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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第二章

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176 果ての大地⑥

「なんかダンジョンって、もっとこう仕掛けみたいなのはないのですか?」

「ダンジョンによるな」

「魔族が出てきたり」

「このダンジョンに魔族を入れてるわけないだろ」


「なるほどなるほど。そうでした。ここはエルフ族にしか開けられない扉でした」

「・・・・・・・」

 テンションの高いレナが先頭を歩いていた。


 楽しそうにダンジョンについて聞いてくる。

 おそらく100年以上生きてるはずなのに、どこか子供っぽいんだよな。


 ずっと、狭いエルフ族の村にいたからなのだろうか。


「願いを叶えるダンジョンって、本当に人間が永久凍結の魔法を使ったの? 人間の魔法で凍り付いたなら、はじまりのダンジョンの精霊の影響を受けずに、こうやって溶けることなんて無いと思うんだけど」

 サタニアが壁の水に触れながら言う。


「・・・・言い方が少し難しいですね。人間が永久凍結の禁忌魔法を使ったのは、ダンジョンの精霊に対してのみです。だから、ダンジョン全てが凍り付いたのは、精霊の意志かと思っています」

「へぇ・・・・」

「ひどいことをしますよね。彼女は・・・」

 ダンジョンは水の滴る岩に囲まれた広めの道が真っすぐ続いている。


 強い魔力は感じる・・・が、最下層へ続く道にダンジョンが動く気配はなかった。

 ハナが言っていたように、崩落しそうな様子もない。




 ぽちゃん


「きゃっ」

 ユイナがサタニアの後ろに隠れた。


「ただ、石が水に落ちただけじゃない。大げさね」

「そ、それはわかってるのですが。私、お化け屋敷とかそうゆう類のものが苦手で・・・今も、震えが止まらなくて・・・」

「もう、面倒なんだから」


「・・・・いや、大げさでもないのかもしれない」


 ズンッ


「!!」

 急にダンジョン全体が得体のしれない緊張感に包まれた。



 ― 魔王のデスソード


 剣を握りしめて、あたりを見渡す。

 エヴァンとサタニアも剣を構えて、警戒を強めていた。


「明らかな攻撃性は感じるんだけどな・・・」

「・・・・・・・」

 エヴァンが言った5秒後、奥のほうからこちらに向かって突っ込んでくる影があった。


 すぐにエヴァンが前に出て、手を向ける。


 パチン


 無数の氷の矢が空中でぴたっと止まる。

 エヴァンが指を鳴らして、時間停止魔法を使っていた。


「え、え、どうしたのですか? 何をしたのですか?」


「時間を止めたんだ。俺たち以外のね」

「まさか・・・・時間停止魔法を使えるなんて・・・聞いたこともありません」

「時間停止魔法?」

「ありえないのです・・・・」


「まぁ、俺も特殊な感じで転移してきてるからさ」

「・・・・・・・・・」

 レナが驚きながら、後ずさりした。


「ダンジョンの精霊は友好的ではなさそうだな」

「氷の矢か。俺たちを串刺しにするつもりだったっぽいね」

「ひぃっ」

 ユイナがサタニアの後ろに隠れる。

 氷の刃は5人を刺すのに十分すぎるほどだった。


「こ・・・・これがダンジョンの仕掛けなのですか?」

 ユイナが怯えながら宙に浮いている氷を突いた。


「違います。氷の軌道を見る限り、意図的にレナたちに向かって投げたものです。レナの予想だと・・・精霊ではありませんね。ダンジョン内にいる者の仕業かと」

「精霊と何かがいるのか。面倒だな」

 先端の尖った氷を一つ掴んでみる。


 毒性は一切無い。

 何か仕掛けがあるわけでもなさそうだな。


 単純に、俺たちをここで殺すつもりだけだったってことか。


「随分と熱烈な歓迎だ」

「離れてて。砕いてみるわ」

 サタニアが魔女のウィッチソードを持ち直した。


 サクッ サッサッサッサ・・・・


「ん?」

 剣を軽く回して、氷に亀裂を入れていった。


「氷自体は普通の氷ね。別に硬くもないもないし。なんか拍子抜けしちゃった」

 氷の切り口を見ながら言う。



 ダッダッダッダッダ


 足音が響いている。人間ではない、太い足音だ。


「この足音は・・・初めて聞くな」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


『ん?』

「!!!」

 しばらくすると、暗闇の中から、体長2メートルくらいの人影が現れた。

 全身が真っ白な毛で覆われていて、ドラゴンのような目つきをしている。


