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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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34 魔王の休息

 魔導書が並ぶ棚で本を眺めていると、ププとウルが寄ってきた。


「何かお探し物でも?」

「調べ物があるわけじゃない。なんとなく見ているだけだ」

 本を傾けて表紙を確認する。

 これも、魔族の魔導書か。


「そうでしたか・・・片付いてなくて申し訳ないです」

「ここもどかしておきます」

 ププとウルが慌ただしく、足元の本を整理し始めた。


「いいよ、本を読むのが好きなんだ」

「そうなのですね! じゃあ、ここはちゃんと整理しておきます」

「この辺のものをどかせばもっと出てくるかと思いますから」

 ウルが地面にあるガラクタを持ち運んでいた。


「・・・・・・・・」

 人間たちの行動が、思ったよりも退屈だった。


 魔族が弱点を克服して巻き返してるのもあるが・・・。

 魔族から見ると、どんな階級の奴らも弱く感じた。

 ギルドであれだけ息巻いてクエスト攻略の自慢をしていた奴らは、なんだったんだろうな。

 

 俺を散々馬鹿にしてきたギルドの連中がこれほどの力しかないとは。

 復讐心を満たせないくらい雑魚だった。

 


「そうです。魔王ヴィル様、お疲れでしたら、回復の湯に浸かってはいかがでしょう?」

 ウルがぱっと表情を明るくした。

「回復の湯?」

「はい! それがいいです。さっき掃除が終わったと聞いております」

「お風呂の後の、読書は最高ですよ。ほかほかしていて」

「そうか・・・・・・・・」


「どうでしょう?」

「どうでしょう?」

 ププとウルがにじり寄ってくる。

 すっかり懐かれたな。


 2人がまん丸い目で、撫でてほしそうにこちらを見上げる。

「ふわぁ・・・・・・」

「・・・はわぁ・・・・・」

「ありがとな」

 ププウルの頭を撫でると、同時にぽわんとしていた。


「そうするよ。お勧めの本を見繕ってくれ」

「はぁ・・・・かしこまりました」

「はっ、気が抜けてしまいました。すぐに」

 手を離すと、ププウルが同時にぺちんと頬を叩いた。

 小さな体を震わせてから、本棚を見て回っていた。




 魔王城の奥のほうには回復の湯というものがあると、ジャヒーからも聞いていた。

 傷が治るわけではないが、魔力と体力はみるみる回復するらしい。

 

 岩のドアを開ける。

 大きな風呂に、湯が湧き出ていた。

 大型の魔族も入れるように広くなっているのか。


 手ですくってみる。白い濁り湯だな。

 中々いい湯だ。掌がじんわりと解れていくのがわかった。


 湯船に浸かると、ばしゃーんとお湯が溢れていった。


「ふぅ・・・・・・・・」

 人間の血や体液などの異臭がこびりついていたからな。

 やっとこれで洗い流せる。


 ざあぁぁ


「?」

 湯気の中から人影が現れる。


「魔王ヴィル様・・・?」

「!?」

 調理場にいた下位魔族のマキアが入ってきた。

 青い髪に、柔らかい肌が湯気に包まれている。


「ま・・・マキアか?」

「はい!」

 口角をきゅっとあげて微笑んだ。


 前も隠さずに近づいてくる。

 一糸纏わぬ白い体が湯を掻き分けていた。


「すみません。魔王ヴィル様、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「あ・・・あぁ、いいけど」

 ここにいていいものか戸惑うな。

 魔族って羞恥心的なものはないのか?


 ちゃぷーん


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 早いうちに上がるか。


「あの、魔王ヴィル様、お話してもいいですか?」

「ん・・・あぁ」

「私、人間に襲われていたところをジャヒー様に助けていただいたんです。元々の力も弱く、皆様のお食事の用意くらいしかできないのですが・・・」

 弱弱しい声で言う。


「このまま魔王城にいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。これからも頼むよ」

 湯船がすっと波打つ。


「ありがとうございます。そう言っていただけて、安心しました」

「どうして急にそんなことを?」

「ジャヒー様があんなにボロボロになって帰ってきたのを見たのは初めてで・・・・私なんかよりも強い魔族をお城に置いたほうがいいのではないかと思いまして・・・。私はジャヒー様が苦しんでいるのに、何もできませんでしたから」 

