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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第二章

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148 ミイルと聖女の像

「あれがミハイル城、焼けたままなのね」

「復興する財力もないか」

「もう、魔族と共存なんて、バカみたいなこと言ってこないだろう。この十戒軍の拠点の地図とやらを見ながら行くか、嘘はみたいだしな」


「・・・・・・」

 ミハイル王国は人がまばらになっていた。


 幸福の粉で不気味な笑顔で溢れていた頃の面影はなかった。

 淡々と、無表情のまま作業を続けている。


 俺たち魔族に気づく様子もない。

 まぁ、騒がれれば殺すまでだけどな。




 城下町に入ろうとしたときだった。

 地面がぼこっと浮きあがる。


「!!」


「こんにちは」

「きゃっ」

 いきなり青年が、現れる。黒い翼を畳んでいた。

 サタニアが反射的に後ろに隠れる。


「いやいや、僕はアエルより紳士な天使なので警戒しないでください。健全です」

 両手を広げて笑っていた。

 確かに、アエルよりは真面目そうだな。 


「へぇ、君が魔王ヴィル。ふうん、アエルに似てますね」

「気のせいだろ」


「そうよ、止めてよ!」

 青年が青い瞳をこちらに向ける。


「だろ? ほら。俺もそう思ったんだよ」

「全然似てないわ!」

「雰囲気だよ、雰囲気」

「どこも似てない! ヴィルの方がずーっとスマートでかっこいいんだから」

 サタニアが、エヴァンにむきになって言っていた。


「はははは、騒がしいですね」

「お前・・・ミハイル王国の天使なのか?」


「そうです。僕は堕天使のミイル、"ハ"は堕天したときに落としました。あ、異世界住人さん、こんにちは。仮の体ですか?」

「・・・は・・はい」

 ユイナがきゅっと身を引き締めた

 

「はははは、いつ来るかってずっと待ってたんですよ」 

 ミイルが翼に付いた砂埃を払いながら言う。


「君たちが魔王ご一行ですね。アエルから聞いています。荒廃したミハイル王国へようこそ。どうぞ、ゆっくり楽しんでいってくださいね。人間は皆、廃人みたいになってますけど。ハハハハ」

