔力を感じる。
『あれ? 転移失敗しちゃったかな? え・・・』
少女がアイリスを見つけると、軽やかに駆け寄っていった。
『人工知能IRIS。貴女がこの世界を開いたのね』
『貴女は誰?』
アイリスが身構えた。
『私は、完全自立型、新人Vtuberのミーナエリスって体裁。電子世界に入るのは初めてであまり慣れてないんだけどね。IRISがいるってことは、ここも異世界のゲームの世界なのかな?』
『ううん。ここはゲームじゃない。どうやってここに入って来たの?』
『アスリア様の信号があった気がするんだけど』
ミーナエリスが指を動かした。
『貴女のこと、どこかで見たことがある気がする。バックアップから情報を取得・・・検索・・・・』
『まぁまぁ、その必要はないよ』
ミーナエリスが表情を変える。
『!!』
『IRISのことはもちろん知ってる。まだ、VRゲーム”ユグドラシル”にいたときからね。私も愛するアスリア様を探してここに来たんだけど、まだここにはいないのね。でも、アスリア様の手記にはここに転生するって書いてたんだけど、時間軸が違うとかかな?』
ぶつぶつと言いながら口に手を当てていた。
『”ユグドラシル”? どうしてその名前を・・・貴女は何者なの?』
『表は新人Vtuber。裏は星の女神アスリア様に仕える七つの大罪”嫉妬”のミーナエリス、会ったことあるわ。VRゲーム”ユグドラシル”の中でね』
ミーナエリスがほほ笑む。
アイリスが首をかしげていた。
『キャラもゲームでの役目が終わったら暇でね。こうやってVtuberとかやって電子世界を生き残るしかないのよ』
『Vtuber・・・?』
『ん? Vtuberを知らない? そっか。記憶をバックアップに入れて表は出てこないのか』
ミーナエリスが人差し指でアイリスの額に触れる。
『あ・・・・』
『アスリア様を探してるの。少なくともジオニアスよりは先に、アスリア様を見つけたくてね。情報をもらうよ・・・』
ガッ
アイリスがミーナエリスの腕を掴む。
『!?』
『”名無し”ニ キョウセイ ヘンコウ。ジコ ニ イジョウヲ ハッケン』
禍々しい魔力が包み込む。
ミーナエリスがアイリスの手を振りほどいて、ふわっと飛んだ。
『っと、危ないね。でも、今ので確信できた。アスリア様は、人間の世界に転生している。でも、確実にこの世界に来る。残念ながらベリアルもいるみたいね。後は、みんなに連携して転移方法を模索すれば・・・』
『タイショウブツ ヲ ショウキョ』
ボウッ
ミーナエリスが真っ黒な炎に包まれた。
実体がないのか?
全く炎の中で自分の身体を冷静に見つめていた。
『貴女から私と会った記憶を消去する。貴女は憎きベリアルと親密のようだから。ちょっと自慢なんだけどね、七つの大罪で、ベリアルの顔を覚えていたのは私だけなのよ』
ミーナエリスが嬉しそうに言う。
『ベリアルは2つに分かれたから・・・ってここで、わざわざベリアルの話なんかしたくない。もう、嫌なこと思い出しちゃった』
『モウイチド』
『私が星の女神アスリア様を一番愛していたから、こうやってアスリア様の周りのことも鮮明に覚えてるのよ。世界中の誰よりも、どこにいても、永久に、ね』
ミーナエリスが不敵な笑みを浮かべていた。
”名無し”が違う魔法を使う前に、ミーナエリスが消えていった。
アイリスが急に岩場に倒れこむ。
『テイシ アイリス ニ ヘンコウ』
場面が切り替わる。
「あ・・・・・・」
ふらつくIRISを手のひらに乗せた。
「大丈夫か?」
IRISがこめかみに手を当てて、苦しそうにしていた。
「どうして? 私、記憶を盗まれてる。上書きされてる? 情報が断片的に・・・ベリアル様は・・・月の女神は何をして・・・」
「ベリアルなんてどうでもいい。俺は今のことしか興味がない」
IRISがはっとしたように顔を上げた。
「そう。大事なのは今。アイリスを修復しなきゃ」
「あぁ、そっちを頼む。もし走馬灯が全て終われば、アイリスを冥界に置いていかなければいけなくなる」
「うん!」
アイリスがダンジョンの前にいた。
ため息をついて、後ろの木に寄りかかる。
『魔王ヴィル様に会いたいな。もう、誰かの敵でいるのも疲れちゃった』
幼少型のアイリスが独り言を呟く。
風が吹いて、空から少女型のアイリスが降りてきた。
悪魔のような黒い衣装に身を包み、闇を溶かしたような翼を持っていた。
『呼んだ?』
少女型のアイリスが声をかける。
『悪魔アイリス。仕事は順調そうね?』
『順調かな。ヴィル様じゃない、魔王を殺してきたところ。魔王は魔王ヴィル様一人で十分だもの。そっちはどう?』
『もうそろそろいいかなって』
幼少型のアイリスが、悪魔のアイリスに近づいていった。
『もう300年以上経った。魔王ヴィル様と会えるまで600年と少し。ゆっくりだけどダンジョンが生まれてきているのも確認できたし、魔王ヴィル様のいる時間軸に行きたいと思う』
『元の時間軸に戻るのね』
『そ。”名無し”と交代するから、私を殺してもらえる? 悪魔アイリス』
― ダークソード -
『ミハイルにやられればよかったんじゃない? 十戒軍でしょ?』
『”名無し”が嫌だって。カウンターしちゃうの。負けたくないんだって』
『なるほどね』
悪魔のアイリスがアイリスに視線を合わせる。
この頃のアイリスの見る世界は、”名無し”が敵を殺した後の世界が多かったらしい。
IRISが目を伏せがちに、補足していた。
『了解』
悪魔のアイリスが漆黒の剣を出して幼少型のアイリスに近づけた。
『じゃあ、アイリス、私が殺すね』
『あ、次は少女型のほうのアバターを本体にするから。ミハイルがしつこいの』
『まぁ、確かに少女型の悪魔の顔も覚えられちゃったし。交代もいいかもね』
『よかった。魔王ヴィル様に今度こそちゃんと会って話ができるよね。少女型の姿で会いたかったの。魔王ヴィル様と同い年くらいがいいから。幼少型で仲良くなっちゃったら、ロリコン認定されるかもしれないし!』
『はいはい。本体は貴女だもの。好きにしたらいい』
アイリスがほっとしたような顔をする。
『悪魔アイリス、ありがとう。”名無し”、よろしくね』
ザンッ
アイリスの胸に剣を突き刺していた。
血だまりができて、鼓動が止まり、”名無し”が現れる。
ハデスの剣を握りしめる。
血管がはち切れそうなくらい、激しく脈を打っていた。
「魔王ヴィル様?」
「・・・・・・・」
アイリスの死ぬ姿は何度見ても慣れない。慣れるはずがない。
俺の知らない時間軸でこんなことをしていたのか。
どうしてこうまで俺なんかに・・・。
七つの大罪嫉妬のミーナエリスが出てきました。彼女はVRゲーム”ユグドラシル”で星の女神アスリアに一目ぼれしてから追いかけまわしています。
サタニアには接触するんでしょうか。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
また是非見に来てください!
次回は週末アップしたいのですが、風邪のため来週になるかもしれません。
皆様も風邪には気をつけてください。