「何? あいつは・・・魔族?」

「いや、あんな魔族聞いたことない」

 見た目は魔族に近いものがあったが、体を覆う魔力が決定的に違う。


「・・・なぜあいつには時間停止魔法が効かないんだ? 俺の感覚が鈍ったか?」

 エヴァンが宙に浮いた氷のかけらを見てから言う。


『お前らは何者だ? どうして追尾する氷が止まっている? 人間には決して、破ることのできない魔法のはず』


「俺ら魔族だからな」

「妙な攻撃魔法を使ってきて、あんたこそ何なのよ」

 エヴァンとサタニアが剣を構えて、攻撃しようとしていたのを止める。


『魔族? 関係ない。人間も魔族も敵だ。全ては俺らの敵』

 太い声で言う。


「お前がダンジョンの精霊か?」

『・・・・お前らに、何かを言う必要はない』

 殺気に満ちているのが伝わってきた。


「待ってください、イエティですよね? レナはエルフ族なのです。この人たちは悪い人たちじゃないのです」

 レナが前に出た。


「このダンジョンの扉を開けたのはレナなのです」

『エルフ族の巫女がここに・・・・・どうゆうことだ?』

「この方たちの役に立ちたくて連れてきたのです!」

 必死に訴えていた。

 毛むくじゃらの男の動きが、一瞬止まった。


『何しにここに来た? 氷の溶けたダンジョンに来て、何をするつもりだ?』

「俺はダンジョンの精霊に、願いを叶えてもらうために来た」

『願い・・だと? ほぉ、覚えてるぞ。お前の気配は・・・』


「?」

 白い毛が逆立っていく。


『!?』

 突然、爪を長くして、ユイナのほうに視線を向けた。


『まずは、そいつだ』

「え・・・・」

『さっきから妙な気配を放つ奴だ。生も死もないような、人間連れてきて。また、俺らをはめるつもりだったな! エルフまでそっちに付くとは・・・・』

 叫ぶように言う。


「違うのです! 彼女は今までの人間とは違って、異世界から来た人間で・・・」

『いつからエルフ族の巫女が人間を庇うようになったんだ?』

「っ・・・・・」

 男が睨みつけると、レナが口をつぐんだ。


『まずは人間をいたぶり殺してやる。魔族とエルフはそれからだ』

 びりびりとした魔力が駆け巡る。精神統一するほど、強くなっているようだ。


「あいつの狙いはユイナっぽいけど、加勢する?」

「少し、自分の力でやらせてください」

「あ、そ」

 エヴァンが剣を仕舞った。


「ステータスは全て防御に全振りします。武器は持たずに盾を、エルフの方から貰った、防御力増強の雫を使います。バリアは1回、攻撃吸収率の高いものにします。氷属性に対抗して、火属性に変更・・・」

 ユイナが指を動かすと、装備品が変わっていく。



 ズズズズズズズズ


 地響きがした。

 毛むくじゃらの男が、ユイナ目掛けて突っ込んでいった。


 ドンッ


『なっ!』

 ユイナの盾は、真っ赤な炎に包まれ、毛むくじゃらの男の攻撃を完全に止めていた。

 俺と戦った時よりも強くなっている。


「はぁ・・・はぁ・・・さらに、盾の火属性を強化。氷を水に・・・・・」

 指先を見ながら言う。


『っ・・・溶けていく? 属性変更に強化だと? 人間ごときが、俺の攻撃を止めるなんて。こんな、死んでるような人間に・・・』

 体勢を直して、力を溜めていた。

 攻撃力がどんどん上がっていく。


『今は、手を抜きすぎた。思い知らせてやる。積年の恨み。人間への憎しみ』

「あ、あ、貴方たちに何があったのか知りませんが、私は死ねません。早く死にたくても、死ねないんです・・・」

『薄汚い口を開くな』

 ユイナが息切れしながら、盾を持ち直す。



 ドドドドドドドッド


「あ・・・・・」

 魔王のデスソードを構えて、ユイナの前に立つ。


 バチン


 男が振り下ろした腕を、剣で止めた。

 毛は鋼のように硬くなっていて、一本でも当たれば血を噴き出しそうだった。

 俺がそんなヘマするわけないけどな。


『な・・・・なんだ、この禍々しい力は。いや、どこかで・・・』


「知らん。俺は魔王だからな」

『うわっ』

 剣に力を入れて、男を吹っ飛ばす。


 ドドン


『な・・・・!!』

 後ろに回り、首に刃先を当てた。

 毛むくじゃらの男は、片足を付いたまま動かなくなった。


『・・・・どうして、魔族の王が人間を助けた?』

「お前が人間にどんな恨みがあろうが知ったことではない。別に俺も、人間を擁護するつもりなんてない。ただ、今、この瞬間、目的のために、こいつが必要だと判断しただけだ」


「ヴィル様・・・・」

『・・・・・・』

 軽く刃を押し当てる。

 白い毛に、赤い血が滲んでいった。 

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