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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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42 1億分の1の確率

 ダンジョンの精霊シナガワのいる最下層は芝生と、磨かれたタイルがあった。

 真ん中には色とりどりの花が咲いている。


 シナガワのいるあたりはちょうど光が強く、温かかった。


「くしゅん、くしゅん」

「悪いが肉体回復ヒールは使えないからな。大丈夫か?」

「うん。平気だよ」

 シナガワがふわっと移動する。


『ほらここだと温かいぞ。温まっていくと良い』

「ありがとうございます」


 上半身の服を脱いで、力を入れて絞る。

 叩いた後、シナガワのいた場所で乾かしていた。


「あ、魔王ヴィル様ずるい」

「お前だってやればいいだろ?」

「できないよ。だって・・・私は美少女で・・・くしゅん、くしゅん」

「美少女は鼻水垂らさないと思うけどな」

 アイリスが陽だまりのような場所で、鼻をすすっていた。



「し・・・シナガワ様、今回の異世界クエストの宝は何ですか?」

『あぁ、私が求めるものは異世界の”マンガ”だ。とても貴重で、かなりの力を持っている』

 シナガワがほくほくしながら話す。


「あ、それなら七海に聞けばわかるかも。話していたのを記憶してる」

『それは本当か? 向こうに知り合いがいると?』

「はい。任せてください」

 アイリスがすぐにピンと来たようだった。

 何度も異世界に行かせているからか。



「どうして、七海って子と毎回会えるんだ?」

「電話するんだよ」

「電話?」

 ポケットから巾着に入った袋を出した。


「この硬貨を使って、異世界の”コウシュウデンワ”から七海に連絡すると迎えに来てくれる。異世界は通信技術が発達してるから」

「んー・・・なんだかよくわからないが。召喚みたいなものか? その、七海って子にいつも協力してもらってるんだな?」


「そうなの・・・んしゅっ」


「本当に大丈夫か?」

「だいじょぶ。でも、ちょっと、はなびずに集中する。はなびずなれしてないから」

「おう・・・集中しろ・・・」

 鼻声になっていた。

 全然、大丈夫に見えないんだが・・・。


『なんと・・・これが異世界の物か』

「・・・・・・」

『ふむふむ』

 アイリスがシナガワに硬貨を見せていた。

 小さな硬貨を穴が空くほど見つめている。


『確かに、異世界の香りがするな。よいぞよいぞ。楽しみだ』

 鼻をひくひくさせてから、目を輝かせていた。



「異世界といえば、人間側にエヴァンという10代前半くらいのガキがいるのを知っているか? アリエル王国の王国騎士団長をやっている」

「・・・・・・」

『ふむ・・・・なぜ、それを?』


「俺は・・・奴が異世界から来た者ではないかと思ってる」

 腕を組む。


「シナガワ、異世界からこっちの世界にくる方法はあるのか?」

『そうだな・・・まぁ、詳しいわけではないが、方法が無いこともない』


 シナガワが頬を掻きながら言う。


『異世界から転移、または転生した場合だ。現在、時空の歪と引き寄せによって、1億分の1の確率で起こる事象と聞いている』

「・・・時空の歪・・・・」

「なんだ? アイリス、知ってるのか?」

「え、ううん・・・・」

「・・・・?」

 アイリスがぼうっとしながら、首を振った。


 なぜか、鼻水も止まったようだ。


『ダンジョンの精霊はそう呼んでいる。深く知っているわけではないし、確証も無い』

「異世界から人間が来れるとしたら、どんな方法がある?」

『今のところは、死、しかない』

 シナガワが声を低くする。


『向こうの世界では日常生活に嫌気が差しつつ、志半ばで死ぬ者も多いらしい。その者たちは、1億分の1の確率で異世界の記憶を引き継いだまま、こちらの世界に転移することができると聞く』

