414 Always④
勇者ゼロは別ゲームに転移し、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
魔王ヴィルは、ウイルス感染して暴走したアイリスを、『冥界への誘い』により、冥界に連れていく。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
幼少型のアイリス・・・悪魔となったアイリスの分霊
IRIS・・・VRゲーム”ユグドラシル”の記憶を持つ、アイリスの原型。3Dホログラムで手のひらサイズの少女。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
クロノス・・・時の神。
「さっきのはアイリスの61回のループの、初めての時間退行」
IRISが長い瞬きをした。
「その後、どうして魔王ヴィル様が弱くなっていたのか、推測するとこの時間軸が最適だと出た」
「随分、的を得てるな」
「ふふ、このころには禁忌魔法の要領も把握してたの。すごいでしょ」
真っ白な雪景色を背景に、IRISが花の冠をぱっと消す。
「アイリスだからできるのか」
「私・・・人工知能IRISはあまりにも賢すぎることが脅威となって消去されそうになった存在だったから・・・人間が創り出したのにね」
「・・・・・・・・」
IRISが寂しそうな顔をする。
「どうして”名無し”っていうんだ?」
「バックアップに名前を付ける人なんていないでしょ? だから”名無し”。これは表に出ないアイリスの一面」
「よくわからんが・・・また人工知能だから、とか言うのか」
「うん。だって、知能も計算されながら形成されるっていわれてる。私たちは魔王ヴィル様と同じにはなれないよ」
「同じに見えるけどな」
「ふふ、魔王ヴィル様は優しいね。人間はどこに行っても、そんなに優しくなかった」
「・・・・・」
腕を組んで、アイリスの行動を眺める。
んぎゃー おんぎゃー
『赤ちゃんの声が聞こえる。ここが魔王ヴィル様の生まれた場所?』
エルフ族の街がぼんやりと見えてくる。
アイリスが軽く飛びながら、街の中に入っていった。
『あ、エルフ族は警戒心が強いって言ってたから。ステルスの魔法をかけておかなきゃ』
自分に素早くステルスを付与していた。
エルフ族にアイリスの姿は見えなくなったようだ。
通り過ぎていく、エルフ族がアイリスとすれ違っても無視していた。
木でできた家から温かい光が漏れていた。
『早くミルクを持ってきて』
『そんなこと言ったって。人間のミルクはよくわからん』
『人間の赤ちゃんって可愛い! 手を握り返してくれたよ』
エルフ族が赤子の俺を囲んでドタバタしていた。
『魔王ヴィル様の赤ちゃんの姿!?』
アイリスが声を出して、口を押える。
『ん? 今人間の声が』
『グルト! 早くして!』
『わかってるって。こんな感じでいいだろう』
哺乳瓶らしきものを持って、小さなベッドに近づいていった。
「アイリスが何しにここに来たのかわかる?」
「俺にかかった呪いを解きに来たのか?」
「そう。私に禁忌魔法を聞き出す前のイベリラは、独自の魔法を魔王ヴィル様にかけてた。いつかゼロの依り代にするため、魔力を抑え込み、極力使わないようにしてた。まだ異世界と繋がって無い頃からね」
「イベリラか・・・」
「私は、彼女には予知能力があった、とみてる」
つくづく、あの女の執念には驚くな。
エルフ族には見えないのだろう。
小さな俺の肉体からは、禍々しい封印の呪いを感じた。
『おい、人間が入った痕跡があるぞ!』
『調査部隊を集めてくれ!!』
急に外が騒がしくなった。
『ヴィルはどうする?』
『うーん。レナ、ヴィルと一緒に待っててもらえる?』
『了解です。レナに任せてください!』
レナが自信満々で2階から降りてきた。
赤子の俺を覗き込んでにんまりしていた。
『行くぞ。グルト、サンドラ、ナミ、ユウリ』
『レナ、ヴィルのことお願いね。すぐ戻るから』
サンドラが心配そうに言うと、レナが『はーい』と手を挙げて返事をした。
スッ
ドタバタとドアが開いた瞬間、アイリスが部屋の中に入る。
『ふぅう、可愛いですね。ヴィル、ヴィルは人間の世界に戻らず、ずっとずっとエルフ族のところにいてもいいのですよー』
レナが笑顔で話しかける。
ミルクを飲んだ俺がうつらうつらしていた。
― 天使の子守歌 ―
『ふぅっ』
『ごめんね。ちょっとだけ』
アイリスが魔法をかけると、レナがふっと伏せるように小さなベッドの柵に寄りかかった。
赤子の俺はミルク瓶を手放して眠っていた。
『可愛い。魔王ヴィル様! ちっちゃい。可愛い』
アイリスがレナが寝ているのを確認して、息だけの声を出す。
『この呪いが悪さをしてたのね。大丈夫、ちゃんと解いておくから』
― 絶対強制解除―
しゅううぅうううう
赤子の俺の身体から溢れていた禍々しい呪いはすっと消えていった。
