187 願い①
「俺たちが一番乗りみたいだな」
「ここがダンジョン・・・・?」
ダンジョンは長く続く崖の途中にあった。
近くに木々はほとんどない。
オレンジ色の岩がどこまでも連なっていた。
「朝日が昇るときにしか入り口が現れないダンジョンらしい。時間もちょうどよかったな」
「わ・・・・と」
ユイナが双竜から滑り降りる。
軽くよろけて、岩に手を付いていた。
「大丈夫か?」
「はい、ちょっと、地面が久しぶりでふらついただけです」
ギルバートとグレイが体を寄せてきた。
頭を撫でてやる。
「あぁ、よくやったな。4日間もよく飛び続けた。ゆっくり休め」
クォーン オォーン
「また、頼むな」
嬉しそうに鳴いて、頭を下げた。
体が光に包まれて、魔法陣の中に戻っていく。
「意外と早く着きましたね。もっと、7日間くらいかかると思いました」
「お前のバフ効果のおかげだ。行くぞ」
「はい。ステータスを均等に変更します。武器は・・・ひとまず短剣で、防具はダンジョン攻略に役立ちそうな・・・軽装のほうがよさそうですね」
ユイナが指を動かして、装備品を切り替えていく。
短剣を軽く振って、腰に収めていた。
ダンジョンの扉は、崖にうっすらと光が走っている部分だった。
セツが描いた地図の通りだ。
朝日が遮られると、何も見えなくなってしまう。
「これが扉だな。ん・・・・・?」
燃えるように熱い。思わず手を放してしまった。
「どうしたのですか?」
「・・・・何でもない」
扉はどこに触れても熱かった。
人間は直に触れられないかもしれないが、手の魔力を調節すれば何でもないな。
ドドドドドッドドッドドドド
ブワッ
扉を開けた瞬間、ものすごい勢いで風が吹いた。
「わっすごい。風がっ・・・・っ・・・・」
飛ばされそうになったユイナの手を掴む。
「手を離すな。風のダンジョンだ。入り口だけ、突風が吹くようになっている」
「は、はいっ」
マントで風を避けながら、ダンジョンに入っていく。
しばらく歩くと扉が閉まって風が収まった。
ユイナがその場に尻もちを付く。
「ふぅ・・・お、驚きました・・・・力が・・・入らなく」
「たかが風くらいで大げさだな」
「息ができなくて、死ぬのかと思いました」
「まぁ、あのまま吹っ飛ばされてたら死んでたかもな」
ユイナが喉を抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。
「ダンジョンってこうゆうのが多いんですか? 北の果てのダンジョンのときはこんなの無かったから油断していました」
「まぁ、ダンジョンの精霊によるな。そうだ。オブシディアンを黒く光らせて・・・と」
オブシディアンを取り出して、握りしめる。
エヴァン、サタニアにも届いただろう。
「ん・・・・」
オブシディアンが紫色に光った。
サタニアも着いたか。
思ったよりも早かったな。
残りはエヴァンだ。レナとの移動に手こずっているのだろう。
「ヴィル様、この先に罠が1つ2つ・・・5つくらいあるみたいです。気を付けてください」
「ん?」
ユイナが謎の派手なメガネをかけて目を凝らしていた。
「なんだよそれ。それも、異世界住人が初期配布で持ってる道具なのか?」
「いえ、これはヴィル様の部屋にあった魔道具です。手に取ると、モニターに情報が浮かび上がりまして・・・ダンジョンや自分よりも弱い敵の仕掛けた罠に反応するようです」
「・・・・・そうか。見たことないな」
息をつく。
ガラクタばかりでごちゃごちゃしてるし、そのうち整理しないとな。
「で、罠ってどんなのだ?」
「えっと、目の前のは光る糸のようなものが張り巡らされているのが見えます」
― 魔王の剣―
「このあたりか?」
「はい」
剣を出して、ユイナの指す部分に刃を当てる。
キィン
地面から天井まで、張り巡らされた金色の糸が出現した。
よく見ると、床に切ったような跡がある。