 手をたたいて陽気に言う。


 この堕天使のノリ、苦手なんだよな。


「ねぇ、堕天使に聞きたいことがあるんだ。リョクという、天使の属性を持つ魔族の子についてなんだけど・・・」

「その前に、まずは僕がこのミハイル王国を説明しますよ。そのリョクって子についても、アエルから聞いています。変わった魔力の天使の子ですよね?」

「・・・・・・・・」

「焦る必要はありません。貴方がジタバタしても何も変わらない、自然な流れなので」

「・・・・わかったよ」

 ミイルが一方的にエヴァンの言葉を遮った。


「ではでは、まずはこのベールを被ってください。魔族も異世界住人もこの王国に入ったら面倒なんですよね」


 ふさぁ


 ベールを上から落ちてくる。


「ふうん、よくできてるな。こちらから見えるけど、相手からは見えないのか」

「そうですね。正確には人間から見えないんです」

 得意げにベールを伸ばしていた。

 ベールといっても布ではなく、空気みたいにうっすらとした膜だ。


「あれ? 私、人間だけど、みなさんのことが見えます・・・」

「貴女は異世界住人でしょ? アバターなんだから、人間の括りから外れるわ」

「あ・・・・」


「ははは、そうです。すみません、説明不足で。こっちの世界の人間って言えばよかったですね」

 ミイルが笑い飛ばした。


「ユイナ、そんなに警戒しないで、安心してください。僕はアエルほど異世界住人を嫌っていませんよ。確か、アース族、って名乗ってるんですよね?」

「は、はい」

「あー、なるほど。なるほど」

 ミイルがぐぐっと顔を近づけた。


「死にたい人ですね。死にたがりの、死にたくても死ねない人」


「っ!?」


「そうゆうの滲み出るんです。僕は特にそうゆうのを勘付く天使でして、あ、訂正します。僕、堕天使でした」

「どこかに連れて行こうとしたんだろ? 早くしてくれよ」

 エヴァンがイライラしながら言う。

 ミイルがすっと前に移動した。


「はい。では、みなさん僕についてきてください。はぐれないように、あ、はぐれてもすぐ探すので安心してください」

 上機嫌なミイルを先頭にミハイル王国城下町に入る。


「堕天使ってみんな、あぁなの?」

「俺に聞くなよ」


「ねぇ、何か、町の匂いが違うわね」

 サタニアが人間を見ながら鼻をふさいでいた。


「幸福の粉がなくなったらね、みんな何も存在してなかったことに気づいたんですよ。虚無な表情をしてるでしょ?」


 無表情で荷物を運ぶ男や、パンを売る女を指して言う。

 たまに、くだらない喧嘩が起こっていた。

 感情がなくなったわけではなさそうだが。


「テラが最初に異世界住人の町にしようとしたのはここなんですよね。誰かに守られたんでしょうか、誰かが引き寄せたのか、結局アリエル王国に決定してしまいましたが」

「こんな・・・」

 ユイナが前に出て、周りを見渡していた。


 うつろな目をした青年が、小さな石につまずいているのが見えた。


「残酷ですよね。幸福の粉だとかわけのわからないもの振りまいて、使えないと思ったらこの地を捨てて、アリエル王国に転移先を変えたんですから」

 ミイルが黒い羽根を回しながら言う。


「この国は計画通り、転移先になったほうが幸せだった」


「お前はどちらにしろ堕天してるんだろ?」

「そうですね、僕はアリエル王国ができる、ずっと前から堕天してます。原因は・・・そうですね、今はいいです。僕が堕天使になったころは、まだ天使が多かったので」

 人間はミイルがすれ違っても振り返りもしなかった。


「ふうん」    


「今、この国は責任転換に必死です。何が悪いのか、王か、十戒軍か、魔族なのか・・・。ほら、そこにあったのは十戒軍が使っていた教会です」

 ミイルが10メートル先の突き当りを指す。


「うわ・・・派手にぶち壊したね」

「幸福の粉で幸福だって言ってた奴が、ここまでなるとはな」

 ガラスの破片の飛び散った教会の跡があった。

 放置された瓦礫にほとんど埋もれて、教会と言われなければわからない。


「・・・・・・」

 サタニアが一瞬驚いて、目を逸らしていた。


「ん? ユイナ、何をしている?」

「あっ・・・このベールかけたら、自分のステータスが変わったような気がして、確認してます。あ、やっぱり、装備品が堕天使の羽衣になってる・・・防御力もアップしてる、意外とわかるものなのね。アバターで感じる感覚は正しい・・・・」

 ユイナが指を動かして何かを見ながら納得していた。


「君は、死にたいのに、こっちの世界に興味持つんですね。面白いです。矛盾ってやつですね」


 ミイルの手をサタニアが弾いた。


「異世界住人はおさわり禁止よ」


「僕はアエルと違うって言ってるのに。装備品が気になっただけですよ。見かけないものだったので」

「私が持ってるのは初期配布のものがほとんどです。あまり参考にならないと思います」

 ユイナが空中で指を動かしながら言う。


「・・・ユイナって胸が大きいのね」

「急に何を・・・」

「女性の異世界転移者ってみんなそうなのかしら」

 サタニアがユイナの胸をまじまじと見ていた。


「み、見ないでください・・・」

「そんな、明らかに胸の強調されたアバター使っておいて今更」

「違う。違います。私は用意されたアバターに入らなきゃいけなかっただけです」

 エヴァンが呆れたように言うと、ユイナが反抗していた。


「アバターって胸が大きいんですか?」

「こうゆう体の部位は選択できる・・・って、私は別に選択してないです」


「今、口滑ったよね」

「やっぱりエロいじゃない。ヴィルはダメだからね!」

「違いますって!!!」

 騒いでる3人を無視して、瓦礫を駆け上がる。


 真ん中にあった、聖女の像を眺めた。

 周りは崩れているのに、この像だけは少し泥を被ったくらいだ。傷がついていない。


「ん? 何か気になったことでもありました?」

 ミイルがふわっと飛んで隣に降りた。


「あぁ、綺麗な像だな。この国と違って」

「・・・・・よくわかりましたね、この子、僕が天使だった頃に、聖女をしていた人間ですよ。聖女・・・そうですね、神に祈る巫女のような存在でしょうか」

「どうゆうことだ? これは、人間なのか?」

「はい。美しい心を持った、美しい子です」

 ミイルが目を細める。


「・・・私も聞いたことがある」

 サタニアが地面を蹴って、軽やかに瓦礫に立った。


「今から約1000年も前に、亡くなった聖女の像。嘘か本当かわからないけど、魔族か、何か強大な敵からみんなを守るために、自ら石化したって。十戒軍が持つ本に書いてあった気がする」

「自ら石化・・・?」

「もちろん、強大な敵って曖昧過ぎて、信じてはいなかったけど」


「・・・・・」

 言われてみると、生きている頃の面影がある気がした。


 目をつぶり、何かにすがるような表情をしているようにも見える。


 こいつはどうやって、何のために・・・?


「はははは、いろんな話がくっついたり取れたりしてますね。過去の話は、うまく伝わらないのは当然です。それにしても、そんな前でしたか・・・ハナ・・・」

「ハナ?」

 ミイルが聖女の像の頬を撫でる。

 光に映る横顔が、悲しげに見えた。


「ミイル?」

「あー、急ぎましょう。城の中に案内します。僕がいつもいる場所があるんですよ」

 ミイルが明るく言うと、素早く人間たちの間をすり抜けていった。

 ぼうっとしているサタニアの手を引っ張って、ミイルの後をついていく。

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