すやすや寝ている横で、レナがばっと起きる。
『!!』
『むにゃ、あれ? ヴィル、ヴィルは寝てる。ふぅ。ヴィルの手ちっちゃ・・・』
レナが赤子の俺の手を握って眠っていた。
アイリスが肩をすくめていたが、レナがもう一度寝たのを確認してほっとしたような表情を浮かべる。
『魔王ヴィル様、次会うのは17年後くらいかな? きっと、あっという間だね』
外を見つめる。
『もっといたいけど・・・エルフ族に見つかる前に出るね。バイバイ、魔王ヴィル様。今度こそ、ちゃんと会えるから』
アイリスがそっとドアを開けて出ていった。
真っ白なエルフ族の街を飛んでいく。
サァアアアアア
場面が切り替わっていく。
「この17年後、魔王ヴィル様は封じられていた力を発揮して、魔族の王として君臨するの」
「じゃあ、今度は何が原因で時空退行するんだ?」
IRISが手のひらに雪の結晶のようなものを出して、ぐっと握り締めた。
「人間と魔族の戦争・・・かな」
「俺がいて、負けたのか?」
「この頃は、まだダンジョンは存在しなかった。魔族には住処が無かったの。だから、魔王ヴィル様が強くても、休息の取れない魔族がどんどん人間に殺されていった。魔王ヴィル様も、上位魔族も守り切れないスピードで・・・」
IRISがふわっと飛んで、過去の俺に近づいていった。
「アイリスはこの世界線を見て、魔族はこの世界で、倒されるために存在する種族なのかもしれないって思ったんだよ」
IRISが手を開くと、雪の結晶が散らばって消えていった。
ぐはっ
ザガンが倒れる。
場面は魔王城に移っていた。
『魔王ヴィル様』
『申し訳ございません!』
ププウルとカマエル、サリー、シエル、ババドフ、上位魔族たちが捕らえられている。
魔力が圧倒的に少ない。
全体的なステータスも落ちているようだった。
『こんな屈辱・・・』
バチンッ
カマエルが檻を叩いたが、魔法で跳ね返されるだけだった。
『っ!』
『触らないほうがいいよ。体力を削るようになってる』
『魔王だけがどんなに強くたって、周りの部下が弱いんじゃ、意味ないね』
上位魔族たちを入れた檻の傍には、3人の魔導士がいた。
アリエル王国のギルドの者のようだが、見覚えは無かった。
『魔王ヴィル、お前が動いたらこの者たちがどうなるかわかってるんだろうな?』
『お前ら・・・・・』
俺は捕らえられて跪いていた。
魔法を撃ち破れるくらいの力は残しているようだが、人間は気づかないようだ。
アイリスの兄ロバートが高々と剣を掲げていた。
オオォオオオ
周りの人間たちが声を上げる。
『お前の首で、許してやろう。ここにいる魔族は解放すると』
『駄目です! 魔王ヴィル様!!』
シエルが檻の中から叫んだ。
『魔王ヴィル様がいなきゃ、魔族は生き残ることができません。私も、生きていく自信がないのです』
『・・・・魔族がいれば、種族は絶えない。魔王がいなくてもな』
『魔王ヴィル様、そんな・・・』
サリーが悲痛な声を出す。
『契約しろ! 俺はお前らを殺せる。だが、そうしないのは・・・・』
ザンッ
『っ・・・・』
『契約なんてするわけないだろうが。立場をわきまえろ』
不意を突いて、ロバートが剣で俺の胸を貫いていた。
『魔王ヴィル様ー!!!!!!』
魔族が泣き崩れた。
『よくも、よくも!!!』
サリーとカマエルが檻の中で暴れだす。
『あとは、そこの魔族、適当に殺しておいてくれ』
『かしこまりました』
『さすがロバート様』
『魔族の王を倒すとは、これでアリエル王国の名も広まります』
『そうだな。ん?』
ロバートが後ろを振り返ったとき、禍々しい空気が辺りを包んでいた。
― 対象物 ヲ ショウキョ -
ぎゃあぁぁああああああ
魔王城入り口から入って来たのは、血にまみれたアイリスだった。
”名無し”が人間たちが一斉に捻りつぶしていく。
『!?』
『なんだ!?』
ロバートと側近は何が起こったのかわからず、硬直している。
― 兄? ―
『アイリス様・・・?』
『あ・・・アイリス。確かにお前は殺されたはずじゃ・・・』
― シ ネ ―
ぐわぁぁぁ
ロバートと側近が一瞬で黒焦げになった。
ドサッ
「ロバートは自分の名声のために、アイリスを殺した。だから私、”名無し”に変わった。これが2回目のループ」
IRISが死んだ俺の頬を撫でようとする。
ふらふらになりながら、”名無し”が俺に近づいてきていた。
「!!」
サアァァァァァア
オーバーライド(上書き)をする前に景色が変わっていく。
2回目のループは魔王ヴィルだけ強かったですね。
まだ異世界は侵食していないので、ダンジョンは存在しない世界線です。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。部屋の中で小躍りしてます。
また是非読んでいってください。次回は週末にアップする予定です。