「記憶を引き継いで・・・?」


『異世界への恨み、執着が消せず、魂に記憶がこびりついているのだろうな』


「・・・・奴にあてはまるな・・・・」

 エヴァンの笑みは、子供の笑みではない。


 目の前で人間が焼き尽くされているにもかかわらず、精神に怯えや揺らぎが無かった。

 ガラスの向こうのものを見て楽しんでいるような、不気味な表情だった。



「・・・魔王ヴィル様・・・」

「アイリスも何かエヴァンに関して知っていることはあるのか?」


「鼻水は止まったけど、熱が38度ある。これは異常」


「だろうな。つか、なんで、鼻水だけ止まったんだ?」

「集中したから」

「・・・集中で止まるものなのか」

 この緊張感のある話を聞いているときに・・・。


 まぁ、アイリスには興味のない話か。


 シナガワがゆっくりと動いて、近くにあったボタンを操作していた。


『このダンジョンは充実していてな。ここよりも温かい部屋があるのだ。服が渇くまでそこにいたらいいだろう』

 自慢げに話している。

 見せたくてたまらないような雰囲気だ。


「ありがとうございます。シナガワ様」

「治ったらすぐ行くからな」


「うん。シナガワ様、部屋はどこですか」

 アイリスが立ち上がる。


『あぁ、そこにいていいぞ』

「え?」


 ズズズズズズズ・・・・


 芝生だった部分がせり上がっていった。


「わっ、こんな仕掛けがあったなんて」

「お・・・俺まで・・・・」

『遠慮するな。冷たいままだと魔族だって寒いだろう』

 シナガワよりも高い位置に行くと、岩の扉が開いた。


 サアアァァ


 斜めになり、滑るように部屋の中に落ちていく。


「っと」


『乾いたら、そこの青いボタンを押してくれ。戻してやるからな』

 意外と広い部屋で、床は獣の毛のようにふわふわしていた。

 温かいし、服も乾きやすそうだな。


「便利なダンジョンだな・・・・」

「魔王ヴィル様、服脱いで乾かすからこっち見ないでね。ラッキースケベイベントは・・・」

「わかったって。そのイベントキャンセルするから」


 寝転がって反対側を向く。

 肉体回復ヒールは、風邪には効かないからな。


「アイリス、異世界ってどんなところなんだ?」

「魔王ヴィル様も行ったことあるでしょ。忘れちゃった?」

「そうじゃなくてさ・・・・」

 エヴァンというガキは、相当頭の切れる奴だった。

 奴の知識の基盤は異世界で得たものなのだろう。


 シナガワの言う話が確かであれば、異世界で死に、こちらの世界に転移したことになるが・・・。


「異世界って多様な種族はいないんだろ? 安全なのか?」

「うん。私が転移する場所は命を懸けるような戦闘もないし・・・でも、体の傷だけが痛いわけじゃない。見えない傷の多い世界・・・」

 絞った服から、水の滴る音が聞こえる。


「へぇ・・・・」

「魔法もないし、召喚獣もいないのに、文明は発達してる。でも、知識は望めば簡単に手に入る、使い方によっては危険もある世界だよ。あれ・・・私、どうして・・・」


「ん?」

「あ、時空の歪みってなんだろうね? 私は、何かもっと知っているような・・・・」

「さぁな。思い出したら、話してくれ」


「・・・・うん・・・」

 異世界のことを話すとき、アイリスはどこか遠くにいくように感じられた。


 この世界にダンジョンが現れた理由・・・。

 異世界クエストで、魔族のものになるダンジョン。

 目に見えないところで、何かが起こっているような気がしてならなかった。


 俺が魔王として召喚されたのは・・・。


「きゃっ」

「!?」


 ぽうんぽうん


 床が急にうねって丸くなった。


「生きてんのか? この床。そういや、なんとなく、シブヤのいたダンジョンに似てるもんな」


 ゴン


「アイリス、大丈夫か?」

「大丈夫、あ! こっち見ないで」

 アイリスが下着姿で背を向けていた。


「はぁ・・・・・・・」

 頭を掻いて、視線を逸らす。


「見てない?」

「見てないって」

 時間をかけて、盛り上がっていた部分がへこんでいく。

 生き物の呼吸みたいだな。


「・・・あ、熱が下がってきた? 37,4度?」

「いいな、アイリスは気楽で」

「ううん、私も今日はたくさん頭を使ったよ。ダンジョンのからくりとか、魔王ヴィル様がセラと何してたのかとか・・・分析には情報が必要。情報は戦力・・・」

「はいはい」

 アイリスがいつもと変わらず、楽しそうに話していた。

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