おそらく落とし穴だ。糸に引っかかったら、穴から落とすつもりなんだろう。
「硬いが、一応切れるみたいだな。俺が切るから早めについてこい」
「わかりました」
シュンッ シュッシュッシュッシュ
素早く糸を切っていく。
切れると風のようになって消えていった。次の罠が来る前に走っていく。
細い階段の前まで来ると、糸が無くなった。
「次はなんだ?」
「はい。えっと、この階段、ところどころ落ちるようになっているようです」
「は? マジか」
立ち止まって、周りを見渡す。
「ん、そういや、ここの岩に何か刻まれてるな」
「え・・・? あ、本当ですね。なんて書いてあるのでしょう?」
「・・・・・・」
壁に掘られた字を指でなぞる。大分昔の自体だ。
「『我に会う者は知識のある者。かぜのしらべを探せ』とあるな」
「ダンジョンっぽいですね」
ユイナが目を輝かせた。
「かぜのしらべ。風が自然に作り出す音のことか? 音・・・音・・・」
「音を鳴らせってことでしょうか・・・? 何か、音を鳴らす道具を・・・・あ、でも、きっとこのダンジョンの何かを使うという意味ですね」
ユイナが周辺の壁や地面に手を当てて確認していた。
「考えるのも面倒くさいな。このくらいの距離、飛べばいいことだ」
「きゃっ」
ユイナを抱きかかえて、体を浮かせる。
特に魔力を封じられてはいない。
カマエルのような翼の大きい魔族は、狭いから難しいだろうがな。
「一応、そのメガネはかけておけ。何かあったら言えよ」
「はい。わかりました」
指先に明かりを灯し、暗がりの中をゆっくり降りていく。
石ころが落ちて、大分時間が経ってから小さな音がした。
「・・・かなり深いですね」
「あぁ、落ちるなよ。ユイナが落ちたら、間違いなく死んで、アリエル王国行きだからな」
「き、気を付けます」
さすが、四元素のダンジョンだ。
人間や魔族を、簡単には寄せ付けないようにできているということか。
「この辺で少し休むか。もう、半分以上は進んだだろう」
「はい」
道を進んでから数時間が経過していた。
ユイナが水筒の水を飲む。
「それにしても、落ちていく階段、地面からくる突風、開かずの扉・・・ユイナは随分、ダンジョン慣れしているみたいだな」
「ダンジョン慣れ・・・というほどではありませんが」
岩の椅子に座って一息ついていた。
「ダンジョンは北のダンジョンしか行ったこと無いだろう。ギルドにも入っていないお前が、どうして対応できるんだ?」
「えっと・・・」
階段を下りていくと、急に地面から突風が吹き込んだが、ユイナが素早く盾を広げて対処していた。
開かずの扉は、ユイナがパズルのようなものを解いて開いていた。
「あの、開かずの扉を開ける方法なんて、俺でさえ思いつかない」
「あれは、ゲームでやったことあったので。石像の絵柄を同じ方向に向けるとか、ロールプレイングゲームでは定番ですから」
「また異世界のゲームか・・・お前ら、そうゆうの好きだよな」
サタニアとエヴァンもゲームの世界とこの世界を重ねていた。
「はい。ゲームなら、何個もこなしているので、大体の攻略法は頭に入っているんです」
ユイナが生き生きしながら話した。
「こんなところで役に立つと思いませんでしたが。向こうの世界では、ゲームはほとんど実生活に役に立ったことないので」
「へぇ、意外だな。娯楽ってことか?」
「はい。実生活では使いません・・・あ、でもゲーム配信はよくやっていましたね。私は元々、体が弱くてあまり動けなかったので、配信でリスナーと交流したりしていました。多言語に対応していて、海外とも・・・」
「・・・・・・・・」
急に、饒舌に語りだした。
異世界の言葉はいまだによくわからんな。
エヴァンとサタニアならわかったんだろうが。
軽く息をついて、壁に寄り掛かる。
ユイナが楽しそうに話すことは、アイリスが興味を持ちそうなことばかりだった。




