表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/594

43 シナガワクエスト

「アイリス準備はできたか?」

「うん。ばっちり」

 髪を一つに結んで気合いを入れている。


「このふかふかとお別れするの寂しいけど。ふかふか・・・初めてのふかふか」

 アイリスが名残惜しそうにふさふさの床を触っていた。


「わっと」

 ぐるんと波打つ。


「遊んでる場合じゃない。行くぞ」

「遊んでないって」

 ダンジョンの精霊シナガワの言っていた通り、青い窪みを押す。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 扉が開き、丸く切り取られた芝生が現れた。

 ぐんぐん降下していって、少し砂ぼこりを立てて最下層の一部に収まった。


 シナガワが大きな体を起こしてこちらを見る。


『おぉ、準備ができたのか』

「ありがとう。服も乾いたし、助かったよ」

 乾いた上着に袖を通す。


「シナガワ様、私の風邪も治りました。素敵な部屋ですね」

『そうだろう、そうだろう。このダンジョンには他にも自慢の部屋があってな』

 上機嫌になりながら、何かを考えていた。


『おぉ、そうだ。この部屋なども驚くぞ』

「俺たちそろそろ異世界に宝を探しに行ってくるから」

『そうだったな。悪い悪い』

 シナガワがボタンとレバーから手を離した。

 危なかった。また時間を食ってしまうところだった。



『では、異世界への扉を開こう』

 シナガワが部屋の端のほうの床に向かって手をかざすと、魔法陣のようなものが浮かび上がった。


『そこに立て。異世界への入り口だ』

 マントを端に寄せておいた。


「魔王ヴィル様、マントはいいの?」

「異世界ではしないほうがいいんだろう?」

「あ、そっか。じゃあ・・・」

 アイリスがそっと魔法陣に足を入れる。


「ふぅ・・・びりっとした。早く、魔王ヴィル様も・・・」

「あぁ」

『じゃあ頼んだぞ』 

 魔法陣に入った瞬間、足元から光がほとばしる。




 スン


 背中にぴりっとした圧がかかった。

 アイリスがぼうっと上を眺めていた。


「やっぱり、この感じ・・・懐かしい」

「・・・・?」

 目を開けると、大きな建物の中にいた。


「異世界はやっぱり居心地が悪いな。ん? 何か思い出したのか?」

「ううん。ダンジョンの精霊様によって行き方が違うからびっくりしただけ」

「そうか」

 相変わらず人の通りが激しい世界だな。


 人間同士がぶつからないのが不思議なくらいだ。

 周囲を見渡すと、銀色の時計らしき柱があった。

 時計は、こちらの世界でも同じものを使っているのか・・・。


「ヴィル・・・?」

 アイリスが上目遣いにこちらを見る。


「ん?」

「でいいよね? 確認しただけ」

 アイリスが嬉しそうに微笑んでいた。


「人がいっぱい。ヴィル、迷子にならないようにね」

「それはこっちのセリフだ」

「まぁ、・・・そうかもしれないけど。あ、待って」


 四方八方、人間だらけだ。

 この人たちは似たような服を着て、どこに向かっているんだ?


 こちらの世界に来たら、色んな人間のステータスを見ようと思ったんだけど・・・・難しいな。

 人間が歩く速度が速すぎて、見ようとしているうちに眩暈を起こしそうだ。


「大丈夫・・・?」

「あぁ・・・ちょっと異世界慣れしてないだけだ」

「異世界の歩いてる人たちは、大体スマホに夢中だから、魔王ヴィル様はあまり周りを気にしないようにすれば歩きやすいよ」

「スマホ?」

「異世界の通信技術。大人はみんな1台持ってるよ。子供も持ってたりするけど」

「ふうん・・・・」

 額に手をあてる。アイリスは順応が早いな。

 異世界はガスのような変なにおいもするし、無表情な人間だらけだし、どうも苦手だった。


「えっと・・・あそこが改札だから、帽子を被っている人。あの人に公衆電話の場所を聞けばいいの」 

「カイサツ・・・って? まぁいい。行くか」

 いちいちこちらの言葉に惑わされないほうが得策だ。


 アイリスがすぐに駆け出して行った。

 人を避けながら、付いていく。


 アイリスと帽子を被った男性が話しているのを眺めていた。

 魔王の目を使って、男性のステータスを見る。


 コウタ

 職業:会社員(電鉄職員)

 データ処理能力:5,200 

  接客能力:1,500

  水属性:1,900

 弱点:上司の誘い


 右目を閉じる。


 エヴァンの能力とは異なるな。

 同じなのは会社員ということだけか。


 この世界の会社員とは何をする人間のことを指すんだ・・・?


