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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第二章

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147 非現実な綺麗ごと

「俺もついていくよ」

「え?」

 魔王城の倉庫で魔法道具を眺めていると、エヴァンが話しかけてきた。


「言っとくけど、リョクは連れていけないぞ」

「あぁ、わかってる」

 机に座って足をぶらぶらさせながら言う。


「リョクの体調がおかしいんだ」

「ん? 朝見たときは、変なところはなかったけどな」

 羅針盤のようなものを触りながら言う。


 ガラクタばかりだな。

 使えそうなものは、大体錬金してしまった。


 ユイナは貴重な情報源だ。

 簡単に死なせないよう、何かないかと探していたが・・・。


 まぁ、道具に頼らず見張ってるか。


「普通に元気なんだけどさ、回復魔法で失敗したり、急に気を失ったり。自分ではなんともないって言ってるけど、おかしい。ミハイル王国に行くなら俺も行きたい」

「ミハイル王国に行って何するんだよ」


「堕天使ミイルがいるんだろ?」

「あぁ・・・確かにアエルはそう言ってたな」

「リョクはたぶん元々天使族だ。ミイルがどんな奴か知らないけど、何か知っているかもしれない」

 深刻な表情で話していた。


「お前、リョクのことになるとフットワーク軽いな」

「まぁね。俺の生きる意味でもあるからさ」

 机から降りて、置いていた剣を取り上げる。


 エヴァンがアリエル王国騎士団長をしていたときに、使っていたものだ。


「この、アリエル王国の紋章も、もういらないんだけどな」

「じゃあ、魔族の剣を使えばいいだろ?」

「使い慣れてる剣のほうがいい。それに、魔族の剣って、なんか魔力が荒っぽいっていうか、野蛮なんだよ」

「悪かったな。野蛮で」


 部屋を出ると、サタニアとユイナが待っていた。


「げ、異世界住人も連れてくの?」

 エヴァンがユイナをみて嫌そうな顔をした。


「あぁ」

「変なことをしたら殺せばいいのよ。この子も、殺されたいって言ってるし」

 サタニアが長いまつげを下に向けた。


「はい。大丈夫。いつでも殺される覚悟はできています。できれば、殺してほしいので」

「・・・・メンヘラみたいなこと言うな」


「魔王ヴィル様ー!!」

 シエルが駆け寄ってきた。


「また、行ってしまうのですか?」

 ツインテールをふわっとさせながら、こちらを見上げる。


「あぁ、魔王城をよろしくな」

「は、はい。お待ちしています。今度こそ、絶対に守ってみせます」

 眉を下げて、寂しそうな顔をしていた。

 シエルの魔力は安定しているし、問題ないだろう。


「じゃあな」

「いってらっしゃいませ。お、お気をつけて!!」

 マントを翻して、シエルから離れる。



「サタニア、シエルにもユイナのこと話したのか?」

 ユイナを見ても、何も反応がなかった。


「話してないわ。ユイナに気づかなかったのは、シエルがヴィルしか見えてなかっただけでしょ?」


「ん? そうか?」

「・・・・・・・」

 シエルにしては、珍しいな。

 まぁ、いい。シエルの能力は信頼できる。


「魔族ってものすごく可愛い子ばかりなんですね。サタニア様といい、さっきの子といい」

「あ、ありがと」

「可愛い子ばかりで驚きます」

 サタニアがまんざらでもないような顔をしていた。


「ま、俺はリョクちゃんが一番だけど」

「リョクちゃん?」


「すっごく可愛い僕っ娘の女の子がいるんだよ。マジ天使、本当に天使の血が入ってるんだけどさ。そっちの世界でもあんなに可愛い子いないね。唯一無二」

 エヴァンが饒舌に語り始めた。


「は・・・・はぁ」

 ユイナはエヴァンに連れてこられたから警戒したままだけどな。

 エヴァンが全く気にせず、リョクの魅力を離していた。




 魔王城の屋根に立つ。

 サタニアが何か唱えると、魔法陣が浮かびあがった。


「魔法陣から出たら振り落とすからね」

「はいはい。早くして」

 エヴァンが手をひらひらさせると、サタニアが舌打ちした。


「本当、このガキ。生意気なんだから」

「・・・・・」

 ユイナがサタニアの後ろにくっついていた。


「じゃあ、いくわ」

 魔法陣が光りだす。



 シュンッ


 ザブーン ザブーン


 寄せては返す波の音が響いていた。


 一瞬にして景色が切り替わった。

 体がふっと浮いて、砂浜に足をつけていた。


「す、すごい・・・」

 ユイナが空中で指を動かして、何かを確認する。