 自信なさそうに話す。


「本当は、私もジャヒー様のお役に立ちたいのですが」

「強さは気にするな。お前は、美味しい料理を魔族に提供してくれればいい。ジャヒーもお前の料理は美味しいと言っていたしな」

「は・・・はい、ありがとうございます。精一杯頑張ります」

 ぱっと表情が明るくなる。

 大きくうなずいて、胸に手を当てていた。


「あ、そうだ。アイリス・・・俺の奴隷がいるんだけど、わかるか?」

「はい・・・・存じておりますが・・・」

「あいつは使えないと思うが、話し相手になってもらえないか?」

「はい・・・魔王ヴィル様のご命令であれば」

 少し不思議そうな声を出す。


「よろしく頼む」

「でも・・・あの・・・・人間・・・・ですよね? 魔王ヴィル様は人間がお好きなのですか?」

「いや、そうゆうわけではない」


「といいますと?」

「彼女と仲良くなって、有力な情報を聞き出してほしいんだ。あれでも、王国の王女、国の情報にも精通しているはずなんだが、魔王である俺を警戒して、なかなか口を割らないんだ」

「そうゆうことだったのですね。大変失礼しました。無知で・・・お恥ずかしいです」


「・・・・・・」

「ぜひ、お任せください。情報を聞き出せるくらい仲良くなってみせます」

「あぁ・・・頼むよ」

 アイリスは魔王城に馴染んでいるわけではないからな。

 俺も正直、アイリスのことを理解しているわけではない。

 

 なぜ、異世界クエストに挑戦できるのか。

 なぜ、俺について来ようとするのか。


 アイリスは王室のことはあまり話さない。

 隠しているというよりも、どこか欠けているような気がしてならなかった。



「魔王ヴィル様はお優しいのですね」

「ん? そうか?」

「ジャヒー様もサリー様も、ププウル様も、大好きな理由がわかります」

 マキアがぐぐっと近づいてきた。


「あの・・・私も好きになってもよろしいですか?」

「え?」

 青い瞳でこちらを見上げてきた。

 頬が少し赤くなっているように見える。


「というか・・・もう、好きです。魔王ヴィル様。事後報告で申し訳ないのですが・・・」

 目を逸らしながら、顔を隠していた。


「駄目でしょうか・・・?」

「・・・好きにしろ」

「ありがとうございます・・・・」

 湯船から水があふれる。

 角を触りながら、顔半分だけ潜ってぶくぶくしていた。


 マキアが俺のことを・・・か。

 女魔族は欲望に忠実だな。サリーやジャヒーも含めて。




 本が置いてある部屋に戻ると、ププウルが本を積み上げていた。

「あ、魔王ヴィル様」

「お勧めの本ここに置いておきました。魔導書ばかりでは息抜きができないので、物語や伝記などを中心に用意しております」

「さすがだな」

 ププがソファーの横を指す。

  

 15冊以上はあるし、結構分厚いな。

 しばらく暇は潰せそうだ。


「ありがとう。読んでおくよ」

「はいっ・・・・・是非。これなんかは、魔族の歴史を元にした壮大なストーリーになっていて一度読んだら止まらないのですよ」

 ププがにじり寄って、足元にくっついてきた。

 一番上にある本の表紙を指す。


「挿絵も綺麗なのです。魔族はこんなに・・・ふわぁ・・・・魔王ヴィル様、あったかいです・・・・いい匂いがします・・・」

「ププ、またそうやって魔王ヴィル様に甘えようとする。もう、行くよ」

「はわわ・・・・・」

 ププがウルに引きずられていく。


「魔王ヴィル様、失礼しました。何かありましたら、お呼びください」

「あぁ」

 ウルが頭を下げて部屋を出て行った。



 ソファーに座って、ププとウルが用意した、一番上の本を手に取る。

 見たことのある表紙だ。

 人間のところから盗んだものだな。


 確か、あまりの知識に、作者は魔族なんじゃないかという噂もあった。

 何の抵抗もなく読んでいたけど、魔族の書いた物語を人間が読むというのも変な話だ。



 そうだ。

 確か、言い出したのはマリアだったな。

 孤児院でマーリンあたりから聞いた話を鵜吞みにしたんだろう。


『本はどこにいても、いろんな場所に連れて行ってくれるの。だから、ヴィルもたくさん読んで』


 俺に文字を教えたのは、マリアだった。

 俺が本を好きなのも、マリアの影響か。


「・・・・・・・・」

 魔族はいつ、過去を忘れるものなんだろうな。

 ページをめくって、本の世界に入っていく。

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