 くらくらして、頭が働かないな。


「ヴィル、聞いてきた。見て、地図も貰ってきたから大丈夫。きっとこの地図も、シナガワ様にあげたら喜ぶね」

「そうだな」

 アイリスがすたすたと歩いて、すぐにコウシュウデンワの位置にたどり着いた。

 数字の書いてある黄緑の箱のことをコウシュウデンワというらしい。


「ここに硬貨を入れるの」

「へぇ・・・」

「公衆電話を周囲の人たちが使わないのはスマホがあるから。今では緊急の時に使うものなの。でね、ボタンを押すの。番号は080・・・・・・」

 説明しながらボタンを押していく。


 アイリスは、大分異世界に詳しくなったな。

 情報収集が得意なのか。

 

「あ、かかった。あの、私、アイリスだけど。そう、こっちに来たの。でね、ここはシナガワ駅の公衆電話からかけてる・・・・」

 シナガワ? ダンジョンの精霊と同じ名前だな。


「ふぅ・・・・・」

 アイリス一呼吸ついて、硬貨をしまっていた。


「ヴィル、今から七海がここに来てくれるって」

「あの箱で呼んだのか。魔力もないのに、不思議だな」

「不思議・・・なはずなんだけど、異世界の人間たちはこの生活に慣れてるから、不思議だと思っていないんだよ」

「・・・・・・・・」

 異世界は未知の世界だな。


 まぁ、クエスト以外で関わることないが・・・。


「おっと・・・・」

 黒い服を着た男とぶつかりそうになって避けた。


 無表情のまま周りが見えていないようだった。

 後ろ姿を見るところ、何か呪いにかかっているわけじゃなさそうだ。


「・・・・・・・・」

 この世界は楽しそうな人と、余裕がなさそうな人がいた。

 俺のいる世界の人間とよく似ている。

 違うのは、魔力を持たずにいることだけだな。


「人の群れ全体がどこかに向かってるようだけど、奴らはどこに行くんだ? 魔法が無いならクエストもないんだろ?」

「スーツを着てるから会社だと思うよ。魔王の目ではどんなことが見えるの?」

 腕を組んで、壁に寄り掛かる。


「ステータス見ようと思ったんだけどな。こんなに人間が多いんじゃ、さすがに絞らないと酔うんだよ」

「私もずっとここにいると頭がガンガンする・・・ここの人間の考えは複雑で、難しいから辛くなる。目を閉じてようかな?」


「いやいや、お前には魔王の目がないんだから必要ないだろ」

「んー、そうなんだけど・・・人を見るのが苦手」

 こめかみを押さえて、俯いていた。


「アイリスが目を瞑ってたら、七海が来てもわからない。何も考えずに、目だけ開いておけ。そもそも、アイリスはこっちの世界の人間じゃないんだから、いろいろ考える必要ないだろうが」

「え・・・・・?」


「行き交うやつら全員、芋か豚だと思え」

「あ、そっか。それがいい」

 アイリスがへへっと笑って、遠くを見つめていた。



「あ!」

 しばらくすると、黒髪の眼鏡をかけた女の子が近づいてきた。


「アイリス・・・よね?」

「うん。ねぇ、ヴィル、彼女が七海っていうの」

「へぇ・・彼女が・・・・・」


「アイリス・・・・本当にヴィルを連れてきたのね」

 大きめのリュックを背負っていた。

 目が合うとはっとして、逸らされる。


 ナナミ

 職業:大学1年生(文学部専攻・小説家志望)

 文系戦闘力:19,200 

 理系戦闘力:1,300

 闇属性:5,900

 弱点:人


「わ、私は七海よ。ヴィルのことはアイリスから聞いてるけど・・・魔王って本当なの?」

「あぁ、そうだ。魔王ヴィルだ」

 右目を閉じる。


 人間なのに弱点が”人”ってどうゆうことか、よくわからないが・・・。

 文系戦闘力と理系戦闘力というのは、エヴァンのときも見たものだ。

 シブヤクエストのときも見たな。


 こっちの世界の強さの指標とみて、間違いないだろう。


「アイリスの言ってた通り。白い肌に、彫刻のように美しい顔、華奢ながらも筋肉質で・・・どこか儚げな魔族の王・・・本当に異世界の王って感じね」

 七海がこちらを見上げて微笑んだ。


「魔王ヴィル様は、世界一かっこいいって」

「七海!」

「会ってみたかったの。アイリスがこっちに来て、魔王の話ばかりするから・・・」

「そんなに言ってないってば・・・ちょっと話してただけで」

「魔王の話しかしてないじゃない」

 七海が瞼を重くする。


「そんなことない!」

 アイリスが首を振って全力で否定していた。


「・・・・・・・・・・」

 七海か。ぱっと見た感じは普通の少女だが、どこか闇の強い人間だな。

 魔族にも精通するものを持っている気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