「こんな情報ないです。転移魔法なんて、異世界住人は誰も・・・」

「そりゃそうだ。俺たちの中でも転移魔法を使えるなんて、サタニアくらいだよ」


「そういえば、ヴィルも使えないのね?」

「まぁ、補助魔法は必要ない。魔王だからな」

 腕を組んで、ミハイル王国のほうを眺める。

 霧がかかっていてよく見えないな。


「じゃあ、私を大事にしなきゃ駄目よ。私はヴィルの右腕なんだからね」

 サタニアがちょっと嬉しそうに言った。



「!!」


「お、お、お前ら、魔族だな」

 十戒軍のローブを羽織った男3人が、崖から降りてくる。

 剣士と魔導士か。


「あ」

 ユイナを後ろにやる。


「そいつは人間。しかも、アース族だ」

「どうしてこんなところに?」

「知るか。あの、腕の印は転移してきたアース族の証だろう?」

 大剣を抜いて構えていた。


 腕の印?

 俺に見えない何かが見えてるのか。


「だから、なんだ?」

「魔族のせいで城は崩壊したんだ。俺たちのいる組織は解体されて、計画はめちゃくちゃだ」

「へぇ、どこ組織にいたの?」

「十戒軍の・・・」


 スッ・・・・


「!!」

 サタニアが細い剣を男の首に当てる。


「死にたくなかったら、知ってること全部吐きなさい」


「サタニア、俺が質問してるんだけど」

 エヴァンが不満そうにサタニアに近づいていく。


「人間と会話したくないのよ。特にミハイル王国付近にいる十戒軍なんて」

 目を吊り上げながら言う。


「うっ・・・・」

「言わないなら今すぐ殺すわ」

 アメジストのような瞳が輝いていた。

 拷問して聞き出すこともできるが、今はサタニアに任せるほうがいいな


「ま、待ってくれ、これ、これをやる」

 男がポケットから紙切れを出して掲げた。


「なんだ?」

「ミハイル王国にある、現在の十戒軍の拠点の地図だ」

「ジン! 仲間を売る気か?」

「目を覚ませ。俺たちは見捨てられたんだ」

「・・・・でも、こいつらが強かったら・・・」


「出したものは貰うわ」

 サタニアが冷めた表情で紙を取り上げていた。



「ふうん、情報は確かみたいだけど。ヴィル、どうする?」

「目障りだ。早くどこかへ行け」


「・・・・・・・」

「だって、はい」

 サタニアが魔女のウィッチソードを離した。

 背後から男が迫ってきているのがわかった。


「そう簡単に、魔族を逃がすもんか。魔族の首を持ってきたら、また王国での地位を・・・」


 ― 魔王のデスソード― 


「!?」

 心臓を一突きして、男の魂を抜く。


「きゃー」

 ユイナが足元に転がった死体に、悲鳴を上げた。


「交渉決裂ね」

「うわっ、止めてく・・・」

 言い終わる前に、サタニアが男二人の心臓を貫いた。

 鼓動が止まるのを確認して、魔女のウィッチソードを解く。



 ドサッ


「本当、人間って愚かね。なんで私たちに勝てると思ったのかしら」

「同感だ」

「うわ、ちょっと血がついちゃった。せっかくお風呂入ってきたばかりなのに」

 3人の抜け殻が砂浜を血で染めている。


「あ・・・あ、こ、こんなひどい・・・この人たちはアバターじゃないんでしょ?」

 ユイナが震えながら声を上げる。


「そうよ。生身の肉体」

「うっ・・・・」

 ユイナが死体を見て、口を押えていた。

 魔王のデスソードを解いて、ユイナに近づく。


「お前は何か勘違いしているのかもしれないが・・・」

「!?」

 ユイナの顎を上げた。


「くっ・・・」

「この世界では、魔族が人間を殺すのは当たり前だ。人間も魔族を殺す。俺たちは人間を理解するつもりなんて毛頭ない、目の前に現れる邪魔な奴は排除するだけだ」

「で・・・でも、戦力差は明らかだったのに」


「ははは、こんなところまで来て、綺麗ごと言ってくるとはね。呑気だねー」

 エヴァンが笑いながら近づく。


「だって・・・・」

「君たち異世界住人がこっちに来るためにしたことを棚に上げて、よく言うよ。アリエル城下町の人間を一掃したこと知ってる? 戦闘員も非戦闘員も関係なく、さよならだ。クズでカスだったんだけど、あいつらにも生活があったんだ」


「それは・・・・・・」

「別に何とも思ってないけどね。消えた中には、俺の部下もいたよ。まぁ、あんな奴ら、いなくなってせいせいしたけどね」


「・・・・・ごめんなさい・・・」

 エヴァンが言うと、ユイナが俯いていた。


「がたがた言ってないで行くわよ。死体のある場所に長居したくないわ」

 サタニアが死体を跨いで前を歩く。

 紫色の長い髪が潮風にさらさらとなびいていた。

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