169 命の数とは?
「へぇ、なるほどね。その、命の数ってのはゲームでもあるよ。何回も死ねばゲームオーバー、課金したら増えるとかね」
「オンラインゲームとか、いいところで課金ってなったりするのよね」
魔王城に戻って、異世界住人の話をすると、エヴァンとサタニアががすぐに状況を把握していた。
「課金?」
「金を出すってことだよ。単なる例えだ。ゲームだと課金するほどユーザーが有利な状況になったりすることがある。ユイナ、君は何か知ってたの?」
ソファーに座っていたユイナのほうに視線を向ける。
「私は死ぬつもりで、すぐに逃げ出してしまったので・・・。だから、こちらに転移してからは、何も説明を受けてないんです。本当です。『命の数』を共有してるだなんて」
ユイナが背筋を伸ばして、両手を振っていた。
「・・・ユイナって、要領が悪いね。今の話が事実なら、君は何度殺しても殺せないじゃん」
「そうですね。すみません。とにかく死んでリセットすれば、アリエル城に戻って、どうにかして元の世界に戻れるって思ってたんです」
「詰めが甘いな・・・」
エヴァンがため息をつく。
「アリエル王国に戻ったら、異世界住人のステータスとかはデフォ値に戻るの?」
「あぁ、振り出しに戻るとか言ってたな」
「うわぁ・・・本当にゲームみたいな仕組みで転移してるんだな。死んで前回ステータス引き継ぐとか、そうゆうチートな能力じゃなくて安心したけどさ」
「要はその命の数を減らせばいいのよね?」
サタニアが窓枠から降りて、ユイナの前に立った。
「じゃあ、ユイナを何度も殺せばいいってことじゃない? そのたびに、異世界住人が共有する命の数は減っていくんでしょ?」
右手をかざしながら言う。
「えぇっ!?」
「サタニア」
「冗談よ。魔族のことを知る貴女が、アリエル王国に戻るなんて認めるわけないじゃない」
サタニアが髪をふわっとさせて、隣に座ってきた。
「命の数ってどれくらいあるのかしら? それが尽きるまで異世界住人は転移してくるし、何度殺しても死なないし、なんかうんざりするわね」
「・・・そういえば、今思い出したのですが、アバターはたくさん作れるけど、与えられる命の数は限られている・・・と言われて、こちらの世界に来たような気がします」
ユイナが口に手を当てて話していた。
「命の数がたくさんあるのは確かなのですが・・・限りがあるから、希望者全員をこっちに転移させることはできないと。だから、今来ている私たちは第一世代の人間で・・・」
「第一世代とかあるの?」
「はい。転移装置に繋がれたときに、聞いたのを思い出しました」
「マジかよ」
「はい、すみません」
ユイナが二度大きく頷いた。
エヴァンが肩を落とす。
「今の話が本当なら、アバターに命を与えても、共有する命の数は減っていくってことね」
「願いを叶えるダンジョンの話が出たとき、奴らは命の数って言葉に反応してたしな」
腕を組みなおした。
アリエル王国で聞いた話とも繋がる。
「なんとなく、異世界住人が見えてきたね」
「確かにあいつらがゲームプレイヤー感覚になるのも無理ないわ」
「はぁ・・・マジで知り合いとか転移してきたらどうしよう」
「ちょっと、変なフラグ立てないで。想像しちゃったじゃない」
エヴァンがコップに水を注ぎながら、ため息をつく。
「慣れるまで、何回か死ぬことを想定して転移人数を絞ってるんだね」
「はい・・・私もそう思います。って、死ぬつもりな私がこんなこと言うのはおかしいのですが・・・」
ユイナがエヴァンに同意していた。
「第二世代の転移は、命の数が増えてからってところかしら?」
「まぁ、まだ、全ては憶測だ」
背もたれに寄り掛かりながら言う。
「確信にしないとな」
「うん。奴らが動く前にダンジョンに行こう」
「そうね」
次の目的地はキサラギから聞いた氷のダンジョンだ。
でも、異世界住人とぶつかる可能性も考慮しなければいけないな。
北の果ての地は、オーディンが詳しいからな。
ユイナが人差し指を空中で動かす。
「命の数が、ステータスにも表示されていればいいのですが・・・。どうにかして見る方法はあるのでしょうか?」
「その画面の使い方、説明なかったの?」
「私、着いてすぐ逃げ出してしまったので・・・情報が乏しくて、すみません」
「えっ、もしかして、今まで使い方わからずに、装備品やステータスを切り替えてたってこと?」
エヴァンが目を丸くしてユイナのほうを見た。
「はい。戦闘時の切り替えは、ゲームと同じ仕組みなので使いこなせるんです。これでも、ゲームはかなりの腕前なので。あ、あるゲームではいつも上位をキープしてました」
少し自慢げに話すと、サタニアが瞼を重くした。
「器用なのか、不器用なのか、よくわからないわ」
「あはは。転移前から、よく言われてました」
ユイナがぱっと指を離して、座り直していた。
「で? ヴィルは、また、シエルとしてたの?」
「えっ」
サタニアがじとーっとこちらを睨んでくる。
「だって、今の話を聞くだけだと、一晩で片付きそうな話じゃない。それを、次の日の夜帰ってくるってことは・・・」
「するって何をですか?」
「エッチなことよ。もう、2人きりになると、すぐそうゆうことするんだから」
「え・・・え・・・!?」
ユイナが頬を包んで、顔を真っ赤にしていた。
「サタニア、あまり詮索する女って嫌われるらしいよ」
「いちいちうるさいわね」
「アドバイスをしてあげてるのさ。シエルは、そんなこと聞かないだろ? 男だったらシエルがいいって」
「っ・・・・・・」
エヴァンが意地悪そうな顔でサタニアを見ていた。
「や・・・やきもち焼くくらいいじゃない!」
バサーッ
「お久しぶりです。こんにちはー」
いきなり机の横に、黒い翼を伸ばしたアエルが現れた。
「うわっ、いきなり出てくるなよ」
エヴァンが水を噴き出して、布で拭っていた。
「あははは、タイミング見計らってたんです。あ、ヴィルの持っている、黒い羽根、私のです。すみません、落としてしまいました。大切に持っててくれたんですね。ありがとうございます」
「アエル・・・異世界住人がこれでアリエル王国にワープしようとするんだけど、どうにかならないのか?」
ポケットから黒い羽根を出して、アエルの前に突きつける。
「なるほど」
「これで逃げられると面倒なんだよ」
「ちょうど、今、生え代わりの時期なんですよ、私の翼。ほら、何もしなくても落ちる。あ、ストレスとかじゃないので安心してくださいね」
「つか、ここに落としてくなって。掃除が面倒だ」
「あははははは、仕方ないです」
アエルが軽く翼を動かすと、床に黒い羽根が散らばった。
「・・・なんか、この部屋、鳥のと殺場みたいになってない?」
「だよな」
ここまでやられると、悪いが、マキアに頼むしかない。
「アエル、そろそろ勘弁してくれ。棚に入ると掃除が面倒だ」
「はいはーい」
「わざとやってるでしょ?」
「あぁ・・・サタニアは相変わらず可愛いですね。私ならいつでもサタニアの気持ちを受け止める準備はあるのですよ。さぁ、私と結婚しましょう」
アエルが両手を広げると、サタニアが身震いする。
「私はなんとも思ってないから!」
サタニアがユイナのほうへ逃げていった。
「ツンデレだなぁ」
「アエル、楽しんでないか?」
「ふふ、サタニアは可愛いからね」
アエルが満足げにしていた。
「天使? ですか?」
「よく見て、あれが天使なわけないでしょ? 堕天使よ」
「は・・・はい・・・・・」
ユイナがアエルのほうを見ながら硬直していた。
「まぁ、俺もアエルに聞きたいことがあったんだ」
「なんでしょうか?」
「アリエル王国の状況を教えてくれ。昨日、ダンジョン近くで異世界住人と遭遇した」
風を起こして、黒い羽根を軽く掃ける。
「なるほどなるほど。どおりで・・・・」
アエルが口角を上げて頷いた。
黒い翼をぱっと消して、近づいてくる。




